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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第19回 最新学術情報(2012.03)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「視床下部-下垂体病変を有する成人発症LCH患者の治療」

Treatment of patients with hypothalamic-pituitary lesions as adult-onset Langerhans cell histiocytosis.

Imashuku S, et al. Int J Hematol. 2011 Dec;94(6):556-60.

視床下部-下垂体部位に中枢神経系病変のある成人発症LCHの4例を報告する。初発症状は、2例が尿崩症、1例が甲状腺機能低下症、1例が性欲減退/勃起不全であった。初期には中枢神経系病変がLCHによる二次的なものと疑われないために診断は遅れ、症状の出現から治療までの年数の中央値は3.0年(範囲:<1~5.3年)であった。3例で、化学療法によって腫瘤は著明に縮小したが、すべての患者で下垂体機能は低下したままであった。成人の中枢神経LCH患者の転帰を改善するためには、早期の診断と治療開始が必要である。

2)「肺LCHにおける気管支肺胞洗浄液のプロテオーム解析」

Proteome analysis of bronchoalveolar lavage in pulmonary langerhans cell histiocytosis.

Landi C, et al. J Clin Bioinforma. 2011 Nov 10;1:31.

【背景】肺LCHは、遠位気管支の壁にランゲルハンス細胞が集積し肉芽腫を形成する、まれな間質性肺疾患である。肺LCHはびまん性肺疾患で、病因として喫煙が関連しているが、そのほかはまだよくわかっていない。【方法】本研究では、肺LCHの発症メカニズムの知見を得る、肺LCHの疾患感受性に対する喫煙の影響を研究する、新しいバイオマーカーを見出すことを目的に、肺LCH患者・健康な喫煙者・非喫煙者(対照)のBALタンパク質の組成をプロテオミクスによって分析した。【結果】二次元電気泳動と画像解析によって、被験者の3グループで異なる発現(定量的、定性的)を示すタンパク質が明らかになった。これらのタンパク質は質量分析により同定され、様々な機能(酸化防止、炎症性、抗プロテアーゼ作用)を持ち、由来は様々(血漿、局所産生など)であった。多くのタンパク質、例えばプロテアーゼ阻害剤(ヒトserpin B3)や抗酸化タンパク質(グルタチオンペルオキシダーゼやチオレドキシン)などは、既に肺LCHの病因として関連が報告されていたが、他のタンパク質は今まで肺LCHとの関連は報告されていなかった。興味深いことに、多数の血漿タンパク質の分解断片(キニノゲン-1 N断片とハプトグロビンを含む)も同定され、この炎症性肺疾患においてタンパク質分解活性が増強していることが示唆された。3つのグループ間でタンパク質発現が異なることが主成分分析により確認された。【結論】肺LCH患者と喫煙者、非喫煙者(対照)のBALプロテオームの分析は、この稀な、びまん性肺疾患の病因メカニズムの研究やバイオマーカーの同定のために有用であることが証明された。

3)「多発椎体病変を有するLCH」

Langerhans cell histiocytosis with multiple spinal involvement.

Jiang L, et al. Eur Spine J. 2011 Nov;20(11):1961-9.

多発椎体LCHの臨床・放射線所見、治療転帰を明らかにする。我々の施設の計42例の椎体LCH症例を再検討したところ、5例に多発椎体病変があった。多発椎体LCHの論文報告は50例あった。我々の例を含めた全例の年齢、性別、臨床・放射線所見、治療と転帰を分析した。我々の5例のうち、3例に神経症状、4例に軟部組織腫瘤、3例に後弓への進展を認めた。8つの大きなケースシリーズのデータをまとめると、椎体LCHの27.2%が多発性であった。これらの55例は、女性が26例、男性が29例で、平均年齢は7.4歳(0.2~37歳)であった。計182か所の椎体病変を認め、頸椎が28.0%、胸椎が47.8%、腰椎が24.2%であった。椎体以外の病変を54.2%に、内臓病変を31.1%に、扁平椎を50%に認めた。ほとんどの例で、傍脊椎や硬膜外の進展の記載はなかった。開放生検をされた8例を含め、47例で病理診断が行われていた。治療法は、施設ごとに様々であった。1例が死亡、2例が再発し、それ以外の例は平均観察期間7.2年(範囲1~21年)で無病生存していた。無症候性の椎体病変は装具を装着したりして無治療経過観察できるかもしれないが、多発病変に対しては化学療法の適応がある。外科的減圧術は、神経学的症状が放射線治療に反応しない、または、放射線治療をするにはあまりにも急速に進行するような稀な例に止めるべきである。

4)「9例の成人LCHにおける骨盤と四肢骨の放射線学的所見」

Radiologic findings of adult pelvis and appendicular skeletal Langerhans cell histiocytosis in nine patients.

Song YS, et al. Skeletal Radiol. 2011 Nov;40(11):1421-6.

