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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第28回 最新学術情報(2015.12)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「血管マーカーCD31は皮膚腫瘍の組織球と組織球様細胞でも陽性である」

The vascular marker CD31 also highlights histiocytes and histiocyte-like cells within cutaneous tumors.

Vanchinathan V, et al. Am J Clin Pathol. 2015 Feb;143(2):177-85

【目的】血管肉腫の診断に役立つCD31は、軟部組織腫瘍中の組織球も陽性であり、診断を誤ることがある。CD31が皮膚の組織球症でどのくらい陽性となるかを検討した。【方法】8例の類上皮細胞組織球症(ECHs)、12例の黄色肉芽腫(XGs)、9例のLCH、8例の網状組織球症、11例の黄色腫、29例の非定型線維黄色腫、9例の顆粒細胞腫瘍、4例の好酸球増加を伴う血管リンパ過形成、9例の皮内Spitz母斑、9例の血管肉腫について、CD31とCD34、CD163、第VIII因子に対する抗体で陽性率を調べた。【結果】CD31は、XGs の3/12例、LCHの4/9例、網状組織球症の1/8例、黄色腫の1/11例、非定型線維黄色腫の10/29例、好酸球増加を伴う血管リンパ過形成の4/4例、血管肉腫の9/9例、顆粒性細胞腫瘍の0/9例、ECHsの0/8例で陽性であった。CD34と第VIII因子は、すべての非血管性の症例で陰性であった。【結論】CD31は、皮膚組織球症の病変部の細胞で陽性で血管性腫瘍と類似するが、抗体パネルを用いることによって誤診を防ぐことができる。

2)「先天異常のある小児におけるLCH:人口調査に基づく研究」

Langerhans cell histiocytosis in children with congenital anomalies: a population-based record linkage study.

Salotti JA, e al. Birth Defects Res A Clin Mol Teratol. 2015 Feb;103(2):157-60.

【背景】LCHは、まれな腫瘍様の免疫系異常症である。家族発症例があること、染色体不安定性や遺伝子変異の報告があることから遺伝的背景が示唆されているが、その病因の多くは不明である。様々な癌と先天異常の関連性が報告され、小児LCHにおいても先天異常の合併が気づかれているが、その頻度の研究は1報だけしかない。先天異常とLCHの関連性により、共通した病因、特に遺伝子経路の異常が示されるかもしれない。【方法】同じ地理的条件の境界を接する2つの地域の登録データを用いた。北部地域若年者がん登録の1985~2010年に診断された全LCH例を、北部先天異常調査に登録された先天異常の生産児と突合調査した。【結果】1985~2008年の間に合計819,890人が生まれていた。これらのうち、13,799人(1.7%)に先天異常があり、39人(0.005%)がLCHと診断されていた。3例のLCHに先天異常があり、全例とも先天性心疾患であった。先天異常児におけるLCHの相対リスクは4.87(95%信頼区間:1.50-15.81;p = 0.03)であった。【結論】LCHはまれであるが、統計学的に有意に先天異常と関連しており、共通した遺伝子異常が存在する例がある可能性が考えられる。

3)「LCHに関連する中枢神経変性症に対しIVIG治療を受けた小児患者の追跡調査」

Follow-up of pediatric patients treated by IVIG for Langerhans cell histiocytosis (LCH)-related neurodegenerative CNS disease.

Imashuku S, et al. Int J Hematol. 2015 Feb;101(2):191-7.

LCH関連の中枢神経変性症(ND-CNS)に対し3年間以上、免疫グロブリン静注(IVIG)を受けた8例の日本人小児患者の追跡調査を報告する。ND-CNS発症時の年齢は中央値5.2歳(3.5~10.0歳)、IVIG治療の期間は中央値6.5年(3.7~10年)であった。ND-CNS診断後の観察期間、中央値11.6年(8.3~13.9年)の時点で、Expanded Disability Status Scale (EDSS) スコアの中央値は4.0点(2.0~9.5点)であった。最終観察時点(2014年3月現在)において、3例はEDSSスコア3以下で介助なく歩行が可能であった。もう3例はEDSSスコア3.5~4.5でときおり介助を必要としたが自力歩行可能であった。しかし、残りの2例は車椅子またはベッド上生活であった。学校成績は8例中7例で平均以下であった。IVIG治療は、ND-CNS診断直後、EDSSスコアが1.0~2.5と低い時点で開始されたときに最も効果が高いと考えられた。EDSSスコアが高い時点(4.5~7.0)でIVIG治療を開始された例では、効果は低いと考えられた。LCH患者のND-CNSの進行を防ぐために、IVIG治療を早期に開始し3年以上継続することが薦められる。

4)「LCHの治療にRANKL阻害剤を用いる根拠」

Rationale for the application of RANKL inhibition in the treatment of Langerhans cell histiocytosis.

