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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第29回 最新学術情報(2016.7)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「肺LCH:40例の分析と文献的調査」

Pulmonary Langerhans cell histiocytosis: a comprehensive analysis of 40 patients and literature review.

Elia D, et al. Eur J Intern Med. 2015 Jun;26(5):351-6.

【背景】肺LCHは、主に若年成人の喫煙者に生じるまれな間質性肺疾患である。疾患の臨床的特徴を明らかにするために、当施設で経過観察されている肺LCH患者の臨床データを後方視的に分析し、肺LCHについて文献的調査をした。【方法と結果】2004年1月から2014年7月の間に40例の肺LCH患者が当施設で診断治療されていた。患者の平均年齢は40±14歳で、22例は女性であった。10例が気管支肺胞洗浄液のCD1a陽性細胞、8例が肺生検、2例が嚢胞性骨病変の生検、12例が臨床および放射線学的データ、に基づいて診断された。肺LCHの主要な胸部CT所見として、上肺野の嚢胞病変が25例、上中肺野の小結節病変が9例、両者の混合が6例であった。4例に肺高血圧を認めた。肺以外の症状として、5例に尿崩症、7例に骨病変、1例に皮膚病変を認めた。25例は禁煙のみで軽快した。重度の肺病変がある、または、肺外病変がある例に対しては、低用量プレドニゾロン、ビンブラスチンとプレドニゾロン、6-mercaptopurinによる治療が、それぞれ11人、4人、5人に行われていた。結論として、肺LCHはまれな全身性疾患であり、早期診断、正確な病期診断、禁煙が肺LCHの管理において重要であると思われる。

2)「LCHにおけるMAP2K1とMAP3K1変異」

MAP2K1 and MAP3K1 mutations in Langerhans cell histiocytosis.

Nelson DS, et al. Genes Chromosomes Cancer. 2015 Jun;54(6):361-8.

LCHは、その50%以上にBRAF遺伝子の活性化体細胞変異があり、腫瘍性疾患であると現在考えられている。 しかし、BRAF遺伝子に変異がない例も含め、全例でERK経路の活性化が認められる。ERK経路を活性化する可能性のあるさらなる遺伝子変異の存在を検索するため、30例のLCH検体を用いてtarget sequenceを行った。20例のBRAF変異陰性の検体のうち、3例でMAP2K1(MEK1)の体細胞変異、すなわち、キナーゼ領域のC121SとC121S/G128D、N末端調整領域の56_61QKQKVGRのin-frame欠損を見出した。これら3つの変異蛋白は、試験管内キナーゼ分析においてERKをリン酸化した。C121S/G128Dと56_61QKQKVGR変異は、試験管内でMEK抑制剤であるtrametinibに抵抗性であった。全ての検体の検索によって、3例にMEKK1の変異を見出し、内2つは切断変異のT779fsとT1481fsであった。T1481fs変異は、 試験管内で発現させると、不安定な機能喪失蛋白であった。T779fsは、BRAF V600E変異のある例に存在した。もう一つの変異は1塩基置換のE1286Vであったが、蛋白機能は正常であり、生殖細胞系列の遺伝子多型と考えられた。これらの結果は、LCH細胞には、RAS-RAF-MEK経路にもう一つの遺伝子変異MAP2K1があり、BRAF変異陰性例において、ERK活性化を起こしている可能性を示している。 Trametinibに抵抗性のこれらの変異が存在することから、LCHにおいてRAF抑制剤とMEK抑制剤を併用する際に、臨床的に注意が必要であろう。

3)「成人LCH患者の皮膚病変のBRAF V600E変異」

BRAF V600E mutation in cutaneous lesions of patients with adult Langerhans cell histiocytosis.

Varga E, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2015 Jun;29(6):1205-11.