【目的】成人LCHの骨盤と四肢骨格の放射線所見を、CTおよびMR所見を重視して評価する。【対象および方法】病理学的に証明された9例のLCH患者(男性5例、女性4例、平均年齢37.11歳)の画像を後方視的に検討した。画像解析は、長管骨と扁平骨に限定した。CTスキャンは5例に、MRIは8例で行われた。CTとMRIによって以下の点について画像評価をおこなった:病変の位置と数、皮質の破壊・骨内膜の非薄化・骨膜反応の有無(CTまたはMRIで評価)、軟部組織腫瘤の辺縁・骨髄浮腫の有無・"出芽"様変化(MRIで評価)、硬化縁または中隔形成の有無(CTで評価)。【結果】骨病変部位は、骨盤7例、大腿骨5例、上腕骨2例、脛骨2例、腓骨1例、鎖骨1例、肩甲骨1例、胸骨1例であった。骨内膜の非薄化、骨膜反応、および出芽様変化は、MRIやCTでよくみられた。皮質の破壊や軟部組織腫瘤の形成は稀であったが、軟部組織腫瘤の辺縁は明瞭であった。【結論】CTやMRIでの、骨内膜の非薄化と骨膜反応を伴った出芽様変化は、成人患者において悪性腫瘍とLCHの鑑別に有用な所見と考えられる。

5)「LCHの初発症状として中枢性尿崩症:26例の小児と青年の自然経過と医学的評価」

Central diabetes insipidus as the inaugural manifestation of Langerhans cell histiocytosis: natural history and medical evaluation of 26 children and adolescents.

Marchand I, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2011 Sep;96(9):E1352-E1360.

【背景】孤発性の中枢性尿崩症(CDI)は、LCHの初発症状となることがあり、未分化胚細胞腫や他の炎症性病変との鑑別が困難なことがある。【方法】2010年、フランス国立LCH登録に18歳未満のLCH患者が1236例登録された。26例では孤発性のCDIがLCHの初発症状であった。それらの例の臨床像とMRI所見を再検討した。【結果】CDI診断時の年齢の中央値は9.6歳(1.8~16.3歳)、CDI診断後の経過観察の中央値は9.9年(3.5~26.6年)であった。CDIに加えて、2例に視野欠損、4例に二次性無月経、11例に下垂体前葉欠損症があった。22例の患者でCDIの診断から3か月以内に脳画像検査(2例のCT検査を含む)が行われ、14例で下垂体茎の肥厚(3.0~7.0mmの軽度肥厚が9例、>7.0 mmの著明肥厚が5例)を認め。8例において、病変は第三脳室底に進展していた。1例では、軽度のトルコ鞍の拡大を示した。経過観察中、22例の患者において、下垂体以外の病変(骨病変が15例、肺病変9例、皮膚病変9例)を認めた。下垂体生検は8例に行われ、6例で診断が確定した。【結論】下垂体茎の肥厚は、第三脳室底に進展する病変と同様にLCHで認められる。1例を除き、トルコ鞍の拡大は認められなかった。骨、皮膚、肺病変の出現に細心の注意をしながら長期的に経過観察することにより、LCHの診断につながる可能性がある。

6)「LCH診断時の疾患活動性の新しい臨床スコア」

New clinical score for disease activity at diagnosis in Langerhans cell histiocytosis.

Choi WI, et al. Korean J Hematol. 2011 Sep;46(3):186-91.

【背景】LCHの臨床症状と経過は、単発性で自然治癒する骨病変から、リスク臓器浸潤を有する多臓器疾患に至るまで、さまざまである。LCHの治療は、無治療経過観察から集中的な多剤併用療法まで幅広く、骨髄移植が行われる例もある。LCH患者の疾患活動性を評価するための客観的なスコアを作成する必要がある。LCHの臨床転帰を予測し、臨床経過と相関する、診断時の疾患活動性を評価する新しい臨床スコアを提案する。【方法】1998年3月から2009年2月の間に峨山医療センターと漢陽大学病院でLCHと診断された小児から得られた臨床データを後方視的に検討した。スコアシステムは、基本的な生物学的データ、X線所見、および身体所見をもとに作成され、133例の患者情報を含むデータベースに適用された。【結果】133例(男性74、女性59)の年齢の中央値は52か月(範囲:0.6~178か月)であり、CD1a陽性に基づいてLCHと診断された。診断時のスコアの分布は非常に非対称であった:スコア1~2が75.9%、スコア3~6が15.8%、スコア>6が8.3%であった。 初期のスコア>6の患者は、再燃および晩期合併症を伴う率が高かった。【結論】この新しいLCHの疾患活動性スコアは、診断時および経過観察時の両方で、疾患の重症度を評価するための客観的な指標となる。

7)「IL-17AのmRNAとタンパクともにLCHの病変で検出できない」

Neither IL-17A mRNA nor IL-17A protein are detectable in Langerhans cell histiocytosis lesions.

Peters TL, et al. Mol Ther. 2011 Aug;19(8):1433-1439.

