第26回 最新学術情報(2015.2)
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)「BRAF V600E変異陰性のLCHではLCH細胞にMAP2K1変異を有することが多い」
High prevalence of somatic MAP2K1 mutations in BRAF V600E-negative Langerhans cell histiocytosis.
Brown NA, et al. Blood. 2014 Sep 4;124(10):1655-8.
LCHではランゲルハンス細胞のクローン性増殖を表す。 BRAF V600E変異は、症例の約50%で同定される。LCHの病因となる他の遺伝子メカニズムを見出すために、次世代シーケンサーを用い8例のLCHについて検討した。 MAP2K1のE102_I103del変異が、BRAF変異のない1例に認められ、サンガーシークエンスにより確認した。BRAF V600E変異特異的PCRとMAP2K1エクソン2と3のサンガーシークエンスを用い、32例を追加して分析し、LCH細胞のBRAF変異を40例中18例(45.0%)に、MAP2K1変異を40例中11例(27.5%)に相互排他的に認めた。これは、BRAF変異のないLCHの50%にMAP2K1変異を認めるという初の報告である。MAP2K1変異とBRAF変異が相互排他的に認められるということは、LCHにおける発癌性MAPKシグナル伝達の役割が重要であることを示している。また、この知見はBRAFおよびMEK阻害剤療法の可能性を示している。
2)「中枢性尿崩症と下垂体茎肥厚を伴う患者における外科的生検」
Surgical biopsies in patients with central diabetes insipidus and thickened pituitary stalks.
Jian F, et al. Endocrine. 2014 Sep;47(1):325-35.
MRIで下垂体茎肥厚を呈する疾患は多様である。従って、臨床的意思決定のためには疾患を特定することが不可欠である。この論文では、中枢性尿崩症(CDI)と下垂体茎肥厚を伴った患者の診断と外科的生検の適応症について論じた。CDIと下垂体茎肥厚を伴った37例を後方視的に検討した。CDIの診断時の平均年齢は29.0±15.9歳(範囲8.0~63.3歳)、経過観察期間の中央値は5.5±2.8年(範囲0.7~13.0年)であった。下垂体前葉ホルモン分泌不全を26例(70.3%)に認めた。全例、CDIの診断時にMRIで下垂体茎肥厚を認め、21例(56.8%)は経過観察期間中に画像変化を示した。これら21例のうち、11例は茎肥厚が増大し、2例は茎肥厚が減少した。視床下部、下垂体、大脳基底核、鞍上部、松果体への浸潤を、それぞれ4例、3例、1例、1例で認めた。最終的に、生検が行われた17例で確定診断がなされ、9例が胚細胞腫、6例がLCH、1例が顆粒細胞腫、1例がErdheim- Chester病であった。CDIと下垂体茎肥厚を伴う患者は、下垂体前葉機能不全や外科的生検の適用となる放射線学的な進行が出現しないかを確認するために、経時的なMRI評価を含む定期的な経過観察が必要である。下垂体茎病変の生検には、眼窩上鍵穴アプローチによる内視鏡下マイクロ手術を選択するのがよい。
3)「LCHとErdheim-Chester病はいずれもBRAF V600E変異と関連する」
Frequent detection of BRAF(V600E) mutations in histiocytic and dendritic cell neoplasms.
Go H, et al. Histopathology. 2014 Aug;65(2):261-72.
組織球症は、主にLCHと非LCHからなる不均一な疾患群である。非LCHとLCHの関連性は特別である。生検によって診断された23例のErdheim--Chester病(ECD)を合併したLCH(混合組織球症)を報告し、この関連の重要性を論じる。これらの患者と、 56例のLCH単独例、53例のECD単独例の臨床像を比較した。診断時の平均年齢は43歳であった。LCHの後にECDと診断された例が12例、同時に診断された例が11例であったが、ECDがLCHに先行した例はなかった。一様ではなかったが、混合組織球症の臨床像は、LCH単独例の臨床像よりもECD単独例の臨床像に近かった(主成分分析)。インターフェロンα-2aの治療により、LCHとECDがともに改善したのは50%(16例中8例)のみであった。LCHの16病変のうち9病変(69%)、ECDの11病変のうち9病変(82%)にBRAF V600Eを認めた。8例では、ECD病変とLCH病変ともに変異を認めた。今回の知見は、LCHとECDの合併は偶然ではないことを示し、BRAF V600E変異を伴うこれらの疾患には関連があることを示唆している。
4)「組織球と樹状細胞腫瘍においてBRAF V600E突然変異は高頻度に検出される」
High prevalence of somatic MAP2K1 mutations in BRAF V600E-negative Langerhans cell histiocytosis.
Brown NA, et al. Blood. 2014 Sep 4;124(10):1655-8.