【背景】LCHは、病的なLCH細胞の増殖が特徴な疾患である。どの年齢にも発症し、ほとんど全ての臓器に浸潤する。LCHの皮膚浸潤の頻度は高い。LCH検体に活性化、発癌性変異であるBRAF V600E変異を認めるという最近のデータから、LCHは腫瘍性であると考えられる。【目的】患者の臨床データを解析し、BRAF V600E変異が成人発症のLCH患者の皮膚病変にBRAF V600E変異が認められるかどうか、BRAF V600Eの有無が臨床像や転帰に影響するかどうかを分析する。【方法】1987-2012年の間に診断・治療された15例の成人LCH患者の臨床データを収集した。3例は皮膚LCHで、12例は多臓器型LCH(多臓器型の5例が死亡)であった。10例から得た11のホルマリン固定パラフィン包埋皮膚検体を、BRAF V600E変異分析に使用した。【結果】分析した11検体中6検体(54.5%)でBRAF V600E変異を認めた。この結果から、成人LCH患者においても、少なくとも皮膚病変については、これまでに小児LCHで示されたのと同程度にBRAF V600E変異が認められる。BRAF変異の有無と、LCHの病型や転帰との相関はなさそうであった。【結論】この結果から、LCHが腫瘍性であることが支持され、LCHの皮膚病変によって診断やBRAF変異の有無の評価が十分に行えることが示唆される。さらに、LCH患者のBRAF変異の解析は、より良い疾患コントロールや予後改善をもたらす可能性のある新規の標的治療へとつながる。

4)「民族、人種、社会経済的地位がLCHの発病率に影響する」

Ethnicity, race, and socioeconomic status influence incidence of Langerhans cell histiocytosis.

Ribeiro KB, et al. Pediatr Blood Cancer. 2015 Jun;62(6):982-7.

【背景】LCHはまれな疾患で、その病因は十分には理解されていない。人口ベースの研究によって発生率を明らかにすることは、病因解明に役立つ可能性がある。人口ベースのがん登録のデータを利用し、アメリカ合衆国における多臓器型LCHの発生率を記述疫学的に評価した。【方法】2000-2009年の間に18のSEER登録から小児および思春期(0歳から19歳)の多臓器型LCHの発生率と生存率を分析した。年齢で標準化した100万人あたりの発症率(ASIR)と率比率(RR)を、性、人種、民族、年齢と社会経済的変数(人口密度、地方/都市部、教育と貧困)によって比較し、SEER*Statソフトウェア8.0.1を使用して計算した。相対的な生存(RS)の推定率は、Ederer II法を使用して計算した。【結果】145例の多臓器型LCHが登録されており、ASIRは年間0.70人/100万人であった。ASIRは、黒人では白人より低く(RR = 0.41、95%CI:0.18-0.81)、ヒスパニックでは非ヒスパニックより高かった(RR = 1.63、95%CI:1.15-2.29)。LCHの発症率は、人口密度の高い地域(RR = 1.84、95%CI:1.31-2.58)、教育レベルの低い地域(RR = 1.49、95%のCI 1.02-2.22)で高かった。5年の相対的生存率は90.0%(95%CI:83.0-94.2)であった。性別(男性96.0 vs 女性83.4%、p=0.029)と年齢(1歳未満78.5%、1-4歳 95.6%、5-19歳100%、p=0.004)によって生存率に有意な差が見られた。【結論】この人口ベースの研究により、社会経済的要因だけでなく民族、人種が多臓器型LCHの発生率に有意に影響することが示された。これらのデータは、病因解明の手がかりとなり、分析的疫学研究の必要性を示していると考えられる。

5)「小児LCHの肝浸潤」

Liver involvement of Langerhans' cell histiocytosis in children.

Yi X, et al. Int J Clin Exp Med. 2015 May 15;8(5):7098-106.

【目的】小児LCHにおいては、 肝浸潤の頻度は比較的高いが、その特徴は十分に解明されていない。【方法】当院の 14例の肝LCHの小児について後方視的に検討した。この疾患の臨床病理学的および放射線学的特徴について考察した。【結果】小児LCHにおける肝浸潤の頻度は51.9%であった。大多数の例は多臓器型であった。肝腫大を11例(78.6%)に、肝機能障害を9例(64.3%)に認めた。多種の画像検査により多くの診断情報が得られた。LCHにはいくつかの画像の特徴があり、CTとMRIは肝病変の病期や範囲を評価するのに役立った。肝浸潤は生存率に大きな影響があった。診断から早期に全身化学療法を受けた患者の転帰は比較的良好であった。【結論】小児LCHにおける肝浸潤の頻度は、予想より多いと考えられる。全ての小児LCH患者に対して、臨床的および生物学的な肝臓の評価と腹部画像検査を、最初の診断時から定期的に行うべきと考えられる。早期に全身化学療法をすべきである。

6)「小児多臓器型LCHでは、診断時に骨病変がないことは予後不良因子である」

Lack of bone lesions at diagnosis is associated with inferior outcome in multisystem langerhans cell histiocytosis of childhood.

