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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第35回 最新学術情報(2018.3)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「小児の組織球性肉腫に対するクラドリビンおよび大量Ara-C療法の奏功」

Successful treatment of histiocytic sarcoma with cladribine and high-dose cytosine arabinoside in a child.

Iwabuchi H, et al. Int J Hematol. 2017 Aug;106(2):299-303.

組織球性肉腫は、組織球への分化を伴う稀な造血器腫瘍で、従来の化学療法や放射線療法に対しほとんど不応性で、一般的に予後不良である。この悪性腫瘍の最適な治療は確立していない。左大腿骨浸潤を伴う組織球性肉腫の8歳の女児の1例を報告する。クラドリビンと大量Ara-C療法(難治性LCHに対する積極的な救済レジメン)に対し速やかに反応し、初回のサイクル後に腫瘤を触知しなくなった。患者は診断から7年以上の完全寛解状態を維持している。

2)「側頭骨頭蓋底の小児LCH」

Pediatric Langerhans cell histiocytosis of the lateral skull base.

Majumder A, et al. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2017 Aug;99:135-140.

【目的】側頭骨の小児LCHの臨床像、画像特性、治療および転帰について述べる。【方法】単一の3次医療施設の小児病院での2000~14年の間の症例を後方視的に検討した。 14例の側頭骨浸潤を伴うLCH患者が同定された。【結果】10例が女性で、10例が白人であった。診断時の平均年齢は3歳(幅0.3〜9.6歳)であった。最も多い症状は、頭皮病変、耳痛、持続性の耳炎であった。3例に難聴を認めた。4例に耳嚢への浸潤を認めた。CTでは側頭骨(乳突洞、扁平側頭骨、外耳道、中耳、錐体尖)の溶骨病変を認めた。4例に頭蓋内病変を認めた。全例が初期治療として化学療法を受けた。外科的切除を受けたのは局所再発の1例のみであった。経過観察期間85.2±42.4か月で、死亡例はなかったが、8例が再発した。2例が手術を必要とする耳鼻科的後遺症を発症した。1例が骨性迷路炎を発症した。【結論】LCHには、さまざまな臨床症状、年齢分布、治療アルゴリズムがある。この14例の側頭骨病変を伴う小児患者の経験からは、外科的切除の役割は限定的である。長期的フォローアップは、局所および播種性病変の検出、および耳科的の合併症のモニタリングのために重要である。

3)「肺の内在性骨髄系細胞にKRASG12Dを発現させるとスタチン感受性の肺LCH様腫瘍を発症する」

KRASG12D expression in lung-resident myeloid cells promotes pulmonary LCH-like neoplasm sensitive to statin treatment.

Kamata T, et al. Blood. 2017 Jul 27;130(4):514-526.

LCHは、RAF/MEK/ERKシグナル伝達経路の遺伝子の体細胞変異によるまれな組織球腫瘍である。最近、RAF/MEK/ERK経路の上流調節因子であるNRAS/KRASの発がん性変異が肺LCHで報告されているが、肺以外のLCHでは報告されておらず、発がん性RAS変異は臓器特異的にLCH発症に関与していることが示唆される。アデノウイルスCreリコンビナーゼを経鼻的に肺に送り込み肺の内在性骨髄系細胞にKRASG12Dを発現させたマウスは、異常なCD11chighF4/80+CD207+細胞からなる肺LCH様腫瘍を発症した。異常細胞は、分裂像は少なかったが、肺組織の初代培養において増殖前駆細胞が検出された。これらの前駆細胞の少なくとも一部分は、CD11cdimCD11bintGr1-を示す肺の内在性単球細胞がKRASG12Dによって形質転換したものであった。対照的に、同じ方法によってBRAF V600Eを発現させても、LCH様腫瘍を発生せず、各がん遺伝子が異なる種類の肺の内在性骨髄系細胞を形質転換することによって肺LCHを発症させる可能性が示唆された。KRASG12Dにより発症したLCH様マウスにコレステロール低下薬であるアトルバスタチンを投与すると病状が改善したことから、スタチンは肺LCHの一部に対し効果を示す可能性がある。

4)「多臓器型組織球腫瘍は造血幹細胞/造血前駆細胞を起源とする機能的な証明」

Functional evidence for derivation of systemic histiocytic neoplasms from hematopoietic stem/progenitor cells

Durham BH, et al. Blood. 2017 Jul 13;130(2):176-180.

