• Englishサイトへ
  • リンク集
  • お問い合わせ

JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第55回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)蛸サイン-肺LCHにおける高解像度CTの新しいサイン」

The Octopus Sign-A New HRCT Sign in Pulmonary Langerhans Cell Histiocytosis.

Poellinger A, Berezowska S, Myers JL, Huber A, Funke-Chambour M, Guler S, Geiser T, Harari S, et al. Diagnostics (Basel). 2022 Apr 8;12(4):937.

【背景】肺LCHによる肺線維症は、組織学的に、中隔索と蛸のように見える気腔の拡大を伴う中心瘢痕を呈する。この研究は、高解像度CT画像上で、蛸サインを同定し、疾患の病期全体にわたりその頻度と分布を明らかにすることを目的とする。【方法】肺LCHと診断された57例を対象とした。2人の経験豊富な胸部放射線科医が、病期が初期、中期、後期であるか、また、肺実質変化が結節性、嚢胞性、線維性であるか、蛸サインがあるかを評価した。統計分析として、評価者の一致率の評価にはCohenのカッパを、蛸サイン頻度の比較にはフィッシャーの正確テストを用いた。【結果】蛸サインについては、評価者間で一致していた(カッパ値=0.747)。蛸サインは、病期3よりも病期2で有意に多かった。さらに、蛸サインは、結節性および嚢胞性病変にのみ見られた。【結論】肺LCHの蛸サインは、組織学的だけでなく、高解析CT画像でも識別できる。放射線学的な蛸サインの存在は肺LCHの病期に依存していると思われる。

2)マクロファージ活性化症候群-血球貪食性リンパ組織球症を伴う小児LCHの臨床的特徴および治療転帰

Clinical features and treatment outcomes of pediatric Langerhans cell histiocytosis with macrophage activation syndrome-hemophagocytic lymphohistiocytosis.

Wang D, et al. Orphanet J Rare Dis. 2022 Apr 4;17(1):151.

【背景】LCHは、まれな骨髄性腫瘍である。LCH患者は、生命を脅かす過剰炎症性症候群であるマクロファージ活性化症候群-血球貪食性リンパ組織球症(MAS-HLH)を併発することが稀にある。単一のセンターでMAS-HLHを併発した28例の小児LCH患者の臨床的、生物学的特徴を後方視的に分析した。さらに、BRAF V600E陽性例において、二次治療の化学療法(シタラビンとクラドリビン)と標的療法(dabrafenib)の治療転帰の違いを分析した。【結果】MAS-HLHのLCH患者は、2歳未満で、高頻度にリスク臓器・皮膚・リンパ節病変を伴っており、ほとんどはBRAF V600E変異が病変(88.0%)または血漿(90.5%)で検出された。一次治療として初期導入療法(ビンデシン/ステロイドの組み合わせ)で治療されたが、ほとんどの例(26/28)は、6週間の導入療法の1コース後にMAS-HLHの活動性を制御できなかった。その後、二次治療として化学療法または標的療法が行われた。dabrafenibで治療されたBRAF V600E変異陽性例は、化学療法で治療された例よりも有害事象が少なく、MAS-HLHの兆候と症状は迅速に消失した。さらに、dabrafenibを投与された例の無進行生存率(PFS)は、化学療法で治療された例よりもはるかに高かった(4年PFS:75% vs. 14.6%、P=0.034)。【結論】MAS-HLHのあるLCH例は、MAS-HLHのない多臓器LCHと比較して、特徴的な臨床的・生物学的特性を示した。BRAF阻害剤dabrafenibは、MAS-HLHを併発したLCHの有望な治療オプションとなる。

3)「タイの小児LCHの臨床転帰と臓器病変のスクリーニング:タイ小児腫瘍学グループの多施設共同研究」

Clinical outcomes and screening for organ involvement in pediatric Langerhans cell histiocytosis in Thailand: multicenter study on behalf of the Thai Pediatric Oncology Group.

Monsereenusorn C, et al. Int J Hematol. 2022 Apr;115(4):563-574.

LCHは、全年齢層に発症しうるまれな疾患で、様々な程度の様々な臓器病変を特徴とする。タイの小児LCHの臨床的特徴、予後因子、転帰を明らかにし、臓器病変のスクリーニング方法を検証するために、1999年~2018年の間に5つの小児腫瘍学センターで治療された小児LCH患者の多施設共同後方視的研究が実施された。127例が対象となり、年齢は中央値2.7歳であった。単一臓器型と多臓器型の比は1:1であった。多臓器型LCHのうち、47例(71%)はリスク臓器浸潤陽性、19例(29%)は陰性であった。5年間の全生存率と無イベント生存率はそれぞれ91.3%と73.6%で、先進国と同等であった。予後因子として、年齢が2歳未満、リスク臓器陽性多臓器型、リスク臓器数が挙げられた。血球数の異常数は非常に敏感な骨髄病変の指標であった。単純X線写真は、骨病変を検出するための適切なスクリーニング法である。

4)「micro RNA-15a-5pはCXCL10-ERK-LIN28a-let-7系を媒介することにより組織球症の腫瘍抑制因子として機能する」

MicroRNA-15a-5p acts as a tumor suppressor in histiocytosis by mediating CXCL10-ERK-LIN28a-let-7 axis.

