第16回 最新学術情報(2011.1)
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)「リスク臓器浸潤のある多臓器型LCHにおける診断時の二系統以上の血球減少と低アルブミン血症の重要性」
Importance of multi-lineage hematologic involvement and hypoalbuminemia at diagnosis in patients with "risk-organ" multi-system Langerhans cell histiocytosis.
Braier JL, et al. J Pediatr Hematol Oncol. 2010 May;32(4):e122-5.
【目的】診断時に「リスク臓器」浸潤を伴う多臓器型LCHにおけるリスク因子を解析する。【方法】1987年から2007年の77例を分析した。単変量解析の変数として、診断時の、「年齢2歳未満」、「肺・脾・肝浸潤のうち2つ以上」、「低アルブミン血症」、「貧血のみ」、「血小板減少を伴う貧血」とりあげた。統計的に有意な変数を多変量解析の変数に取り入れた。【結果】診断時において、56人に造血器浸潤、66人に肝浸潤があった。造血浸潤のある患者のうち、血小板減少を伴う貧血のある群は白血球減少の有無にかかわらず、それ以外の群に比べて5年生存率が明らかに低かった(0.19 vs. 0.87; p=0.0001)。低アルブミン血症のある群は、アルブミン値正常群と比べ、5年生存率が有意に低かった(0.16 vs. 0.65; p<0.0001)。多変量解析では、血小板減少を伴う貧血および低アルブミン血症が独立した危険因子であった(それぞれ相対リスク3.77; 信頼区間1.7~8.4; p<0.0011、相対リスク2.59; 信頼区間1.24~5.4; p<0.0112)。【結論】血小板減少を伴う貧血と低アルブミン血症は、多臓器型LCHにおける予後不良因子であった。この高リスクの患者群に対しては、診断時または初期治療相の早期に他の治療戦略を検討する必要がある。
2)「骨髄非破壊的前処置による臍帯血移植の成功した肺アスペルギルス症を伴った難治性LCH例」
Successful treatment of refractory Langerhans cell histiocytosis with pulmonary aspergillosis by reduced-intensity conditioning cord blood transplantation.
Hatakeyama N, et al. Pediatr Transplant. 2010 May;14(3):E4-10.
リスク臓器浸潤を伴う多臓器型LCHの予後は、通常の化学療法に反応しない場合には極めて不良である。このような患者では、同種造血細胞移植によって、持続的な完全寛解が得られる可能性があるが、高用量の骨髄破壊的前処置では、しばしば治療関連の毒性や死亡が問題となる。最近では、骨髄非破壊的前処置による同種造血細胞移植が代替の救済方法として行われている。我々は骨髄非破壊的前処置による臍帯血移植が成功した、肺アスペルギルス症を伴う難治性多臓器型LCHの9か月の男児を報告する。
3)「LCH病変における細胞特異的遺伝子の発現は表皮ランゲルハンス細胞と比較し特異的なプロファイルを示す」
Cell-specific gene expression in Langerhans cell histiocytosis lesions reveals a distinct profile compared with epidermal Langerhans cells.
Allen CE, et al. J Immunol. 2010 Apr 15;184(8):4557-67.
