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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第31回 最新学術情報(2016.12)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「組織球および樹状細胞の増殖症におけるPD-L1とPD-L2の発現」

Expression of Programmed Cell Death 1 Ligands (PD-L1 and PD-L2) in Histiocytic and Dendritic Cell Disorders.

Xu J, et al. Am J Surg Pathol. 2016 Apr;40(4):443-53.

PD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)は、活性化した抗原提示細胞および悪性細胞の一部に発現する細胞表面蛋白で、T細胞上のPD-1と結合し、免疫反応を抑制する。PD-1やPD-L1に対する抗体は一部の患者に抗腫瘍免疫を誘導し、その臨床効果は腫瘍内の悪性細胞や免疫細胞のPD-1リガンドの発現と相関する。抗原提示細胞と87例の組織球および樹状細胞の増殖症(良性、境界型、悪性を含む)のPD-1リガンドの発現を調べた。反応性リンパ組織内では、大部分のマクロファージおよび指状突起樹状細胞の一部、形質細胞様樹状細胞にPD-L1の発現を認めたが、濾胞性樹状細胞やランゲルハンス細胞にはPD-L1の発現を認めなかった。マクロファージと樹状細胞にはPD-L2の発現を認めなかった。サルコイドーシスの7/7例(100%)、組織球性壊死性リンパ節炎(菊池-藤本病)の6/6例(100%)、Rosai-Dorfman病の2/11例(18%)、LCHの3/15例(20%)にPD-L1の発現を認めた。サルコイドーシスでは全例でPD-L2の発現も認めた。組織球肉腫の7/14例(50%)、指状突起樹状細胞肉腫の2/5例(40%)、濾胞性樹状細胞肉腫の10/20例(50%)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の0/9例が、PD-L1陽性であった。濾胞性樹状細胞肉腫の11/20例(55%)はPD-L2も陽性であった。PD-L1とPD-L2は、組織球と樹状細胞増殖症の同定に有用な新しいマーカーであり、免疫療法の対象となる患者を見つけ出すことができる。

2)「三次リンパ様構造は単独病変LCH患者にのみ見られる」

Tertiary lymphoid structures are confined to patients presenting with unifocal Langerhans Cell Histiocytosis.

Quispel WT, et al. Oncoimmunology. 2016 Mar 28;5(8):e1164364.

LCHは骨髄性腫瘍疾患であるが、その免疫構成要素はほとんど解明されていない。三次リンパ様構造(TLS)は、リンパ節様構造で、腫瘍部位での免疫反応を促進する微環境を作る。治療前のリンパ節以外のLCH病変のH&E染色標本104例で、TLSがあるか、TLSと臨床所見が関連するかを解析し、少数例では免疫組織化学によっても検討した。リンパ濾胞の集積が、34/104(33%)例に見出された。MECA-79陽性高内皮細静脈のリンパ球動員能に合致し、MECA-79陽性のLCH病変(37/77、48%)は、最も多くのCD3陽性Tリンパ球を含んでいた(p=0.003)。TLSは8/15病変で確認され、Tリンパ球、Bリンパ球、濾胞性樹状細胞を含み、高内皮細静脈を認め、ケモカイン(CXCL13とCCL21)が陽性であった、それらは、通常のリンパ節の重要な細胞構成要素とTLS誘導因子である。リンパ濾胞の集積は、多発骨や多臓器型(7/30、23%)よりも、単独病変型LCH(24/70、34%)により高頻度に見られた(p=0.03)。さらに、リンパ濾胞集積を含む病変のある患者は、新たなLCH病変の発症率が最も低かった(p=0.04)。LCH病変内のTLS形成が病変進展度により異なる割合で認められることから、TLSは末梢組織で生じる異常組織球を制御する免疫作用において重要な役割を果たしている可能性がある。

3)「成人LCHの第一選択の治療としてのビンデシン/プレドニゾンとシクロホスファミド/エトポシド/ビンデシン/プレドニゾンの比較:単一施設での後方視的検討」

Comparison of vindesine and prednisone and cyclophosphamide, etoposide, vindesine, and prednisone as first-line treatment for adult Langerhans cell histiocytosis: A single-center retrospective study.

Duan MH, et al. Leuk Res. 2016 Mar;42:43-6.

