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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第45回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「小児の重度の肺LCHの診療」

Management of severe pulmonary Langerhans cell histiocytosis in children.

Eckstein OS, et al. Pediatr Pulmonol. 2020 Aug;55(8):2074-2081.

2肺LCHの患者は、通常、良好な経過をたどるが、多発性や再発性の気胸および呼吸不全など生命を脅かすまれな合併症を伴う、広範な嚢胞性肺疾患を患う例がある。7例の重症小児患者が、化学療法や積極的な胸腔ドレーン管理、胸膜癒着術で治療され、うち5例が生存したことを報告する。多数の嚢胞性病変と複数回の気胸を生じたLCH患者でも、早期の診断、最適なLCHに対する治療、および支持療法により、治癒に至る注目に値する転帰が得られる可能性がある。

2)「口腔内LCHは非定型的な組織形態学的特徴を示す」

Oral manifestations of Langerhans cell histiocytosis with unusual histomorphologic features.

AbdullGaffar B, et al. Ann Diagn Pathol. 2020 Aug;47:151536.

LCHは、骨髄由来の未成熟骨髄樹状細胞の増殖性疾患であり、さまざまな臨床症状を示し、骨、皮膚、リンパ節、肺病変を認めることが多い。口腔内病変はまれである。口腔内病変は、限局性LCHや未診断の多臓器LCHの初発兆候であったり、多臓器型LCHで他病変に先行して出現したり、既診断例で再発の早期徴候となる可能性がある。臨床的には、原発性の口腔や歯の炎症、感染や腫瘍病変と間違えられる可能性がある。組織学的には、口腔および歯科標本の特性や異なる組織反応パターン、LCHの多様な組織形態のために、診断が難しい可能性がある。過去10年間の症例を後方視的に解析した。LCHと診断された例を検索し、口腔内病変のあるLCHの症例を解析した。54例のLCHのうち4例(7.4%)に口腔内病変を認めた。年齢は、1歳~27歳、平均13.7歳であった。すべて男性であった。臨床的に、膿瘍や嚢胞、感染症、肉芽組織、他の腫瘍病変と混同されていた。組織学的に、壊死や肉芽腫、アレルギー様炎症、重複感染、口内炎、嚢胞、空洞形成、異物巨細胞反応、リンパ腫やがん転移に類似する像など様々な組織病理学的特徴を示した。特徴的な細胞形態が診断に有用な手がかりとなった。診断が疑わしい例では、免疫組織化学が確定診断に有用であった。口腔内生検の標本は、多数に断片化しており、様々な組織反応パターンを示すことが多いため、診断の決め手となるLCH細胞が見落とされたり、誤った解釈をされたりする可能性がある。口腔内LCHは、臨床症状が多様で、組織形態学的特徴が不均一であるため、感染性、炎症性、良性や悪性の腫瘍性病変と混同される可能性がある。病理医は、臨床医が正しい診断と診療を行う上で重要な役割を果たす。落とし穴を避けるために、病理医はさまざまな組織形態学的パターンに精通している必要がある。形態学的特徴と免疫組織化学に注目することは、診断困難例の解決に役立つはずである。

3)「肺LCH患者における肺移植後の臨床転帰と生存」

Clinical outcomes and survival following lung transplantation in patients with pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Wajda N, et al. Respirology. 2020 Jun;25(6):644-650.

【背景と目的】肺LCH患者における肺移植後の疾患特異的転帰は十分に明らかにされていない。米国で肺移植を受けた成人肺LCH患者を抽出するため、臓器提供および移植ネットワークデータベースに照会した。【方法】全生存データはカプランマイヤー曲線で分析した。コックス比例ハザードモデルを使用して、移植後の生存に対する人口統計学的、臨床的および生理学的変数の影響を解析した。【結果】1987年10月~2017年6月に米国で計87例の肺LCH患者が肺移植を受け、この期間中の全肺移植の0.25%を占めていた。肺LCH患者の肺移植時年齢は平均49歳(範囲:19~67歳)で、男女比はほぼ同じであった。両側連続肺移植は71例(82%)で行われていた。85%の患者に肺高血圧症を認め、平均肺動脈圧は38.5±14.1 mmHgであった。1秒努力呼気肺活量(FEV1)は予測値の41±21%で、平均6分歩行距離は221±111mであった。肺移植後の生存期間は、肺LCH患者と他の肺疾患患者で同等であった(中央値5.1 vs. 5.5年、P=0.76)。肺LCH患者の肺移植後生存率は、カプランマイヤー法により、1年、3年、5年、および10年時点で、それぞれ85%、65%、49%、および22%であった。我々のコホートでは、性別が女性(ハザード比(HR):0.40、95%CI:0.22-0.72)、移植前の血清ビリルビン値(HR:1.66、95%CI:1.23-2.26)、血清クレアチニン値(HR:4.03、95%CI:1.01-14.76)が、独立して肺移植後の死亡率と関連していた。【結論】肺LCH患者の肺移植後の生存率は、他の肺疾患の患者と同様であり、患者の性別によって大きく影響される。