【目的】種々の組織球および樹状細胞由来の腫瘍においてBRAF変異を検索し、各疾患群での検出率を比較した。【方法と結果】組織球症、樹状細胞腫瘍および他の関連疾患の計129例を韓国の10病院の診療録から検討した。これらには、組織球肉腫、濾胞性樹状細胞(FDC)肉腫、指状細胞肉腫、LCH、ランゲルハンス細胞肉腫、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍、急性単球性白血病、巨細胞腫、黄色肉芽腫、炎症性筋線維芽細胞腫瘍とRosai-Dorfman病が含まれていた。BRAF変異解析は、サンガー法およびpeptide nucleic acid clamp real-time PCR法により行った。 検出されたBRAF変異はすべてV600Eだった。BRAF V600Eの検出率は、組織球肉腫が最も高く(62.5%:5/8例)、次いでランゲルハンス細胞腫瘍(25%:7/28例)、FDC肉腫(18.5%:5/27例)、巨細胞腫(6.7%:2/30例)であった。他の腫瘍ではBRAF変異は見られなかった。組織球肉腫、FDC肉腫とLCHでは、BRAF変異の有無と臨床所見に関連を認めなかった。【結論】BRAF V600E)は、LCHに限らず、組織球性肉腫においてより頻繁に検出された。今回の知見は、BRAF経路が組織球と樹状細胞腫瘍の病因や悪性化に寄与することを示唆している。
5)「肺LCH:初発時CTスキャン画像の多様性」
Pulmonary Langerhans cell histiocytosis: the many faces of presentation at initial CT scan.
Castoldi MC, et al. Insights Imaging. 2014 Aug;5(4):483-92.
【目的】肺LCHは稀な間質性肉芽腫性疾患で、通常、喫煙者である若年成人に発症する。胸部CT検査では、結節や空洞化結節、嚢胞が共存し、上および中肺野に優位に認める、という典型的な所見が得られたときのみ、肺LCHであると確信した診断が可能となる。【方法】肺LCH初発時の、典型例と非典型例の胸部CT所見を図説する。肺LCHの様々な画像を示し可能性のある鑑別疾患について解説する。【結果】肺LCHは非特異的な像を呈することがあり、初期病変を見逃したり他の肺疾患を疑ったりする要因となる。結節病変だけの場合には、主な鑑別診断として、肺転移、結核やその他の感染症、サルコイドーシス、珪肺、Wegener病を上げるべきである。嚢胞病変のみの場合には、最も一般的な鑑別すべき疾患は、中心性肺気腫とリンパ管筋腫症である。喫煙歴と肺LCHに典型的または肺LCHを疑わせる画像所見が診断に導く鍵となるが、臨床症状は、通常、非特異的である。非典型的な所見の場合、診断のために外科的生検を必要とする。【結論】正しく病気を診断したり、さらに必要な検査を行ったりするために、放射線科医が肺LCHの画像所見に精通している必要がある。【教育点】•肺LCHは、通常、若年成人に発症する喫煙に関連した稀な間質性肺疾患である。•初期のCTでは、典型的には、上中肺野の結節、空洞性結節と嚢胞の混在した像を呈する。•嚢胞または結節のどちらか一方といった非典型的所見の場合には、他の診断を考慮すべきである。•肺嚢胞病変は、肺機能異常と相関し、機能低下が推測される。 •病歴と画像所見を統合することが、診断の鍵となる。
6)「神経変性LCHの認知スペクトル」
The cognitive spectrum in neurodegenerative Langerhans cell histiocytosis.
Le Guennec L, et al. J Neurol. 2014 Aug;261(8):1537-43.
神経変性LCHに合併した認知障害の臨床所見はあまり知られていない。目的は神経変性LCHの認知機能を評価することである。8例の成人の臨床的または放射線学的神経変性LCHの患者(男性7例・女性1例、平均年齢26歳、IQ25〜75:範囲20-33)において以下のテストを使用して認知機能を評価した:(1) WAIS-Rスケールとコルシブロックタスクによる前方/後方数唱と空間的範囲課題、(2) フランス語版のfree and cued selective reminding test、(3)言語の流暢性試験、(4)前頭葉機能検査、(5)WAIS-Rスケールによる言葉および視空間記憶の遡行試験、(6)レイ複雑図形検査、(7)トレイルメイキングテストA/B、(8) WAIS-IVスケールによる数字符号と符号検索、(9)ストループ課題。エピソード記憶(すなわち自伝的または個人的な)の自由回想、カテゴリー言語の流暢さ、音韻言語の流暢さ、視空間処理能力、注意力、処理速度、および干渉に対する感度が、神経変性LCH患者で損なわれた。これとは対照的に、言葉と視空間の短期記憶は(すなわち即時記憶や前方距離課題)は、すべての患者で保持されていた。成人の神経変性LCH患者は重度であるが解離した遂行機能障害症候群、すなわち、ほとんどが実行機能は障害されるが比較的短期記憶は温存される状態となる。本研究から、神経変性LCH患者の早期診断のために総合的な認知評価を用いた実行機能評価する必要があると考えられる。
7)「先天性LCHにおける消化管症状:通常は良性と考えられる疾患での致死的な病状」
Digestive tract symptoms in congenital langerhans cell histiocytosis: a fatal condition in an illness usually considered benign.
