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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第20回 最新学術情報(2012.09)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「成人LCH患者における骨密度の減少」

Reduced bone mineral density in adult patients with Langerhans cell histiocytosis.

Makras P, et al. Pediatr Blood Cancer. 2012 May;58(5):819-22.

この後方視的研究では、成人LCH患者の骨密度と骨代謝を評価した。25例の成人患者と25人の対応対照において、骨密度と骨代謝指標を評価した。患者の20%は、骨密度値が、年齢により予測される範囲(Z-スコア≦ - 2.0)以下であり、特に、閉経後の女性と50歳以上の男性の患者すべてで、骨粗鬆症または骨減少症のどちらかを認めた。活動性病変のある患者では、活動性病変のない患者や対照に比べて、Zスコアーは有意に低くかった。化学療法を受けた14例の患者すべてで、骨代謝は低下していた。骨粗鬆症に起因する骨折は、経過観察中の305.15人年の間にはなかった。

2)「成人のLCHにおける血清オステオプロテジェリンとRANKL、Dkk-1値」

Serum osteoprotegerin, RANKL, and Dkk-1 levels in adults with Langerhans cell histiocytosis.

Makras P, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2012 Apr;97(4):E618-21.

【背景】LCHは、サイトカインの調節不全に続発する免疫学的機能不全が強く示唆される原因不明のまれな疾患である。【目的】成人LCH患者において、血清中のnuclear factor κB ligand (RANKL)とosteoprotegerin(OPG)、Dickkopf-1(Dkk-1)値を、様々な病期で評価する。【デザイン】12.2±2.1年間、追跡調査された成人LCHコホートにおける横断的研究。【設定】外来患者。【対象】LCHと確定診断された25例の成人患者、および、50人の対応対照。【介入】すべての被験者に、早朝・空腹時に静脈採血をおこなった。【主要転帰指標】RANKL、OPGおよびDkk-1値を、患者と対照間だけでなく、疾患パラメータとの関連も比較した。【結果】LCH患者は対照に比較して、血清OPG値は有意に高く(3.0±0.2 vs. 1.7±0.1 pmol/L、P<0.001)、RANKL/OPG比は有意に低かった(0.201±0.041 vs. 0.471±0.072、P=0.02)。OPG高値(補正オッズ比、3.431、95%信頼区間、1.329~8.924)とRANKL低値(補正オッズ比0.144、95%信頼区間、0.034~0.605)は、他のすべてのパラメータを調整しても、ロジスティック回帰分析によって、独立してLCHと関連がみられた。Dkk-1は、患者と対照の間で差がなかった。【結論】成人LCH患者では、血清OPG値は高く、RANKL値は低い。他の骨疾患と異なり、血清Dkk-1値は、LCH患者と対照では差がない。

3)「FDG-PET/CTによるびまん性代謝活性の測定:肺実質におけるLCHの活働性の新しい評価方法」

Measuring diffuse metabolic activity on FDG-PET/CT: new method for evaluating Langerhans cell histiocytosis activity in pulmonary parenchyma.

Szturz P, et al. Nucl Med Biol. 2012 Apr;39(3):429-36.

【はじめに】肺LCHは、疾患の活動期に小結節の形成し、その後の非活動期には嚢胞性病変へ変化する、まれな間質性肺疾患である。肺LCHの活働性を評価するために、FDG-PET/CTでびまん性代謝活性を測定し、肺と肝臓の活性比を指標とする新しい方法を開発した。【対象と方法】後方視的に、7例の肺LCHの患者の4回のFDG-PETおよび23回のFDG-PET/CT、FDG-PET/CT陰性の既知で任意の肺または肝疾患からランダムに抽出した100例の検体を分析した。右肺の球状容積(直径6~8cm)での最大の標準化取り込み値(SUVmax PULMO)および基準とする肝実質の球状体積(直径9~10 cm)での最大の標準化取り込み値(SUVmaxHEPAR)を測定し、SUVmaxPULMO/ HEPAR指数を算出した。指数値を、各患者の疾患経過と比較した。【結果】肺LCH患者7例すべてにおいて、指数値と疾患経過の間に密接な関連がみられ、指数値の上昇は疾患が活動性であることを示し、治療投与後に指数値は低下した。100例の健常対照群においては、指数値は、0.3未満が80%、0.4未満が96%(幅: 0.14-0.43; 0.24 ± 0.07 (100)]であった。【結論】SUVmaxPULMO/HEPAR値の測定とその経時的観察は、肺LCH患者の早期診断と治療反応性の追跡評価を可能にする、簡便で非侵襲的な検査方法である。

4)「LCHにおける視床下部-下垂体腫瘍の長期予後」

Long-term outcome of hypothalamic pituitary tumors in Langerhans cell histiocytosis.

