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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第49回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「JLSG-96/02研究の12年間の追跡調査によって明らかになった、統一した治療法を受けた小児LCH患者の長期の合併症」

Long-term complications in uniformly treated paediatric Langerhans histiocytosis patients disclosed by 12 years of follow-up of the JLSG-96/02 studies.

Sakamoto K, et al. Br J Haematol. 2021 Feb;192(3):615-620.

LCHは、MAPK経路の遺伝子変異を伴う未熟骨髄樹状細胞に由来するまれな炎症性骨髄腫瘍である。LCH患者が致死的となることはほとんどないが、さまざまな永続的な合併症(PCs)を続発する。AraCを含むJLSG-96/02レジメンで治療された小児患者(317例)におけるLCH関連のPCsの頻度を報告する。追跡期間の中央値12年で、LCH患者の1/3は、少なくとも1つのPCsを持っていた。中枢神経系(CNS)関連のPCs(神経学的や内分泌学的)のある患者を21.5%、非CNS関連のPCsのある患者を16.7%に認めた。LCH関連のPCsをさらに減らすためには新しい治療法が必要である。

2)「組織球症の脳実質内腫瘤性病変のMRI所見」

MRI features of intra-axial histiocytic brain mass lesions.

Luna LP, et al. Clin Radiol. 2021 Feb;76(2):159.e19-159.e28.

【目的】組織球症の4つ亜型の脳実質内腫瘤性病変の、拡散強調画像(DWI)、磁気共鳴画像法(MRS)、灌流強調画像(PWI)を含むMRI画像所見について記述する。【対象と方法】組織学的に組織球症と診断された23例(LCH 11例、Erdheim-Chester病[ECD] 8例、LCH/ECD重複型1例、Rosai-Dorfman病[RDD] 2例、造影効果を伴う脳実質内病変を伴う血球貪食性リンパ組織球増殖症[HLH] 1例)の脳MRI所見を後方視的に検討した。【結果】組織球症の脳内腫瘤病変は、テント上やテント下、傍脳室皮質下に輪郭のはっきりした腫瘤、脳室に沿った上衣の線形の造影効果、脳幹病変等の類似のMRI所見を呈した。腫瘤は、T2強調画像(T2WI)で高信号と低信号が常に混在していた。増強効果はほとんどが均一であった。見かけの拡散係数(ADC)値は、通常、正常または上昇していた。【結論】T2WIで信号強度が不均一でADC値が正常または高く複数の脳室周囲や皮質下の造影効果のある病変を見たときには、放射線科医は組織球症を鑑別に挙げるべきであり、全身病変の検索が必要である。

3)「Erdheim-Chester病患者には高頻度にクローン性造血がみられる」

High frequency of clonal hematopoiesis in Erdheim-Chester disease

Aubart FC et al. Blood. 2021 Jan 28;137(4):485-492.

Erdheim-Chester病(ECD)は、臓器への泡沫状の組織球の蓄積(特に後腹膜病変が多い)と、高頻度のBRAF V600E変異を特徴とするクローン性造血障害である。ECDは、一般には末梢血や骨髄に異常があるとは認識されていないが、最近、ECD患者は悪性骨髄腫瘍を併発する頻度が高いことが確認されている。よって、120例のECD患者の骨髄を臨床的および分子的に体系的に分析した。驚いたことに、ECD患者の120例中51例(42.5%)にクローン性造血を認め、120例中19例(15.8%)は明らかな悪性血液腫瘍を発症していた(ほぼすべてが骨髄性腫瘍)。骨髄で最も高頻度に変異していた遺伝子は、TET2ASXL1DNMT3A、およびNRASであった。クローン性造血を伴うECD患者は、クローン性造血を伴わない患者よりも、高齢で(P <.0001)、後腹膜病変(P=0.02)やBRAFV600E変異(P=0.049)の頻度が高かった。TET2変異のあるECD患者は、TET2変異のない患者に比べ、ECD病変部位にBRAFV600E変異を認めることが多く(P=0.0006)、血管病変を有することが多かった。ECDにおけるクローン性造血の遺伝子変異は、骨髄中CD34陽性/CD38陰性造血前駆細胞および末梢血中単球に検出されたが、末梢血中BおよびTリンパ球にはそれほど高頻度には検出されなかった。この結果から、ECD患者にはこれまで認識されていなかった高頻度のクローン性造血を認めることが判明し、ECD患者には高頻度に骨髄性腫瘍が発生することが再確認され、多くのECD患者においてECDは骨髄の造血前駆細胞を起源とすることが明らかとなった。

4)「12か月未満の小児LCH:画像と臨床所見:アイルランドの三次紹介病院での経験」

Langerhans cell histiocytosis in children under 12 months of age: The spectrum of imaging and clinical findings: Experience in an Irish tertiary referral centre.

Gargan ML, et al. Eur J Radiol. 2021 Jan;134:109375.

