第48回 最新学術情報
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)「ddPCRによる解析ではBRAFV600E変異は孤発性下垂体LCH患者ではまれである」
ddPCR Analysis Reveals BRAF V600E Mutations Are Infrequent in Isolated Pituitary Langerhans Cell Histiocytosis Patients.
Nellan A, et al. J Neuropathol Exp Neurol. 2020 Dec 4;79(12):1313-1319.
LCHは、全年齢に発症し非常に多様な臨床症状を呈する炎症性骨髄腫瘍である。BRAF V600E変異は、LCHで最も高頻度に検出される変異であるが、孤発性下垂体茎病変の小児LCHにおける頻度は明らかではない。孤発性下垂体茎病変の小児LCH患者は典型的には中枢性尿崩症を呈する。診断には経頭蓋生検が必要であり、少量しか組織が採取できないことが多い。ddPCR法では最小限の腫瘍DNAしか必要としないため、この方法を用い、孤発性下垂体茎LCH患者におけるBRAF V600E変異の頻度を明らかにしようとした。2001年1月~2019年12月にコロラド小児病院で生検を受けた孤立性下垂体茎LCHの8例と、比較として同時期に生検によって診断された6例の多臓器型LCHを対象とした。8例の孤発性下垂体茎LCHのうち、1例のみBRAFV600E変異が検出された。6例の多臓器型LCHでは5例にBRAFV600E変異が検出された。我々の症例では、BRAFV600E変異は、孤発性下垂体茎の小児LCH患者ではまれであった。
2)「T細胞型急性リンパ芽球性白血病後の侵襲性LCH」
Aggressive Langerhans cell histiocytosis following T-cell acute lymphoblastic leukemia
Jansen C, et al. Pediatr Blood Cancer 2020 Dec;67(12):e28704.
4歳の女児がT細胞型急性リンパ芽球性白血病の診断から6か月後に皮膚LCHを発症した。画像検査では、全身病変を認めなかった。7か月後に、喉頭鏡検査により病変が見つかった。再度PET-CTで全身検索したところ、左心尖部胸膜縁、右下食道周辺領域、左心室心筋、膵臓、左腎臓上部極、鼠径から臀部領域に、進行性の新たなPET陽性全身病変がみつかった。腫瘍のゲノム検査により、変異遺伝子数は少なかったが、KRASG12A変異、ARID1AQ524変異、CDKN2A/B喪失、NOTCH1変異が検出された。
3)「腎細胞癌に関連するLCHは腫瘍である: 7例における臨床病理学的および分子学的研究」
Langerhans Cell Histiocytosis Associated With Renal Cell Carcinoma Is a Neoplastic Process: Clinicopathologic and Molecular Study of 7 Cases.
Agaimy A, et al. Am J Surg Pathol. 2020 Dec;44(12):1658-1665.
LCHは、ランゲルハンス細胞と反応性の単核球および顆粒球、そして顕著な好酸球の浸潤を伴うまれな組織球症である。LCHは悪性腫瘍と考えられており、ほとんどの場合、発がん性のRAS/RAF/MEK/ERK経路の遺伝子変異によって引き起こされる。この疾患は小児に好発する。泌尿器系病変は、多臓器型でもほとんど報告されていない。明細胞腎細胞がん(6例)と明細胞乳頭状腎細胞がん(1例)において、腫瘍内(6例)または腫瘍切除後(1例)にLCHを認めた7例(2012年~19年)について報告する。症例は女性5例と男性2例、年齢は中央値54歳(範囲:39~73歳)で、腎細胞がんの診断前にLCHの病歴やLCHの症状はなかった。腎細胞がんの大きさは中央値3.5cm(範囲:1.8~8.3cm)であった。治療は、腎部分切除が5例、腎全摘出が2例であった。肉眼的に全例が、少なくとも限局性に嚢胞性変化を示し、低グレードであった(WHO/国際泌尿器病理学会グレード1~2)。LCH病変は、6例において切除された腎細胞がん内に組織学的検査で偶発的に見つかり、5例では高倍率視野でわずかに認めるだけであったが(<2mm)、1例では明細胞乳頭状腎細胞がんのほぼ全体を占めていた(2cmの結節)。正常な腎臓や腎周囲脂肪組織にはLCH病変は認めなかった。残る1例は、明細胞腎細胞がん発症6年後に鼠径部の深部軟部組織にLCHを発症し全身に広がった。LCH細胞であることは、S-100・CD1a・ランゲリン陽性、パンケラチン陰性により確認された。マイクロダイセクションによりLCH病変のDNAを抽出しパイロシーケンシングしたところ、腎細胞がん内LCHの6例は全てV600EBRAF変異陽性であった。私たちの知る限り、1980年以降に発表された同様のケースは3例だけで、BRAF変異を調べられた1例では変異を認めなかった。本研究は、腎細胞がんに関連するLCHについて形態学的および遺伝的特徴を分析した最初の研究である。私たちの経験から、腎細胞がんに合併するLCHは、実際には過小評価されているか、腎細胞がんの脱分化あるいは高悪性度肉腫様形質転換と誤って診断される可能性がある。最後に、BRAF変異が検出されたことから、腎細胞がんに合併するLCHは反応性ではなく、真の腫瘍であることが証明された。
4)「肺LCHにおける運動障害の機序と肺高血圧症の有病率」
Mechanisms of exercise limitation and prevalence of pulmonary hypertension in pulmonary Langerhans cell histiocytosis.
