第5回 最新学術情報(2006.7)
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)LCHの長期経過観察:単一施設における39年の経験
Long-term follow-up of Langerhans cell histiocytosis: 39 years' experience at a single centre.
Bernstrand C et al. Acta Paediatr. 2005 Aug; 94(8): 1073-1084.
【目的】小児LCH例の長期経過を評価する。【方法】1996-1989年にカロリンスカ研究所で治療を受けた診断時15歳未満の全てのLCH例を再評価した。診断後5.5-33.5年(中央値16年)の時点で、49例に病理組織の再確認、40例に診察と臨床検査、38例に画像検査を行った。【結果】49例中5例(10%)が死亡したが、全例が診断時2歳未満の多臓器型であった。多臓器型(22例)では単一臓器型(27例)に比べ、診断時年齢、生存率が有意に低かった(p=0.001、p=0.014)。LCHの再燃時には以前に浸潤がなかった臓器にしばしば病変が生じるため、『最大進展病変』という語句を用いた。観察期間中、40例中17例(42%)に晩期障害が出現した。尿崩症が40例中6例(15%)、中枢神経学的後遺症が少なくとも40例中4例(10%)(多臓器型では16例中3例(19%))、晩期肺障害が38例中4例(11%)にみられた。晩期障害なく健康で生存している率は、多臓器型では21例中7例(33%)に対し、単一臓器型では24例中16例(67%)であった(p=0.026)。25年以上経過観察された14例のうち、高等学校を卒業したのは、単一臓器型では9例中7例(78%)、多臓器型(『最大進展病変』)では5例中1例であった(p=0.091)。【結論】多臓器型LCHは、致死率が高いだけではなく、重度の晩期障害を伴う傾向にあった。51%の症例(多臓器型では33%、単一臓器型では67%)が、晩期障害なく生存していた。多臓器型では、少なくとも19%に中枢神経学的後遺症を認めた。
2)造血障害を伴った難治性LCHに対する2CdA/Ara-C併用療法、多施設共同パイロット研究
Multi-centre pilot study of 2-chlorodeoxyadenosine and cytosine arabinoside combined chemotherapy in refractory Langerhans cell histiocytosis with haematological dysfunction.
Bernard F et al. Eur J Cancer. 2005 Nov;41(17):2682-2689.
この研究は、造血障害を伴った難治性の小児LCHに対する、2-chlorodeoxyadenosine (2-CdA)とcytosine arabinoside (Ara-C)の併用療法の効果と副作用を評価することを目的とする。10例(診断時年齢の中央値0.5歳)がこの研究に登録された。治療は、Ara-C (1000 mg/m2/日)と2-CdA (9 mg/m2/日)を5日間、4週毎に、少なくとも2コース行い、その後経過観察(0.03-6.4年、中央値2.8年)した。2コース以上治療を受けた7例中、6例で病勢の改善を認め、7例全例が中央値5.5か月後には病勢のコントロールが可能となった。全例にWHOグレード4の血液学的障害が生じた。2例が2-CdA/Ara-Cの第1コース直後に敗血症のため死亡した。もう1例は、第1コース終了後に治療研究から脱落し、造血幹細胞移植を受けたが死亡した。症例数は少ないが、2-CdA/Ara-C併用療法は難治性の小児LCHに対し有効な治療法と考えられる。
3)新生児期発症のLCH
Langerhans cell histiocytosis in neonates.
Minkov M et al. Pediatr Blood Cancer. 2005 Nov; 45(6): 802-807
【目的】新生児LCHの頻度、臨床症状・経過、予後を明らかにする。【方法】オーストリア・ドイツ・スイス・オランダのLCH研究グループのデータを後方視的に解析した。新生児LCHの頻度は、人口に基づいたドイツ小児癌登録のデータにより推定した。【結果】生後28日以内に診断された新生児LCHの推定頻度は100万人に1-2例であった。臨床試験に登録されたLCH 1069例のうち61例(6%)において、最初の症状は新生児期より出現していた。しかし、そのうち新生児期に診断されたのは20例のみであった。多臓器型が61例中36例(59%)と多くを占めた。初発症状として、単一臓器型では92%、多臓器型では86%が皮膚病変で、最も多かった。多臓器型の72%は診断時にリスク臓器浸潤を伴っていた。5年生存率は、単一臓器型で94%、多臓器型で57%であり、新生児LCHの生存率は新生児以降のLCHに比べ有意に低かった。【結論】今までの報告とは対照的に、新生児LCHは多臓器型が明らかに多かった。皮膚病変は、単一・多臓器型ともに最も多い初発症状であった。診断時に病変の進展度を速やかに評価することが、リスクに合わせた治療をするために必須である。臨床経過を診断時に予測することは困難である。皮膚単一臓器LCHを治療待機し経過観察する場合、病勢進展を注意深く観察しなければならない。多臓器型の新生児LCH、特に診断時にリスク臓器浸潤を伴う例の予後は悪く、全身化学療法が必要である。
4)1歳未満で出現した皮膚病変を伴うLCH
Cutaneous Langerhans cell histiocytosis in children under one year.
