• Englishサイトへ
  • リンク集
  • お問い合わせ

JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第12回 最新学術情報(2008.12)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1) LCHと非ランゲルハンス細胞性組織球症におけるランゲリンの免疫化学的発現

Immunohistochemical expression of Langerin in Langerhans cell histiocytosis and non-Langerhans cell histiocytic disorders.

Lau SK, et al. Am J Surg Pathol. 2008 Apr; 32(4): 615-9.

ランゲリンはランゲルハンス細胞のバーベック顆粒形成に関与する、膜貫通2型のC型レクチンである。ランゲリンは、ランゲルハンス細胞やLCH浸潤細胞の特異的マーカーである。LCHにランゲリン蛋白が発現することは以前から知られていたが、他の組織球症におけるランゲリンの免疫化学的な発現の特性についてはよくわかっていない。本研究では、LCHの診断マーカーとしてのランゲリンの特異性と有用性を評価するために、単球/マクロファージや樹状細胞由来の組織球症におけるランゲリンの発現を免疫化学的に調べた。比較のためにCD1aの免疫化学的発現も同時に調べた。17例のLCHと64例の非ランゲルハンス細胞性組織球症で調べた。LCHにおいて、ランゲリンとCD1aは、ランゲリン陽性・CD1a陰性であった1例をのぞき、全例で一様に発現していた。非ランゲルハンス細胞性組織球症では、10例中2例の組織球性肉腫で、ランゲリンの局所的な発現が見られたのみであった。すべての非ランゲルハンス細胞性組織球症において、CD1aの発現は見られなかった。ランゲリン発現は、非常に感度が高く比較的特異性のあるLCHのマーカーと考えられる。ランゲリン発現の免疫化学的評価は、LCHの確定診断と非ランゲルハンス細胞性組織球症とLCHの鑑別診断に有用と考えられる。

2)LCH:単一施設での217例の後方視的解析

Langerhans cell histiocytosis: retrospective analysis of 217 cases in a single center.

Ya?ci B et al. Pediatr Hematol Oncol. 2008 Jun; 25(5): 399-408.

LCHは、病因や発症機序がよくわかっていない疾患で、ランゲルハンス細胞がさまざまな組織や臓器に、異常なクローン性増殖と集積をきたす。計217例のLCH症例において、臨床像や検査所見、治療手段、長期予後、予後因子を後方視的に解析した。診断時年齢の中央値は3.5歳、男女比は1.8であった。最も多い初発症状は、骨病変に関連した症状であった。2歳未満の症例の50%に臓器機能不全があった。手術、化学療法、放射線療法を単独または組み合わせて治療されていた。ビンブラスチン+/-プレドニゾロンが最もよく使われた化学療法であった。8年時点での粗生存率と無イヴェント生存率はそれぞれ、84%、51.5%であった。粗生存率は2歳未満の症例と臓器機能不全のある症例で有意に低かった。診断時年齢、肺・肝または造血器浸潤、急性反応物質上昇が、粗生存率と無イヴェント生存率に有意に影響していた。

3)小児の側頭骨のLCH

Langerhans' cell histiocytosis of the temporal bone in children.

Saliba I et al. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2008 Jun; 72(6): 775-86.

【目的】LCHはまれな疾患であり、その病理像は、側頭骨を含むさまざまな臓器に肉芽腫形成を伴うランゲルハンス細胞の異常増殖を示す。聖Justine大学病院での側頭骨の小児LCHについて提示する。この研究の目的は、この疾患の臨床像や対処法、予後を明らかにすることと、これらを過去の報告と比較することの2つである。【方法】聖Justine大学病院の小児3次医療センターで、1984年から2007年の間に診断と治療を受けた側頭骨のLCH症例を後方視的に検討した。人口統計や臨床データ、臨床に付随するデータ、治療データを得るために、病歴を調べなおした。それらを解析し、他に発表されているものと比較した。MEDLINEの検索では、1966年以降、側頭骨LCHに関する論文が50編あった。【結果】59例のLCH症例が見つかり、そのうち側頭骨浸潤例が10例あった。女児4例・男児6例で、年齢の中央値は3.28歳であった。最も多い臨床所見は、側頭部腫瘤(70%)で、次いで耳炎(60%)であった。これらの中で2例は側頭骨の単一病変であった。8例は多臓器病変型で、そのうち2例は臓器不全を呈していた。診断は80%の例において、S100またはCD1a陽性という免疫組織化学的所見によりなされていた。頭部CTの多い所見は、側頭骨の溶骨性変化であった。初期治療として7例が化学療法、2例が放射線療法を受け、1例は下垂体への再燃のため放射線療法を受けていた。最終的に、1例がステロイド局所注射を受けた。2例が再燃した。すべての例が、診断後平均1.6年で寛解に達した。我々の結果は、単一骨病変の予後は非常によいが多発病変の例では生存率が65-100%であるという他の報告に一致した。【結論】LCHはまれな疾患である。側頭部腫瘤や慢性の耳炎・耳漏を診たときには、LCHの疑いを持つべきである。側頭骨の溶骨病変があれば、生検が勧められる。望ましい治療手段は化学療法である。

