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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第41回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「組織球肉腫におけるRAS-MAPキナーゼ経路の多彩な活性化変異の同定」

Identification of diverse activating mutations of the RAS-MAPK pathway in histiocytic sarcoma.

Shanmugam V, et al. Mod Pathol. 2019 Jun;32(6):830-843.

最近の研究により、LCHなどの組織球性腫瘍の大部分において、古典的なMAPキナーゼやPI3キナーゼシグナル伝達経路の遺伝子に活性化変異があることが示されている。しかし、成熟マクロファージの病理学的特徴を示す、予後不良のまれな悪性腫瘍である組織球肉腫の遺伝子変異についてはほとんど知られていない。ここでは、ドライバー変異を明らかにするためターゲット次世代シーケンシング法を用い、組織球肉腫の大規模なコホート(28例)の遺伝子変異の特徴を報告する。組織球肉腫の大多数(57%)でRAS-MAPキナーゼシグナル伝達経路の遺伝子(MAP2K1KRASNRASBRAFPTPN11NF1CBL)に変異が同定され、NF1変異のある組織球肉腫の患者はMEK阻害剤(cobimetinib)に対し臨床効果を認めた。少数例(21%)において、PI3キナーゼシグナル伝達経路の遺伝子(PTEN、MTOR、PIK3R1、PIK3CA)に活性化変異を認めた。また、腫瘍抑制遺伝子のCDKN2Aに最も高頻度(46%)に変異を認めた。さらに、組織球肉腫の一部は、B細胞リンパ腫と分子遺伝学的に著明な類似性を示し、一部の組織球肉腫はB細胞腫瘍と起源が類似している可能性が示唆された。これらの所見は、MAPキナーゼとPI3キナーゼ、サイクリン-CDK4 / 6-INK4シグナル伝達経路が協調的に組織球肉腫の発症に関わっている可能性を示し、これらの経路を治療標的とする根拠となる。

2)「非LCH組織球症の腫瘍組織と血漿cell-free DNAの分子プロファイリング」

Molecular Profiling of Tumor Tissue and Plasma Cell-Free DNA from Patients with Non-Langerhans Cell Histiocytosis.

Janku F, et al. Mol Cancer Ther. 2019 Jun;18(6):1149-1157.

非LCH組織球症であるErdheim-Chester病(ECD)患者の約50%は、BRAF V600E変異を認めBRAF阻害剤に反応する。非LCH組織球症(ECD 35例、Rosai-Dorfman病(RDD) 3例、ECD / RDD混合 1例)の遺伝子異常を、BRAF V600E PCRや次世代シークエンシングを用い、組織や血漿・尿中DNA (cf-DNA)を用いて検討した。評価可能であった34例のうち、17例(50%)にBRAF V600E変異を認めた。BRAF V600E以外の変異が評価可能であった31例のうち、18例(58%)に1つ以上の遺伝子異常を認め、12例はBRAF V600E以外のMAPキナーゼ経路の遺伝子異常、すなわち、BRAFのV600E以外の変異やGNASMAP2K1MAP2K2NF1RAS変異RAF1やERBB2遺伝子の増幅、LMNA-NTRK1 (TRK阻害剤感受性)・CAPZA2-BRAF融合遺伝子を認めた。4例にJAK2MPL ASXL1U2AF1の変異を認め、これらはECD患者が発症しやすい骨髄性腫瘍と関連しており、1例がcf-DNA検査の13か月後に骨髄線維症を発症した。したがって、この複数の方法を用いた包括的な遺伝子解析により、臨床的に意義のある変異が明らかとなり、MAPキナーゼ活性化が非LCH組織球症の特徴であることが示唆される。

3)「ヒトランゲルハンス細胞を標的とする特異的な糖類似ランゲリン結合分子」

A Specific, Glycomimetic Langerin Ligand for Human Langerhans Cell Targeting.

Wamhoff EC, et al. ACS Cent Sci. 2019 May 22;5(5):808-820.