Lau L et al. Pediatr Blood Cancer. 2006 Jan; 46(1): 66-71.
【目的】皮膚病変を合併した乳児LCHの臨床経過と転帰を評価し、皮膚単独病変例が多臓器型に進展する頻度を推定することを目的とする。【方法】12か月未満で皮膚病変が出現した22例のLCH症例を後方視的に解析した。【結果】診断時に、12例は皮膚単独型、10例は多臓器型であった。皮膚単独型でその後の評価が可能であった10例のうち4例(40%)が多臓器型に進展した。診断時に多臓器型であった10例のうち、5例は診断の2-13か月前より皮膚病変が先行して見られた。14例の多臓器型のうち11例(79%)がリスク臓器浸潤を伴っていた。多臓器型の死亡率は50%であった。【結論】乳児の皮膚単独LCHの予後は必ずしも良好ではないと主治医は認識すべきである。自然治癒皮膚LCHの診断は、後方視的にのみされるべきである。病変の進展がないか、晩期障害の出現がないか、非侵襲的に注意深く経過観察すべきである。
5)成人LCH患者における視床下部?下垂体病変の放射線学的所見
Evolving radiological features of hypothalamo-pituitary lesions in adult patients with Langerhans cell histiocytosis (LCH).
Makras P et al. Neuroradiology. 2006 Jan;48(1):37-44.
LCHは、樹状細胞の単クローン性増殖によるまれな全身疾患で、特に視床下部-下垂体系に浸潤することが多い。我々は、17例の多臓器型LCH患者(男性7例、年齢18-59歳・中央値35歳)において、視床下部-下垂体系の機能検査(下垂体前葉と後葉のホルモン分泌)とMRIによる形態学的検査をおこなった。また、12例において、視床下部-下垂体系の形態変化の出現と、下垂体機能や治療反応性との関連を、評価した(観察期間1.5-10年、中央値3.75年)。17例のうち、14例(82%)に視床下部-下垂体系の形態異常があり、12例(70%)は複数箇所に病変が見られた。尿崩症と診断されたすべての例で、下垂体後葉の高輝度点の消失が典型的にみられた。8例(47%)に漏斗部の腫大、6例(35%)に下垂体浸潤、4例(24%)に部分的または完全トルコ鞍空洞化、3例(18%)に視床下部浸潤、2例(12%)に漏斗部の萎縮を認めた。尿崩症を16例(94%)に、下垂体前葉ホルモン分泌不全を10例(59%)(2例(12%)は単一ホルモン、8例(47%)は複数ホルモン分泌不全)を認めた。観察期間中に、視床下部-下垂体病変の改善を7例(47%)に認め、このうち5例(33%)は何らかの治療を受けていた。下垂体前葉ホルモン欠損と尿崩症を伴った例は、ゴナドトロピン分泌不全の1例を除き、すべて非可逆的であった。尿崩症と下垂体前葉ホルモン分泌不全は、多臓器型LCH例に合併することは非常に多く、ほとんど常に視床下部-下垂体系の画像異常を伴う。
6)LCHにおける尿崩症の危険因子
Risk factors for diabetes insipidus in langerhans cell histiocytosis.
Grois N et al. Pediatr Blood Cancer. 2006 Feb; 46(2): 228-233
【背景】尿崩症は、最も頻度の多いLCHの中枢神経系の後遺症であり、ほとんどの例は生涯ホルモン補充療法を必要とする。尿崩症の発症頻度を明らかにするために、DALHX-83と-90およびLCH-IとLCH-II治療研究に登録された1,741例のLCHについて調査した。【結果】1,741例中212例(12%)が尿崩症を合併し、1,741例中102例(6%)は、LCH診断時にすでに尿崩症があった。診断時に尿崩症を認めなかった1,639例中1,183例について経過観察が可能であり、このうち110例(9%)が後に尿崩症を発症した。尿崩症の発症率は診断後15年の時点で20%に達した。診断時、多臓器型の例は単一臓器型の例に比べ、4.6倍発症頻度が高かった。頭蓋顔面部位、特に耳・眼・口腔部位の病変をもつ例は、病変の進展度に関わらず、有意に尿崩症発症の頻度が高かった(ハザード比1.7)。尿崩症の発症に、治療期間は影響なかったが、初期病勢の持続期間と再燃の有無は有意に関連していた(ハザード比はそれぞれ1.5、3.5)。【結論】診断時に多臓器型で、頭蓋顔面、特に耳・眼・口腔領域に病変がある例は、経過中に尿崩症を発症する率が有意に高い。尿崩症の発症率は、LCHが長期に活動性である例や再燃例ではさらに増加する。