4)「Rosai-Dorfman病-初期評価と経過観察のための18F-FDGPET/CTの有用性」

Rosai-Dorfman Disease-Utility of 18F-FDG PET/CT for Initial Evaluation and Follow-up.

Mahajan S, et al. Clin Nucl Med. 2020 Jun;45(6):e260-e266.

【背景】まれな非LCH組織球症であるRosai-Dorfman病(RDD)の診療における画像の役割は明確ではない。この疾患の診断時の病変検索、追跡評価、治療計画のために撮像されたFDG PET/CT所見を分析し提示する。【方法】施設の病理データベース(2001~2018)から、実臨床または臨床試験としてFDG PET/CTスキャンを受けたRDD患者を抽出した。すべてのスキャンで、異常なFDG取り込み部位を評価し、SUVmaxを測定した。可能な場合は、PET/CTとCT/MRI画像による病変検出を比較した。PET/CT所見に基づいて治療を変更した症例を抽出した。【結果】27例のRDDで109件のFDG PET/CTスキャンを検討した。27例のうち、5例はリンパ節と皮膚病変のみであり、残る22例の多くには骨(n=9)と中枢神経系(n=7)といったリンパ節外病変を認めた。PET/CTによって、27例のうち24例で活動性病変部位を特定できた。1例の脳病変を除き、すべての同定された骨および骨以外の病変はFDG集積を認めた。過去のCTまたはMRI画像があった20例のうち6例(30%)で、CTやMRIでは明らかではなかったRDD病変(骨病変5例、胸膜病変1例)が、PET/CTによって検出され、このうち3つはCTの撮像範囲外、3つはCTで描出されていなかった。全体として、109回のPET/CTスキャンのうち13回の撮像が診療方針の変更につながり、41%(11/27)の患者に影響を及ぼした。【結論】FDG PET/CTは、RDD患者の病変の広がりを明らかにし、治療戦略を最適化するのに有用であった。

5)「日本における小児の皮膚外若年性黄色肉芽腫の長期転帰」

Long-term outcomes of children with extracutaneous juvenile xanthogranulomas in Japan.

Maeda M, et al. Pediatr Blood Cancer. 2020 Jul;67(7):e28381.

【背景】若年性黄色肉芽腫(JXG)は、小児において最も多い非LCH組織球症である。皮膚外病変を伴うJXGの死亡率と罹患率は不明である。【方法】2001年~2010年にJXGと診断された18歳未満の患者情報を全国調査により後方視的に収集した。【結果】20例(男11、女9)に皮膚外病変を認めた。観測期間は中央値10年(範囲、0〜17)であった。6例は出生時に症状を呈していた。診断時年齢は中央値8.5か月(範囲:0か月~13歳)であった。15例がJXGに対する治療を受け(うち化学療法は11例)、5例は無治療であった。1例を除く19例が生存し、17例は無病生存、2例は残存病変があった。出生時に肝臓、脾臓、および骨髄病変を認めた1例が原病死した。JXG診断時に、中枢性尿崩症、成長ホルモン欠乏症、汎下垂体機能低下症といった永続的な後遺症を、それぞれ3例、1例、2例に認めた。4例に視覚障害(視神経圧迫と眼内浸潤が2例ずつ)、3例にてんかん、1例に精神発達遅滞、1例に皮膚瘢痕を認めた。頭蓋内病変のあった8例は、頭蓋内病変のない例と比較し、診断時年齢が高く、疾患関連の併存症および永続的な後遺症の頻度が高かった。【結論】頭蓋内病変のある例に深刻な永続的な後遺症を認めたが、皮膚外JXGは良好な転帰を示した。頭蓋内JXGに対して効果的で安全な治療法を開発する必要がある。

6)「LCH病変のFoxp3陽性制御性T細胞はCD56を発現し、決定的な制御能力を持つ」

Foxp3(+) Tregs from Langerhans cell histiocytosis lesions co-express CD56 and have a definitively regulatory capacity.