Aricò M, et al. Br J Haematol. 2015 Apr;169(2):241-8

LCHにおいて、骨病変は、全例にではないが、しばしば見られる。診断時の骨病変の有無がLCHの生存に関わる予後因子であるかどうか検討した。938例の小児多臓器型LCH(高リスク:リスク臓器浸潤陽性が386例、低リスク:リスク臓器浸潤陰性が552例)の診断時の骨病変を評価した。リスク臓器浸潤は、造血器(ヘモグロビン<10.0 g/dl、白血球数<4000 /μlまたは血小板<10万/μl)、脾臓(>季肋下2cm)、肝臓(>季肋下3 cm、低蛋白血症、低アルブミン血症、高ビリルビン血症または高AST/ALT)と定義した。一般的にLCHの予後は病変が広がっているほど悪いと考えられているが、驚くべきことに、リスク臓器浸潤陽性LCHの生存率は、骨病変ありの場合74±3%(n = 230、56イベント)、骨病変なしの場合62±4%(n = 156、55イベント)であった(p=0.007)。肝臓病変があり、造血器または脾臓病変がある群の生存率は、骨病変ありの場合61±5%(n = 105; 52イベント)、骨病変なしの場合47±5%(n = 111; 39イベント)でより大きな差が見られた(p = 0. 014)。この違いは、多変量解析においてもみられた(p = 0.048)。まだ理由はよくわからないが、診断時に骨病変を認めることは、リスク臓器浸潤陽性多臓器型LCHにおいて、新規の予後良好因子であると結論づける。

7)「LCH患者の下垂体: 臨床的および放射線学的評価」

The pituitary gland in patients with Langerhans cell histiocytosis: a clinical and radiological evaluation.

Kurtulmus N, et al. Endocrine. 2015 Apr;48(3):949-56.

LCHはまれな疾患で、最も頻度の高い内分泌障害は尿崩症である。 LCH患者の下垂体前葉機能に関するデータは限られている。LCH発症時と経過中の臨床的および放射線学的評価によって、尿崩症を合併したLCH患者の下垂体前葉機能を検討した。9例のLCH(男性5、女性4)を後方視的に評価した。 全例において、LCHの診断は、生検組織、気管支肺胞洗浄液または脳脊髄液の組織学的または免疫表面マーかの解析によってなされた。下垂体前葉機能の評価は基礎値および必要に応じて下垂体負荷試験によって、下垂体の画像評価はMRIによってなされた。LCHの治療は、浸潤臓器に基づいて行われた。尿崩症の平均発症年齢は27.6歳(15~60歳)であった。1例(11%)が単一臓器型で、8例(89%)が多臓器型であった。入院時、1例に性腺刺激ホルモン欠損による性腺機能低下、1例に汎下垂体機能不全(中枢性性腺機能低下、中枢性甲状腺機能低下、低ACTH血症および成長ホルモン欠乏)、4例(44%)に高プロラクチン血症を認めた。MRI所見では、7例(78%)に下垂体漏斗部肥大、1例(11%)に視床腫瘤、全例に高輝度スポットの消失が見られた。1例(11%)は橋の腫瘤および部分的なトルコ鞍空虚を認めた。治療は、放射線照射、化学療法、またはその両者によってなされ、追跡期間の中央値は91.8か月(2~318か月)であった。7例が追跡期間中に評価を受け、4例(57.1%)が下垂体前葉ホルモン欠乏を、3例(43%)がGH欠損症を、1例(14%)が性腺刺激ホルモン欠損症を発症した。入院時に性腺刺激ホルモン欠損症と診断された例は、追跡期間中に改善した。尿崩症は全例で残存し、引き続き追跡されている7例では変化がなかった。LCH患者では、下垂体後葉のみならず前葉機能の変化も生じ、それは疾患の自然経過または治療による影響が考えられる。特に多臓器型LCHの患者においては、入院時および経過観察期間中に下垂体前葉機能の評価をすべきと考えられる。

8)「成人肺LCHの自然経過:前向き多施設研究」

The natural history of adult pulmonary Langerhans cell histiocytosis: a prospective multicentre study.

Tazi A, et al. Orphanet J Rare Dis. 2015 Mar 14;10:30.

