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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第10回 最新学術情報(2008.3)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「LCH患者における制御性T細胞の増加」

Expansion of regulatory T cells in patients with Langerhans cell histiocytosis.

Senechal B et al. PLoS Med. 2007 Aug; 4(8): e253.

【背景】LCHは、まれなクローン性の肉芽腫疾患で、主に小児に発症する。LCHは骨・皮膚・肺・骨髄・リンパ節・中枢神経系など様々な組織に病変を形成し、しばしば機能障害を残す。LCHの病態生理は明らかではないが、制御不能なランゲルハンス細胞の増殖が肉芽腫形成の根源と考えられる。本研究の目的は、LCHの肉芽組織において増殖している細胞の性質と免疫メカニズムをさらに明らかにすることである。【方法と結果】40例のLCH患者(年齢0.25?13歳:平均7.8歳)から得た生検組織(24例)と血液検体(25例)において、末梢血と肉芽組織で増加している細胞を同定した。ランゲルハンス細胞の増殖指数は低く約1.9%であり、単球や樹状細胞分画の増加は認められなかった。LCH病変部位は活動性炎症、組織再構築、血管新生の場であり、増殖している細胞の多くは内皮細胞・線維芽細胞・多クローン性T細胞であった。肉芽組織においては、IL-10が多量に分泌され、ランゲルハンス細胞はTNFファミリーに属するRANKを発現し、CD4陽性・CD25高発現・FoxP3高発現である制御性T細胞がT細胞の20%を占め、それら制御性T細胞はランゲルハンス細胞に接していた。末梢血中のFoxP3陽性の制御性T細胞は、活動性病変のあるLCH患者では、対照に比べ増加しており、それらの7例中7例で皮膚の遅延型過敏反応は不良であった。対照的に、寛解後のLCHでは、血中の制御性T細胞の数は正常であった。【結論】これらの所見は、LCHにおけるランゲルハンス細胞の集積は、制御不能の増殖というよりも生存が伸びている結果であり、それに制御性T細胞の増加が関連していることを示している。これらのデータは、ランゲルハンス細胞が生体内での制御性T細胞の増加に関与し、その結果LCH細胞を排除するための宿主免疫システムが破綻する可能性を示唆している。このように、制御性T細胞はLCHにおける治療標的になる可能性がある。

2)「節足動物の咬刺反応におけるLCHに類似したランゲルハンス細胞の顕著な動員」

Prominent Langerhans' cell migration in the arthropod bite reactions simulating Langerhans' cell histiocytosis.

Kim SH et al. J Cutan Pathol. 2007 Dec; 34(12): 899-902.

【背景】上皮のランゲルハンス細胞は皮膚の免疫反応において中心的役割を果たす。抗原の侵入や他の刺激は、ランゲルハンス細胞の動員や遊走を引き起す。したがって、抗原刺激や外傷に起因する皮膚疾患では、ランゲルハンス細胞の動員が生じる。最近、我々は、好酸球とCD1a陽性ランゲルハンス細胞の著しい炎症浸潤を示した、節足動物の咬刺症の症例を数例経験した。これらの例とLCHを区別することは困難であった。【方法】皮膚の節足動物の咬刺反応におけるランゲルハンス細胞浸潤の程度と様式を検討した。節足動物の咬刺反応におけるCD1aの免疫組織化学的発現の特性を、LCHにおけるそれと比較した。【結果】約36%の節足動物の咬刺症では、真皮、特に血管周囲に広範にCD1a陽性ランゲルハンス細胞を認めた。さらに、節足動物の咬刺症におけるランゲルハンス細胞のCD1a発現は樹枝状の様式であり、LCHの腫瘍細胞における発現は明らかに異なり細胞膜と細胞質内であった。【結論】節足動物の咬刺症では、著しいCD1a陽性ランゲルハンス細胞の浸潤を真皮、特に血管周囲に認める例があった。節足動物の咬刺症における、CD1aの樹枝状の免疫組織化学染色様式は、LCHとの鑑別に有用である。

3)「LCHにより明らかとなった樹状細胞の融合に関与する新たなIL-17A依存性経路」

Langerhans cell histiocytosis reveals a new IL-17A-dependent pathway of dendritic cell fusion.

Coury F et al. Nat Med. 2008 Jan; 14(1): 81-87.

IL-17AはT細胞特異的サイトカインであり、非定型抗酸菌感染症やクローン病、関節リウマチや多発性硬化症などの慢性炎症に関与する。マウスモデルにより、IL-17A産生の分子メカニズムが解明され、IL-17Aは未知のメカニズムにより肉芽腫形成や神経変性に関わるだけでなく、骨芽細胞でのRNKLを発現により骨吸収に関わることが示された。LCHは、動物モデルのない病因不明のまれな疾患であり、様々なIL-17A関連疾患で個々に認められる侵襲的慢性肉芽腫形成や骨吸収、時として神経変性を伴う軟部組織病変などの症候が集積する。我々は、LCHにおいてIL-17Aを検討し、LCHの活動期には血清IL-17Aが高値であること、予期せぬことにLCH病変の主要な細胞である樹状細胞によりIL-17Aが産生されていることを見いだした。また、樹状細胞を融合させるIL-17A依存性経路を見いだした。その経路は、IFN-γにより著しく増強され、3つの主要な組織破壊酵素である酒石酸耐性酸性脱リン酸酵素・MMP9・MMP12を発現する巨細胞形成へと導く。IFN-γの発現は以前からLCHにおいて実証されており、IL-17A関連疾患においても認められている。特筆すべきは、血清IL-17A依存性の融合能はLCHの活動性に関連する。このように、IL-17AとIL-17A刺激を受けた樹状細胞は、LCHや他のIL-17A関連炎症性疾患の治療において臨床的価値がある標的かもしれない。

4)「LCHにおける、細胞周期関連遺伝子産物・NF-κBと臨床パラメータとの関連」

Association of cell cycle-related gene products and NF-kappaB with clinical parameters in Langerhans cell histiocytosis.

