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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第14回 最新学術情報(2009.12)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「小児の皮膚限局LCH」

Skin-limited Langerhans' cell histiocytosis in children.

Hussein MR. Cancer Invest. 2009 Jun; 27(5): 504-511.

ランゲルハンス細胞は骨髄の前駆細胞に由来する樹状細胞である。それらは、基底膜より上の表皮に存在し、表皮にある細胞の2-4%を占める。それらは、抗原を認識しT細胞に抗原提示する免疫担当細胞として働く。LCHは、身体のさまざまな臓器に異常なクローン性のランゲルハンス細胞が増殖し浸潤することを特徴とした、まれな疾患である。ランゲルハンス細胞の増殖が、その臨床像に主に関与していると思われる。なにがそれらの増殖を刺激しているのかは不明である。さまざまな臓器に浸潤するが、皮膚病変は、40%の例にみられる。この研究の目的は、皮膚に限局した小児LCHの特徴を6例の症例を通じて、臨床病理学的、免疫学的、超微形態的に調査することである。男児4例、女児2例で、年齢は1~8歳で、鱗屑性痂皮化丘疹、結節、結節性丘疹が各2例ずつであった。病変部位は、顔面が3例で、頭皮、体幹、陰門部が各1例であった。組織学的特徴は、組織球反応性1例、肉芽腫反応性1例、組織球と肉芽腫反応性の両者2例であった。診断は、免疫組織化学でS100陽性CD1a陽性と電顕でBirbeck顆粒陽性で確定した。LCHは、さまざまな皮膚像を呈するまれな疾患である。通常、3つの皮膚病型、すなわち、結節(最も多い)、鱗屑性または痂皮化丘疹(次に多い)、軟らかい黄色隆起性丘疹(まれ)がある。3つの組織型、すなわち、組織球性と肉芽腫性(一般的)、黄色腫様(まれ)がみられる。

2) 「肺LCHにおけるフルオロデオキシグルコースPETの異常」

Abnormal fluorodeoxyglucose PET in pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Krajicek BJ et al. Chest. 2009 Jun; 135(6): 1542-1549.

【背景】肺LCHは喫煙と強く関連し悪性腫瘍のリスクを増加させる炎症性肺疾患である。肺LCHの胸部CTの特徴はよく認識されているが、成人肺LCHのPETスキャンの特徴は分かっていない。【方法】2001年7月から2007年6月までの6年間でPETスキャンが行われた肺LCHの症例は11例であった。PETスキャンと胸部CT像を含む臨床放射線学的特徴を解析した。【結果】11例中5例がPETスキャンで陽性所見があった。PETスキャン陽性の5例のうち、4例(80%)は女性で、4例は現在喫煙しており、年齢の中央値は45歳(年齢幅31~52歳)であった。PETは、臨床経過の初期に行われるほど陽性に出やすかった。PET陽性の3例(60%)は多臓器浸潤があった。PET陽性例は8mm以下がほとんどの結節性の炎症性肺病変(結節100個以上)が多かったのに対し、PET陰性例は全例、結節数が少ない嚢胞性肺病変(結節25個以下)が多かった。重要な異常PETスキャン所見として、結節性肺病変、壁肥厚した嚢胞病変、骨病変、肝病変への取り込み増強があった。PET陽性病変の平均最大標準化取り込み量は2.0~18.2であった。【結論】肺LCHは胸部と胸部以外のPETスキャン異常所見と関連するかもしれない。胸部CTで結節性病変のある例は、PETスキャン異常所見が出やすいと考えられる。この結果からは、PETスキャン所見によって良性の炎症性結節病変である肺LCHと悪性病変を確実に鑑別することはできない。

3)「小児の四肢骨の好酸球性肉芽腫の対処法」

Management of eosinophilic granuloma occurring in the appendicular skeleton in children

Han I et al. Clin Orthop Surg. 2009 Jun; 1(2): 63-67.

【背景】小児の単一骨病変LCHに対する治療として、インドメタシン療法と抗がん剤療法や手術療法といったより積極的な治療手段とを比較した。【方法】再燃のない治癒、病変の放射線学的治癒までの時間、機能的回復までの時間、治療に伴う合併症といった観点から両群を比較した。【結果】いずれの治療法においてもすべての患者において、平均15.3か月で放射線学的治癒、平均5.6か月で機能回復が得られた。放射線学的治癒までの時間や機能回復までの時間に両群で有意な差はなかった。平均56か月の最終観察までの期間において、両群ともに再燃はみられなかった。抗がん剤療法では合併症がよく見られたが、インドメタシン療法では問題はなかった。【結論】インドメタシン療法は小児の単一骨LCHの治療として効果があると考えられる。よって、合併症を伴う抗がん剤療法や手術療法などの積極的治療を回避することは可能である。

4)「軟部組織腫脹を伴った小児の脊椎LCHと化学療法」

Langerhans' cell histiocytosis of the spine in children with soft tissue extension and chemotherapy.