Makras P, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2015 Feb;100(2):E282-6.

【背景】LCHは、腫瘍、および、局所と全身性の大量のサイトカイン分泌を伴う炎症の両者の特徴を示すまれな疾患である。【目的】様々なLCH病変組織におけるRANKL発現を評価する。【デザイン】 成人LCH の診断時の生検のパラフィンブロックを用いた横断的研究。【設定】外来で経過観察されている成人患者。【対象】11例の活動性LCH患者(41.27±3.44歳)、対照として5例の非LCH患者(46.8±7.19歳)。【方法】LCH病変と対照組織の脱パラフィン切片を用い、RANKLとp65、CD1aの免疫染色を行う。【主要転帰尺度】CD1a免疫染色で示されるLCH組織と対照組織におけるRANKLとp65発現の比較。【結果】RANKLは、全ての病変で、病的浸潤した多くの細胞で、細胞質内に局所し顆粒状に染色され、陽性細胞の大部分は形態学的に病的ランゲルハンス細胞であった。対照組織と比較して、LCH組織においては、RANKLの染色性は強くかつ陽性細胞が多く、特に病変部位で顕著であった。RANKL陽性細胞は、p65 NFκBも核に陽性で、特に病変部位で顕著であった。【結論】RANKLは活動性LCHの病変部位で強度に発現し、p65 NFκB活性化を伴っている。RANKL阻害剤をLCHの治療に使用する根拠を得るため、さらに臨床的評価が必要である。

5)「全身性組織球症患者のcell-free DNAにおけるBRAFV600E変異の前向き盲検研究」

Prospective blinded study of BRAFV600E mutation detection in cell-free DNA of patients with systemic histiocytic disorders.

Hyman DM, et al. Cancer Discov. 2015 Jan;5(1):64-71.

LCHとErdheim-Chester病(ECD)患者では、BRAF V600E変異が高頻度に見られ、RAF阻害剤に反応する。しかし、組織生検での変異の検出は、腫瘍細胞の割合が少ないこと、間質の細胞が混じることから、組織球症では容易ではない。30例のECD/LCH患者の血漿と尿のcell-free DNAを用い、droplet-digital PCR法によってBRAF V600E変異を定量し、前向き盲検研究を行った。組織と治療前尿検体のcell-free DNAの遺伝子型は100%一致した。Cell-free DNA分析により、今までに報告のなかったKRAS G12S変異のECDの同定、様々な治療法により治療された患者の腫瘍量の動態を経時的に見ることが可能であった。これらの結果は、血漿と尿cell-free DNAのBRAF V600E変異解析が、変異を同定するのに便利で信頼できる方法であり、LCHとECDにおいて治療反応性を観察する非侵襲的なバイオマーカーとして役立つことを示している。【重要性】BRAF V600E変異のある組織球症はRAF阻害剤に著明に反応するが、これら疾患の組織における変異の同定は容易ではない。そこで、血漿と尿cell-free DNAは、BRAF V600E変異を見出し、これら疾患の治療反応を評価するための信頼できる方法となる。

6)「コラーゲンのリモデリングと末梢の免疫細胞の動員が皮膚LCHの微環境の特徴である」

Collagen remodeling and peripheral immune cell recruitment characterizes the cutaneous Langerhans cell histiocytosis microenvironment.

Harikumar PE, et al. Int J Dermatol. 2015 Jan;54(1):e7-13.