LCHは、CD207陽性ランゲルハンス細胞(LC)やリンパ球を含む様々な細胞の浸潤を特徴とし、ほとんどすべての組織に発生する可能性があり、重大な病的状態を引き起こし死亡につながる、まれな疾患である。数十年にわたり研究されているが、LCHの原因はいまだ明確ではない。現行のモデルでは、LCHは表皮LCの悪性形質転換および転移から生じていることが示唆されている。本研究では、細胞特異的な遺伝子発現を明らかにするために、LCH病変部位からCD207陽性細胞とCD3陽性T細胞を分離した。対照である表皮のCD207陽性細胞と比較して、LCH病変部位のCD207陽性細胞は、2113個の遺伝子に発現の差がみられた(偽発見率<0.01)。驚くべきことに、我々の研究では、以前にLCHに関連が報告されていた細胞周期調節因子、炎症性サイトカインやケモカインを含む多くの遺伝子の発現に、対照のLCと比べ明らかな差を認めなかった。しかし、オステオポンチンを含む、T細胞を活性化し炎症部位に動員する蛋白をコードするいくつかの新たな遺伝子の発現は、LCH病変部位のCD207陽性細胞において極めて高かった。さらに、未熟骨髄性樹状細胞に関連するいくつかの遺伝子は、LCH病変部位のCD207陽性細胞で、過剰に発現していた。LCH患者の末梢血CD3陽性細胞と比較して、LCH病変部位のCD3陽性細胞は、わずか162個の遺伝子に発現の差がみられただけで(偽発見率<0.01)、LCH病変部位のCD3陽性細胞の発現プロファイルは、Foxp3やCTLA4、オステオポンチンが高発現しており、活性化制御性T細胞のものに一致していた。本研究の結果は、LCH病変は表皮LCからではなく、活性化リンパ球を動員する骨髄由来の未熟樹状細胞の集積から発生じているというLCHの病態のモデルを支持している。
4)「中枢神経変性LCHとそれに随伴する水頭症に対する、ビンクリスチンとサイトシンアラビノシドによる治療」
Neurodegenerative central nervous system Langerhans cell histiocytosis and coincident hydrocephalus treated with vincristine/cytosine arabinoside.
Allen CE, et al. Pediatr Blood Cancer. 2010 Mar;54(3):416-23.
ほとんどの好酸球性肉芽腫(免疫が関連する病変)は悪性度が高いとは考えられていないが、治療後に再燃する例もある。【目的】好酸球性肉芽腫における、MMP-9と浸潤マクロファージの重要性と関連を調べる。【方法】免疫組織化学的ストレプトアビジン-ビオチン複合法を用い、MMP-9とマクロファージのマーカであるCD68の発現を13例の好酸球性肉芽腫で調べた。そのうち3例は局所再燃した。【結果】LCH細胞の多くはMMP-9陽性で、CD68も陽性であった。好酸球性肉芽腫におけるMMP-9の発現とマクロファージ数の間には有意に高い関連性があり(p<0.001)、再燃例の病変部位ではMMP-9とCD68の平均発現量は高かった。【結論】好酸球性肉芽腫においてマクロファージとMMP-9は局所再燃に関連しており、両者の連携作用があるのかもしれない。よって、これらの発現は、好酸球性肉芽腫の悪性度や再燃を示す予後因子となるかもしれない。
5)「多臓器型LCHの長期生存者には難聴を高頻度に認める」
High incidence of hearing loss in long-term survivors of multisystem Langerhans cell histiocytosis.
Nanduri V, et al. Pediatr Blood Cancer. 2010 Mar;54(3):449-53.
【背景】急性期のLCHにおいては耳への浸潤はしばしば見られ、よく知られているが、長期的な後遺症、特に難聴との関連についてはあまりわかっていない。【方法】我々は、40例の生検で証明された治療終了後5年以上経過した多臓器型LCHを、詳細な聴力検査と錐体側頭骨のCT/MRI検査によって検討した。【結果】70%で急性期に耳への浸潤を認めた。長期的なフォローアップで、検査が行われた39例中15例(38%)で永久的な難聴がみられた。【結論】LCHにおける難聴の頻度は以前に報告されているよりもはるかに高いが、我々の病院は三次病院であるため、若年例(<2歳)やより手のかかる症例が紹介されてくることを反映しているのかもしれない。しかし、難聴は、おそらくLCHが耳に浸潤する性質があるがゆえに、他の小児がんの長期生存者に比較しLCH患者に非常に特異的と考えられる。よって、多臓器LCHの長期フォローアップの重要な項目として、聴覚試験を推奨する。
6)「多臓器型LCH患者における診断時の骨髄所見」
Bone marrow findings at diagnosis in patients with multisystem langerhans cell histiocytosis.
Galluzzo ML, et al. Pediatr Dev Pathol. 2010 Mar-Apr;13(2):101-6.