Mitchell J, et al. Clin Immunol. 2020 Jun;215:108418.

LCH病変には、骨髄系の「LCH」細胞が存在する。制御性T細胞(Treg)も病変内に多数認めるが、LCHの病因におけるそれらの役割は不明である。LCH細胞は、病変内でTGF-βを産生すると考えられているが、Tregが寄与するかどうかは不明である。フローサイトメトリーを使用して、LCH患者のTregの相対頻度を分析し、病変部のTregのCD56発現とTGF-β産生を解析した。病変部にはCD56陽性Tregsを多数認めたが、末梢血中のCD56陽性T細胞の総数は、活動性LCH患者では非活動性疾患患者と比較して減少し、CD8陽性/CD56陽性T細胞とTregsの数の間には負の相関がみられた。LCH細胞は、CD56陽性T細胞などのT細胞からTregを誘導することによって、炎症性T細胞の攻撃を回避している可能性がある。したがって、LCH病変内のTregは、LCHの病因における重要な要素であると考えられる。

7)「CSF1RはLCH細胞の分化と遊走およびLCH病変の形成に必要である」

CSF1R Is Required for Differentiation and Migration of Langerhans Cells and Langerhans Cell Histiocytosis.

Lonardi S, et al. Cancer Immunol Res. 2020 Jun;8(6):829-841.

LCHは、CD1a陽性/CD207陽性のLCH細胞が組織に集簇するまれな疾患である。LCHにおいては、BRAF V600E変異が、組織のLCH細胞、骨髄のCD34陽性造血幹細胞、末梢血のCD14陽性単球、BDCA1陽性骨髄樹状細胞(DC)で検出される。BRAF V600E変異のある患者においては、クローン性のランゲルハンス細胞およびその前駆細胞のBRAF V600E変異は治療標的となる可能性がある。マウスにおいては、マクロファージとランゲルハンス細胞の分化は、CSF1受容体(CSF1R)によって調節されている。びまん性腱鞘巨細胞腫の患者では、CSF1R阻害による治療効果が得られると、腫瘍関連マクロファージが枯渇することがわかっているが、ランゲルハンス細胞およびLCHにおけるCSF1Rシグナル伝達については研究が進んでいない。通常、CSF1Rは表皮と重層扁平上皮のヒトCD1a陽性/CD207陽性ランゲルハンス細胞で発現していることを、免疫組織化学とフローサイトメトリーにより見出した。CD14陽性単球、BDCA1陽性DC、およびCD34陽性臍帯血前駆細胞から分化したランゲルハンス細胞は、CSF1Rを発現し、成熟に伴いその発現は低下した。未熟なランゲルハンス細胞はCSF1に向かって遊走したが、IL-34に向かっては遊走しなかった。c-FMS/CSF1Rキナーゼ阻害剤であるGW2580およびBLZ945の投与により、ヒトランゲルハンス細胞の遊走は大幅に減少した。LCHの臨床検体では、LCH細胞(BRAF V600E変異陽性細胞を含む)と腫瘍関連マクロファージにおいてCSF1Rが高発現であった。また、検索したすべてのLCH症例において、CSF1RリガンドのCSF1(IL-34ではなく)の蛋白発現が検出された。LCHにおいてCSF1RとCSF1が発現し、ランゲルハンス細胞の遊走と分化にそれらが作用していることから、CSF1Rシグナル伝達遮断剤は、BRAF V600E変異陽性と陰性の両者を含むLCHに対する治療薬の候補であることが示唆される。

8)「成人の肺外LCHに対する2CdA(クラドリビン)の長期有効性と安全性:フランス組織球症グループからの23症例の解析と系統的文献レビュー」

HLong-term efficacy and safety of 2CdA (cladribine) in extra-pulmonary adult-onset Langerhans cell histiocytosis: analysis of 23 cases from the French Histiocytosis Group and systematic literature review.

Néel A, et al. Br J Haematol. 2020 Jun;189(5):869-878.