Peng XS et al. Int Orthop. 2009 Jun; 33(3): 731-736.

この論文の目的は、小児の脊椎LCHから伸展した明らかな軟部組織腫瘤の頻度を推定することと、このような症例に対する化学療法の効果を評価することである。組織学的に脊椎LCHと診断された18例を調査したところ、9例が傍椎体に明らかな軟部組織の伸展を伴っており、この研究の対象とした。軟部組織は、8例において脊柱管または椎体周囲に伸展し、1例では主に後方に浸潤していた。8例に神経学的症状を認めた。全例が化学療法を受け、1例は外科的治療を受けた。平均観察期間は30.3か月であった。全例で軟部組織伸展は完全に消失した。最終観察時点で病変は臨床的に消失していた。明らかな軟部組織腫瘤を伴う例は、小児の脊椎LCHの50%に上る。化学療法は安全で効果があり、外科的減圧術はほとんどの例においておそらく必要はない。

5)「喫煙関連間質性肺疾患におけるオステオポンチンの重要な役割」

Essential role of osteopontin in smoking-related interstitial lung diseases.

Prasse A et al. Am J Pathol. 2009 May; 174(5): 1683-1691.

喫煙に関連した間質性肺疾患は、マクロファージとランゲルハンス細胞の集積や線維化を伴うリモデリングを特徴とし、オステオポンチンの発現と関連している。よって、気管支肺胞洗浄液(BAL)中の細胞によるオステオポンチンの産生を、11例の肺LCH、15例の剥離性間質性肺炎、10例の特発性肺線維症、5例のサルコイドーシス、13例の健康な喫煙者、19例の非喫煙コントロールにおいて調べた。さらに、アデノウイルスによる遺伝子導入を用いラットの肺でのオステオポンチンの過剰発現の影響を調べた。肺LCHや剥離性間質性肺炎の患者のBAL中の細胞は、無刺激で大量のオステオポンチンを産生することを見出した。健康な喫煙者では、BAL中の細胞のオステオポンチン産生量は15分の1しかなく、非喫煙コントロールでは、オステオポンチンは産生されなかった。特発性肺線維症やサルコイドーシス患者のBAL中の細胞のオステオポンチン産生は、肺LCHに比べ有意に低くかった。これらの結果は、免疫組織化学検査でも確かめられた。ニコチン刺激によって、喫煙者の肺胞マクロファージによるオステオポンチンとGM-CSFの産生は増加した。ニコチン性アセチルコリン受容体の発現は、無刺激でのオステオポンチン産生パターンと類似し、肺LCHと剥離性間質性肺炎において劇的に増加していた。ラットの肺にオステオポンチンを過剰発現させることによって、肺胞と間質へのランゲルハンス細胞の集積を伴う肺LCHに似た病変がおこった。この知見は、オステオポンチン産生増加が、マクロファージやランゲルハンス細胞の集積を促進することを介して、肺LCHと剥離性間質性肺炎の病因にかかわっていることを示唆している。

6)「イギリスとアイルランドにおけるLCHの頻度と臨床像」

Incidence and clinical features of Langerhans cell histiocytosis in the UK and Ireland.

Salotti JA et al. Arch Dis Child. 2009 May; 94(5): 376-380.

【目的】LCHの疫学的な研究の報告はほとんどない。イギリスとアイルランド共和国における0~16歳のすべての新規診断症例を確実につきとめるために調査を行った。【方法】3つの確認方法を使った、すなわち、イギリス小児調査部(BPSU)システム、ニューキャッスル大学による調査、小児がん白血病グループ(CCLG)登録の3つである。死亡のデータはイギリス国家統計局とアイルランド中央統計局から得た。症例を報告した医師に、人口統計学的並びに臨床的な詳細データを得るために質問用紙を送った。【結果】2年間の間に、94例が確認された。年齢を標準化した0~14歳のLCH発症頻度は、100万人当たり年間4.1人であった。男女比は、男:女=1.5:1であった。診断時年齢の中央値は5.9歳であった。単一臓器型(多くは骨浸潤)が73%を占め、27%は多臓器型で、7%はリスク臓器(肝・肺・脾・骨髄)浸潤があった。3例が死亡し、そのうち2例は死亡後に診断されていた。【結論】これは、確認情報源を追加した活動的な調査法を用いた初めての調査研究である。各々の方法は診断例や未診断例を何例か見落としている可能性があるので頻度を低く見積もっているであろうが、この調査による頻度は他国の報告の頻度とほぼ一致している。

7)「生検で証明された頸部リンパ節LCHの超音波像」

Sonography of biopsy-proven Langerhans cell histiocytosis in lymph nodes of the neck.