Fahrner B, et al. Pediatr Blood Cancer. 2012 Apr;58(4):606-10.

【背景】視床下部-下垂体浸潤は、しばしば尿崩症と下垂体前葉ホルモン欠乏症を引き起こすLCHの最も一般的な中枢神経病変である。MRIでは、正常な下垂体後葉信号の欠損と下垂体茎の肥厚がみられるのと同時に、一部の患者では精神神経障害を引き起こす神経変性症の信号変化がみられる。視床下部-下垂体腫瘍と神経変性症に対する治療の長期経過はよくわかっていない。【方法】この後方視的調査では、視床下部-下垂体浸潤があり、かつ、視床下部-下垂体浸潤の診断時およびその後少なくとも3回以上のMRI検査が行われ、臨床データのあるLCH患者を対象とした。中央診断および分析のため、臨床およびMRIの経時的データを収集した。【結果】LCH研究センターに登録された中に視床下部-下垂体腫瘍のある患者が22例あった。さまざまな時期に、多くの異なる治療法が行われ、ほとんどの患者は複数の治療を受けていた。大部分の患者で腫瘍の退縮がみられたが、最終観察時点で全ての患者に下垂体前葉ホルモン欠乏症または放射線学的な神経変性症がみられた。下垂体前葉ホルモン欠乏症や神経変性症が改善した例は1例もなかった。17例は放射線学的な神経変性症が悪化し、うち5例は明らかな臨床的な精神神経障害に至った。【結論】視床下部-下垂体腫瘍のある患者は、不可逆的な神経内分泌系の障害に至る率が高いと思われる。視床下部-下垂体浸潤のあるLCH患者には、綿密なMRI検査による経過観察および神経心理学的テストを含む計画的な検査が必要である。

5)「LCH患者における局所ナイトロジェンマスタード療法」

Topical nitrogen mustard therapy in patients with Langerhans cell histiocytosis.

Lindahl LM, et al. Br J Dermatol. 2012 Mar;166(3):642-5.

【背景】LCHは、多臓器におけるLCH細胞の異常増殖と浸潤を特徴とする。皮膚には、単一臓器型あるいは多臓器型の一部として、しばしば浸潤がみられる。【目的】ナイトロジェン・マスタード療法の臨床反応と副作用を、小児と成人の単一臓器型または多臓器型LCHにおいて総括する。【患者と方法】この後方視的研究では、1975年から2010年にナイトロジェン・マスタード療法を受けた、小児10例と成人4例を対象とした。皮膚病変の浸潤範囲は中央値が46%(範囲5~100%)であった。【結果】全体で、13例が完全または部分な寛解を得た。8例は中央値12.3か月(範囲36日~1.9年)で完全寛解に至ったが、これらのうち6例は最終的に再燃した。皮膚に限局した単一臓器型の1例では、ナイトロジェン・マスタード療法開始後に皮膚病変が進行した。その後、皮膚病変は完全に消退したが、多臓器型へ進展した。他の4例の患者は同様にナイトロジェン・マスタード療法で皮膚病変の改善を得たが、多臓器型へ進展した。患者は、ナイトロジェン・マスタード療法以外の先行治療と補助的治療を受けた。しかし、5例の患者では、皮膚病変の改善にもかかわらず多臓器型へと進展した、このことは、皮膚病変の治療効果はナイトロジェンマスタードの局所療法によることを示唆している。6例の患者は、ナイトロジェン・マスタードによる接触性皮膚炎を発症した。【結論】ナイトロジェン・マスタードの局所療法は、再発は多いが、小児および成人の皮膚LCHに対し効果的かつ安全な治療と言える。

6)「中枢神経に再発した若年性黄色肉芽腫に対する2-CdA治療に続発した、重症・難治性骨髄不全」

Severe persistent bone marrow failure following therapy with 2-chlorodeoxyadenosine for relapsing juvenile xanthogranuloma of the brain.