Weissman R, et al. Leukemia. 2022 Apr;36(4):1139-1149.

Erdheim-Chester病(ECD)は、複数の組織や臓器における組織球の過剰な産生と蓄積を特徴とする。ECD患者には、RAS/RAF/MEK/ERKシグナル伝達経路に関連する遺伝子変異、特にBRAF V600E変異を頻繁に認める。miR-15a-5pは、健康対照と比較しECD患者で最も顕著に発現が抑制されているmicro RNAであるということを見出したことから、今回ECDにおけるその役割の解明を試みた。バイオインフォマティクス分析とそれに続くルシフェラーゼアッセイにより、CXCL10がmiRNA-15a-5pによって発現制御される標的遺伝子であることが示された。このことは、34例中24例のECD患者において、miR-15a-5pの発現が低くかつCXCL10の発現が亢進していることによって立証された。BRAFまたはRAS変異のある細胞株(Ba/F3、KG-1a、OCI-AML3)でmiR-15a-5pを過剰発現させると、CXCL10の発現低下し、続いてp-ERKシグナル伝達およびLIN28aの発現低下とlet-7ファミリーの発現上昇が見られた。miR-15a-5pの過剰発現は、Bcl-2およびBcl-xlの発現を低下させ、アポトーシスを誘導し細胞増殖を阻害した。MAPK阻害剤(ベムラフェニブ/コビメチニブ)で4か月間治療された7例のECD患者から経時的に採取した検体を分析すると、miR-15a-5pの発現亢進とCXCL10の発現低下が示された。私たちの研究結果は、miR-15a-5pはCXCL10-ERK-LIN28a-let7系を介したECDの腫瘍抑制因子であり、この疾患において転写後調節というもう一つの病態であることを示唆している。ECD患者におけるmiR-15a-5pの発現上昇は、潜在的な治療的役割を果たしている可能性がある。

5)「組織球症の眼病変: 2つの眼科センターにおける28例の疫学的および臨床病理学的研究」

Ophthalmic histiocytic lesions: a baseline demographic and clinicopathological study of 28 cases from two eye centers.

Alkatan HM, et al. Int Ophthalmol. 2022 Apr;42(4):1221-1232.

【目的】組織球症の眼病変は、組織球の異常な増殖を特徴とする多様でまれな疾患群からなり、全ての年齢層の男女に発症する可能性がある。この研究の目的は、この分野でこれまでに研究されていない、眼科診療におけるこのまれな疾患群の疫学的、臨床的、組織病理学的特徴を浮き彫りにすることである。これまで、症例報告のみが刊行されている。【方法】これは、1993年1月~2018年12月まで、サウジアラビアのリヤドにある2つのセンター、King Khaled Eye Specialist Hospital (KKESH)およびKing Abdulaziz University Hospital (KAUH)において生検された全ての眼および眼周囲の組織球症の後方視的研究である。全ての組織病理学標本を再確認し、病理診断を確定し、症例を再分類した。疫学的および臨床データを分析した。我々の結論を導き出すため、関連する文献レビューも実施し、本研究の分析データと刊行されているデータと比較した。【結果】28例、計34の眼球/眼周囲の組織球性病変が見出され、ほとんどがサウジアラビア人(92.9%)であった。男女比は4:3であった。受診時の年齢は中央値6.4歳(範囲:2.8~35歳)であった。22例が片側性病変、6例は両側性病変であった。LCH(LCH:L群)では、最も多い所見は、眼瞼の腫れ(75%)、眼周囲の圧痛(37.5%)、眼球突出/眼球変位(37.5%)、眼瞼の紅斑(25%)、眼窩の痛み(12.5%)。Rosai-Dorfman病(RDD:R群)では、全例が眼球突出/眼球偏位が発生し、80%に視力低下を認めた。C群(皮膚のnon-LCH組織球症)では、大部分は眼瞼の病変であったが(66.7%)、病変部位が様々で臨床的特徴も様々であった。病理診断と臨床診断が一致したのは、L、C、R群でそれぞれ38.8%、33.7%、46.7%であった。全体として、臨床診断は、34病変のうち14病変(41.2%)で組織病理学的診断と一致していた。【結論】組織球症は、稀であるため臨床的に見落とされる可能性が高くなる。C群では、若年性黄色肉芽腫の頻度が最も高かったが、以前に発表された報告とは対照的に、眼内病変は非常に希ではあるが年長者に発症する傾向があった。受診時年齢の中央値はR群で高かった。L群の患者は全てが片側性であったが、R群では両側性であることが多かった。遺伝的側面、治療方針、予後について今後の研究が必要である。

6)「壊死性黄色肉芽腫の全身療法:系統的レビュー」

Systemic therapy of necrobiotic xanthogranuloma: a systematic review.