LCHおよび非LCH組織球症のErdheim-Chester病(ECD)は、多様な臨床症状を示す腫瘍性疾患で、MAPキナーゼシグナル伝達系路を活性化する遺伝子変異を伴う、異常なマクロファージや樹状細胞、単球由来細胞の組織浸潤を特徴とする。最近、LCHおよびECD患者の少なくとも一部には、末梢血中の造血細胞および骨髄中の造血前駆細胞にキナーゼ活性化変異を認めることが示されているが、実際の組織球症患者由来の細胞で機能的な証拠は捉えられていない。ECDおよびLCH / ECD患者由来のCD34陽性細胞におけるMAPキナーゼシグナル伝達経路の遺伝子変異を提示した。その中には、共通の起源を示したLCHとTET2変異のあるCD34 陽性前駆細胞由来の急性骨髄単球性白血病の合併例を1例含んでいる。異種移植解析によって、CD34 陽性細胞が組織球症の発症を促進する機能的自己再生能力を持つことを生体内で示した。これらのデータは、多臓器型の組織球症患者の少なくとも一部では、その細胞起源は単球/マクロファージや樹状細胞への分化する以前の造血前駆細胞に存在することを示し、ヒト組織球腫瘍において初の患者由来異種移植モデルを確立した。

5)「成人のLCHとErdheim-Chester病は造血細胞を起源とする」

Hematopoietic origin of Langerhans cell histiocytosis and Erdheim-Chester disease in adults.

Milne P, et al. Blood. 2017 Jul 13;130(2):167-175.

LCHおよびErdheim-Chester病(ECD)は、MAPキナーゼ経路の遺伝子の体細胞変異によって生じる稀な組織球性疾患である。BRAF V600E変異は、LCHとECDの両者で最も高頻度の変異であり、造血器腫瘍である有毛細胞白血病(hairy cell leukemia:HCL)においても見られる。成人のLCHやECDが造血幹細胞を起源とするのか、あるいは、造血前駆細胞が組織球性病変を形成するのかは分かっていない。本研究では、BRAF V600E変異特異的PCRを用い、成人患者20例のLCH、ECD、およびHCLの腫瘍性細胞の特性を明らかにした。BRAF V600E変異は、末梢血中の古典的単球、非古典的単球、CD1c 陽性骨髄性樹状細胞で検出され、4例の骨髄中の造血幹細胞および造血前駆細胞で認められた。末梢血中の骨髄系細胞でのBRAF V600E変異のパターンは組織球症とHCLとでは異なっていたが、LCHとECDとで差はなかった。小児で報告されているように、成人においても末梢血中のBRAF V600E変異陽性細胞は、活動性の多臓器LCHで検出された。BRAF変異が検出された骨髄系細胞に相当する健常人の細胞は、液性因子に依存性に様々な分化能を有していた。CD1c陽性骨髄性樹状細胞は、GM-CSFとTGF-βの刺激だけでランゲリンとCD1aを強発現する細胞(LCH細胞様)に分化したが、CD14陽性古典的単球ではさらにNotch刺激を必要とした。古典的および非古典的単球の両者は、in vitroでM-CSFおよびヒト血清によって泡沫状マクロファージ(ECD細胞様)に容易に分化したが、CD1c陽性骨髄性樹状細胞は分化しなかった。これらのことは、LCHおよびECDの両者ともに、2つ以上の直前の造血前駆細胞を起源とすることを示している。

6)「LCHにおける新規のBRAFスプライシング体細胞性変異」

New somatic BRAF splicing mutation in Langerhans cell histiocytosis.

