• Englishサイトへ
  • リンク集
  • お問い合わせ

JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第63回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「non-LCH組織球症に対しMEK阻害剤トラメチニブ療法は有効である: 多施設共同解析」

Successful Treatment of Non-Langerhans Cell Histiocytosis with the MEK Inhibitor Trametinib: A Multicenter Analysis.

Aaroe A, et al. Blood Adv. 2023 Aug 8;7(15):3984-3992.

Erdheim-Chester病(ECD)とRosai-Dorfman病(RDD)は、まれなnon-LCH組織球症で、治療の選択肢は限られている。BRAF V600E変異またはその他の遺伝子変異によるMAPK経路の活性化は組織球症の特徴であり、BRAF阻害剤およびMEK阻害剤コビメチニブに対する反応性は良好である。しかし、その他のMEK阻害剤の系統的評価は行われていない。MEK阻害剤トラメチニブの有効性と安全性を評価するために、米国の4つの主要な医療施設においてトラメチニブ内服で治療された成人患者26例(ECD 17例、ECD/RDD 5例、RDD 3例、ECD/LCH 1例)の転帰を後方視的に分析した。最も多い治療関連毒性は皮疹(27%)であった。ほとんどの例において、低用量(0.5~1.0 mg/日)で有効であった。評価可能だった17例の奏効率は71%(BRAF V600E陰性例で73% [8/11])であった。追跡期間の中央値23か月の時点で、治療効果は持続しており、無増悪生存率は37か月で50%、無増悪生存率と全生存率は50%を超えていた(3年全生存率90.1%)。ほとんどの例に、BRAF変異(BRAF V600Eまたは他のBRAF変異)、またはMAPK経路の他の遺伝子(MAP2K、NF1、GNAS、RASなど)に変異を認めた。ほとんどの例は標準用量よりも少ない用量のトラメチニブでも効果が見られた。これらの結果は、MEK阻害剤トラメチニブは、BRAF V600E変異のない例を含めECDおよびRDDに対して有効な治療法であることを示唆している。

2)「PU.1は、組織球症と組織球が豊富な腫瘍を鑑別するための有用な核マーカーである」

PU.1 is a useful nuclear marker to distinguish between histiocytosis and histiocyte-rich tumours.

Ungureanu IA, et al. Histopathology. 2023 Aug;83(2):320-325.

【目的】さまざまな組織球症におけるPU.1の発現を調べ、組織球症の疑いのある腫瘍検体が組織球性起源かどうかを判定する際にPU.1が有用かを検証する。【方法と結果】LCH(13例)、Erdheim-Chester病(ECD)(19例)、Rosai-Dorfman病(RDD)(14例)、ECDとRDDの混合組織球症(3例)、ALK陽性組織球症(6例)、若年性黄色肉芽腫(11例)の計66検体を分析した。全例で、反応性および腫瘍性組織球はPU.1陽性であった。一方、高度の細胞異型があり悪性組織球症/組織球肉腫の疑いとして当センターに紹介された39例のうち、PU.1陽性は18例のみであった。実際、これらの腫瘍の半数以上(21/39例)は、間質に組織球を多数認める未分化悪性腫瘍やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、高悪性度未分化脂肪肉腫であった。PU.1免疫染色は、PU.1陰性の大きな異型核のある腫瘍とPU.1陽性の間質の反応性組織球を区別するのに有用だった。【結論】PU.1は全ての組織球症において発現している。鮮明な核染色により、組織球症と組織球が豊富な腫瘍を簡単に区別できる。組織球症様病変において病変/腫瘍細胞がPU.1陰性ならば、組織球症を除外できる。

3)「濾胞性樹状細胞肉腫における一般的な発がんメカニズムは、MAPK経路の変異ではなく、MYCおよびTP53変異である」

MYC and TP53 Alterations but Not MAPK Pathway Mutations Are Common Oncogenic Mechanisms in Follicular Dendritic Cell Sarcomas.

Frigola G, et al. Arch Pathol Lab Med. 2023 Aug 1;147(8):896-906.