4)フランスにおける2000年から2004年の小児LCHの記述疫学

Descriptive epidemiology of childhood Langerhans cell histiocytosis in France, 2000-2004.

Guyot-Goubin A et al. Pediatr Blood Cancer. 2008 Jul; 51(1): 71-5.

【はじめに】小児LCHは、まれでよくわかっていない多臓器疾患である。フランスの全国小児血液悪性疾患登録(NRCH)には2000年以降の全病型のLCH例の記録がある。本研究では5年間にわたり全国レベルで集められたLCHのデータを記述する。【対象と方法】対象は、フランス本土在住で2000年から2004年の間に診断された15歳未満のすべての病型のLCH症例。フランスLCH研究グループのデーターベースに照合し、完全性を評価した。【結果】258例のLCH症例が登録された。NRCHの完全性は97%と推定された。発症頻度は15歳未満の小児100万人あたり年間4.6人、男女比は1.2であった。診断時の浸潤臓器として骨と皮膚の頻度が最も高かった。発症頻度は年齢とともに低下し、1歳未満では15.3人/100万人、10歳以上では0.6人/100万人であった。病型は、単一病変が2.6人/100万人と最も多く、播種性は0.6人/100万人と少なかったが、1歳未満では播種性が優位であった。2年の粗生存率は99%(95%信頼区間:97-100)であった。約30%のLCH例が初発時に臨床試験に登録されていた。放射線治療を受けた例はなかった。【結論】本研究は、全人口におけるLCHの頻度の特徴を明らかにし、以前の報告と一致した。このようにNRCHは、LCHの更なる解明のための非常に有望な手段と考えられる。

5)小児におけるLCHの頻度:地域住民を対象とした研究

Incidence of Langerhans cell histiocytosis in children: a population-based study.

Stalemark H et al. Pediatr Blood Cancer. 2008 Jul; 51(1): 76-81.

【背景】LCHは病因が不明のまれな疾患である。我々は、明確な小児集団における人口あたりのLCHの頻度を明らかにしようと思った。【方法】ストックホルム州の小児LCH照会センターであるストックホルムのカロリンスカ大学病院小児科で1992年から2001年の10年間に治療を受けた15歳未満の全LCH症例を調査した。これ以外のLCH症例の可能性を考え、皮膚科と整形外科、脳外科にも連絡を取った。【結果】29例(男児16例)のLCH症例が確認され、診断年齢は中央値3.8歳(2か月~13.7歳)であった。1例を除き、LCH確定診断例であった。LCHの頻度は最低でも小児100万人あたり8.9人と推定された。診断時において、20例(69%)が単一臓器型で、9例(31%)が多臓器型であった。20例の単一臓器型のうち5例が多臓器型に進展し、よって、最大進展時では14例(48%)(4.3人/小児100万人/年)が多臓器型であった。興味深いことに、22例(76%)が秋期(9月~11月:12例)または冬期(12月~2月:10例)に診断されていたのに対し、春期(3月~5月:1例)と夏期(6月~8月:6例)は7例であった(p=0.005)。【結論】我々の研究では小児LCHの頻度は過去の報告より高かった。我々の小児集団においては、LCHは春から夏よりも秋から冬にかけて多く診断されていた。この季節変動が大規模研究においても確認できるか、それがLCHの病態生理に関連するかを解明する必要がある。

6)中枢神経変性LCHの臨床傾向と経過

Pattern and course of neurodegeneration in Langerhans cell histiocytosis.

