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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第17回 最新学術情報(2011.7)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「成人の骨LCH:まれながんのネットワークの研究」

Adult langerhans cell histiocytosis of bones : a rare cancer network study.

Atalar B, et al. Acta Orthop Belg. 2010 Oct;76(5):663-8.

LCHは、通常、小児に見られるまれな良性骨腫瘍である。成人の骨LCHは単一病変例が報告されてきた。本研究の目的は、成人LCHに対する様々な治療アプローチと放射線治療(RT)の役割を分析することである。 5つの「まれながんネットワークセンター」からの30例の患者が、この後ろ向き研究に組み入れられた。年齢の中央値は30歳だった。腫瘍の部位は12例(40%)が頭蓋骨、6例(20%)が下肢、4例(13.3%)が胸郭の骨、3例(10%)が脊椎、2例(6.7%)が骨盤、3例(10%)が多病変であった。初期治療は、1例(3.3%)が手術、15例(50%)が手術+RT、12例(40%)がRT、1例(3.3%)がRT+ 化学療法、1例(33%)がコルチコステロイドであった。追跡期間の中央値は58か月であった。21例(70%)は完全寛解、4例(13.3%)は部分寛解し、2例(6.7%)に病状安定が得られ、2例(6.7%)は病状進行した。9例(30%)が再燃した。再燃率は手術およびRTで治療された患者で有意に低かった(p<0.003)。手術は、成人の骨LCHの治療に大きな役割を果たしている、放射線治療は術後補助療法と緩和治療として考慮されるべきである。

2)「ホスファチジルセリン受容体(T細胞免疫グロブリンムチン蛋白質3と4)は、組織球肉腫と他の組織球腫瘍および樹状細胞腫瘍のマーカーである」

The phosphatidylserine receptors, T cell immunoglobulin mucin proteins 3 and 4, are markers of histiocytic sarcoma and other histiocytic and dendritic cell neoplasms.

Dorfman DM, et al. Hum Pathol. 2010 Oct;41(10):1486-94.

T細胞免疫グロブリンムチン(TIM)タンパク質は、細胞表面のホスファチジルセリン受容体ファミリーに属し、アポトーシス細胞の認識と貪食に重要な役割がある。TIM-4はヒト組織中のマクロファージや樹状細胞に発現しているので、我々は組織球腫瘍や樹状細胞腫瘍でその発現を検討した。若年性黄色肉芽腫と組織球肉腫では免疫組織化学的染色で中等度から強陽性、指状嵌入樹状細胞肉腫、LCH、急性単球性白血病(皮膚白血病)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(hematodermic腫瘍)では弱陽性であった。TIM-3は当初、活性化Th1細胞での発現が報告されたが、最近、ホスファチジルセリン受容体であり食作用を仲介することも示された。我々は、TIM-3が腹腔マクロファージ、単球および脾臓樹状細胞で発現していることを見出した。TIM-3は、TIM - 4と同様に、組織球腫瘍と樹状細胞腫瘍において、免疫組織化学染色で典型的には強陽性に発現していることを明らかにした。一般的に、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、転移性悪性黒色腫、転移性低分化癌の症例では、TIM-4とTIM-3は陰性から不均一な極弱陽性を示した。我々は、組織球腫瘍と樹状細胞腫瘍では一貫してTIM-3とTIM-4が発現しており、これらの分子は組織球や樹状細胞由来の腫瘍の新しいマーカーであると結論する。

3)「消化管浸潤を伴うLCH」

Langerhans cell histiocytosis with digestive tract involvement.

Yadav SP, et al. Pediatr Blood Cancer. 2010 Oct;55(4):748-53.