【目的】多臓器型または単一臓器多発病変型の成人LCHに対する第一選択治療としての、ビンデシン/プレドニゾン(VP療法)とシクロホスファミド/エトポシド/ビンデシン/プレドニゾン(CEVP療法)の有効性と臨床転帰を比較した。【方法】2001年1月~2015年1月まで当センターで治療された成人LCHの臨床的特徴、治療反応性、生存率について、後方視的に解析した。【結果】45例の多臓器型または単一臓器多発病変型の成人LCHが治療を受けていた(CEVP群31例、VP群14例)。両治療群の性別、年齢、病変進展度に差はなかった。両群の活動性病変の消失率は、それぞれ70.0%と64.3%(p=0.775)であった。追跡期間の中央値74.9か月(範囲:2.8~183.6)で、再発率はそれぞれ71.0%と78.6%(p=0.593)であった。二次治療を必要とした率は、それぞれ64.5%と71.4%(p=0.649)で、死亡率はそれぞれ9.7%と15.4%(p=0.586)であった。好中球減少の発症率は、CEVP群で48.4%、VP群で7.1%(p=0.008)であった。【結論】CEVP療法とVP療法は、多臓器型または単一臓器多発病変型の成人LCHに対して同程度の有効性を示したが、両療法ともに再発率は高く、二次治療を必要とする率は高かった。

4)「小児LCHの多様な皮膚所見:後方視的研究」

Diverse Cutaneous Presentations of Langerhans Cell Histiocytosis in Children: A Retrospective Cohort Study.

Morren MA, et al. Pediatr Blood Cancer. 2016 Mar;63(3):486-92.

【背景】LCHはまれな疾患で、しばしば幼児に発症する。【方法】皮膚症状のある16歳未満の症例を後方視的に解析し、皮膚病変の違いと全身症状を明らかにする。皮膚病変のみの単一臓器型と多臓器型を比較し、多臓器型を予測する所見を検討した。少数例において、保存された生検組織でBRAF変異を解析した。【結果】皮膚所見は痂皮を伴う小結節や丘疹、水疱、血管腫瘍のような病変、落屑を伴う橙色から赤色の紅斑(しばしば脂漏部位)、紫斑様丘疹と多様で、32例の小児に認められた。外耳炎はよく見られる所見で、粘膜病変が3例に認められた。新しい皮膚所見として、予防接種後の患者で赤青色の小結節を認めた。診断時あるいは最終的に単一臓器型か多臓器型かを予測できる皮膚所見はなかった。しかし、遅発性、および、長期に経過する皮膚病変は、多臓器型LCHにより多く見られる所見であった。粘膜病変と外耳炎は、ほとんど多臓器型にのみ認め、更なる検査を進めるべき所見であった。BRAF変異は、多臓器型LCHだけでなく、皮膚のみのLCHでも認められた。先天性で急速に消失した皮膚病変を呈した2例にはBRAF変異を認めなかった。【結論】遅発性で長期に経過する皮膚病変は、多臓器型LCHに多いが、急速に消失する皮膚病変ではBRAF変異を認めない。

5)「成人の肺単独LCH患者における肺外病変検索」

Extrathoracic investigation in adult patients with isolated pulmonary langerhans cell histiocytosis.

Tazi A, et al. Orphanet J Rare Dis. 2016 Feb 2;11:11.

【背景】LCH患者の診断時検査の目的として、病変進展度を明らかにすることは重要である。しかし、臨床的に肺単独病変の成人LCH患者において全身的な肺外病変の検索が必要かどうかは、よくわかっていない。【方法】この前方視的多施設共同研究では、無症状の肺外LCH病変を検索するために、新たに臨床的に肺単独LCHと診断された54例の患者を骨画像と血液検査により系統的に評価した。患者を2年間、追跡調査した。外来受診時に、肺外LCH病変の徴候の有無について質問した。【結果】骨病変の徴候がない例では、2例を除き放射線学的骨検索で異常はなく、この2例はLCHと考えられる単独の骨病変で、2年の経過観察中に変化はなかった。肺単独LCHの無症候性骨病変の検索において、全身骨シンチ検査により単純X線検査以上の情報が得られた例はなかった。逆に、骨シンチにより、LCHとは無関係の、主に外傷後や退行性の異常による、非特異的な局所の異常集積を示した例を18%に認めた。好中球増多による軽度の白血球増加を22%に認めたが、喫煙習慣とは関連していなかった。3例に血液疾患と関連しない軽度の単独のリンパ球増加が、2例に軽度のリンパ球減少が見られた。感染症や全身症状とは関連しない軽度の炎症所見を少数の例で認めたが、疾患の進展とは関係なかった。相当な率(24.5%)の患者で、肝酵素や胆汁うっ滞などの肝機能障害が見られたが、このコホートにおいてはLCH浸潤によるものではなかった。【結論】詳細な病歴聴取と全身診察は、肺LCHと診断された患者の病変進展度を決定するために不可欠である。肺外病変を疑う症状や所見がない場合、推奨されている骨画像検査を系統的に行うことは有益とは考えられない。血液検査の異常所見はLCHに特異的ではないが、これらの異常のいくつかは患者の治療方針に影響する可能性があるため、肺LCHの診断時にこれらの検査を行うことは有用である。

6)「治療標的となる多様なキナーゼ変異が組織球症の発症原因をとなる」

Diverse and Targetable Kinase Alterations Drive Histiocytic Neoplasms.