【目的】LCHはまれな疾患で、1歳未満の小児に発症することはまれである。1歳未満のLCHの臨床所見と画像所見、臨床転帰を分析し、年長児の画像所見とどのように異なるかを検討することを目的とした。【対象と方法】生後0か月から12か月の間に発症した17例のLCHの診療録を後方視的に検討した。画像所見、初発症状、最終転帰を抽出した。【結果】8例(47%)は皮疹で発症し、7例(41%)に骨病変、5例(29%)に脾腫、2例(24%)に中枢神経病変、3例(18%)にリンパ節腫脹、2例(12%)に肝病変、2例(12%)に消化管病変を発症時または経過中に認めた。4例(24%)は発症時または経過中に多臓器病変を認めた。1例が経過中に死亡した。【結論】1歳未満の小児のLCHはまれであり、特異な臨床症状を示す可能性がある。画像所見は多様で、年長児に一般的に見られる典型的な画像所見とは異なる可能性があり、乳児では多臓器病変を伴いやすい。

5)「Rosai-Dorfman病は、OCT2の発現を特徴とする独特の単球-マクロファージ表現型を示す」

Rosai-Dorfman Disease Displays a Unique Monocyte-Macrophage Phenotype Characterized by Expression of OCT2.

Ravindran A, et al. Am J Surg Pathol. 2021 Jan;45(1):35-44.

Rosai-Dorfman病(RDD)は、様々な臨床所見を呈するまれな組織球症である。この研究では、病理学的診断をより明確に定義するために、33例のRDD患者の組織像および表面マーカーの特徴を明らかにした。この33例には、皮膚外病変のある24例(「R」グループ)と、皮膚または皮下組織に病変が限定された9例(「C」グループ)が含まれていた。RDD症例の97%で発現するRDDの単球-マクロファージ表現型の新規マーカーとしてOCT2を同定した。OCT2の発現は、対照的に、Erdheim-Chester病では0%、LCHでは6.7%にしか見られなかった。RDDの診断に役立つ他のマーカーとしては、S100(100%)、CD163(88%)、およびサイクリンD1(97%)があった。RDDの一部では、XIIIa因子(30%)、p16(64%)、リン酸化ERK(45%)が中等~強度発現していたが、ZBTB46、CD1a、ランゲリンは全例で陰性であった。RDDの「Rグループ」においては、XIIIa因子やリン酸化ERKの発現は多発病変の例で有意に高かった(P <0.05)。OCT2発現を伴う特徴的な単球-マクロファージを同定することにより、RDDの複雑な病態理解が進み、より均一な組織球症の分類が可能となる。

6)「BRAFV600E変異陽性の中国の小児LCH 20例に対するダブラフェニブの有効性と安全性」

Effectiveness and Safety of Dabrafenib in the Treatment of 20 Chinese Children with BRAFV600E-Mutated Langerhans Cell Histiocytosis.

Yang Y, et al. Cancer Res Treat. 2021 Jan;53(1):261-269.

【目的】BRAFV600E変異陽性の小児LCHに対するダブラフェニブの有効性と安全性を検証する。【対象と方法】ダブラフェニブで治療されたBRAFV600E変異陽性の小児LCH 20例を後方視的に分析した。【結果】ダブラフェニブ内服開始年齢は中央値2.3歳(範囲:0.6〜6.5歳)であった。男子と女子の比率は2.3:1であった。追跡期間は中央値30.8か月(範囲:18.9〜43.6か月)であった。リスク臓器浸潤陽性が14例(70%)、陰性が6例(30%)であった。全例が従来の化学療法で初期治療を受けていたが、その後、疾患制御不良または化学療法継続困難のために標的療法に移行した。全体の客観的奏効率および全体の病勢制御率は、それぞれ65%および75%であった。血漿中BRAFV600Eコピー数は、60%の患者で、治療開始後、中央値3.0か月(範囲:1.0〜9.0か月)で陰性化した。グレード2または3の有害事象を5例に認めた。【結論】BRAFV600E変異陽性の小児LCH、特に血球貪食性リンパ組織球症を合併し化学療法が困難な高リスク患者では、ダブラフェニブ単剤療法が有用である可能性がある。ダブラフェニブの安全性は注目に値する。最適な投与量と治療期間を明らかにするために、より多数の患者での前方視的研究が必要である。

7)「同じ発がん性遺伝子変異を有する種々の血液悪性腫瘍に併発する組織球症」

Spectrum of histiocytic neoplasms associated with diverse haematological malignancies bearing the same oncogenic mutation.

Kemps PG, et al. J Pathol Clin Res. 2021 Jan;7(1):10-26.