Steinhelfer L, et al. Orphanet J Rare Dis. 2022 Mar 24;17(1):132.

【背景】壊死性黄色肉芽腫(NXG)に対して様々な全身療法が行われているが、これについて系統的に総括した論文はない。【目的】最も効果的な治療法を見出すために、NXGに対する全身療法に関する全ての既存の文献をレビューする。【方法】NXGに対する全身治療について全ての論文をスクリーニングした。治療法について適切な記述のない論文、局所療法についての論文、有効性の評価のない論文は除外した。その結果、79編の論文、計175例を分析した。【結果】NXGに対する最も効果的な治療法は、静脈内免疫グロブリン(IVIG)、コルチコステロイド、コルチコステロイドを含む併用療法であった。【結論】したがって、コルチコステロイドとIVIGは、NXGに対する第一選択治療と見なされる。

7)「中枢神経系のRosai-Dorfman-Destombes病: 系統的文献レビュー」

Rosai-Dorfman-Destombes disease of the nervous system: a systematic literature review.

Nasany RA, et al. Orphanet J Rare Dis. 2022 Mar 2;17(1):92.

【背景】Rosai-Dorfman-Destombes病(RDD)は、多様な臨床症状を呈し、ときに中枢神経病変を伴うまれな組織球症である。中枢神経病変を伴うRDDに関する既存の臨床文献は、まだ批判的に検討されていない。【方法】二次文献を除いて、中枢神経病変を伴うRDD例について、4つのデータベースの英文論文の体系的な文献検索を行った。中枢神経症状、疾患部位、治療、治療反応に関する個々の患者データを収集した。第一選択および第二選択の外科的治療、術後放射線療法、全身療法に対する反応性を分析した。【結果】文献検索によって得られた4,769編の論文のうち、154編の論文を完全にレビューし、224例の中枢神経病変を伴うRDD患者に関するデータを抽出した。128編(83.1%)の論文は単一の症例報告であった。149例(66.5%)が男性、74例(33.5%)が女性で、年齢は中央値37.6歳(範囲:2~79歳)であった。主な神経学的症状は、頭痛(45.1%)、局所神経障害(32.6%)、視覚異常(32.1%)、痙攣発作(24.6%)であった。32例(14.3%)は多病変RDDであった。一次治療として、200例(89.6%)が切除を受けたが、52例(26%)はその後に進行し、そのうち41例(78.8%)は単発病変であった。部分切除後に放射線療法を受けた例と受けなかった例を比較しても、無増悪生存期間に差を認めなかった。一次治療として化学療法を単独で受けた7例中3例(43%)が完全または部分奏効していた。二次治療により、37例中18例(37.5%)は完全または部分反応していた。遺伝子変異の検索がされているのは10例(4.46%)のみであった。【結論】このレビューは、さまざまな症状と転帰を示す中枢神経RDDに関する数少ない発表論文に焦点を当てた。遺伝子変異についてはさらなる研究が必要であり、再発性および難治性疾患にはより効果的な治療法が必要である。

8)「Rosai-Dorfman 病におけるサイクリンD1の発現: MAPK/ERKの活性化と必ずしも関連していない、ほぼ普遍的な所見」

Cyclin D1 expression in Rosai-Dorfman disease: a near-constant finding that is not invariably associated with mitogen-activated protein kinase/extracellular signal-regulated kinase pathway activation.

Garces S, et al. Hum Pathol. 2022 Mar;121:36-45.