Diamond EL, et al. Cancer Discov. 2016 Feb;6(2):154-65.

組織球症はクローン性の造血異常であり、LCHは単球由来の異常樹状細胞の、非LCH織球症は単球由来の異常マクロファージの増殖を特徴とする。これらの患者の約50%にBRAF V600E変異があることがわかり、組織球症において分子標的治療の可能性が初めて出てきた。しかし、BRAF V600E変異陰性の非LCH組織球症患者の大多数では発症原因となる遺伝子変異はわかっておらず、BRAF変異と共同して働くMAPキナーゼ経路以外の遺伝子変異も見つかっていない。全エクソンおよび転写産物の配列解析によって、BRAF V600E変異陰性の非LCH組織球症において、MAP2K1ARAFの活性化変異だけでなく、BRAFALKNTRK1のキナーゼ活性をもつ融合遺伝子を見出した。MAPキナーゼ経路の異常に加えて、異なる細胞シグナル経路に関わる遺伝子変異も見出した。MAP2K1ARAF変異をもつ非LCH組織球症患者をそれぞれMEKとRAF阻害剤を用いて治療し効果が得られたが、このことは、これらの疾患において発症原因となるキナーゼ変異を見つけ治療標的とすることの重要性を示している。
【本論文の意義】全身組織球症においてキナーゼ活性をもつ融合遺伝子、および、非LCH組織球症においてARAFMAP2K1の活性化変異を初めて見出した。MAP2K1ARAF変異があり治療抵抗性の織球症患者では、それぞれMEK阻害剤やソラフェニブによる治療効果が得られ、これらの疾患において網羅的なゲノム分析が重要であることが明らかになった。

7)「リスク臓器浸潤陽性多臓器型LCHの5年の無イベント生存率は満足できるものではない:インドの単一施設での経験」

The 5-Year EFS of Multisystem LCH With Risk-Organ Involvement Is Suboptimal: A Single-center Experience From India.

Totadri S, et al. J Pediatr Hematol Oncol. 2016 Jan;38(1):e1-5.

LCH-IIIプロトコールに基づき、8年の間に単一施設で治療されたLCHについて述べる。2006年~2013年の間に診断された小児LCHを後方視的に解析した。グループ1(リスク臓器浸潤陽性の多臓器型)は6~12週の寛解導入の後、維持療法を受け、12か月で治療を終了した。治療薬剤は、ビンブラスチン、プレドニゾロンと6-メルカプトプリンであった。グループ2(リスク臓器浸潤陰性の多臓器型)は、6-メルカプトプリンを除いた同様の治療を受けた。グループ3(単一臓器多発骨型)は、6か月間の治療を受けた。49例が治療を受け、グループ1が24例(49%)、グループ2が14例(28.6%)、グループ3が11例(22.4%)であった。診断時の平均年齢は31.6±28.4か月(4か月~120か月)であった。5例が治療を中止した。7例が死亡し、全てグループ1であった。死亡例は全て、寛解導入治療に対し部分寛解または反応せず進展した例であった(p=0.000)。肝臓浸潤のあった例の中で、硬化性胆管炎の合併例は有意に死亡率が高かった(p=0.007)。再発は12例(24.5%)に見られた。再発率は3グループ間で差はなかった(p=0.833)。5年の無イベント生存率は、グループ1で29.3±10%、グループ2で58.9±14.6%、グループ3で69.3±15%(p=0.019)であった。5年の全生存率は、グループ2と3で100%、グループ1で68.9±9.8%(p=0.011)であった。

8)「眼窩のLCH:単独病変例の臨床像と中枢神経変性症の発症リスク」

Langerhans Cell Histiocytosis of the Orbit: Spectrum of Disease and Risk of Central Nervous System Sequelae in Unifocal Cases.

Esmaili N, et al. Ophthal Plast Reconstr Surg. 2016 Jan-Feb;32(1):28-34.