Yamada K, et al. Pediatr Blood Cancer. 2012 Feb;58(2):300-2.

2-CdAは、難治性のLCHや若年性黄色肉芽腫(JXG)の小児患者に対するサルベージ療法として、有効性が報告されている。主な用量制限毒性である一時的な骨髄抑制があるものの、多くの場合、2-CdAは問題なく使用できるが、長期にわたる骨髄抑制や免疫抑制作用も報告されている。2-CdA療法を行った、難治性多発性の中枢神経系JXGの思春期例を報告する。病変は著しく縮小したが、2-CdA療法5コース後に、重度の輸血依存性の骨髄不全を発症した。患者は、強度を減弱した前処置で、HLA一致の妹から骨髄移植を受け成功した。

7)「肺LCH:小児と成人のCT検査の比較研究」

Pulmonary Langerhans cell histiocytosis: a comparative study of computed tomography in children and adults.

Seely JM, et al. J Thorac Imaging. 2012 Jan;27(1):65-70.

【目的】LCHは、大型の単核細胞が、単一あるいは多臓器に浸潤する、稀な特発性疾患である。LCHは全年代で発症する可能性がある。肺LCHは、小児よりも成人において頻度が高く、詳しく報告されている。肺LCHのCT所見には、結節状陰影、壁が菲薄な嚢胞(しばしば奇異な形状)、顕著な実質の線維化がある。本研究の目的は、肺LCHの胸部CT所見を成人と小児患者で比較することである。【対象と方法】後方視的に一連の小児7例と成人12例の胸部CT所見を分析した。2人の医師が別々に全例のCT所見を評価し、その後、それらの評価を比較した。統計解析は、フィッシャーの正確確率検定を用いた。【結果】平均年齢は、小児群で8歳(3か月~16歳)、成人群で39歳(21歳~59歳)であった。肺外病変を、小児3例(43%)、成人1例(8.3%)に認めた。成人の全例が喫煙者で、小児の1例(16歳)に喫煙歴があった。CT所見は、小児群と成人群ともに、嚢胞、線維化、結節病変が特徴的で、大きさや形状は似ていた。しかし、分布は異なっていた。成人群では、肋骨横隔膜窩の胸膜下の実質に病変はみられなかったが、小児群ではそこにも病変がみられた。【結論】肺LCHのCT所見は、肋骨横隔膜窩の胸膜下の実質に成人群では病変がみられないが小児群ではみられることを除き、成人群と小児群で同様であった。

8)「小児の肉芽腫疾患:LCHにおけるB-RAF遺伝子の変異」

B-RAF mutant alleles associated with Langerhans cell histiocytosis, a granulomatous pediatric disease.

Satoh T, et al. PLoS One. 2012;7(4):e33891.

【背景】LCHは、CD1a陽性の樹状細胞すなわちLCH細胞の存在を特徴とする炎症性肉芽腫である。最近、Badalian-Veryらは、LCH肉芽腫のパラフィン包埋生検組織の57%に、よく知られているB-RAF V600E変異の存在を報告した。彼らの結果を検証するとともに、LCH患者で検出された2つの新たなB-RAF変異を報告する。【方法と結果】次世代パイロシークエンシングによって、16例中11例の肉芽検体からB-RAF変異が検出された。9例では、同定された変異はB-RAF V600Eであった。2例では、新規の変異であった。B-RAF 600DLAT挿入変異は、B-RAF V600E変異と構造および機能が類似していた。B-RAF 600DLAT挿入変異はB-RAFキナーゼを不活化する構造を不安定にし、293 T細胞にB-RAF 600DLAT挿入変異を導入すると、その作用により、ERK活性体が増加した。B-RAF 600DLAT挿入変異とB-RAF V600E変異は、肉芽腫のCD1a陽性細胞分画から抽出したDNAおよびmRNAに優位に検出された。変異細胞の検出下限閾値を1-2%とする配列解析では、58例の LCH患者の全血および単球において、それらの変異は検出されなかった。今までに報告のないBRAF T599Aの生殖細胞系列変異が1例の患者で同定され、その変異アレルの相対量は、LCHの肉芽腫、末梢血単球およびリンパ球において約50%あった。しかし、BRAF T599A変異は、B-RAFキナーゼを不活化する構造を不安定にしなかったし、ERKのリン酸化亢進やC-RAFのトランス活性化誘導も認めなかった。【結論】一部のLCH患者の肉芽腫病変にB-RAF V600E変異が存在することを確認し、新たな2つのB-RAF変異を同定した。B-RAF V600Eおよび600DLAT変異は、体細胞変異であり、CD1a陽性LCH細胞に優位に認めるが、血液細胞には存在しない。生殖細胞系列のB-RAF T599A変異の機能的影響を評価するため、さらなる研究が必要である。