【背景】LCHは、病因不明の骨や皮膚、他の組織に表皮ランゲルハンス細胞様の細胞が集積するまれな疾患で、致死的な経過をとる可能性がある。組織損傷と病像は、病変からのサイトカイン放出によって生じている。組織学的染色と免疫組織化学を組合せ、LCHの微環境の検討を試みた。【方法】皮膚LCHのパラフィン包埋保存検体で病変細胞を同定するのに、CD1a染色を用いた。オルセイン染色とギムザ染色を組み合わせにより、免疫細胞一般(特に顆粒球と肥満細胞)と細胞外基質(特に弾性線維)を同定し、CD3とCD68染色により、それぞれT細胞とマクロファージを同定した。コラーゲン合成は、新たに合成されたコラーゲンと成熟したコラーゲンとを鑑別するHerovici染色によって検討した。マトリックス組織の変化を、ピクロシリウスレッド染色した組織片を交差偏光顕微鏡によって解析した。【結果】 免疫細胞は、皮膚LCH病変の周辺に常に見られた。病変を取り囲む肥厚した無秩序な弾性線維が増加し、病変内には弾性線維が欠如していた。さらに、病変内には成熟したコラーゲン線維やコラーゲン支持基質が減少し、隣接組織ではコラーゲンが傷害されていた。【結論】皮膚LCH病変は、様々な免疫細胞の末梢血からの動員、および、限局した弾性線維症、コラーゲン損傷とリモデリングを特徴としている。

7)「皮膚樹枝細胞の形質を示すLCH病変細胞株の樹立」

Establishment of a Langerhans cell histiocytosis lesion cell line with dermal dendritic cell characteristics.

Murakami I, et al. Oncol Rep. 2015 Jan;33(1):171-8.

7歳の男児の頭蓋骨LCH病変からPRU-1と命名した細胞株を樹立し形質を解析した。PRU-1は、粘着性の紡錘状の細胞株で、電子顕微鏡検査でBirbeck顆粒は見られなかった。7回継代した細胞のフローサイトメトリー解析では、ランゲルハンス細胞の特徴であるCD1aとS100蛋白は陰性であった。PRU-1細胞の免疫染色でも、ランゲルハンス細胞のマーカーは陰性であったが、CD11c、CD54(ICAM-1)、CD68陽性で、これらのマーカーはLCH病変の周囲に存在する細胞でも陽性であった。PRU-1細胞は第XIIIa因子陽性、CD34陰性であり、皮膚樹枝細胞の特徴に一致した。細胞遺伝学的分析では、39,XY,-2,-4,-8,-12,-12,-14,add(18)(q21),20,+mar、44,XY,-11,-14,add(18)(q21)といった異常が見られた。PCRによるTCRγ再構成は見られなかった。SCIDマウスへの移植実験によって、腫瘍形成性は証明されなかった。PRU-1細胞培養上清は、末梢血リンパ球の増殖ならびに健常者の単球をCD1a陽性ランゲルハンス細胞様細胞へと活性化する作用が見られた。PRU-1細胞の形質はCD1a陽性の異常ランゲルハンス細胞様細胞(LCH細胞)とは異なるため、PRU-1細胞はLCH細胞からというよりLCH病変の周囲に存在する細胞から誘導された可能性が高い。LCHは、いくつかの炎症性細胞が混在した肉芽腫性新生物と考えられており、メルケル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV)感染症や喫煙のような刺激の影響を受ける。しかし、PRU-1細胞には、MCPyV-DNAはPCRで検出されなかった。PRU-1細胞はストローマ細胞のように成長因子や分化因子を産生し、それらがLCH病変の形成、細胞維持とLCH細胞様細胞の誘導に重要な役割を果たしている可能性がある。

8)「LCHに対する放射線療法の臨床転帰」

Clinical outcomes of radiation therapy in the management of Langerhans cell histiocytosis.

Kotecha R, et al. Am J Clin Oncol. 2014 Dec;37(6):592-6.

【目的】LCHは多様な臨床像を示すまれな疾患である。小児LCHに対する放射線療法の効果と合併症について報告する。【症例と方法】 単施設で60年の間に放射線療法を受けたすべてのLCH症例を後方視的に検討した。放射線療法データ、臨床像、画像データ、生死について解析した。【結果】 69例の診断時の平均年齢は5.3歳(3か月~37歳)で、追跡期間の中央値は6年(7日~32年)であった。放射線療法は169部位に施行され、主に骨病変に対してであった。照射線量の中央値は10Gy(2.5~45Gy)であった。139部位の画像フォローデータ、156部位の臨床経過フォローデータが得られた。91.4%で画像上局所コントロールが得られ、13%は骨の完全硬化または再生が得られた。90.4%の例で病変に関連した症状(多くは骨痛)の安定化または改善が得られた。12例は、診断時または経過観察中に尿崩症を発症した。これらのうち8例は下垂体に放射線照射を受けたが、デスモプレッシンの減量をできた例はなかった。放射線療法の合併症はわずかで、1例が大腿骨頸部骨折、3例が顔面非対称をきたした。二次性悪性腫瘍はなかった。【結論】LCHに対する放射線療法は、局所コントロールと症状改善率が高い。しかし、低線量の放射線照射を受けた小児に、急性期および晩期に合併症が生じることは重大である。