Heiden GI, et al. Chest. 2020 Dec;158(6):2440-2448.
【背景】肺LCHでは運動能力の低下をきたす。肺LCHにおける運動障害の機序は、肺高血圧症を含む換気および心循環障害による推定されている。【研究課題】肺LCHにおける運動障害の機序、運動能力、動的肺過膨張と肺高血圧の有病率を明らかにする。【研究デザインと方法】横断研究では、肺LCH患者に、動的肺過膨張の評価するための段階的なトレッドミル心肺運動テスト、肺機能検査、経胸壁心エコー検査を行った。一酸化炭素肺拡散能が40%未満の患者、および、経胸壁心エコー図で三尖弁逆流速度>2.5 m/sまたは肺高血圧徴候を伴う患者には、右心カテーテル検査を行った。【結果】35例(女性:68%、平均年齢:47±11歳)が対象となった。換気障害、心循環障害、肺高血圧を示唆する機能障害、ガス交換障害を、それぞれ88%、67%、29%、88%の患者に認めた。71%の患者でこれらの障害が複数みられ、71%で運動能力の低下、68%で動的肺過膨張を認めた。FEV1は予測値の64±22%、一酸化炭素肺拡散能は予測値の56±21%であった。一酸化炭素肺拡散能の低下、閉塞性パターン、空気とらえこみ現象を、それぞれ80%、77%、37%の患者に認めた。FEV1と一酸化炭素肺拡散能は、運動能力の優れた予測因子であった。主に前毛細血管パターンの肺高血圧を41%の患者に認め、平均肺動脈圧はFEV1および三尖弁逆流速度と最もよく相関していた。【解釈】肺LCHにおいて、肺高血圧は高頻度にみられ、運動障害もしばしばみられ多因子が関与する。最も一般的な機序は、換気障害、心循環障害、肺高血圧と考えられる。
5)「2-CdA治療を受けたリスク臓器浸潤陰性の小児LCHの長期フォローアップ」
Long-term follow-up of children with risk organ-negative Langerhans cell histiocytosis after 2-chlorodeoxyadenosine treatment.
Barkaoui MA, et al. Br J Haematol. 2020 Dec;191(5):825-834.
ヌクレオシド類似体である2-クロロデオキシアデノシン(2-CdA)は、リスク臓器浸潤陰性の小児LCHに対して有効であることが報告されている。しかし、再発率、非可逆的晩期合併症、長期安全性など、2-CdA治療の長期効果に関するデータは十分ではない。フランスのLCHレジストリにおいて、44例の2-CdA単剤療法(中央値:6コース)を受けたリスク臓器浸潤陰性の小児LCHが見出された。2-CdA開始時の年齢は中央値3.6歳(範囲:0.3~19.7歳)で、その後の追跡期間は中央値5.4年(範囲:0.6~15.1年)であった。2-CdA療法によって、25例(56.8%)が改善、6例(13.6%)は不変、13例(29.5%)が病変進行を認めた。病変進行のなかった例のうち、2-CdA療法の中止後に再発したのは2例だけであった。2-CdA療法開始後5年時点での病変進行または再発の累積発生率は34.3%であった。全例でリンパ球減少(72%はリンパ球絶対数<500 /μL)を認めたが、感染予防処置で適切に対処された。グレード3以上のその他の毒性はまれであり、二次がんや神経障害は認めなかった。5年全生存率は97.7%であった。結論として、2-CdA単剤療法はリスク臓器浸潤陰性LCHに対して長期的に有益な治療法であることが確認できた。二次性免疫不全に対する適切な管理は必須である。
6)「小児および成人LCHにおける浸潤免疫細胞の免疫組織化学的特徴」
Immunohistochemical characterization of immune cell infiltration in paediatric and adult Langerhans cell histiocytosis.
Paredes SEY, et al. Scand J Immunol. 2020 Dec;92(6):e12950.