9)「中枢神経系LCHに対するビンブラスチンの効果:全国の後方視的研究」

Efficacy of vinblastine in central nervous system Langerhans cell histiocytosis: a nationwide retrospective study.

Ng Wing Tin S, et al. Orphanet J Rare Dis. 2011 Dec 12;6(1):83.

【背景】ビンブラスチン(VBL)は多臓器型LCHの標準治療であるが、中枢神経腫瘤性病変LCHに対するその有効性についてはあまりわかっていない。【方法】後方視的にカルテ検索を行った。フランスLCH研究グループの登録の中で20例の患者が選択基準(中枢神経腫瘤性病変があり、VBLで治療され、放射線学的に治療反応の評価が可能)を満たした。【結果】LCH診断時の年齢中央値は11.5歳(範囲:1~50歳)であった。VBL 6 mg/m2の静注が、6週間の寛解導入治療と、続く維持療法で行われた。総治療期間の中央値は12か月(範囲:3~30か月)であった。11例では、ステロイドが併用されていた。 15例に客観的に反応が得られ、5例(25%)が完全寛解、10例(50%)が部分寛解、4例(20%)が不変、1例(5%)が病変進行であった。興味深いことに、ステロイドを併用せずVBL投与を受けた6例中4例で、客観的に反応が得られた。観察期間の中央値6.8年での5年無イベント生存率、全生存率は、それぞれ61%、84%であった。VBLは問題なく使用可能で、有害事象による治療脱落はなかった。【結論】VBLは、ステロイド併用の有無にかかわらず、LCHの中枢神経腫瘤性病変、特に手術不可能な部位や多発性の病変に対する治療オプションとして有用な可能性がある。LCHの中枢神経腫瘤性病変に対する、VBLの効果を検証する前向き臨床試験が望まれる。

10)「日本のJLSG-96とJLSG-02の研究に登録された、LCHに合併した中枢性尿崩症43例の解析」

Analysis of 43 cases of Langerhans cell histiocytosis (LCH)-induced central diabetes insipidus registered in the JLSG-96 and JLSG-02 studies in Japan.

Shioda Y, et al. Int J Hematol. 2011 Dec;94(6):545-51.

最近の全身化学療法プロトコールによってLCHに伴う中枢性尿崩症(CDI)の頻度が低下するかどうかを検討するため、JLSG-96/-02プロトコールで治療された348例の多病変型小児LCH患者のコホート中のCDIを合併した43例を分析した。CDIの全体的な発生率は12.4%であったが、24例ではLCHの診断時点で既にCDIは存在していた。したがって、全身化学療法中または治療後のCDIの発症頻度は、観察期間の中央値5年(0.2~14.7年)でわずか19例(5.9%)、Kaplan-Meier分析による累積発生率は5年時点で7.4%であった。2例において、CDIの完全な消失がみられた。下垂体前葉ホルモン欠乏を13例に認め、CDIに関連する神経変性疾患が6例にみられた。JLSG-96/-02プロトコールは、CDIの発生を低下させる効果があると思われる。しかし、診断時に既に存在するCDIを改善させ、CDIに関連する神経学的合併症を防ぐための新規治療法が必要である。