LCHの消化管浸潤については、あまり記載がない。我々は、消化管浸潤を呈した2例の小児例を提示する。1例は標準プロトコールによる治療が奏功し、もう1例は再燃例のためのプロトコールで治療を受けた。文献のレビューでは、約95%の患者は2歳未満で、62%が女児であった。症状として、嘔吐、腹痛、便秘、難治性下痢症、吸収障害、血便、蛋白漏出性腸症、さらには腸穿孔が報告されていた。50%以上の患者が診断から18か月以内に死亡していた。

4)「LCHにおける再現生のあるBRAF遺伝子変異」

Recurrent BRAF mutations in Langerhans cell histiocytosis.

Badalian-Very G, et al. Blood. 2010 Sep 16;116(11):1919-23.

LCHは、様々な臨床像を示し、一部の例では自然治癒するが、多臓器に浸潤する例では死亡率が高い。LCHにおけるランゲルハンス細胞はクローン性であるが、それらが良性の形態を示すことと今日まで再現性のある遺伝子異常が報告されていないことから、LCHは悪性腫瘍ではない可能性がある。ここでは、ホルマリン固定されたパラフィン包埋材料において発癌関連遺伝子変異を2つの異なる方法を用いて検索し、保管されていた61検体中35例(57%)で発癌関連BRAF V600E変異を同定した。p53とMET遺伝子変異が、それぞれ1検体においてみつかった。BRAF V600E変異は、若年患者に多い傾向があったが、病変の部位や病期には関連していなかった。ランゲルハンス細胞は、変異の有無に変わらず、リン酸化MEKとリン酸化ERK染色陽性であった。LCHにおいて高率に再現性のあるBRAF遺伝子変異が見られたことは、LCHがRAF経路の阻害剤に反応する可能性のある腫瘍性疾患であることを示している。

5)「LCHにおけるクローン性リンパ受容体遺伝子の再構成の検出」

Detection of clonal lymphoid receptor gene rearrangements in langerhans cell histiocytosis.

Chen W, et al. Am J Surg Pathol. 2010 Jul;34(7):1049-57.

LCHは、ヒスチオサイトーシスXとしても知られているが、ランゲルハンス細胞(LC)が様々な臓器において異常集積および/またはクローン性増殖することを特徴とする、稀なヒトの疾患である。LCの細胞起源はその発見以来、ずっと議論の対象となっている。この特殊な樹状細胞は戦略的に上皮内に存在するので、LCは一般的に、骨髄に由来する骨髄性のものと考えられている。しかし、マウスの最近の研究では、LCはリンパ系へ分化しているCD4前駆体から派生させることができ、このことはLCがリンパ系起源であることを示唆している。ヒトのLCHでは、リンパ系や骨髄系の悪性腫瘍が、同時または相前後して生じることがときおり報告されており、このことは系統の可塑性および/または2つの形態学的および免疫学的特性の異なる腫瘍の分化転換の可能性を示唆している。ヒトのLCHの病因と細胞起源をより理解するために、我々は後方視的に、確定診断された46例のLCH症例において、T細胞受容体γ遺伝子(TRG @)、免疫グロブリン重鎖およびκ軽鎖遺伝子(IGH @ / IGK @)のクローン性再構成の検出を試みた。46例のうち、男性25例と女性21例で年齢は1歳未満から59歳までであった。BまたはT細胞リンパ腫の既往または現病をもつ例は1例もなかった。46例のうち、30%(14/46)に、クローン性遺伝子再構成(IGH@:4例、IGK@:5例、TRG@:9例)があった。興味深いことに、少なくとも1つのリンパ球受容体遺伝子のクローン再構成をもつ14例のうち、3例はTRG @とIGH @ / IGK @遺伝子再構成の両方をもっていたが、T細胞またはB細胞系統の特異的あるいは関連マーカーを発現していなかった。このことは系統の可塑性または腫瘍の背信性を示唆している。さらに、14例すべては、定量的PCR解析によってt(18;14)は陰性であった。結論として、私たちの研究では、リンパ球受容体遺伝子の再構成が、散発的なLCH例の一部で検出可能であり、このことは、LCとリンパ系細胞の系統的な関連性、あるいは、LCがリンパ系/骨髄系前駆細胞に由来していることを示唆している。この結果は、造血細胞およびその造血器腫瘍の系統的可塑性についての現在の概念を支持する遺伝子学的証拠となる。

6)「MACOP - Bレジメンによる成人LCHの治療:7例の経験」

MACOP-B regimen in the treatment of adult Langerhans cell histiocytosis: experience on seven patients.