Héritier S, et al. Mol Cancer. 2017 Jul 6;16(1):115.

LCHは、MAPキナーゼ細胞シグナル伝達経路(RAS-RAF-MEK-ERK)の恒常的活性化を伴う炎症性骨髄腫瘍である。BRAF V600およびMAP2K1変異を伴わない9例のLCH症例を全エクソンシークエンシングにより分析した。2例において新規の体細胞性BRAFスプライシング変異を同定した。どちらの症例も小児の単一臓器(SS)型LCHで、骨病変は自然治癒した。この変異は、BRAFの9塩基重複(c.1511_1517 + 2dup)で、キナーゼドメインのN末端部に3つのアミノ酸(p.Arg506_Lys507insLeuLeuArg)が挿入された変異タンパク質をコードすると想定された。HEK293細胞にc.1511_1517 + 2dup BRAF変異を一過性に発現させるとMAPキナーゼ経路が活性化され、この活性化はvemurafenibによって阻害されなかったが、BRAF単量体および二量体のシグナル伝達を阻害する第二世代のBRAF阻害剤:PLX8394によって阻害された。この変異がLCHにどのくらいあるのか、自然治癒する骨SS型LCHにのみ認められるのかをより明確にするために、今後、LCH分子スクリーニングパネルにこの新規変異を含めるべきである。

7)「環軸椎LCHの放射線学的特性と予後解析」

Atlantoaxial Langerhans cell histiocytosis radiographic characteristics and corresponding prognosis analysis.

Zhang L, et al. J Craniovertebr Junction Spine. 2017 Jul-Sep;8(3):199-204.

【背景】LCHは環軸椎に浸潤することがあるが、環軸椎LCHの特徴を記載した報告は極わずかである。【目的】環軸椎LCHの画像所見を検討し理解を深めることを目的とする。【方法】環軸椎病変のCTとMRI画像を後方視的に検討し予後を分析した。【結果】41例のLCH患者(平均年齢12.9歳、中央値8歳、15歳未満が75.6%)を解析した。84病変が同定され、環椎が47、軸椎が37病変であった。環椎と軸椎の溶骨性病変が特徴的で、辺縁硬化を22%に伴った。13例に圧迫骨折があり、環椎の外側塊が11例、軸椎の椎体が2例であった。16例に環軸椎整列不整を、3例に脱臼を認めた。T2強調画像では、68.9%が信号強度正常または低下、27.7%が高信号、3.4%が不均一信号であった。造影検査では、81.9%が有意な造影効果、12.5%は中程度の造影効果、6.3%に軽度の造影効果が見られた。CTを再検査した14例では、12例では環軸椎骨破壊は比較的修復されていた。経過観察された33例では、81.8%に有意な症状がなかったが、18.2%に症状が残存していた。【結論】環椎と軸椎はLCHの病変部位となり、患者は主に小児であった。外側塊の圧迫骨折を伴うことが多く、環椎および軸椎の破壊により環軸椎関節の不安定性を生じる可能性がある。ほとんどの例で予後は良好であった。

8)「キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR) 2DL4はLCHに発現し、LCHの細胞増殖を抑制する」

Killer cell immunoglobulin-like receptor 2DL4 is expressed in and suppresses the cell growth of Langerhans cell histiocytosis.