【背景】間質起源にもかかわらず、濾胞性樹状細胞(FDC)は造血系細胞と多くの機能を共有している。現在WHO分類では、FDC腫瘍は組織球性腫瘍に分類されている。しかし、FDC肉腫(FDCS)において発癌を促進する遺伝子変化が明らかになりつつあり、組織球性腫瘍で報告されている遺伝子変化、すなわちMAPK経路の活性化とは異なるようである。【目的】FDCSにおいて腫瘍形成を引き起こす遺伝子変化を特定する。【方法】16例のFDCS、6例の炎症性偽腫瘍(IPT)様FDCS、8例のIPTにおいて、FDC由来の腫瘍の発癌におけるMYCとTP53の役割を解析すると伴に、MAPK経路の遺伝子変異を包括的に評価した。【結果】14例のFDCSのうち5例(35.7%)で、MYCの構造変化(増幅と再構成の両方)があり、全てMYCの過剰発現を認めた。14例のFDCSのうち4例(28.6%)で、TP53変異があり、その全てでp53の広範囲な強発現を認めた。これらの変化はいずれも、IPT様FDCSやIPTでは確認されなかった。全例でMAPK経路の遺伝子変異は確認されなかった。【結論】古典的FDCSにおいて、MYCおよびTP53変異が存在すること、EBウイルスと関連しないことは、IPT様FDCSと異なる点であり、両者の発癌メカニズムが異なることを示している。この研究の結果は、FDCSにおいては、MYCおよびTP53変異が発がんに関わる可能性を示唆している。MAPK経路に変化がないことは、FDC由来の腫瘍においてこの経路は発癌に重要な役割をしていないことを裏付けている。

4)「Erdheim-Chester病における心臓病変の有病率と特徴、転帰」

Prevalence, patterns and outcomes of cardiac involvement in Erdheim-Chester disease.

Azoulay LD, et al. Eur Heart J. 2023 Jul 7;44(26):2376-2385.

【目的】まれなL型組織球症であるErdheim-Chester(ECD)の心臓病変は予後不良因子とされているが、体系的な研究は十分ではない。本研究は、多数のECD例において、心臓病変の有病率、臨床的特徴、画像的特徴、予後を分析することを目的とした。【方法と結果】2003年~2019年にフランスの三次医療センターで心臓磁気共鳴(CMR)画像検査を受けた全てのECD患者を後方視的に検討した。主要評価項目は、全ての死因による死亡率とした。副次評価項目は、心膜炎、心タンポナーデ、伝導障害、デバイス埋め込み、冠状動脈疾患とした。計200例(年齢中央値63歳[54~71歳]、女性30%、BRAF V600E変異陽性58%)を対象とした。追跡期間の中央値は5.5年(3.3~9年)であった。CMRでは、37%に右房室溝浸潤、24%に心嚢液貯留を認めた。8例(4%)に心膜炎(7例が急性、1例が収縮性)、10例(5%)に心タンポナーデ、5例(2.5%)にECD関連の高度伝導障害、45例(23%)に冠状動脈疾患を認めた。全体として、心臓病変は96例(48%)に存在し、BRAF V600E変異(オッズ比[OR]=7.4, 95%信頼区間[CI] 3.5-16.8, P<0.001)、ECD関連の心臓イベント(OR=5, 95% CI 1.5-21.2, P=0.004)と関連していたが、多変量解析では生存率低下とは関連しなかった(調整ハザード比[HR]=1.4, 95%CI 0.8-2.5, P=0.2)。【結論】ECD患者のほぼ半数に心臓病変が存在し、BRAF V600E変異や合併症(心膜炎、心タンポナーデ、伝導障害)と関連するが、生存率の低下とは関連しない。

5)「LCHにおける頭蓋顔面病変:単一医療センターにおける44例の検討」

Craniofacial involvement in Langerhans cell histiocytosis: A review of 44 cases at a single medical center.

Lin TE, et al. Plast Reconstr Aesthet Surg. 2023 Jul;82:12-20.

【背景】頭蓋顔面骨は、LCHで最もよく見られる病変部位である。この研究の主目的は、頭蓋顔面骨の部位と、臨床症状、治療法、転帰、永続的続発症(PC)との関連を明らかにすることである。【方法】2001年~2019年に単一の医療センターを受診し、頭蓋顔面領域に病変がありLCHと診断された44例を、孤発骨型(UFB)、多発骨型(MFB)、リスク臓器浸潤陰性多臓器型(MS-RO-)、リスク臓器浸潤陽性多臓器型(MS-RO+)の4つのグループに分けた。年齢、性別、臨床症状、治療法、転帰、PCなどのデータを後方視的に分析した。【結果】MFBではUFBに比べ、側頭骨(66.7% vs. 7.7%, p=0.001)、後頭骨(44.4% vs. 7.7%, p=0.022)、蝶形骨(33.3% vs. 3.8%, p=0.041)の病変が多かった。4群間で再発率に差はなかった。PCを認めた16例中9例(56.25%)は尿崩症(DI)であり、PCとして最も多かった。単一臓器型はDIの発生率が最も低かった(7.7%, p=0.035)。再発率は、PC(33.3% vs. 4.0%, p=0.021)やDI(62.5% vs. 3.1%, p<0.001)のある例で高かった。【結論】多発病変や多臓器病変と、側頭骨、後頭骨、蝶形骨、上顎骨、目、耳、口腔の病変は関連しており、これは予後不良を示す可能性がある。PCまたはDIが存在する場合は、再発のリスクが高いため、より長期の追跡調査が必要となるだろう。したがって、頭蓋顔面領域に病変のあるLCHは、リスク層別化に従った多専門的な評価と治療が不可欠である。