Derenzini E, et al. Ann Oncol. 2010 Jun;21(6):1173-8.

【背景】成人LCHはまれな疾患である。ビンブラスチンおよびプレドニゾンの組み合せによる6か月治療は、標準治療であるが、前向き無作為化試験はない。【患者と方法】7例の成人患者(多臓器(MS)型LCH:3例、単一臓器多発(SS-m)型LCH:4例)に対する、メトトレキサートおよびドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾロン、ブレオマイシンによる短期集中的な化学療法(MACOP-B)の単一施設の経験を報告する。【結果】全奏効率は100%であった(完全寛解(CR)が5例、部分寛解(PR)が2例)。追跡期間の中央値6.5年で、4例が最初完全寛解を維持し、3例が5か月、8か月、62か月の時点で再燃した。4例が陽電子放射断層撮影法(PETスキャン)で評価を受け、治療終了時にPET陰性であった3例は全例寛解を維持(1例のみ5年後に再燃)した。診断時のPETスキャンによって4例中2例に、さらなる骨病変が見つかり、そのため1例で治療方針が変更された。【結論】MACOP-Bレジメンは、成人MSまたはSS-m型LCHに対し非常に有効な治療と考えられ、7例中5例において長期の寛解が得られた。PETスキャンは、診断時の病期分類および化学療法に対する反応のさらなる評価に有効である。

7)「小児LCHの頭頸部症状と予後」

Head and neck manifestation and prognosis of Langerhans' cell histiocytosis in children.

Nicollas R, et al. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2010 Jun;74(6):669-73.

【目的】小児LCHの頭頸部病変の臨床像、および、その集学的管理と予後を正しく評価する。【研究デザイン】 後ろ向き研究。【患者と方法】三次医療センターの小児血液、および、小児腫瘍、小児耳鼻咽喉科部門で治療を受けた42例のLCH患者の臨床報告を分析した。頭頸部に病変がある例のみを解析した。診断時年齢、性別、臨床症状、病変の広がり、治療への反応、予後を、これらの患者のカルテから分析した。【結果】42例中31例(73.8%)は、病変が頭頸部にあった。このうち10例は、病変が頭頚部に限局していた。多臓器型LCHのほとんどは3歳未満(平均2歳)で、骨病変は年長児に見られた。行われたすべての治療は、安全で反応があった。【考察と結論】LCHの頭頚部病変は非常に頻度が多いことが知られている。決まった治療はないが、著者らは、LCH患者の治療は可能な限り控えめのほうがよいことを強調したい。切除すると機能的または美容上重大な問題を生じる可能性のある弧発性の大きな病変の場合には、最初に生検をすることが重要である。多臓器LCHの場合は、現在進行中の化学療法剤による臨床試験によって治癒率が上がると考えられる。

8)「LCHのクローン状態と臨床病理学的特徴」

Clonal status and clinicopathological features of Langerhans cell histiocytosis.

Gong L, et al. J Int Med Res. 2010 May-Jun;38(3):1099-105.