本研究は、多臓器型LCHにおいて血液障害のある例とない例とで診断時の骨髄所見を明らかにすることが目的である。多臓器型LCH患者の骨髄生検像を後方視的に検討した。1987年から2004年の間にGarrahan病院で診断された例を対象とした。ルーチンおよび免疫組織化学染色(HE、PAS、ギムザ、Gomoriレチクリン、CD1a、CD68およびCD61)を評価した。臨床転帰と検査データはカルテから得た。22例の多臓器型LCHの診断時の骨髄生検を検討した。4例は血液障害がなく、他の18例のうち、7例に1系統の血球減少、9例に2系統の血球減少、2例に3系統の血球減少があった。22/22例に巨核球の数の増加や異形成が、21/22例(95%)に細胞内細胞貫入現象がみられた。9/22例で組織球の増殖や血球貪食像がみられた。診断時に評価可能なであった16/17例(94%)に骨髄線維症がみられた。骨髄線維症と血球減少症や臨床転帰との関連はみられなかった。3/22例(14%)にLCH細胞を意味するCD1a陽性細胞がみられた。血球貪食と予後不良は、2系統または3系統の血球減少のある例に有意に多かった。これらのなかで、LCH細胞がみられたのはわずかの例(14%)で、組織球の増加と血球貪食がより多くの例(41%)でみられた。血球貪食のある例に重篤な血球減少症がみられた。2系統および3系統の血球減少のある例の生命予後は不良であった。骨髄線維症、巨核球異形成、および細胞内細胞貫入現象は、よくみられる所見であった。
7)「新生児および乳児期早期の皮膚LCH:自然治癒型と非自然治癒型の比較」
Neonatal and early infantile cutaneous langerhans cell histiocytosis: comparison of self-regressive and non-self-regressive forms.
Battistella M, et al. Arch Dermatol. 2010 Feb;146(2):149-56.
【目的】生後3か月までに発症した皮膚LCH患者における臨床的および免疫組織化学的所見を明らかにし、疾患進展の予測因子を見出す。【デザイン】1989年7月15日から2007年4月30日までの後方視的観察調査。【セッティング】小児皮膚科の紹介センター。【患者】生後3か月以内に皮膚LCHと診断された他の臓器病変を伴わない31人の患者。【主要評価項目】皮膚病変の特性、制御性Tリンパ球の密度、およびE-カドヘリンの発現を調べた。自然治癒型と非自然治癒型の皮膚LCH患者群間でデータを比較した。病理組織学的分析は盲検的に行った。【結果】自然治癒型が21例、非自然治癒型が10例であった。単一病変、壊死性病変、発症時の脱色斑、四肢遠位病変は、自然治癒型皮膚LCHの患者にのみ見られた。制御性Tリンパ球の密度は、病変部位のIL-10の発現と相関(r=0.77、p=0.003)したが、疾患進展の予測因子とはならなかった。ランゲルハンス細胞によるE-カドヘリンの発現は、自然治癒型、非自然治癒型に関わらず、皮膚に限局した7例に認められた。播種性に進展した1例では、ランゲルハンス細胞におけるE-カドヘリンの発現が消失した。【結論】いくつかの皮膚病変の形態的特徴によって、皮膚LCHが自然治癒型かどうかを判断することができる。制御性Tリンパ球の密度は、疾患進展の予測因子にならないと思われた。E-カドヘリンの発現は、皮膚限局病変の指標となるが、疾患退縮の指標とはならないようである。これらのデータを検証するために、さらなる免疫組織化学的研究をする必要がある。
8)「LCHの消化管浸潤による蛋白漏出性腸症」
Protein-losing enteropathy caused by gastrointestinal tract-involved Langerhans cell histiocytosis.
Shima H, et al. Pediatrics. 2010 Feb;125(2):e426-32.
