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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第71回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「中枢神経系原発のRosai-Dorfman病: 臨床的、組織学的、分子学的評価」

Primary Rosai-Dorfman disease of the central nervous system: A clinical, histological, and molecular appraisal.

Parkhi M, et al. Neuropathology. 2024 Oct;44(5):366-375.

Rosai-Dorfman病(RDD)は、S-100陽性組織球のクローン増殖と様々な程度の細胞内細胞嵌入現象を特徴とする。頸部リンパ節の病変が多い。中枢神経系(CNS)病変は極めてまれである。CNS原発のRDDにおいてサイクリンD1発現とKRASおよびBRAF変異の頻度を評価した。2011~2022年に発症し、組織病理学的に診断されたCNS原発のRDD患者を対象とした。全例にCD68、CD163、S100、CD1a、GFAP、CD207、EMA、ALK、BRAFV600E、IgG4、IgG、サイクリンD1の免疫組織化学検査を行った。市販のキット (EntroGen) を用い、ホルマリン固定パラフィン包埋組織で KRAS (エクソン 2、3、4) および BRAF (V600E) のホットスポット変異をRT-PCRで解析した。対象は7例であった。年齢の中央値は 31歳で、男性6人、女性1人であった。脊髄(4例)および頭蓋内(3例)に病変を認めた。組織学的には、全例で細胞内細胞嵌入現象を伴う組織球に富む炎症を認めた。これらの組織球は、S100、CD68、CD163、サイクリンD1陽性であったが、CD1a、CD207、 EMA陰性であった。1例でBRAFV600E発現を認めた。組織球浸潤を伴う対照症例 (脱髄および梗塞患者) では、いずれもサイクリンD1 の発現は認めなかった。4例で、IgG4陽性形質細胞(>10/HPF)およびIgG4/IgG比の増加(>40%)を認めた。BRAFV600E変異を1例(14.28%)で検出したが、KRAS変異は認めなかった。CNS原発のRDDは極めてまれで、診断は困難である。腫瘍細胞における核サイクリンD1発現とS-100陽性は、強力な診断の手がかりとなる。CNS原発のRDDではBRAFおよびKRAS変異はまれである。

2)「成人LCHの肝病変」

Liver involvement with Langerhans cell histiocytosis in adults.

Chang L, et al. Oncologist. 2024 Oct 3;29(10):e1347-e1353.

【背景と目的】成人LCHにおいて肝病変は予後不良因子である。肝病変を伴う成人LCHの臨床像、肝機能検査、放射線学的所見、分子プロファイル、治療法、転帰の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】2001年1月~2022年12月の間に北京ユニオン医科大学病院(中国、北京)で診療を受けた全ての成人LCH(18歳以上)を対象とし、後方視的に分析した。【結果】新規にLCHと診断された成人445例のうち、90例が診断時に肝病変を認め、22例が再発時に肝病変を認めた。年齢の中央値は32歳(範囲 18~66歳)であった。評価可能な112例のうち、108例がAST、ALT、ALP、γ-GTP、総ビリルビン、アルブミンを含む肝機能検査を受けた。ALPの上昇を63.0%、γ-GTPの上昇を86.1%、ビリルビンの上昇を14.8%に認めた。54例に次世代シーケンシング解析を行い、BRAFN486_P490(29.6%)、BRAFV600E(18.5%)、MAP2K1(14.8%)変異が検出された。【転帰】追跡期間の中央値40か月(範囲:1~168か月)で、3年無増悪生存率(PFS)と全生存率は、49.7%と86.6%であった。多変量解析では、肝機能検査の異常値が3つ以上ある例のPFSは劣っていた(HR 3.384, 95%CI: 1.550~7.388, P=0.002)。免疫調節薬療法(サリドマイド/シクロホスファミド/デキサメタゾン、レナリドマイド/デキサメタゾン)を受けた例は、化学療法を受けた例よりもPFSが優れていた(HR 0.073, 95%CI: 0.010~0.541, P=0.010)。【結論】肝病変のある成人LCHではγ-GTPとALPの上昇を認めることが多かった。3つ以上の肝機能検査の異常値は、予後不良因子であった。免疫調節薬療法を受けた例は化学療法を受けた例より、PFSが良好であった。

3)「組織球症患者の眼所見と臨床的・分子的特徴との関連」

Ocular findings in patients with histiocytosis and association with clinical and molecular features.