9)「小児の侵攻性LCHにおける活性化BRAF V600E変異:変異特異PCR、直接配列解析と免疫組織化学による証明」

Activating BRAF V600E mutation in aggressive pediatric Langerhans cell histiocytosis: demonstration by allele-specific PCR/direct sequencing and immunohistochemistry.

Méhes G, et al. Am J Surg Pathol. 2014 Dec;38(12):1644-8.

LCHは、抗原提示能を持つランゲルハンス細胞の形質を示す細胞に起因するまれな腫瘍性疾患である。LCHの臨床像は様々で、限局病変から、播種性病変(ほとんどは小児に生じる)まで幅広い。 近年、LCHのおよそ60%に、BRAF遺伝子の活性化変異V600Eが存在すると報告された。我々の施設で治療された15例の小児LCHにおいて、ホルマリン固定パラフィン包埋検体を用い、V600E変異の頻度と予後への影響を後方視的に検討した。変異特異的PCRと直接配列解析をV600E変異の存在を検出するのに用い、変異タンパク特異的VE1抗体クローンを用いた免疫組織化学によって変異BRAFタンパクの発現を確認した。15例中8例がいずれかの方法によってBRAF変異陽性と判定されたが、1例でPCR陰性/免疫組織化学陽性を示し一致しなかった。BRAF変異陽性例のうち4例(50.0%)が治療抵抗性で43か月以内に死亡した。一方、残りの変異陽性例は治療反応性が良好であった。BRAF変異陰性例(7/15例, 46.6%)の初期症状は変異陽性例とほぼ同等で、全例治療に反応した。結論として、BRAF V600E活性化変異は、変異特異的PCRや免疫組織化学によって高頻度に検出できる。BRAF抑制剤に反応する可能性のある予後不良リスク例を、保存してあるホルマリン固定パラフィン包埋組織検体を用いて見つけ出すことが可能である。

10)「高リスクの小児LCHで、血清中オステオポンチンは高値である」

High serum osteopontin levels in pediatric patients with high risk Langerhans cell histiocytosis.

Oh Y, et al. Cytokine. 2014 Dec;70(2):194-7.

オステオポンチン(OPN)は、破骨細胞活性化因子、炎症誘発性サイトカイン、組織球/単球を誘引するケモカインとして働き、LCH組織で多量に発現している。血清中OPN値が、LCHの病型に関連するかを検討した。58例の新規に診断されたLCH患者:8例のリスク臓器(肝、脾または造血器)浸潤陽性多臓器型(MS+)、27例のリスク臓器浸潤陰性多臓器型(MS-)、23例の単一臓器型(SS)、を対象とした。非炎症性疾患の小児患者27例を対照とした。MS+群は全例3歳未満であった。血清中OPNをELISAで、44種の液性因子をBio-Plex suspension array system で測定した。3歳未満の患者において、血清OPN値の中央値(四分位範囲)は、MS+群(n=8)で240.3 ng/ml(137.6-456.0)、MS-群(n=14)で92.7 ng/ml(62.0-213.8)、SS群(n=9)で74.4 ng/ml(42.2-100.0)、対照群(n=12)で72.5 ng/ml(55.6-94.0)であった。MS+群のOPN値は、MS-群、SS群、対照群と比べ有意に高かった(それぞれ、p=0.044、p=0.001、p=0.002)が、MS-群とSS群、対照群の間では差はなかった。3歳以上の患者において、血清OPNの中央値(四分位範囲)は、MS-群(n=13)で56.2 ng/ml(22.9-77.5)、SS群(n=14)で58.9 ng/ml(31.0-78.7)、対照群(n=15)で41.9 ng/ml(28.9-54.1)であった。これらの値は各群の間で差はなかった。血清OPN値は、血清中IL-6、CCL2、IL-18、IL-8とIL-2受容体の値と正の相関があった。OPNは炎症性サイトカイン/ケモカインとしての機能によって、リスク臓器への播種とLCHの予後不良の関与している可能性がある。