MAPK/ERK経路の活性化変異は、Rosai-Dorfman病(RDD)の症例のほぼ半分で示されている。重要な細胞周期調節因子であるサイクリンD1は、MAPK/ERK経路の主要な下流標的分子である。この研究では、病変組織球におけるサイクリンD1、p-ERK、Ki-67、BCL-2の発現を免疫組織化学によって評価し、RDDの病因をさらに明らかにすることを目的とした。35例のRDDの検体と、対照として組織球が豊富な反応性病変を評価した。サイクリンD1は、RDDの症例の約90%で発現していた。サイクリンD1は、病変組織球の25~95% (中央値:85%)で陽性で、サイクリンD1陽性症例の97%は中程度か強度に発現しており、対照群よりも有意に高発現であった。p-ERKは、RDDの30例中16例(53%)で陽性で、対照群は全例が陰性であった。p-ERK陽性のRDDの全例がサイクリンD1を同時に発現していたが、サイクリンD1陽性の症例の1/ 3以上がp-ERK陰性であった。Ki-67は、RDDで低値(中央値:3%)であった。BCL-2は、評価された10例のRDDのうち9例の病変組織球で陽性であった。全体として、これらの結果は、RDDの病因におけるこれらの分子の予想外の潜在的な役割を示している。RDD症例の中にERKリン酸化を認めずにサイクリンD1が高発現する例があることから、ERKを迂回する発癌メカニズムの可能性が考えられ、RDDにおけるサイクリンD1の過剰発現は多因子によると想定される。さらに、サイクリンD1とKi-67増殖指数に相関がなかったことから、サイクリンD1の生存促進作用は、少なくとも部分的には細胞周期に依存しないことを示唆している。最後に、BCL-2が発現している一方Ki-67増殖指数が低いことから、RDDは増殖発癌機構ではなく抗アポトーシスによって引き起こされている可能性が示唆される。

9)「小児における頭頸部LCH」

Head and Neck Langerhans Cell Histiocytosis in Children.

Xu J, et al. J Oral Maxillofac Surg. 2022 Mar;80(3):545-552.

【目的】LCHの治療方針に関して、頭頸部外科専門医の間で論争が存在する。この研究の目的は、頭頸部の小児LCHにおける診断、治療方針、治療転帰を評価することである。【方法】2009年~2021年にアトランタ病院の小児科に紹介された小児の頭頸部LCHコホートを後方視的に解析した。疫学的情報、病変の部位、臨床症状、X線所見、診断手段、治療、フォローアップ期間を独立変数とした。患者は、これらの項目に基づいてグループ化された。疾患の再発を従属変数とした。記述統計量を算出した。【結果】頭頸部LCHは3群に分けられた。グループ1はCNSリスクのない単一臓器型(SS-)。平均年齢は10歳で、24例であった。病変部位は頭蓋冠および/または下顎骨であった。大多数の例は切除のみで治療されていた。2例が再発した。グループ2はCNSリスクを伴う単一臓器型(SS+)。平均年齢は6歳で、30例であった。病変部位の多くは側頭骨および/または眼窩であった。これらの例は再発性の耳感染症と眼瞼下垂を呈していた。大部分(28例)は化学療法で治療されていた。1例が再発した。グループ3は、多臓器型。平均年齢は2歳で、13例であった。皮膚病変とリンパ節病変を呈していた。画像所見で、頭蓋外の臓器病変を認めた。全て化学療法で治療されていた。40%に再発を認めた。【結論】LCHの治療は症状によって異なる。SS-型は、外科的切除によって適切に治療可能である。SS+および多臓器型、早期診断が望まれ、化学療法を必要とする。

10)「vemurafenibはLCHにおいて全身性炎症のオン/オフスイッチとして機能する」

Vemurafenib acts as a molecular on-off switch governing systemic inflammation in Langerhans cell histiocytosis.

Eder SK, et al. Blood Adv. 2022 Feb 8;6(3):970-975.

LCHは、CD1a陽性CD207陽性細胞の集簇を特徴とする腫瘍である。体細胞のBRAF V600E変異によって引き起こされることが最も多い。リスク臓器浸潤陽性の多臓器型では骨髄毒性を伴う化学療法を必要とするが、BRAF阻害剤は魅力的な治療選択肢となる。救済化学療法にvemurafenibを組み合わせて治療し、持続的な臨床的および分子的寛解を達成したLCH患者の経過を包括的に分析し報告する。vemulafenibによる治療中の末梢血BRAF V600E変異コピー数レベルと臨床症状に相関はなかったが、vemulafenibは全身性炎症症状を迅速に効率的に改善し、中断により再発した。また、血清中炎症性サイトカイン値は、ベムラフェニブ投与を正確に反映していた。遺伝子解析により、NK細胞や顆粒球を含む複数の造血細胞でBRAF V600E変異が同定された。診断時および治療中の末梢血および骨髄細胞の単一細胞トランスクリプトーム分析によって、BRAF阻害は、以前からLCHに関連することが報告されていたIL-1βやCXCL8などの炎症性サイトカイン発現を消し去ることが示された。総合すると、私たちのデータは、CD1a陽性CD207陽性組織球がLCHの特徴である一方で、BRAF変異陽性の他の細胞集団が多臓器LCHの臨床像に大きく関与している可能性を示唆している。