Vetter-Laracy S et al. J Pediatr Hematol Oncol. 2014 Aug;36(6):426-9.
【はじめに】先天性LCHは、通常、皮膚病変のみであり予後は良好である。腸管病変はまれであるが、死亡率が高く、早期かつ積極的な治療が不可欠である。【材料と方法】我々は、腸管浸潤のある新生児LCHを報告し、1973年~2008年に世界で報告された13例の類似例の文献レビューを行った。【結果】皮疹は通常、出生時の初発症状である。血便や蛋白漏出性腸症は、主に生後4週間以内に出現する腸管浸潤の最初の兆候である。腸管LCHのある新生児の多くは、リスク臓器(造血器系、肝臓、脾臓)浸潤を伴う。予後は通常、不良で死亡率は78.5%であった。【結論】新生児のLCHでは、例え自然治癒する皮膚病変のみに見えたとしても、早期治療が不可欠である腸管や胃を含む、他のすべての臓器病変を除外することが重要である。
8)「LCH:23年間の小児LCHの経験から深刻な長期的後遺症が明らかに」
Langerhans cell histiocytosis: 23 years' paediatric experience highlights severe long-term sequelae.
Martin A, et al. Scott Med J. 2014 Aug;59(3):149-57.
【目的】グラスゴー王立小児病院における23年間の小児LCH患者の病像と転帰を確認する。【方法】1990年1月から2012年12月の間に、31例の小児がLCHと診断された。診療録から、診断時の年齢、臨床症状、疾患の分類、治療および長期転帰を後方視的に抽出した。【結果】男児17例、女児14例。診断時年齢は、中央値2歳9か月(四分位範囲:1年6か月~4歳4か月)、11例が2歳未満、2例は6か月未満であった。18例(58%)が単一臓器型で、うち4例は多発型であった。13例(42%)は多臓器型であった。17例は保存的治療で改善した。14例はステロイドおよび多剤併用の化学療法を、うち3例はさらに化学療法を必要とした。1例が死亡した。2例は再発したが寛解した。10例が尿崩症、7例が成長ホルモン分泌不全、2例が甲状腺機能低下症、1例が汎下垂体機能低下症を発症した。コホートの追跡期間の中央値は8年10か月(四分位範囲:5年5か月~12年7か月)であった。【結論】LCHは乳幼児のまれな疾患で、自然治癒するものから生命を脅かすに至るまでさまざまである。幼児(2歳未満)では、多臓器型がより多く、集中的な化学療法と生涯にわたる経過観察を必要とする。内分泌機能障害、難聴、神経学的および心理的障害を含む長期的な後遺症が、1/3の例に認められた。
9)「肺LCH:新しい英国登録」
Pulmonary Langerhans cell histiocytosis (PLCH): a new UK register.
Mason RH, et al. Thorax. 2014 Aug;69(8):766-7.
肺LCHは病因不明の稀な間質性肺疾患である。英国の肺LCHの患者の特徴を明らかにし、診断と治療法を専門施設と非専門施設で比較することを目的とした。53病院から106例の患者が集積された。67例(女性:53.7%、年齢:37.1±14.4歳)から詳細なデータが得られた。96%は、喫煙者または喫煙歴があった。治療は、禁煙(79%)、コルチコステロイド(30.6%)、化学療法(26.9%)、肺移植(6%)であった。専門施設の患者は、より高率に化学療法を受け(p=0.0001)、生存率は高い傾向にあった。このデータは、以前に報告されていたよりも、患者の性別分布が均等であることを示している。臨床経験によって治療法と転帰に差があることが示された。
10)「LCH患者の末梢血単球におけるIL-17A産生の検出」
Detection of IL-17A-producing peripheral blood monocytes in Langerhans cell histiocytosis patients.
Lourda M, et al. Clin Immunol. 2014 Jul;153(1):112-22.
LCHは、単一の肉芽腫性病変から生命を脅かす多臓器病変まで幅広い病像を呈する原因不明の稀な疾患である。この疾患は病変組織に免疫細胞への浸潤が特徴であり、IL-17Aとの関連が報告されている。LCH患者から単離した末梢血単核球にIL-17A産生細胞が存在すること、対照と比較しLCH患者の末梢血にはIL-17A産生単球の割合が多いことが明らかとなった。IL-17A産生単球は、転写因子のレチノイン酸オーファン受容体(ROR)γt陽性で、IL-17AとRORγtの両者のmRNAレベルが上昇していた。注目すべきことに、IL-17Aは、全ての単球の分画によって産生され、発現レベルはLCHの疾患活動性と関連していた。これらのデータは、LCHの病因における単球の役割を示している。将来の治療アプローチとして、IL-17A標的治療が有効な患者を同定することが必要である。