Francis JH, et al. Br J Ophthalmol. 2024 Oct 22;108(11):1548-1554.

【背景/目的】組織球症の眼症状とその分子学的特徴は十分に解明されていない。本研究では、組織球症の眼病変の特徴と遺伝子変異、病型や病変部位などの組織球症の臨床的特徴の関連を明らかにする。【方法】単一施設の三次紹介センターにおける主に成人の組織球症を対象とした前方視的観察研究。組織球症90例(男性46例、女性44例;Erdheim-Chester病34例、Rosai-Dorfman病20例、黄色肉芽腫7例、混合性組織球症13例、LCH 15例、ALK陽性組織球症1例)の180眼が対象となった。眼所見を解剖学的病変部位によって分類した。組織球症の病型、病変部位、遺伝子変異は、眼所見と相関していた。【結果】組織球症患者の半数以上に眼病変を認め、他の病変を伴っていた。眼病変の頻度は組織球症の病型間で統計的に有意に異なり、LCHは眼所見の割合が最も低く(7%)、他の全ての病型では眼病変の頻度はLCHの5倍であった(p=0.0009)。眼病変のある例のうち、41%に眼症状の訴えがあり、眼病変のある群では眼病変のない例と比較して有意に多かった。眼病変の有無は、BRAFV600EMAP2K1RAS変異の有無によって統計的に差はなかった。【結論】眼病変は、組織球症に高頻度に存在し、顕著な視覚症状を伴い、多臓器病変と同時に生じる。眼所見は組織球の病型によって様々である。このコホートの変異プロファイルは、組織球症の既知の変異と同様であり、眼病変に関連する特定のドライバー変異はない。

4)「12例のアジア人小児におけるALK陽性組織球症」

ALK-positive histiocytosis in 12 Asian children.

Feng X, et al. Hum Pathol. 2024 Oct;152:105637.

2008 年に初めて報告された未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)陽性組織球症は稀な新しい腫瘍である。これまでに100例以下しか報告されていない。この後方視的研究では この疾患をより深く理解するために、12例の小児のALK陽性組織球症の、臨床症状、組織学的特徴、分子病理、治療、予後を分析した。全例がアジア人の小児で、年齢は生後2か月から8歳2か月(平均 3.1歳)、男女比は 5:7 であった。全例が綿密に追跡調査された。7例(症例 1- 7)が限局型、5例(症例8-12)は多臓器型で、追跡期間中に1例が死亡した。さらに、ALK標的療法が奏功した1例、希少なEML4-ALK融合遺伝子を認めた1例があった。この研究は、ALK陽性組織球症の認識の向上に大きく貢献すると期待される。

5)「消化管LCHの臨床病理学的特徴」

Clinicopathologic Features of Gastrointestinal Tract Langerhans Cell Histiocytosis.

Hu S, et al. Mod Pathol. 2024 Sep;37(9):100543.

LCHの消化管浸潤はまれであり、その臨床病理学的特徴は症例報告と小規模な症例シリーズでしか報告されていない。年齢/性別および臨床的所見の情報が十分にある47例のヘマトキシリン-エオシン染色、CD1a、S100、ランゲリン免疫組織化学染色の標本を検討した。小児が8例、成人が39例で、追跡期間は平均63か月であった。小児例は全て多臓器型で消化器症状を呈し、非ポリープ状病変を示した。7例(88%)は多発性消化管病変を示し、そのうち5例は複数の消化管臓器に浸潤を認めた。小児から採取された病変は全て浸潤性増殖を示した。最終追跡調査時において、半数以上は、原病死しているか、または、活動性病変があった。成人では、39例25例(64%)が消化管のみの単一臓器型で、残りの14例(36%)は多臓器型であった。成人の単一臓器型の多く(72%)は、スクリーニング内視鏡検査で偶然発見された。大部分は孤発性大腸病変(88%)で孤発性ポリープ(92%)として見出され、境界明瞭/非浸潤性増殖パターン(70%)で、予後は良好(100%)であった。成人の多臓器型と単一臓器型を比較すると、多臓器型では消化管症状(92%, P<0.001)、大腸以外の消化管部位の病変(50%, P=0.02)、多発性消化管病変(43%, P=0.005)、非ポリープ状病変(71%, P<0.001)、浸潤性組織学的増殖パターン(78%, P=0.04)、活動性病変の持続(57%, P<0.001)がより多かった。成人の多臓器型は、小児と同様の臨床病理学的特徴を示しているようである。これらの結果は、成人の消化管の単一臓器型は予後良好であるのに対し、多臓器型は全ての年齢で予後不良であることを示している。高リスクの消化管LCHの特徴として、小児年齢、消化管症状、大腸以外の消化管障害、多発性消化管病変、非ポリープ状病変、浸潤性増殖パターンなどが挙げられる。

6)「頭蓋内Rosai-Dorfman病の治療: 施設内での経験」

Management of intracranial Rosai-Dorfman disease: An institutional experience.