LCHはまれで多様な臨床像を呈する疾患で、小児に好発する。成人発症例をどのように治療すべきかについてはほとんどデータがない。2CdA(2-クロロデオキシアデノシン、クラドリビン)の有効性と安全性に関してもよくわかっていない。2CdA単剤療法を受けた23例の成人LCH患者の後方視的な多施設共同研究の結果を報告し、系統的文献レビューをする。全例がそれまでに全身化学療法(19例がビンブラスチン)を受けていた。22例で2CdAへの反応評価が可能であった。全反応率(ORR)は91%であった。11例(50%)に完全反応(CR)が得られた。9例(39%)がグレード3〜4の好中球減少症および/または重度の感染症を発症した。文献レビューにより48例が見出された。これら48例の解析でも、反応率は我々の結果と同様(ORR:88%、CR:49%)であった。累積投与量が50 mg/m2未満の場合、CRが得られることはまれであった。2年と5年での疾患の増悪率はそれぞれ20%と30%であった。2CdA療法に対して部分反応(PR)の場合、疾患の増悪率が高かった。再治療を受けた8例のうち、5例がCR、2例がPRとなり、1例が死亡した。2CdA単剤療法は、中等用量でも、再発成人LCHに効果的である。毒性は、重大であるが許容できるものであり、感染予防が重要である。完全寛解すると長期寛解に入る可能性がある。ビンブラスチンやシタラビンといった他の薬剤と2CdAの順序をどうするかを定めるために、さらなる研究が必要である。

9)「新たに診断された成人LCHに対するメトトレキサートとシタラビンの併用療法:前向き第II相介入臨床試験」

The combination of methotrexate and cytosine arabinoside in newly diagnosed adult Langerhans cell histiocytosis: a prospective phase II interventional clinical trial.

Han X, et al. BMC Cancer. 2020 May 18;20(1):433.

【背景】LCHは、小児にも成人にも発症するまれな疾患であるが、成人例の転帰は不良である。この前向き介入試験は、成人LCH患者に対するメトトレキサートとシタラビンの併用療法の有効性と安全性を確認することを目的としている。【方法】2014年1月1日~2016年6月30日にLCHと診断され、当センターで治療を受けた計36例の患者が登録された。【結果】19例がBRAF遺伝子変異の検査を受け、21.1%が陽性であった。全反応率は100%であったが、完全反応率は16.7%のみであった。骨病変の総反応率は100%であった。中枢神経病変の反応も良好であった。追跡期間の中央値44か月時点で、無増悪生存期間の推定値は48.9か月で、全生存率は97.2%であった。リスク臓器浸潤は強い予後因子で、リスク臓器浸潤陽性群と陰性群の無イベント生存期間はそれぞれ34.1と54.6か月(p = 0.001)であった。好中球減少症と血小板減少症が最多の有害事象であった。【結論】メトトレキサートとシタラビン併用療法は、成人LCHに対して効果的かつ安全であるが、血液学的有害事象の発生率が高いため適切な予防を考慮する必要がある。

10)「小児LCHにおいてBRAF V600E変異は多臓器型であることおよび生存率低下に関連する」

BRAF V600E mutation in childhood Langerhans cell histiocytosis correlates with multisystem disease and poor survival.

Bhatia P, et al. Blood Cells Mol Dis. 2020 May;82:102356.

LCHは小児の炎症性骨髄性腫瘍で、全身性病変を伴い予後不良である。BRAF V600E体細胞変異によるRAS-RAF-MEK-ERK細胞シグナル伝達経路の活性化は、LCHにおいて最多の遺伝子異常である。本研究では、LCHコホート(n=31)における、BRAF V600Eの頻度と臨床転帰との関連に焦点を当てた。リアルタイムPCRとサンガーシーケンシングによって、BRAF V600E変異が6/31(19%)の患者に検出された。BRAF V600E変異陽性例はすべて多臓器型で、変異陰性例と比較して、多臓器型が有意に多かった(100% vs. 41%, p=0.0348)。単変量解析では、変異陽性例はリスク臓器浸潤が有意に多かった(p=0.09)。36か月での無イベント生存率および全生存率は、変異陽性群と変異陰性群において、それぞれ17% vs. 72%(log-rank test, p=0.0110)および32.5% vs. 82%(p=0.0330)であった。本研究では、BRAF V600E変異陽性例の割合が低かった(19%)が、変異陽性例はすべて多臓器型であり、3年生存率は低く、BRAF V600Eが予後不良マーカーであることが確認された。