ランゲルハンス細胞は、ヒトの皮膚の表皮に存在する樹状細胞の一種である。ランゲルハンス細胞は免疫調節に重要な役割を果たし、新規の経皮癌ワクチンの主要な標的として注目されている。重要なこととして、これらのワクチンによる防御的T細胞免疫の誘導には、腫瘍関連抗原およびアジュバントの両方を効率的かつ特異的に送達する必要がある。ランゲルハンス細胞は、エンドサイトーシス性C型レクチン受容体であるランゲリン(CD207)の発現が特徴的である。ここでは、ヘパリン由来のデザイン戦略とNMR分光法による構造解析と分子結合を用い、糖類似の特異的なランゲリン結合分子を見出したことを報告する。この糖類似分子とリポソームを結合させることにより、ヒトの皮膚のランゲルハンス細胞を特異的かつ効率的に標的化することが可能になった。さらに、この分子を用いてランゲリン陽性単球細胞株にドキソルビシン媒介細胞死を誘導することが可能であり、ランゲリン陽性骨髄前駆細胞の異常増殖によって引き起こされるLCHの、治療および診断に有用性であることが強く示唆される。まとめると、この送達方法は、抗体を用いた方法よりも優れた汎用性があり、現在の樹状細胞を標的とした免疫療法および化学療法の限界を克服する新規の手段となる。

4)「LCHの多彩な皮膚症状:10年間の後方視的コホート研究」

Diverse cutaneous manifestation of Langerhans cell histiocytosis: a 10-year retrospective cohort study.

Poompuen S, et al. Eur J Pediatr. 2019 May;178(5):771-776.

皮膚症状はLCHでよくみられる症状であり、診断の主要な手がかりとなることが多い。本研究では、77.7%に皮膚所見を認めた。皮膚病変がある例が、ない例と比較して診断時年齢が有意に早いというわけではなかった(p=0.71)。脂漏性皮膚炎様病変(42.8%)の頻度が最も高く、次いで丘疹/小結節/腫瘤(28.5%)、点状出血/出血性病変(17.8%)、湿疹性病変(10.7%)がみられた。脂漏性皮膚炎様病変を呈したLCHの診断までの期間は、他の皮膚型よりも有意に長かった(p=0.0011)。【結論】脂漏性皮膚炎様病変のあるLCH患者では、正常の脂漏性皮膚炎とLCHによる病変との鑑別が困難であるため、診断が遅れる可能性がある。正常の脂漏性皮膚炎に加えて、点状出血/皮膚出血が、LCHの早期診断の手がかりとなる。LCHの早期診断のために、一般小児科医は、これらの皮膚症状とLCHとの関連を認識すべきであり、皮膚症状が持続するならば、皮膚科医、もし可能であれば小児科医に直ちに相談すべきである。【既知見】皮膚症状はLCHでよくみられる症状であり、診断の主要な手がかりとなることが多い。【新知見】•脂漏性皮膚炎様病変のあるLCH患者は、正常の脂漏性皮膚炎病変とLCHによる病変の鑑別が難しいため、診断が遅れることがある。•正常の脂漏性皮膚炎に加えて点状出血/出血性皮膚症状が早期発見の手がかりとなる。

5)「LCH患者における末梢血BRAF V600E変異DNA量の経時的評価」

Longitudinal assessment of peripheral blood BRAFV600E levels in patients with Langerhans cell histiocytosis.

Schwentner R, et al. Pediatr Res. 2019 May;85(6):856-864.

【背景】LCHは骨髄系細胞におけるMAPキナーゼシグナル伝達経路の恒常的な活性化によって生じる組織球症である。この活性化は、50〜60%の例ではBRAF V600E変異によって引き起こされる。LCH患者の末梢血中のBRAF V600E変異DNA量が、腫瘍量と相関し、病型および治療反応性のマーカーとして有用であるという報告されている。しかし、現在、微少な播種性病変をどのように検出すべきかについてのコンセンサスはない。【方法】LCH患者においてBRAF V600E変異DNA量を様々な測定法で測定し、化学療法やRAF阻害剤ベムラフェニブによる治療中の患者の変異DNA量を経時的に評価した。全血、種々の白血球分画、血漿DNA (ccf-DNA)からDNAを抽出した。【結果】BRAF変異DNA量の測定には、ccf-DNAよりも全血のほうが優れていた。さらに、CD14陽性単球またはCD1c 陽性樹状細胞などの臨床的に関連性のあるBRAF変異陽性の細胞分画を同定することが重要である。なぜなら、他の血球にもBRAF変異が認められるため、全血またはccf-DNAでの測定結果の解釈が難しい。【結論】我々の結果は、RAF阻害剤による単剤治療により、疾患活動性は低下するが、LCHが治癒するわけではないという見解を支持している。

6)「幼児における脊椎LCHの回復の特徴」

Characteristic Reconstitution of the Spinal Langerhans Cell Histiocytosis in Young Children.

Nakamura N, et al. J Pediatr Orthop. 2019 Apr;39(4):e308-e311.