Amir G et al. Pediatr Blood Cancer. 2008 Feb; 50(2): 304-307.

【背景】LCHは、単一あるいは複数臓器に異常ランゲルハンス細胞が集積し臓器障害を引き起すことを特徴とするまれな疾患である。その病態生理はよくわかっていない。この研究の目的は、細胞周期や細胞死に関わる様々な遺伝子産物の発現を検討すること、診断時における臨床病期・リスク骨浸潤との関連を見いだすことである。【方法】診断のためにおこなった生検組織において、免疫組織化学的にBcl-2とcaspase-3・Ki-67・p53・NF-κBを染色し、その結果を定量化し臨床病期と比較した。【結果】多臓器病変の患者とリスク骨浸潤のある患者のランゲルハンス細胞は単一臓器病変の患者に比べ、抗アポトーシス遺伝子産物であるBcl-2陽性率が有意に高く(各々P=0.0004、P=0.001)、アポトーシスのマーカーであるcaspase-3陽性率は有意に低かった(各々P=0.0001、P=0.01)。増殖マーカーであるKi-67は、単一臓器病変型に比べ多臓器病変型においてより高頻度で発現していたが、リスク骨浸潤の有無には関連しなかった。p53とNF-κBの発現は、臨床病期と関連しなかった。【結論】これらの所見は、細胞増殖とアポトーシス抑制が、多臓器病変やリスク骨浸潤といった高悪性度型のLCHにおける細胞生存のメカニズムである可能性を示唆している。

5)「LCHにおけるテロメア長の短縮」

Telomere length shortening in Langerhans cell histiocytosis.

Bechan GI et al. Br J Haematol. 2008 Feb; 140(4): 420-428.

LCHは、未熟なCD1a陽性のランゲルハンス細胞のクローン性増殖疾患である。その病因は不明であり、クローン性新生物であると同時に免疫制御不全であることを示唆するデータが報告されている。テロメア長の短縮は、染色体不安定性の促進と同時に悪性新生物や前がん状態と関連している。LCHのランゲルハンス細胞のテロメア長に変化があるかどうかを明らかにするため、局所型と多臓器型、全身型のLCH病変のランゲルハンス細胞とリンパ球で、免疫組織染色によるCD1a発現とFISH法によるテロメア長を同時に検出し、反応性リンパ節におけるランゲルハンス細胞やリンパ球のテロメア長と比較した。LCH病変のランゲルハンス細胞のテロメア長は、反応性リンパ節や病変のない皮膚のランゲルハンス細胞に比べ有意に短かった。リンパ球のテロメア長に差はなかった。これらのデータは、全ての病期においてLCH病変のランゲルハンス細胞のテロメア長は、反応性リンパ節のランゲルハンス細胞に比べ有意に短いことを示し、感染や免疫現象により惹起されている可能性も今だの残るが、LCHはクローン性の前がん病変や悪性腫瘍と共通したテロメア長の短縮や生存のメカニズムを持っている可能性を示唆している。

6)「生体内でのマウスCD8α陽性通常型樹状細胞の形質転換により進行性多臓器型組織球症を発症する」

In vivo transformation of mouse conventional CD8{alpha}+ dendritic cells leads to progressive multisystem histiocytosis.

Burnett A et al. Blood. 2008 Feb 15; 111(4): 2073-2082.

樹状細胞の分裂と増殖は、恒常性維持と抗原提示の遷延に寄与すると提唱されてきている。樹状細胞の異常な増殖がLCHを引き起すかどうかは、大いに議論されている話題である。SV40 T抗原を未熟樹状細胞に強制発現すると、生体内で形質転換するが、表現型や機能・成熟能は維持される。形質転換された細胞は、ランゲリン発現を高発現するCD8α陽性通常型樹状細胞に分化する。形質転換マウスのCD8α陽性樹状細胞では、野生型あるいは形質転換マウスのCD8α陰性樹状細胞に比べ、定常状態において、細胞周期に入っている細胞が多かった。形質転換マウスは、脾や肝・骨髄・胸腺・腸間膜リンパ節に樹状細胞病変を発症した。驚くべきことに、病変はLCH診断の鍵となる免疫組織学的像を呈した、すなわち、ランゲリン発現を認めたが、ランゲルハンス細胞肉腫で見られる異常な細胞分裂は認めなかった。我々の結果は、通常型樹状細胞を形質転換することにより、Letterer-Siwe病のような高悪性度型の多臓器型組織球症に非常によく似た形質転換マウスモデルを作りえることを示している。これらの所見は、通常型樹状細胞がヒトの多臓器型LCHを引き起す可能性を示している。ヒトとマウスの間で、ヒト組織球症発症の分子学的経路を共有することが明らかとなった。