【目的】眼窩浸潤を伴うLCHの臨床像と治療反応性を検討し、眼窩単独病変により中枢神経変性症の発症リスクが増加するかどうかを明らかにする。【方法】2003年~2011年にウィスコンシン小児病院で治療を受けた眼窩LCH患者の病変進展度などの後方視的解析、現在の国際治療プロトコールの分析、文献的考察を行った。【結果】6例の眼窩LCHが治療を受け、局所療法によって完全寛解を得た単独眼窩病変が1例、局所療法によって完全寛解が得られた多発骨型が1例、外科療法で完全寛解が得られず全身化学療法を必要とした単独眼窩病変が1例、多臓器型が3であった。文献検索では、806例の中枢神経変性LCHが見出された。眼窩浸潤は11例に認められた。これらのうち、6例は多臓器型であり、3例は多発骨型、1例は単独眼窩病変から多発骨型への進展例、1例は多発病変か単独病変か不明であった。単独眼窩病変から中枢神経変性LCHに至った例はなかった。【結論】眼窩LCHの初期治療は、診断時の病変進展度によって選択すべきである。生検や掻爬、副腎皮質ステロイドにより完全寛解する単独病変は、他の単独病変の治療と同様に慎重な長期経過観察とし、局所再発や多病変に進展した場合は化学療法を選択する方針でよいと考えられる。単独眼窩病変が中枢神経変性LCHのリスクを高めるという証拠は現在ほとんどなく、全例に予防的な全身化学療法を行うべきだとは言えない。

9)「中枢神経リスク部位の単独骨病変LCHの治療と転帰:多施設後方視的研究」

Management and Outcome of Patients With Langerhans Cell Histiocytosis and Single-Bone CNS-Risk Lesions: A Multi-Institutional Retrospective Study.

Chellapandian D, et al. Pediatr Blood Cancer. 2015 Dec;62(12):2162-6.

【背景】中枢神経リスク部位の単独骨病変LCHの小児は、尿崩症(DI)や中枢神経変性症(CNS-ND)の発症率、再発率が高いと報告されてきた。しかし、化学療法や放射線療法によって、これらの患者の転帰を変えることが可能かは明らかではない。【方法】北米と欧州の10の小児医療施設から、中枢神経リスク部位の単独骨病変LCHの小児患者のデータを収集した。診断時の年齢、性別、頭蓋病変の部位、頭蓋内進展の有無、治療、および臨床経過に関する情報を、該当する全ての症例について収集した。【結果】93例が解析対象に該当し、拡大療法(化学療法や放射線療法)、または、局所療法(生検、掻爬やステロイド局注)で治療されていた。59例が拡大療法、34例が局所療法を受けていた。5年の無イベント生存率(EFS)と全生存率(OS)は、拡大療法群が80±5%と98 ±2%であったのに対し、局所療法群では85±6%と95±5%であった。2群間で、EFS(p=0.26)、OS(p=0.78)ともに統計的に有意差はなかった。多変量解析では、病変部位および頭蓋内への軟部組織進展の有無を調整した後に、2群間で有意差はなく、拡大療法が有効であるという傾向はなかった(HR=2.26、95%信頼区間0.77-6.70、p=0.14)。【結論】中枢神経リスク部位の単独骨病変LCHの小児患者の再発率や晩期合併症の発症率は、局所療法と比較し、拡大療法によっても減少しないかもしれない。

10)「成人LCHに対するMACOP-B療法の高い有効性:20年の経験」

High efficacy of the MACOP-B regimen in the treatment of adult Langerhans cell histiocytosis, a 20 year experience.

Derenzini E, et al. BMC Cancer. 2015 Nov 9;15:879.

【背景】成人LCHは見捨てられた疾患である。化学療法は通常、単一臓器多病変(SS-m)型または多臓器(MS)型に行われるが、ランダム化試験がないため、標準的な第一選択治療はまだ定まっていない。ビンブラスチン/プレドニゾンを中心とした小児レジメンは、成人では有害事象が多く、おそらく小児ほど有効ではない。高用量多剤併用化学療法MACOP-Bが、7例のSS-m型およびMS型の成人LCH患者に対して、高い反応率と永続的な効果を示したことを以前に報告した。今回、成人LCHに対するMACOP-B療法の長期的な有効性を評価することを目的とし、これらのデータの最新版を報告する。【方法】過去20年間に我々の施設で診断・治療がされたすべての成人LCH患者(n=17)の、臨床データを後方視的に解析した。【結果】1995年~2014年の間に、計11例(SS-m型6例とMS型5例)がMACOP-B療法で治療を受けた。全例が治療に反応し、73%が完全寛解、27%が部分寛解であった。非進行生存率は64%で、初回完全寛解後の無病生存率は87%であった。全生存率は、追跡期間の中央値6.7年で、82%であった。【結論】これらのデータから、成人LCHに対するMACOP-B療法の高い有効性が確かめられ、この治療により相当割合の患者に長期間の有効性があり、治癒することが示された。