LCHは、CD207+ CD1a+【背景】小児LCHではしばしば椎骨圧迫骨折を生じる。しかし、LCHの経過中に脊椎のリモデリングの報告はほとんどない。脊椎LCHの幼児における罹患椎体および隣接する椎間板の経時的な回復と変形を調査することを目的とした。【方法】生検によりLCHと診断された16の脊椎病変を含む13例の患者を対象とした。初回受診時の平均年齢は3.6歳であった。平均追跡期間は10.2年であった。脊椎病変はL2が3例、T12・L1・L5がそれぞれ2例、C4・C5・C7・T5・T8・T9・L3が1例ずつであった。罹患椎体および罹患椎体より1つ上の椎体の高さと罹患椎体より2つ上の椎体の高さの比、局所の後弯角度、および隣接する椎間板の中心の高さとその上の椎間板の比を測定した。【結果】罹患椎体の扁平化は発症1年後に最もひどかった。回復率は、発症2年以降で加速した。前方の回復速度は中心部よりも速かった。罹患椎体の高さは回復したが、隣接する椎間板の厚さも増加した。さらに、隣接する椎体の高さも同様に増加した。最初の3年以内に平均局所後弯角は前弯に変化した。【結論】小児脊椎LCH患者では、椎間板だけでなく隣接する椎体の高さも圧迫骨折期に増加した。これらの変化は、疾患の初期段階での矢状方向の脊椎バランスの再調整に影響している可能性がある。圧迫骨折期に、隣接する椎体および椎間板の高さは増加するが、罹患した椎体が回復した後、増大した隣接する椎体および椎間板の厚みは減少した。

7)「二次性血球貪食性リンパ組織球症を発症する多臓器型LCHの多施設共同研究」

A multicenter study of patients with multisystem Langerhans cell histiocytosis who develop secondary hemophagocytic lymphohistiocytosis.

Chellapandian D, et al. Cancer. 2019 Mar 15;125(6):963-971.

【背景】LCHは、異常なCD1a陽性/ CD207陽性の組織球の集簇を特徴とするまれな骨髄性腫瘍である。血球貪食性リンパ組織球症(HLH)は、自然免疫系や獲得免疫系の活性化調節障害による過剰炎症症候群である。LCH患者、特に多臓器(MS)病変のある患者は、HLHでみられるような重度の過剰炎症をきたす可能性がある。しかし、HLHを発症する小児および若年成人のMS-LCH (LCH関連HLH)の発症頻度、発症時期、発症リスク因子、転帰についてはほとんど知られていない。【方法】さらなる知見を得るため、2000~15年の間にMS-LCHと診断された全症例を対象に、後方視的な多施設共同の調査を行った。【結果】MS-LCH患者384例のうち32例がHLHの診断基準を満たし、推定2年累積発生率は9.3%±1.6%であった。大多数の例で、MS-LCHの診断時または診断後にHLHを発症し、ほぼ1/3 (31%)が感染症を併発していた。LCH関連HLHの独立した発症リスク因子として、診断時の年齢が2歳未満、女児、肝臓・脾臓・造血器のLCH病変、骨病変の欠如が挙げられた。HLHの基準を満たしたMS-LCH患者は、HLHの基準を満たさなかったMS-LCH患者と比較して、5年生存率が有意に低かった(69% vs. 97%; p<0.0001)。【結論】予後不良であることを考慮すると、LCH関連HLHを強く認識し、治療を最適化するためにさらに努力する必要がある。

8)「サイクリンD1はLCHと反応性ランゲルハンス細胞を区別するのに有用である」

CyclinD1 Is Useful to Differentiate Langerhans Cell Histiocytosis From Reactive Langerhans Cells.

Chatterjee D, et al. Am J Dermatopathol. 2019 Mar;41(3):188-192.