【背景】 肺LCHの自然経過は前向き研究がなかったため不明であった。 早期に病状が進行する患者の割合はわかっていない。さらに、肺LCHにおける禁煙の効果については、相反する報告がされている。【方法】 この前向き多施設研究において、連続して新規に肺LCHと診断された肺LCH患者の58例を、2年の間、総合的に評価した。目的は、病状が早期に進行する率を推定すること、肺機能に対する喫煙の影響を評価することであった。1秒量、努力性 肺活量または一酸化炭素肺拡散能が診断時と比較し少なくとも15%以上低下した場合を肺機能悪化と定義した。来院時に、患者の自己申告と患者に結果を伝えずに測定した尿コチニンに基づいて喫煙状態を判定した。肺機能の転帰の累積発生率は、カプラン-マイヤー方法を用いて推定した。潜在的交落因子を調整した喫煙状態と関連する肺機能悪化の危険比率を計算するために、時間依存的な共変量による多変量コックス・モデルを用いた。【結果】 24か月時点の肺機能悪化の累積発生率は38%(FEV1が22%、DLCOとFVCが9%)であった。 多変量解析では、喫煙状態と診断時のPaO2値が、肺機能悪化に関連する唯一の危険因子であった。患者の喫煙状態は時間とともに著しく変化した。全研究期間で、禁煙した患者はわずか20%であった。それでも、基本的な予測因子を調整しても、非喫煙者は肺機能悪化が少なかった。連続的な肺CT所見の評価で、嚢胞性病変が悪化した患者はわずか11%であった。【結論】新たに肺LCHと診断した患者の病状が早期に進行するかどうかを判断するために、3~6か月毎の連続的な肺機能評価が必要である。これらの患者は重度のタバコ依存症であるため、患者を禁煙プログラムに入れるために粘り強い努力をすべきである。

9)「LCH:小児と成人の患者の長期予後の違いと類似点」

Langerhans cell histiocytosis: differences and similarities in long-term outcome of paediatric and adult patients at a single institutional center.

Maia RC, et al. Hematology. 2015 Mar;20(2):83-92.

【目的】 小児と成人で、LCHの臨床的特徴、再発、後遺症、死亡率および全生存率を比較した。【対象と方法】28年間に治療を受けた 90例(小児60例、成人30例)のLCHを後方視的に解析した。【結果】 小児・成人ともに、頭蓋・顔面病変が最も多い病変部位であったが、少し違いがみられた。 眼窩病変は成人より小児で頻度が高かった(p=0.001)。 下顎骨病変は小児より成人に多い傾向が見られた(p=0.071)。皮膚粘膜病変は小児に比べて成人に多かった(p=0.0395)。再発と死亡の頻度は成人よりも小児で低かった(それぞれ、36.8% vs. 62.5%、10.7% vs. 24.0%)が、10年の全生存率は両群で差はなかった(p=0.137)。【結論】 全生存率は、臨床像に違いがあるにもかかわらず小児と成人で差がなかった、しかし、再発率と死亡率は成人で高かった。

10)「BRAF V600E変異を有する Erdheim-Chester病患者に対するvemurafenibによる標的治療の再現性のある持続的な有効性」

Reproducible and sustained efficacy of targeted therapy with vemurafenib in patients with BRAF (V600E)-mutated Erdheim-Chester disease.

Haroche J, et al. J Clin Oncol. 2015 Feb 10;33(5):411-8.

【目的】 組織球症は、様々な予後を示すまれ疾患である。 BRAF V600E変異は、LCH患者の半数、Erdheim-Chester病(ECD)患者の50~100%に認められる。 我々は最近、3例の多臓器型ECD患者で、BRAF抑制剤であるvemurafenibの短期的な効果を報告している。【対象と方法】中枢神経や心臓浸潤のある多臓器型ECDの8例にvemurafenibを投与した。 全例とも第一選択の治療に抵抗性で、BRAF V600E変異を認めていた。 4例はLCH病変を合併していた。主要評価項目は、6か月時点での陽電子放射断層撮影(PET)での反応性とした。第2評価項目は、PET所見、心血管浸潤のCT所見、中枢神経浸潤のMRI所見の、治療前と最終観察時点での比較とした。【結果】vemurafenib によって、全例が6か月時点でPET所見の部分寛解を得、標準化最大取り込み値は中央値で63.5% (41.3%~86.9%)減少した。心臓と大動脈浸潤の評価では、7例が部分寛解を得、1例がRECIST基準による表面測定値で病状安定と評価された。テント下の中枢神経浸潤のあった4例は、MRI所見で病変の縮小を認めた。Vemurafenibによって、全例が一般的徴候の改善を認め、追跡の中央値10.5か月(6~16か月)の期間、持続した。皮膚の有害事象は頻度が高く重度だった。【結論 】vemurafenibは、BRAF V600E変異のあるECDに対し、第二選択の治療として、客観的で持続的な効果を示した。 黒色腫とは対照的に、6~16か月の間では、抵抗とはならなかった。