Takei Y, et al. Oncotarget. 2017 Jun 6;8(23):36964-36972

キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)2DL4(CD158d)は、ヒト白血球抗原-Gの受容体である。KIR2DL4の機能は、NK細胞リンパ腫および肥満細胞腫において報告されているが、LCHでの報告はない。LCHにおけるKIR2DL4の発現および機能を検討した。病理組織検体では、免疫組織学的にLCH の27/36(75.0%)に発現を認めた。その発現は、年齢、性別、病変部位、病型、免疫染色でのBRAF V600E発現とは関連がなかった。ヒトLCH様細胞株ELD-1およびPRU-1においてKIR2DL4のmRNAおよびタンパクが発現していることを確認した。KIR2DL4タンパクはELD-1細胞の細胞膜および細胞質に分布したが、PRU-1細胞では細胞質にのみ分布していた。KIR2DL4に対するアゴニスト抗体は、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)のリン酸化を抑制し、ELD-1細胞の増殖をSrc相同領域2ドメイン含有ホスファターゼ2依存性に抑制したが、PRU-1細胞に対しては効果を示さなかった。これらの結果から、KIR2DL4によるERKの抑制が、LCH細胞に対する治療標的となる可能性が示唆される。

9)「耳嚢浸潤を伴う側頭骨LCH」

Langerhans Cell Histiocytosis of the Temporal Bone with Otic Capsule Involvement.

Blumberg JM, et al. Clin Neuroradiol. 2017 Jun;27(2):163-168.

【はじめに】画像所見および聴覚所見に異常のあるLCHの耳嚢の破壊病変は適切な治療によって完全に回復することを示すことを目的とする。側頭骨にLCH病変のある症例の診断時および治療中の臨床および画像データを後方視的に解析した。【方法】IRB承認を得て、側頭骨病変を伴うLCH症例を施設内データベースで検索した。組織学的にLCHと診断され、治療前にCTで側頭骨または耳嚢に病変があり、治療開始後少なくとも6か月間にCTまたはMRI検査がされている例を対象とした。【結果】8例の側頭骨病変を伴うLCH症例があり、そのうち3例は画像または臨床的に耳嚢浸潤があった。治療後の画像では3例とも迷路の骨構造は完全に修復され、聴力もほぼ完全に回復していた。【結論】側頭骨病変はLCHの病変部位としてよく見られるが、耳嚢浸潤はまれである。本論文は、最も症例数が多いLCHの耳嚢浸潤の報告であり、適切な治療を行うことにより耳嚢の構造と聴覚の両方が回復するかを検討した。迷路の骨構造が回復したことから、LCHの迷路病変は、脱灰であり、完全な破壊ではないことが示唆される。

10)「ペリオスチン低値は、成人LCH患者において独立した疾患活動性関連因子である」

Low periostin levels in adult patients with Langerhans cell histiocytosis are independently associated with the disease activity.

Anastasilakis AD, et al. Metabolism. 2017 Jun;71:198-201.

【目的】LCHは、CD1a/CD207陽性の骨髄性樹状細胞のまれな増殖性疾患であり、あらゆる年齢に発症し、多臓器に浸潤する可能性がある。成人LCH患者の血清periostinおよびsclerostin値を評価した。【方法】38例の成人LCH患者と38例の年齢および性別を合わせた健常対照とを比較した横断研究である。血清periostinおよびsclerostin値を測定し、LCH患者と対照との間、および、疾患活動期の患者と非活動期の患者で比較した。【結果】血清periostin値はLCH患者では対照群に比べ有意に低かった(457±72 ng/mL vs. 721±79 ng/mL, p=0.014)が、血清sclerostin値は患者と対照間で差はなかった(29.0±1.8 pmol/L vs. 39.5±3.8 pmol/L, p=0.12)。血清periostin値は疾患活動性のある患者では非活動性の患者に比べて有意に低かった(240±78 ng/mL vs. 558±94 ng/mL, p=0.008)。病変部位、病型、治療中かどうかとは、いずれも関連がなかった。【結論】疾患活動性疾のある成人LCH患者では、血清periostin値は低値であった。このことから、periostinがLCHの疾患活性の血清バイオマーカーとして役立つかどうか、さらに検討する必要がある。