6)「ドロップレットデジタルPCRを用いた、放射線学的LCH関連中枢神経変性症におけるBRAF V600E変異の検出」

Detection of BRAF V600E mutation in radiological Langerhans cell histiocytosis-associated neurodegenerative disease using droplet digital PCR analysis.

Shimizu S, et al. Int J Hematol. 2023 Jul;118(1):119-124.

LCH関連中枢神経変性症(LCH-ND)は、LCHに続発する最も重篤な晩期合併症であり、徐々に進行し、破壊的で不可逆的である。活動性病変がない例で、末梢血単核球(PBMC)でBRAF V600E変異が検出される場合、異常な画像所見と神経学的症状の両方を示す臨床的LCH-NDの兆候と考えられる。しかし、活動性病変のない、異常な画像所見のみを示す無症候性放射線学的LCH-ND(rLCH-ND)において、PBMCでBRAF V600E変異が検出されるかどうかは不明である。この研究では、5例の活動性LCH病変のないrLCH-NDにおいて、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を用い、PBMCおよび無細胞DNA(cfDNA)におけるBRAF V600E変異を解析した。PBMCにおいてBRAF V600E変異アレルは、5例中3例(60%)で検出された。この3例における変異アレルの検出頻度は、それぞれ0.049%、0.027%、0.015%であった。しかし、cfDNAではBRAF V600E変異アレルは全例で検出されなかった。PBMCでのBRAF V600E変異アレルの検出は、CNSリスク部位への再発や中枢性尿崩症を伴う患者など、LCH-NDの発症リスクが高い例において、無症候性rLCH-NDを見出すのに役立つ可能性がある。

7)「ビンカアルカロイドにより治療を強化しても、小児LCHの転帰は改善しない:JPLSG LCH-12研究の結果」

Intensification of treatment with vinca alkaloid does not improve outcomes in pediatric patients with Langerhans cell histiocytosis: results from the JPLSG LCH-12 study.

Morimoto A, et al. Int J Hematol. 2023 Jul;118(1):107-118.

シタラビン、ビンクリスチン(VCR)、プレドニゾロンによる化学療法により、小児LCHの死亡率は低下した。しかし、再発率は依然として高く、無イベント生存率(EFS)は満足のいくものではない。全国規模の臨床試験であるLCH-12では、早期維持相をVCRの用量を増やすことで強化する修正プロトコールの有効性を評価した。多発骨型(MFB)または多臓器型(MS)LCHと新たに診断され、診断時年齢が20歳未満の患者が2012年6月~2017年11月に登録された。対象となる150例のうち、MFBの43例が30週間の治療を受け、MSの107例が54週間の治療を受けた。MSの1例が寛解導入期に敗血症で死亡した。MFB、リスク臓器浸潤陰性のMS、リスク臓器浸潤陽性のMSの3年EFSは、66.7%(95%信頼区間[CI]: 56.5~77.0%)、66.1%(95%CI: 52.9-76.4%)、51.1%(95% CI 35.8-64.5%)で、先行研究と同様であった。EFSは、疾患活動性スコアが6を超える例は6以下の例よりも有意に低かった。VCRによる治療強化を含む戦略は効果がなかった。小児LCH患者の転帰を改善するには、他の戦略が必要である。

8)「組織球症におけるOCT2の発現」

OCT2 expression in histiocytoses.

Ungureanu IA, et al. Virchows Arch. 2023 Jul;483(1):81-86.