LCHは、BRAFV600E やMAP2K1などのMAPK経路の遺伝子の体細胞変異を高頻度に認める小児に好発する炎症性骨髄腫瘍である。いくつかの研究では、LCH細胞が炎症細胞を動員して病態に影響することが示唆されており、これが相互に細胞生存に優位に作用している可能性がある。浸潤している炎症細胞の免疫プロファイルの特徴を解明し、LCHの病因への関与を明らかにするために、詳細な免疫組織化学的分析を行った。15例のLCH(小児10例、成人5例)において、マクロファージ(CD68とCD163)、成熟樹状細胞(CD83とCD208)、制御性T細胞(CD4、CD25とFOXP3)、細胞傷害性Tリンパ球(CD56、CD57、パーフォリンおよびグランザイムB)を、免疫マーカーを用いて評価した。さらに、リンパ球とLCH細胞のマーカーも分析した。全例で、S100、CD1a、CD207、CD4陽性であった。Bcl-2とサイクリンD1の発現を、15例中13例で認めた。免疫微小環境では、M2マクロファージと制御性T細胞が優勢な細胞集団であり、続いて極少数(P < 0.005)であるが成熟樹状細胞と細胞傷害性リンパ球を認めた。さらに、CD3陽性細胞はCD20陽性細胞よりも有意に多かった。CD3陽性細胞の中では、CD8陽性細胞よりもCD4陽性細胞が有意に多かった。小児と成人を比較して差はなかったが、FOXP3陽性細胞は、化学療法を受けていない孤発病変型患者に比べ、化学療法を受けた多臓器型患者で有意に多かった。この結果は、M2マクロファージと制御性T細胞浸潤が、LCHの発生に関連しLCH細胞の生存を促進していることを示唆する。この研究から、LCHの免疫標的療法のさらなる探索が必要であることが明らかとなった。
7)「肩甲帯、骨盤、四肢のLCH: 85例のX線とMRI所見の検討」
Langerhans cell histiocytosis of the shoulder girdle, pelvis and extremities: a review of radiographic and MRI features in 85 cases.
Singh J, et al. Skeletal Radiol. 2020 Dec;49(12):1925-1937.
【目的】組織学的に証明された骨LCHのX線およびMRI所見の特徴を明らかにすること。【対象と方法】12年間にわたる組織学的に証明された85例の骨LCHのX線とMRI所見を後方視的に検討した。臨床データとして年齢、性別、病変部位も検討した。X線所見でLodwickグレード、皮質/骨膜反応、骨基質の石灰化を評価した。MRI所見で病変の大きさ、T1強調像の信号強度、辺縁の特徴、低信号縁、造影パターン、骨髄と軟部組織の浮腫、軟部腫瘤、液面形成、半陰影徴候、出芽徴候、膨隆徴候を評価した。【結果】性別は男性54例、女性31例で、年齢は平均13歳(範囲:1~76歳)であった。最も頻度の高い病変は大腿骨(38.8%)で、続いて肩甲骨(9.4%)、鎖骨(8.2%)、腸骨(8.2%)、坐骨(8.2%)であった。最大病変径は平均40mm(範囲:16-85 mm)であった。最も多いX線所見は、明らかな辺縁硬化のない、引き伸ばされた骨皮質に異常のない、骨膜反応はないか層状である、溶骨性病変であった。MRI所見として、低信号辺縁(41.5%)、出芽徴候(31.7%)、膨隆徴候(36.6%)、骨外軟部腫瘤(42.7%)、骨髄浮腫(95.3%)、軟部組織浮腫(84.1%)を認めた。まれな所見として、出血(2.4%)、半陰影徴候(3.5%)、液面形成(2.4%)を認めた。造影検査で、25例中13例で、中心部壊死を伴う周辺/辺縁の増強像を呈した。【結論】LCHは通常、X線検査で中程度に侵攻性の溶骨病変を呈し、MRIでは骨と軟部組織の反応性の顕著な浮腫が特徴的である。
8)「下垂体後葉病変を有するLCH患者では脳脊髄液中のオステオポンチン値が高い」
Osteopontin is highly secreted in the cerebrospinal fluid of patient with posterior pituitary involvement in Langerhans cell histiocytosis.
Li N, et al. Int J Lab Hematol. 2020 Dec;42(6):788-795.