Park ET et al. J Ultrasound Med. 2009 Apr; 28(4): 519-525.

ランゲルハンス細胞の制御不能な増殖を特徴とするLCHの病因は明らかではない。ある人はLCHが反応性であると信じているし、他の人は腫瘍性由来説を支持している。LCHが腫瘍性であるという仮説を検証するため、共通した染色体異常がLCH細胞に存在するかを調べた。20例に多重パラメーターDNAフローサイトメータを用いたLCH細胞のDNA倍数性解析を、31例に染色体核型解析を、19例にフローサイトメトリーで選別したCD1a陽性と陰性細胞から抽出したDNAを用いたarrayによる比較ゲノムハイブリダイゼーション(array CGH)と一塩基遺伝子多型(SNP)arrayを行った。倍数性解析ではすべての例でDNA量は2倍体であった。染色体核型は、すべての例で均衡転座以外の異常はみられなかった。array CGH とSNP arrayでは、ゲノム異常は見つからなかった。7例において、免疫組織化学染色でp53タンパクは陽性であったが、p53遺伝子のエクソン5~8の遺伝子配列に異常はなかった。本研究は、大きな染色体の異常がLCHの原因ではないことを強く支持している。未知の遺伝子での潜在的な点変異を除外はできないが、このLCH 72例の研究は、LCH細胞の増殖は、無限の腫瘍性増殖というよりも限定されたオリゴクローナルな刺激の結果生じている可能性を示している。

8)「さまざまな分子生物学的手法による評価によってもLCHにおいてゲノム異常はない」

No genomic aberrations in Langerhans cell histiocytosis as assessed by diverse molecular technologies.

da Costa CE et al. Genes Chromosomes Cancer. 2009 Mar; 48(3): 239-249.

LCHはまれな疾患で、おそらく非定型の骨髄増殖症候群であり、様々な臨床症状と経過を呈する。ゾレドロン酸により治療した、化学療法や放射線療法後に病変が進行した6例のLCHを、骨病変に焦点を当てて報告する。ゾレドロン酸は安全であり、顕著な骨痛の軽減が得られた。

9)「小児の骨原発LCH:30年間の解析」

Primary musculoskeletal Langerhans cell histiocytosis in children: an analysis for a 3-decade period.

Arkader A et al. J Pediatr Orthop. 2009 Mar; 29(2): 201-207.

【背景】LCHは、幅広い臨床症状を呈する、病因不明のまれな疾患である。この30年間の間に何が変わったのかを模索した。このレビューは、骨LCHの病因、分子生物学、臨床像、画像特性、治療指針、転帰の最新概念について概説する。【方法】30年の間に3次紹介病院で診断されたLCHのデータベースから、骨原発の小児LCHを後方視的に検索した。全例のカルテと画像検査を調査し、性別、年齢、筋骨格病変の数と部位、骨格以外の病変または全身疾患の有無、臨床症状の有無、内科的または外科的治療、合併症、転帰についてのデータを収集した。【結果】79例が調査対象基準に合致した。79例中45例(57%)の小児が単一骨病変で、発症時の平均年齢は8.9歳であり、79例中34例(43%)の小児が多発骨病変(2~7病変)で、発症時の平均年齢7.4歳 であった。79例に計165の骨病変(1例あたり平均2病変)があった。最も多い症状は病変部の痛み(63例、79%)であった。画像では、病変は骨幹部あるいは骨幹端にあり、境界明瞭で放射線透過性病変であることが多かった。単一骨病変の小児のうち、11例は経過観察と対症療法、17例は生検の後に経過観察と対症療法、17例は生検の後に切除を受けた。これらのうち8例は化学療法を受け、初期の2例は放射線照射を受けた。多発骨病変の小児のうち、10例は生検の後に経過観察と対症療法、24例は生検の後に化学療法を受け、初期の3例は放射線照射を受けた。【結論】骨LCHには多様性がある。生検は通常は診断確定のために適応される。ほとんどの病変は自然経過で徐々に改善していくが、治癒過程を促進するために掻爬や骨移植術が時に適応となる。安定を得るための内固定は時に必要である。化学療法は多臓器型には必要であるが、放射線療法はもはや使われない。