いくつかの研究によって、LCHはランゲルハンス細胞の腫瘍性の過形成であることが示されてきた。しかし、LCH診断時および経過中の両方の時期において、多くのLCH患者でクローナリティーを評価するべきであると、一部の研究者は考えている。正常組織と反応性過形成は多クローン性であるのに対し、ほとんどの腫瘍においては単クローン性であるということが大きな特徴である。さらにランゲルハンス細胞の性質を解明するために、本研究では、3例のLCHの女性患者において、臨床病理学的特徴、および、体細胞組織におけるX染色体不活性化のモザイクとアンドロゲン受容体遺伝子の多型に基づいた、レーザーマイクロダイセクションとクローナリティー解析を用いてクローナリティーを調べた。LCHは形態学的に特徴的なランゲルハンス細胞および好酸球、巨細胞、好中球および泡沫細胞から構成されることが示された。免疫染色では、ランゲルハンス細胞はCD1a、S-100蛋白およびビメンチン陽性であった。クローナリティー解析では、ランゲルハンス細胞は単クローン性であり、LCHが腫瘍であることを実証した。これを確実に証明するためにはより多くの症例での追加研究が必要であるが、LCHはクローナルな増殖を特徴としていると結論づける。

9)「日本における造血幹細胞移植による小児の難治性LCHの予後の改善」

Improved outcome of refractory Langerhans cell histiocytosis in children with hematopoietic stem cell transplantation in Japan.

Kudo K, et al. Bone Marrow Transplant. 2010 May;45(5):901-6.

従来の化学療法に不応性であるLCHの予後は不良である。造血幹細胞移植(SCT)は、その免疫調節作用によって難治性LCHに対する有望な治療手段である。本研究では、日本でSCTを受けた小児難治性LCHの転帰を分析した。1995年11月から2007年3月の間に、15例の15歳未満の難治性LCH(男9例、女6例)がSCTを受けた。診断時の患者年齢の中央値は8か月(28日~28か月)で、全例が従来の化学療法に反応不良例であった。SCT時の年齢の中央値は23か月(13~178か月)であった。9例は診断時にリスク臓器病変があり、肝臓病変が6例、脾臓病変が5例、肺病変が5例、造血器病変が4例であった。骨髄破壊的前処置が10例、強度減弱前処置(RIC)が5例に行われていた。ドナーは、様々であったが、同種臍帯血が主(10例)に用いられていた。15例中11例は、LCH病変が消失して生存し、10年の全生存(OS)は73.3 ± 11.4%(中央値±標準誤差)であった。診断時にリスク臓器病変を持つ9例の10年のOSは、55.6 ± 16.6%であったのに対し、リスク臓器病変のない6例はLCH病変がない状態で全例が生存していた(p=0.07)。これらの結果は、SCTが小児難治性LCHに対する救済手段として有望であることを示している。

10)「日本における小児LCHに対する2-CdA治療の全国調査 」

Outcome of pediatric patients with Langerhans cell histiocytosis treated with 2 chlorodeoxyadenosine: a nationwide survey in Japan.

Imamura T, et al. Int J Hematol. 2010 May;91(4):646-51.

この研究の目的は、日本の小児LCH患者に対する2-CdA治療の効果を評価することである。我々は、後方視的に2-CdAで治療を受けた17例の小児LCHの患者を見出した。すべての患者は難治性または再燃例で、最初に日本LCH研究グループのJLSG- 02プロトコールにしたがって治療を受けていた。2-CdA治療開始時の状態は、リスク臓器浸潤ありの多臓器型(MS+)の初期治療不応例が4人、多臓器型の再燃例が9人(うち、MS+が5人、リスク臓器浸潤なしの多臓器型(MS-)が4例)、残りの4例は多発骨型(MFB)の不応または再燃例であった。2-CdA治療は、4~9 mg/m2/日の量を、2~5日間連続で、3~4週ごとに、2~12か月間投与されていた。4人の初期治療不応例は、2-CdAに高用量シタラビンを組み合わせて治療されていた。MS+例では、9例中5例が治療に反応した。MS-およびMFB例では、8例中5例が治療に反応した。初期治療不応例および治療中再燃例では、10例中4例が治療に反応した。一方、治療終了後再燃例では、7例中6例は治療に反応した。これらの知見は、2-CdAは治療終了後再燃のLCHに対して有効であることを示唆している。