LCHは、CD207/ CD1a陽性樹状細胞を含む多種の細胞浸潤病変により、重大な障害や死亡をもたらすことを特徴とするまれな疾患である。LCHの病因はいまだ推論の域を出ず、その起源が腫瘍であるか炎症性であるか、何十年も前から議論されている。最近の研究では、LCHの病変部位の樹状細胞だけでなく、活動性病変のある患者の血漿中からも、多量のインターロイキン-17(IL-17A)タンパクが同定されている。さらに、樹状細胞がIL-17A発現の新たな源として同定されている。しかし、その後の我々の研究では、LCH病変内のCD207陽性樹状細胞やCD3陽性T細胞にIL-17Aの遺伝子発現を確認することはできなかった。本研究では、さらに検討をしたが再びLCH病変部位においてIL-17A遺伝子発現を同定することができなかった。さらに、ウエスタンブロッティング、免疫沈降、スペクトル解析、酵素免疫測定法(ELISA)によってもLCH病変容解物中にIL-17A抗原を検出することができなかった。また、LCH病態にIL-17A仮説を打ち立てた元研究で使用された抗体は非特異的タンパク質を認識することが、ウエスタンブロット、免疫沈降、およびELISAによる実験で示された。IL-17AがLCHにおいて重要な要因であるという証拠いまだ不十分であり、IL-17Aを標的とした臨床試験は不当だと結論する。

8)「チロシンホスファターゼSHP-1は、免疫組織染色により、単一臓器に比べて多臓器LCHで高発現している」

Tyrosine phosphatase SHP-1 is expressed higher in multisystem than in single-system Langerhans cell histiocytosis by immunohistochemistry.

Murakami I, et al. Virchows Arch. 2011 Aug;459(2):227-234.

LCHは、ランゲルハンス細胞様のCD1a陽性細胞(LCH細胞)が増殖する原因不明の疾患である。LCHには、予後良好な単一臓器LCH(LCH-SS)と予後不良の多臓器LCH(LCH-MS)のタイプがある。LCHは、LCH細胞のモノクローナルな特性から、腫瘍性疾患と考えられている。チロシンホスファターゼSHP-1の発現レベルは腫瘍において様々で、卵巣癌では過剰発現(発がん蛋白候補)、胃癌、前立腺癌、悪性リンパ腫、白血病ではメチル化による発現抑制(がん抑制遺伝子と推定)と報告されており、本研究は、LCHにおけるSHP-1発現を調べることを目的とした。LCH(LCH-SS=21例、LCH-MS=12例)、皮膚病性リンパ節症(9例)、LCH病変部位の近くの正常表皮のランゲルハンス細胞(3例)で、SHP-1の発現量を免疫組織化学によって比較した。免疫組織化学の結果は半定量的にPhotoshopのソフトウェアを用いて分析した。皮膚病性リンパ節症、LCH-SS、LCH-MS、およびランゲルハンス細胞の平均強度スコア(IS)はそれぞれ、47、100、139、および167(任意単位)であった。IS値には、LCH-SS、LCH-MS、および皮膚病性リンパ節症の間で有意な差があった(p <0.01)。SHP-1は、LCH-SSに比べLCH-MSで有意に高く発現していた。SHP-1は、LCHの病変進行マーカーとなるかもしれない。SHP-1は、正常リンパ節LCHと皮膚病性リンパ節症の鑑別にも有用である。

9)「中枢神経系LCHに対する15年間の静脈内免疫グロブリンによる治療」

Fifteen years of treatment with intravenous immunoglobulin in central nervous system Langerhans cell histiocytosis.

Gavhed D, et al. Acta Paediatr. 2011 Jul;100(7):e36-9.

【目的】中枢神経系LCH(CNS-LCH)はしばしば進行性である、運動失調、構音障害、嚥下障害、筋緊張亢進、知的障害や行動異常等の神経学的症状を臨床的特徴とする神経炎症疾患であるが、広く受け入れられている治療は現在ない。我々は進行性のCNS-LCH患者に免疫調整/抗炎症治療を適用した。【方法】画像により病変が確認されている重症の神経変性CNS-LCH患者に対し、免疫グロブリン静脈療法(IVIG)を15年間、毎月行った。【結果】IVIGの治療中、当初は神経学的所見の進行が止まった様に見えたが、時間経過とともにさらにいくらか進行した。【結論】IVIGが部分的にCNS-LCHの神経変性の進行を抑えるのに有益かもしれないが、さらなる研究が必要である。

10)「内視鏡によるLCHの生検:内視鏡生検による著明な圧座アーティファクト」

Langerhans cell histiocytosis in endoscopic biopsy: marked pinching artifacts by endoscopy.

Noh S, et al. Brain Tumor Pathol. 2011 Jul;28(3):285-9.

鞍上部腫瘤を診断する際に様々な疾患を考慮する必要がある。尿崩症は、視床下部-下垂体系に浸潤したLCH患者の初発症状となることが報告されており、LCHの診断に役立つ。鞍上部腫瘤に対して内視鏡生検を用いることが多くなっている。しかし、アーティファクトが多いために内視鏡下生検で診断することが困難であり、病理医は注意しなければならない。単独病変として視床下部-下垂体系に浸潤するLCHはまれである。神経科医、放射線科医、および病理医に様々な示唆を与える8例を報告する。