組織球症は、さまざまな組織や臓器にマクロファージや樹状細胞、単球から分化した細胞の集簇を特徴とするまれな疾患である。これらの組織球症の多くに遺伝子変異が見出され、これらがクローン性腫瘍性疾患であるとの認識につながった。さらに、組織球症患者の病変部や末梢血、骨髄細胞に同じ体細胞変異が同定されることから、造血幹細胞/前駆細胞に由来する全身性組織球性腫瘍であることが明らかとなった。ここでは、オランダの全国病理学レジストリを用いて、組織球症と、組織球症と同じ遺伝子変異のある血液悪性腫瘍を併発した例について調査した。病理医がつけた様々な組織球症の診断用語を検索することにより、1971年~2019年の間に病理学的に組織球症と推定診断を受けた4602例の患者を特定した。組織球症と診断された187例の病変検体の遺伝子変異解析を行ったが、その中には組織球症以外の血液悪性腫瘍を合併している例が9例あった。この9例の中に、組織球症の遺伝子変異と同一の遺伝子変異をもつ組織球症以外の血液腫瘍を合併した例を3例見出した。1例はKRAS p.A59E変異のある組織球性肉腫と慢性骨髄単球性白血病(CMML)を合併した患者、2例目はNRAS p.G12V変異のある不定細胞組織球症とCMMLを合併した患者、3例目はNRAS p.Q61R変異のある急性骨髄性白血病の後にErdheim-Chester病を発症した患者であった。これらの症例は、組織球症に組織球症以外の血液悪性腫瘍を合併する患者の少なくとも一部は、両者に共通した造血細胞を起源として発症していることを示している。さらに、特定の遺伝子(例えば、NRASKRAS)のドライバー変異が、併発するクローン性の血液悪性腫瘍や続発性組織球症を発症する素因となる可能性があることを示唆している。最後に、これらの患者には発がん性遺伝子変異をきたした多能性造血幹細胞/前駆細胞が存在すると推定されることから、すべての組織球症患者に適切な(骨髄)病期分類、遺伝子変異解析、長期追跡をすることが重要である。

8)「台湾における小児LCHの臨床転帰:単一施設、20年の経験」

Clinical outcomes of childhood Langerhans cell histiocytosis in Taiwan: A single-center, 20-year experience.

Wang DS, et al. J Formos Med Assoc. 2021 Jan;120(1 Pt 3):594-601.

【背景/目的】台湾小児腫瘍学グループ(TPOG)は、1994年以来、小児LCH患者を治療するため、2つのプロトコルを連続して開始した。しかし、結果の分析や報告はされていない。過去20年間の国立台湾大学病院での小児LCHの生存転帰を調査することを目的とした。【方法】国立台湾大学病院でのTPOGプロトコルに従った小児LCH患者の治療は1994年に始まった。1994年~2003年はTPOG LCH-94プロトコルで治療された。2003年以降TPOG LCH-2003プロトコルで治療された。これらの患者の臨床データは、電子カルテを確認することによって後方視的に収集された。患者は2018年7月31日まで追跡された。【結果】1994年~2015年に、新たに診断された53例の小児LCH患者が国立台湾大学病院で治療を受けた。29例(54.7%)はTPOG LCH-94プロトコルで、24例(45.3%)はTPOGLCH-2003プロトコルで治療された。5年の無イベント生存率と全生存率は、それぞれ96.2±2.6%(標準誤差[SE])と98.1±1.9% [SE]であった。5年の全生存期間および無イベント生存期間は、TPOG LCH-94とTPOG LCH-2003プロトコルで治療された患者間で有意差はなかった。多臓器型、肝病変、脾病変のある患者は、生存率が有意に低かった。LCHのリスク臓器浸潤の中で、肝病変は独立した予後不良因子であった。【結論】台湾における小児LCHの臨床転帰は良好であった。この研究の結果は、将来のプロトコル設計時のより良いリスクグループ化に有益であろう。

9)「MEK阻害剤トラメチニブで治療されたBRAFp.N486_P490delまたはMAP2K1p.K57_G61del変異のあるLCH」

Langerhans cell histiocytosis with BRAF p.N486_P490del or MAP2K1 p.K57_G61del treated by the MEK inhibitor trametinib.

Messinger YH, et al. Pediatr Blood Cancer. 2020 Dec;67(12):e28712.

MAPK経路の活性化遺伝子変異がLCH病変で見出されている。トラメチニブ(MEK阻害剤)によるMAPK経路の阻害は、LCH患者に有効であることが示されている。BRAFp.N486_P490del変異のある2例のLCHの青年に対し、トラメチニブを1年以上投与し、1例は再発せず、1例は部分奏効(肺病変も安定)であった。MAP2K1p.K57_G61del変異のあるもう1例のLCHの新生児は、トラメチニブに完全奏功し、22か月間、活動性病変なく経過した。3例ともトラメチニブ単剤療法を継続されているが、有害事象は許容できる皮膚症状およびCPK上昇のみであった。

10)「BRAFV600E変異陽性成人LCHに対するBRAF阻害剤療法の有効性」

Efficacy of BRAF-Inhibitor Therapy in BRAF (V600E)-Mutated Adult Langerhans Cell Histiocytosis.

Hazim AZ, et al. Oncologist. 2020 Dec;25(12):1001-1004.

LCHはまれな組織球症である。現在まで、成人LCHに対して、最適な一次治療を確立するために米国食品医薬品局が承認した治療法はない。生検によって証明されたBRAFV600E変異陽性の成人LCH患者に対するBRAF阻害剤治療を、単一施設において後方視的に評価した。本研究は、成人LCHに対して一次治療としてBRAF阻害剤を使用した初の報告である。また、成人LCHに対するダブラフェニブ単剤の有効性についても報告した。1例を除く全例が、標的療法に対して良好な反応を示した。