Wnorowski M et al. J Pediatr. 2008 Jul; 153(1): 127-32.

【目的】中枢神経変性LCH(ND-LCH)の頻度と経過を明らかにすること。【研究方法】さまざまな臨床適応のため少なくとも2回以上の頭部MRI検査が行われた83例のLCH症例を対象とした。MRIで小脳歯状核または基底核に両側対称性病変を示す例を放射線学的ND-LCHと定義した。【結果】83例中47例(57%)に、LCHの診断から0~16年(中央値34か月)の時点で、放射線学的ND-LCHを認めた。MRI所見は、31/47例(66%)において、2か月~12.5年(中央値3年)の期間に悪化し、改善した例は1例もなかった。放射線学的ND-LCHの12例は、LCHの診断後3~15年(中央値6年)で、神経症状が明らかとなり臨床的ND-LCHとなった。症状として、企図振戦や小脳失調、構音障害、反復拮抗運動障害、集中力低下、精神運動発達遅滞、激しい頭痛、精神障害があった。【結論】放射線学的ND-LCHは、重大で、MRI検査によりまれならず見つかり、非可逆的で、LCHの診断後何年も経過した後に重度の臨床的ND-LCHに至る可能性がある。

7)下垂体LCH症例の診断時と経過中における放射線学的評価

Radiological evaluation of patients with pituitary langerhans cell histiocytosis at diagnosis and at follow-up.

Varan A et al. Pediatr Hematol Oncol. 2008 Sep; 25(6): 567-74.

尿崩症を伴う13例のLCHの下垂体の画像所見を評価した。9例では下垂体MRIで、3例は頭部CTで、1例は頭部MRIで評価した。漏斗部は、11例(84.6%)で肥厚、1例(7.7%)で糸状、1例(7.7%)で正常であった。10例(76.9%)で下垂体後葉の信号強度は消失し、4例で下垂体の縮小、2例で下垂体の萎縮を認めた。3例でトルコ鞍の縮小を認めた。漏斗部の肥厚と下垂体後葉の信号強度消失は、最も多い放射線学的所見であった。下垂体LCH症例の経過観察にはMRIを使い、下垂体萎縮に注意すべきである。

8)LCH症例におけるヘルペスウイルス感染:血清疫学的患者対照研究と組織での解析

Herpes-virus infection in patients with langerhans cell histiocytosis: a case-controlled sero-epidemiological study, and in situ analysis.

Jeziorski E et al. PLoS ONE. 2008 Sep 23; 3(9): e3262.

【背景】LCHは主に乳幼児に発症するまれな疾患で、ランゲルハンス細胞型の樹状細胞の浸潤を伴う肉芽腫を呈する。LCHの発症機序に、いくつかのヘルペス属ウイルスの関わりを示唆する報告は多いが、未だ議論のあるところである。EBウイルス(EBV)とサイトメガロウイルス(CMV)はランゲルハンス細胞に感染し得る、また、LCHの臨床検体中にEBVやCMV、HHV-6が検出されることから、これらのウイルスのLCHへの関与が想定されている。【方法】83例のLCH症例と236人の年齢適合対照において、EBVとCMV、HHV-6の有病率と抗体価、血漿中ウイルス量を調べ、19例のLCH組織検体においてウイルスの細胞局在を調べた。【結果】EBVとCMV、HHV-6の有病率、ウイルス抗体価、ウイルス量は、LCH症例と対照群の間に差はなかった。19例中3例のLCH組織においてPCRでEBVが検出されたが、EBERは浸潤しているCD20+CD79a+リンパ球(B細胞)で陽性でCD1a+細胞(ランゲルハンス細胞)では陰性であった。19例中5例の生検組織においてHHV-6ゲノムがわずかに検出されたが、ウイルス抗原は検出されなかった。CMVは今回の例ではPCRで検出されなかった。【結論】これらのことから、我々の所見は、LCHの発症にEBVやCMV、HHV-6が関わっているという説を支持せず、LCHにおいてしばしば検出されるEBVはLCH肉芽組織に浸潤しているBリンパ球への感染によって説明できることを示している。後者は、LCH肉芽組織における免疫抑制的な微小環境に起因するであろう。