Tyagi G, et al. J Clin Neurosci. 2024 Sep;127:110758.

【目的】Rosai-Dorfman病 (RDD) は、まれな良性の組織球症である。頭蓋内 RDDの治療と転帰について記述する。【方法】2010年1月~2022年12月にBangaloreの国立精神保健神経科学研究所の三次センターで実施した後方視的研究である。生検で確定診断されたRDD患者を対象とした。年齢・性別、手術の詳細を診療録から、放射線学所見は内部保管システムから収集した。追跡調査は外来診療および電話で行った。【結果】頭蓋内病変のみの患者を対象とし、計 25例が基準に一致した。平均年齢は32±13.4 歳で、男性が多かった。5/25例 (20 %)に多発病変を認めた。全ての病変は著しい造影効果があり、16例(64%)はT2で低信号であった。12例 (48 %)に病変周囲浮腫(白質周囲の T2/FLAIR高信号)を認めた。6例(24%)で全切除(GTR)が可能であった。14例(56%)に部分切除が行われ、5例(20%)は生検のみであった。19例(76%)が補助療法を受け、10例(40%)はステロイドのみ、4例(16%)が低線量放射線療法のみ、1例(4%)が化学療法のみ、4例(16%)はこれらの併用療法を受けた。追跡調査では、11例(44%)が病状安定、7例(28%)が病変進行または再発、3例(12%)が病変退縮であった。【結論】孤発性頭蓋内 RDD に対しては外科的切除が有効な治療法であった。補助療法は、多発病変で頭蓋底病変のある例や外科的切除不能部位に病変がある例に対する追加治療である。

7)「小児LCHにおける血清可溶性CD25値の臨床的影響」

The clinical impact of serum soluble CD25 levels in children with Langerhans cell histiocytosis.

Zhao ZJ, et al. J Pediatr (Rio J). 2024 Sep 9:S0021-7557(24)00111-6.

【目的】LCHは炎症性の特徴を持つ稀な骨髄性腫瘍である。小児 LCH における sCD25値と臨床的特徴および予後との関連を検討することを目的とした。【方法】18歳未満のLCH患者370例の血清sCD25値をELISAで測定した。患者を治療レジメンにより2つのコホートに分けた。試験コホートにおいてsCD25が予後因子となるかを評価し、独立した検証コホートでこれを検証した。【結果】診断時の血清sCD25値の中央値は 3,908 pg/ml (範囲: 231-44,000) であった。リスク臓器浸潤陽性多臓器型(MS RO+)は、単一臓器型 (SS) と比較して sCD25 レベルが有意に高かった(p<0.001)。sCD25高値の例は、リスク臓器、皮膚、肺、リンパ節、下垂体病変を認める割合が有意に高かった(全てp<0.05)。 sCD25値により、ROC曲線下面積60.6 % で、LCHの病変進行および再発を予測可能であった。最適なカットオフ値は2921 pg/ml であった。sCD25高値群は低値群よりも有意に無増悪生存率が悪かった(p<0.05)。【結論】診断時の血清sCD25高値は高リスク群の臨床的特徴と関連しており、sCD25値は第一選択化学療法による治療後のLCHの病変進行/再発を予測する可能性がある。

8)「血漿および末梢血単核細胞におけるBRAFV600E変異アレルの検出は、第一選択療法で治療された小児LCHの予後と相関する」

BRAF-V600E mutations in plasma and peripheral blood mononuclear cells correlate with prognosis of pediatric Langerhans cell histiocytosis treated with first-line therapy.

Wang CJ, et al. Pediatr Blood Cancer. 2024 Sep;71(9):e31099.