組織球症の診断は難しい例があり、最大の課題の1つは、形態のみで組織球が反応性か腫瘍性かを区別することである。最近、Rosai-Dorfman病(RDD)におけるOCT2の核での発現が報告された。散発例やH症候群関連など様々な組織球症におけるOCT2の発現を確認することを目的とした。組織球症の症例は、Ambroise Paré病理学部門のファイルから検索されました。全てのスライド標本と分子解析結果を見直し、免疫組織化学でOCT2を染色した。さまざまな病変部位の計156個の検体を検討した。散発例のうち、52例がRDD、 11例がRDDとの混合型組織球症(8例がErdheim-Chester病[ECD]、2例がLCH、1例が若年性黄色肉芽腫[JXG])であった。これらは全例、RDDに特徴的な組織球はOCT2陽性であった。23例のECDでは、2例を除く全例(21/23:91%)がOCT2陰性であった。対照的に、LCHでは27例中11例(41%)、JXGでは16例中6例(38%)がOCT2陽性であった。H症候群関連の組織球症10例のうち、3例は典型的なRDD、6例は分類不能組織球症、1例はRDDとLCHの混合型の組織像を認めた。全例がOCT2陽性であった。肉芽腫性リンパ節炎の16例では、類上皮組織球はOCT2陰性であった。この結果から、RDDおよびRDD成分を含む混合型組織球症において、OCT2は100%陽性である。ECDの92%はOCT2陰性であるが、LCH、JXG、およびCグループ組織球症の少なくとも38%はOCT2を発現する。組織型に関係なく、全てのH症候群関連の組織球症でOCT2は陽性である。

9)「小児の組織球症の分子的および臨床病理学的特徴」

Molecular and clinicopathologic characterization of pediatric histiocytoses.

Hélias-Rodzewicz Z, et al. Am J Hematol. 2023 Jul;98(7):1058-1069.

小児の組織球症における体細胞変異の種類や頻度、臨床的意義は、特にnon-LCHについては十分に分かっていない。フランスの組織球症登録に登録された小児組織球症の415例のコホートを分析し、BRAF V600Eを解析した。BRAF V600E変異のない検体のほとんどを、組織球症および骨髄性腫瘍のカスタム遺伝子パネルを用い次世代シーケンス(NGS)によって分析した。415例のうち、366例がLCH、1例がErdheim-Chester病、21例がRosai-Dorfman病(RDD)、21例が若年性黄色肉芽腫(JXG、ほとんどが重篤な症状を伴う)、6例が悪性組織球症(MH)であった。BRAF V600Eは、LCHで最も多い変異であった(50.3%、184例)。BRAF V600E変異のないLCH 105例において、NGSによって以下のような変異が判明した: MAP2K1(44例)、BRAFエクソン12欠失(26例)、同重複(8例)、その他のBRAF V600コドン変異(4例)、MAPK経路以外の遺伝子変異(5例)。残り18例(17.1%)は変異が同定できなかった。BRAF V600E変異のみが、重篤な症状、すなわちリスク臓器浸潤および神経変性症と有意に関連していた。RDDとJXGにおいては、MAPK経路の変異は、RDDの7例(ほとんどがMAP2K1)とJXGの3例に同定されたのみで、NGSでは変異はほとんど検出されなかった。最後に、MHの2例にKRAS変異、1例に新規のBRAF G469R変異が検出された。MAPK経路以外の遺伝子には変異はほとんど同定されなかった。結論として、小児LCHの遺伝子変異の種類や頻度、変異と病型との関連を明らかにした。JXGとRDDの原因となる遺伝子変異は、半数以上の例で解明されておらず、他の変異解析手法が必要である。

10)「成人LCHにおけるデノスマブ単独療法の有効性:前向き臨床試験

Efficacy of denosumab monotherapy among adults with Langerhans cell histiocytosis: A prospective clinical trial.

Makras P, et al. Am J Hematol. 2023 Jul;98(7):E168-E171.

この第IIb相臨床試験では、第一選択として全身療法を必要とする単一臓器多発型またはリスク臓器浸潤陰性多臓器型の成人LCHを対象に、デノスマブ 120 mgを隔月で4回皮下投与する治療の有効性を評価した。最終の投与から2か月時点で、7例が病変の退縮、1例が病変の安定、1例が病変の非活動性、1例が病変の進行を示した。治療終了1年時点で、2例で病変の進行が明らかであったが、残りは退縮(3例)または非活動性(5例)であった。永続的続発症は発生せず、治療中に有害事象と判断されたものはなかった。結論として、デノスマブ 120 mg隔月4回皮下投与は、リスク臓器浸潤のないLCHに対する有効な治療選択肢であり、80%の反応率を示す。LCH治療における役割を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。