蛋白漏出性腸症は、LCHの腸管浸潤のある患者にしばしばみられる合併症であるが、LCHそれ自体は蛋白漏出性胃腸症を引き起こす疾患リストには一般的には含まれていない。ここではLCHの発症時に持続する下痢を呈した蛋白漏出性胃腸症の乳児例を報告する。患者は当初、アレルギー性胃腸症と診断され、プレドニゾロンの静脈内投与を受け、それにより免疫能低下が引き起こされ生命を脅かすサイトメガロウイルス関連血球貪食症候群と播種性血管内凝固症候群が引き起こされたと考えた。血球貪食症候群に対する化学療法が一時的に基礎にあるLCHに対しても有効であったため、LCHの診断は再燃するまで遅れた。消化管に浸潤するLCHはまれであるが、非常に致命的な疾患であり、難治性の胃腸症状、特に蛋白漏出性胃腸症を呈する乳児を見た時には考慮すべきである。迅速な診断のため内視鏡下の生検が強く勧められる。
9)「LCHのマクロファージはM2型に分化する:それらが病的過程に関わる可能性」
Macrophages in Langerhans cell histiocytosis are differentiated toward M2 phenotype: their possible involvement in pathological processes.
Ohnishi K, et al. Pathol Int. 2010 Jan;60(1):27-34.
LCHの病変部位には無数のマクロファージがみられるが、そのマクロファージがどの活性型か、また疾患進行における役割についてはよくわかっていない。パラフィン包埋されたLCH組織を免疫組織化学的にCD163の染色をすることにより浸潤マクロファージと腫瘍性LCH細胞を鑑別できることがわかった。CD163陽性マクロファージの数と多核巨細胞の数は正の相関があり、多核巨細胞の多くは浸潤マクロファージ由来であることを示している。かなりの数のCD163陽性マクロファージは、IL-10およびIL-10により誘導される情報伝達分子であるリン酸化型STAT5陽性であった。このことは、これらのマクロファージは、抗炎症性マクロファージであるM2型に分化していることを示している。腫瘍由来のM-CSFは、浸潤マクロファージがM2型に分化することに関与していると考えられた。CD163陽性マクロファージの数はLCHの症例ごとに異なり、興味深いことにCD163の密度はLCH細胞のKi-67陽性率と逆相関していた。LCHの発症機序は完全には解明されていないが、マクロファージ由来のIL-10は、STAT3を活性化することにより腫瘍細胞の増殖抑制に関与していると考えられた。
10)「日本における単一臓器単独病変型LCHの全国調査 」
Nationwide survey of single-system single site Langerhans cell histiocytosis in Japan.
Morimoto A, et al. Pediatr Blood Cancer. 2010 Jan;54(1):98-102.
【背景】単一臓器単独病変型(SS-s)のLCHに対する標準的治療や臨床試験は行われていない。この病型の疫学や臨床転帰を明らかにするために、日本において全国調査を行った。【方法】1995年から2006年に診断されたSS-s型LCHの小児患者の臨床経過に関する質問用紙を、日本小児血液学会の全会員に送付した。【結果】146例の組織学的に診断されたSS-s型LCHの小児患者が評価可能であった。最も頻度の高い浸潤臓器は骨(82%)で、次いで皮膚(12%)であった。Histiocyte Societyが提唱する中枢神経リスク病変のある患者は少数(14%)であった。皮膚病変の患者は、骨病変の患者に比べ診断時年齢が有意に若年であった(中央値:6か月vs. 5歳11か月, P < 0.001)。治療法は様々であったが、全患者の1/3、中枢神経リスク病変のある患者の71%が、エトポシドを含まない化学療法を受けていた。1例以外の患者は寛解を得ていた。10例(7%)が再燃した。これらのうち、初発病変が骨病変であった8例はすべての骨に再燃していた。初発病変が皮膚であった1例が胸腺に再燃していた。病変の進行や治療合併症で死亡した患者はなかった。【結論】我々の後方視的研究では、SS-s型LCH患者の比較的多くが化学療法を受けており、予後は良好であった。このことを裏付け、SS-s型LCHに対する最も効果的で毒性の低い治療法を見出すために、前方視的研究を行うべきである。