【背景】小児LCHにおいて、末梢血単核細胞(PBMC)でのBRAFV600E変異アレル検出の臨床的意義、血漿およびPBMC中DNAでの変異検出の予後への影響は、十分に解明されていない。【方法】後方視的にLCH診断時の血漿およびPBMCのペア検体においてBRAFV600E変異アレルのレベルを測定した。その後、個別または組み合わせて、変異アレル検出の臨床および予後への影響について分析した。【結果】小児LCH 94例の末梢血でBRAFV600E変異を評価した。血漿でのBRAFV600Eの検出は、若年、多臓器型、リスク臓器浸潤、再発リスクの増加、無増悪生存率の低下に関連していることが示された。また、診断時のPBMCでのBRAFV600Eの検出は、リスク臓器浸潤、若年、疾患の進行や再発と有意に関連していた。血漿とPBMCの両方でBRAFV600Eが検出される例が36.2%あり、その転帰は最も悪く、ハザード比はどちらか一方陽性またはどちらも陰性の例よりも有意であり、血漿とPBMCでの変異検出を組み合わせた分析は、どちらか一方を評価するよりも正確に再発を予測できた。【結論】BRAFV600E変異アレルの血漿とPBMCでの同時解析は、小児LCHの予後を有意に反映する。この研究の結果を検証するには、より大規模なコホートによるさらなる前向き研究が必要である。

9)「神経変性LCHにおける免疫グロブリン静注治療に対する反応をモニタリングするための学際的な非侵襲的アプローチ:現実世界の研究」

A multidisciplinary non-invasive approach to monitor response to intravenous immunoglobulin treatment in neurodegenerative Langerhans cell histiocytosis: a real-world study.

Trambusti I, et al. Front Immunol. 2024 Aug 16;15:1422802.

【目的】神経変性LCH (ND-LCH) は、早期発見と治療によって神経変性の進行を防げることが示唆されている。この研究は、静脈内免疫グロブリン (IVIG) の治療反応および未治療の例における疾患の自然経過を評価するための標準化された集学的診断精密検査を検証することを目的とした。【方法】体性感覚誘発電位(SEP)で異常を認めた例は、毎月0.5 g/kgのIVIGを受けた。ND-LCHの診断は、脳MRI、神経学的検査、脳幹聴覚誘発電位(BAEP)およびSEPによって行った。【結果】22例を、MRIにより最初にND-LCHの所見が得られてから5.2年間 (中央値) 追跡し、うち11例がIVIGを1.7年間 (中央値)受けた。治療開始時に、10例に神経学的異常を認め、うち2例は重度の異常で、4例にBAEPで異常を認めた。最終追跡調査では、11例中1例は安定維持、7例は改善したが、3例は神経学的所見または神経生理学的所見の悪化を認めた。悪化の危険因子は、治療開始時の神経学的所見やMRI所見の重症度とLCHの長期の罹病期間であった。11例の未治療患者のうち、改善した例はなく、3例が増悪した。【結論】IVIG治療がMRIグレード4未満の神経症状が軽微な全ての患者に神経症状の安定化または改善をもたらす可能性があることが、標準化された診断プロトコルを用いて実証された。

10)「米国におけるランゲルハンス細胞肉腫の疫学的および臨床的特徴: 2000年~2019年の SEER データに基づく集団研究」

The epidemiological and clinical characteristics of Langerhans cell sarcoma in the United States: A population study based on SEER data from 2000 to 2019.

Mali B, et al. Medicine (Baltimore). 2024 Aug 16;103(33):e39315.

ランゲルハンス細胞肉腫(LCS)は予後不良の稀な進行性悪性腫瘍である。症例報告に基づく限られた情報しかないため、その疫学、臨床的特徴、転帰は明らかではない。調査・疫学・最終転帰 (SEER) データベースを用い、2000年~2019年の間に診断された LCS 患者のデータを、年齢、人種、病期、臨床パターン、治療法に基づいて分析した。これらの症例のほとんどは60歳以上(50.9%)、白人(71.9%)で、男性と女性の比率はほぼ同じであった。45.6%は局所病変で、47.4%は遠隔病変を認めた。50.9%が手術を、45.6%が化学療法を受け、放射線療法を受けたのは21.1%のみであった。米国でLCSと診断された患者の全生存率は一般に低く、1年生存率は63.8%であった。病気の進行期、続発性腫瘍、複数病変などの要因が予後不良に関連していた。LCS は生存率が低い稀な疾患である。さらに、統計的に有意な結果を得るには、今後の研究が必要である。これらの腫瘍の分子的、遺伝的、病態生理学的背景の解析が、標的療法の開発と予後改善のために重要である。