【背景】LCHは、CD1a陽性/CD207陽性細胞のクローン増殖によって引き起こされるまれな疾患である。下垂体病変の有無は、LCH患者の層別化治療に不可欠である。下垂体病変の診断は、主に下垂体前葉のホルモン異常と下垂体後葉のMRI所見によってなされる。中枢性尿崩症(CDI)は深刻な晩期合併症であり、下垂体病変に伴ってしばしばみられる。オステオポンチン(OPN)は、神経変性LCH (LCH-ND)患者の脳脊髄液(CSF)で高値であることが報告されている。当院では下垂体後葉病変の患者の割合が多い。OPN値が下垂体後葉病変の補助診断マーカーになるかどうかはまだ明らかではない。【方法】57例の小児LCH患者からCSF検体を収集した。CSF中のOPN値を酵素免疫測定法によって測定した。【結果】57例のLCH患者の後方視的解析によって、下垂体後葉病変のある患者ではCSF中のOPN値が他のグループよりも有意に高かった。Pearsonカイ2乗検定、Fisherの正確確率検定、ROC分析によって、OPN値は下垂体後葉病変と有意に相関していることがわかった。カットオフ値は214.14 ng/mLであった。【結論】下垂体後葉病変のある小児LCHでは、CSF中のOPN値は高値であった。OPN値の測定は下垂体後葉病変のより正確な補助診断法となる可能性がある。
9)「口腔および顎顔面のLCHにおける制御性T細胞の増生」
Regulatory T-cell expansion in oral and maxillofacial Langerhans cell histiocytosis.
Zhang C, Gao J, He J, Liu C, Lv X, Yin X, Deng Y, Lu Z, Tian Z. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2020 Nov;130(5):547-556.
【目的】LCHは、CD1a陽性/CD207陽性の樹状細胞(LCH細胞)の増生と播種を特徴とするまれな骨髄由来の腫瘍であるが、発症頻度が少ないことから病因・病態解明は長い間進歩してこなかった。制御性T細胞(T-reg)が口腔および顎顔面LCHの腫瘍微小環境(TME)で果たす潜在的に重要な役割に焦点を当て研究を行った。【方法】2009年~2019年に診断された9例の口腔および顎顔面LCHの検体をサザン医科大学の関連病院から後方視的に収集した。免疫組織化学によってT細胞とT-regを同定した。データは、Wilcoxon 検定によって評価した。【結果】すべてのLCH病変で、T-regの有意な増加と異常分布が確認された。増殖しているT regは、T細胞全体の平均11.5%を占めた。【結論】限局性の炎症性TMEにおけるT-regの増生は、抗腫瘍応答を抑制することにより免疫監視を妨げ、LCHの進行に寄与する潜在的かつ重要な要因である可能性がある。しかし、LCH発症初期の「サイトカインストーム」状態において、T-regはT細胞応答の開始を助ける可能性もある。T-regは、TGF-βによる組織修復の増強に寄与する可能性があり、LCHの自然治癒の特性に関与するかもしれない。
10)「生検のみで経過観察された骨LCHの長期追跡」
Long-term Follow-up of Eosinophilic Granulomas of the Axial and Appendicular Skeleton Managed With Biopsy Alone.
J Pediatr Orthop. 2020 Nov/Dec;40(10):615-622.
【背景】生検のみで経過観察された骨LCHの臨床および放射線学的な長期追跡調査の評価を目的とした。【方法】55例の孤発性の骨LCHを生検後に追跡した。病変の局在に基づき2つのグループに分けた。グループ1は四肢の長管骨(大腿骨、脛骨、上腕骨、尺骨、橈骨)に病変のある32例(58.2%)であった。グループ2は体幹の骨(骨盤、肩甲骨、鎖骨、腰椎、胸椎など)に病変がある23例(41.8%)であった。針生検によって診断を確認した後、それ以上の外科的介入は行わなかった。局所症状の改善、主に痛みの消失、を臨床的回復とした。機能的改善は、筋骨格腫瘍学会(MSTS)のスコアリングによって評価した。放射線学的治癒は、長管骨と扁平骨では骨皮質の肥厚を伴う病変全体の骨化、脊椎では椎体高の回復と定義した。局所再発を含む合併症も評価した。【結果】28例が男子、27例が女子で、年齢は平均9.2歳(範囲:3~16歳)であった。追跡期間は平均76か月(範囲:28~132か月)であった。生検から臨床的回復までの期間の中央値は、グループ1で17日(95%信頼区間[CI]:13.3-20.6)、グループ2で36日(95%Cl:32.8-39.1)であった。MSTSスコアは、両グループとも12か月時点まで徐々に増加した。生検から放射線学的治癒までの期間の中央値は、グループ1で16か月(95%CI:11.5-20.4)、グループ2で42か月(95%Cl:39.3-44.6)であった。臨床的回復、放射線学的治癒ともに、グループ2と比較し、グループ1のほうが有意に速かった(それぞれP=0.021、P=0.009)。生検後に大きな合併症は見られなかった。すべての病変は局所再発なく退縮した。【結論】孤発骨LCHは自然治癒する可能性が高く、生検による診断の確認のみで、追加の外科的介入なしで、良好な臨床的および放射線学的改善が得られる。