LCHは、腫瘍性ランゲルハンス細胞(LC)のクローン増殖を特徴とするまれな組織球症である。LCの増殖は、LCH以外の反応性皮膚疾患においても見られる。サイクリンD1は、MAP¬¬キナーゼ経路の下流の分子であり、LCHにおいて活性化していることが多い。本研究は、LCHと反応性LC増殖を鑑別するために、サイクリンD1が有用かを評価した。過去3年間に生検で診断された皮膚LCHの全症例(n = 13)で、CD1a、p53、CD31、およびサイクリンD1の免疫染色を行った。円板状エリテマトーデス(DLE)と扁平苔癬(LP)の各7例を対照とした。真皮にp53、CD31、サイクリンD1陽性のLC (CD1a陽性)があるかどうかを比較した。すべてのLCH症例において、腫瘍性LCはびまん性にCD1a陽性を示し、12例(92.3%)は種々の程度(30%-70%)にサイクリンD1発現を示した。LCH症例の61.5%および46.1%に、p53およびCD31の弱い発現を認めた。対照群では、5例のLPおよび4例のDLEで、種々の程度のCD1a陽性のLCの増殖を認めた。しかし、反応性皮膚疾患では、LCにサイクリンD1やp53の発現を認める例はなかった。DLEおよびLPの1 例(25%)と2例 (40%)において、反応性LCに、弱い斑状のCD31発現を認めた。結論として、サイクリンD1はLCHの腫瘍性LCに高頻度に発現している。それは、腫瘍性LCと反応性LCを鑑別する有効なマーカーであり、LCHの診断の代用マーカーとして使用可能である。

9)「LCHの病変検出とリスク層別化のための全身MRI、骨スキャン、X線撮影による骨病変検出の比較」

Comparison of whole-body MRI, bone scan, and radiographic skeletal survey for lesion detection and risk stratification of Langerhans Cell Histiocytosis.

Kim JR, et al. Sci Rep. 2019 Jan 22;9(1):317.

LCH患者の治療計画と予後予測のためには、全身検索によりLCHの病型を決定し、正確にリスク層別化することが重要である。LCH患者において、病変の検出感度とリスク層別化の正確性を全身骨X線、骨スキャン、全身磁気共鳴画像法(WB-MRI)の3つの方法で比較した。3つすべての画像診断検査を受けた新規に診断されたLCH患者の46例を後方視的に解析した。各検査法の感度、患者1人当たりの偽陽性の平均病変数、リスク層別化の正確性を評価した。 WB-MRIの感度(99.0%; 95%信頼区間 93.2-99.9%)は、全身骨X線検査(56.6%; p <0.0001)や骨スキャン(38.4%; p <0.0001)よりも有意に高かった。患者1人あたりの偽陽性病変数に有意差はなかった(p> 0.017)。WB-MRIは、全身骨X線検査や骨スキャンよりもリスク層別化において、精度がより高い傾向があったが、有意な差はなかった((一致率はそれぞれ0.98、0.91、0.83、全体のp値0.066)。結論として、3つの全身画像診断法はLCHの初期リスク層別化において同程度の精度であり、WB-MRIはLCH病変に対して全身骨X線検査や骨スキャンよりも検出能が高かった。

10)「成人LCH患者は、血液および固形悪性腫瘍の有病率が高い」

Langerhans cell histiocytosis in adults is associated with a high prevalence of hematologic and solid malignancies.

Ma J, et al. Cancer Med. 2019 Jan;8(1):58-66.

【背景】LCHはまれな組織球増殖疾患である。以前の研究では、おそらくエトポシドなどの腫瘍形成を促進する薬剤による治療が原因で、LCH患者には血液および固形悪性腫瘍の有病率が高いことが示唆されていた。悪性腫瘍を合併した成人LCH患者の特徴を明らかにするため、初めて大規模な単一施設での調査を行った。【方法】1990~2015年の間に当施設で病理学的にLCHと診断された18歳以上の患者132例を対象とした。悪性腫瘍を合併した患者を同定するため、詳細な病歴調査を行った。【結果】成人LCH患者132例のうち、42例(32%)がLCH以外の悪性腫瘍を合併していた。 42例に53件の悪性腫瘍があり、LCH診断前が31件(58%)、LCH診断と同時(3か月以内)が11件(21%)、LCH診断後が11件(21%)であった。年齢の中央値は54歳(範囲28〜89歳)で、観察期間の中央値は3.7年(0.1〜22.2年)であった。3年の全生存率は、LCH単独例で98%、悪性腫瘍合併例では82%であり、最終追跡時点で30例(71%)が生存していた。固形腫瘍が39件(74%)、リンパ腫が9件(17%)、その他の血液悪性腫瘍が5件(9%)であった。【結論】我々の成人LCH患者コホートでは、多数例が悪性腫瘍を合併していた。LCHの診断前または同時に診断された悪性腫瘍が主であり、悪性腫瘍の原因はLCHの治療とは関連しないことが示唆される。このまれな疾患の生物学的特性を探査することにより、悪性腫瘍を高頻度に合併するメカニズムが解明されるかもしれない。