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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第33回 最新学術情報(2017.9)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「小児の再発および難治性LCHに対するデキサメタゾンパルスおよびレナリドマイド療法は寛解率が優れ有害事象が少ない」

Excellent remission rates with limited toxicity in relapsed/refractory Langerhans cell histiocytosis with pulse dexamethasone and lenalidomide in children.

Uppuluri R, et al. Pediatr Blood Cancer. 2017 Jan;64(1):110-112.

再発/難治性LCHは治療が難しく予後は不良である。第一選択薬、および、クラドリビン/シタラビンまたはクラドリビン単剤に対して不応性の4例の小児LCHに対して、6サイクルのデキサメタゾンパルスおよびレナリドマイドによる新規療法を行った。4例全例が重大な副作用なしにプロトコールを完遂し、治療後15-18か月の間、完全寛解を維持している。再発/難治性LCHに対するこの新規療法は、費用対効果が高く、外来治療が可能で、寛解率に優れ有害事象が少ない。この療法は、特に、医療資源が限られた国に適している。

2)「組織球症および樹状細胞腫瘍においてクローン性の免疫グロブリンおよびT細胞受容体遺伝子再構成を高頻度に認める」

High frequency of clonal IG and T-cell receptor gene rearrangements in histiocytic and dendritic cell neoplasms.

Huang W, et al. Oncotarget. 2016 Nov 29;7(48):78355-78362.

2008年のWHOの造血およびリンパ組織由来の組織球性および樹状細胞腫瘍の診断基準では、クローン性のB細胞/ T細胞受容体遺伝子の再構成がないことを必須とはしていない。クローン性のB細胞/ T細胞受容体遺伝子の再構成は、リンパ腫/白血病を伴う、または、それらに続発した組織球症や樹状細胞腫瘍、あるいは、まれに組織球性/樹状細胞肉腫においてみられるが、このような腫瘍群のクローン特徴は依然として明確ではない。ここでは、LCH・ランゲルハンス細胞肉腫(LCS)、濾胞性樹状細胞肉腫(FDCS)、指状嵌入樹状細胞肉腫(IDCS)および組織球性肉腫(HS)を含む33例のクローン状態を検討した。これらのうち28例は、現在または過去にリンパ腫/白血病を合併していない散発例であった。3例はT細胞リンパ腫の病歴があり、1例は異型性形質細胞腫を後に発症し、1例はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を同時に認めた。これら33例において、クローン性の免疫グロブリンおよびT細胞受容体遺伝子の再構成の頻度が高いことが示された。特に、4例のLCHおよび2例のFDCSでは、BおよびT細胞受容体遺伝子の再構成を両方同時に示した。DLBCLを同時に認めたFDCSの1例では、両腫瘍で同一のクローン性免疫グロブリン再構成を認め、FDCSでのみクローン性TCRβ再構成を認めた。クローン性の遺伝子再構成が腫瘍の起源や腫瘍形成と関連するかどうかにかかわらず、遺伝子再構成は標的療法を開発するための新規な腫瘍マーカーとして役立つ可能性がある。

3)「LCHにおけるBRAF活性化の代替的な遺伝子機構」

Alternative genetic mechanisms of BRAF activation in Langerhans cell histiocytosis.

Chakraborty R, et al. Blood. 2016 Nov 24;128(21):2533-2537.

LCHは、CD207陽性のERKの活性化を伴う病的樹状細胞の増生した炎症性病変を特徴とする。BRAF V600EおよびMAP2K1変異を含む、MAPK経路遺伝子の相互排他的な体細胞変異が、LCH症例の約75%に同定される。残りの25%の症例のERK活性化のメカニズムを解明するために、BRAF V600E陰性・MAP2K1変異陰性の24例のLCH患者検体において、全exome配列解析(WES、n = 6)、BRAF配列解析(n = 19)、全トランスクリプトーム配列解析(RNA-seq、n=6)を行った。WESおよびBRAF配列解析により、6例にBRAF遺伝子のβ3-αCループ領域のインフレーム欠失が同定された。RNA-seq解析により、BRAF遺伝子の自己阻害調節領域を欠失するがキナーゼドメインが保たれる、インフレームのFAM73A-BRAF融合遺伝子が同定された。同定されたBRAF融合遺伝子やBRAF欠失を強制発現した細胞、および、病変部位のCD207陽性細胞では、ERKのリン酸化は亢進していた。ERK活性化は、BRAF V600E阻害剤で抑制されなかったが、第2世代のBRAF阻害剤およびMEK阻害剤により抑制された。これらの結果は、LCHにおいてERKを活性化する遺伝子変異が普遍的に生じているという説を支持する。LCH患者が分子標的療法による効果を最大限に得るためには、患者特異的な遺伝子変異を同定することが必要であろう。

4)「孤発性の視床下部-下垂体LCH患者における臨床病理学的特徴およびBRAF V600E変異」

Clinicopathological features and BRAFV600E mutations in patients with isolated hypothalamic-pituitary Langerhans cell histiocytosis.

Huo Z, et al. Diagn Pathol. 2016 Oct 19;11(1):100.

【背景】孤発性の視床下部-下垂体LCH(HP-LCH)は非常にまれである。孤発性HP-LCHの臨床病理学的特徴、内分泌機能の変化、BRAF V600E変異および治療法を検討した。【方法】2007年から2015年までに我々の病院の臨床および病理ファイルを後方視的に検討し、孤発性HP-LCH患者7例を見出した。7例の臨床的特徴、特に内分泌機能の変化を検討した。免疫組織化学によりBRAF V600E変異を検討した。【結果】7例の内訳は、男性3例、女性4例で、年齢は9歳から47歳であった。全例に中枢性尿崩症(CDI)があり、4例には下垂体前葉機能不全も認めた。MRI検査で、全例に視床下部-下垂体系の浸潤を認めた。他の臓器に浸潤が明らかな例はなかった。LCHは神経内視鏡検査により確定され、免疫組織化学的染色により7例全例がCD68、CD1a、ランゲリンおよびS-100陽性であった。BRAF V600E変異は6例中3例で陽性であった。6例が継続し経過観察されており、全例がデスモプレシンアセテートと高用量のコルチコステロイド療法を受け、2例が放射線療法を受けていた。【結論】孤発性HP-LCH患者は、最も早期の症状としてCDIを呈し、半数以上が下垂体前葉の機能不全を発症する。BRAF V600E変異は、HP-LCH患者によくみられる遺伝子変異である。HP-LCH患者の治療は困難であり、進行性の内分泌機能不全はほとんどの場合不可逆的である。

5)「肺LCHの診断のための気管支肺胞洗浄」

Bronchoalveolar lavage for the diagnosis of Pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Lommatzsch M, et al. Respir Med. 2016 Oct;119:168-174.

【背景】肺LCHの組織学的診断は侵襲的であり、合併症を引き起こす可能性がある。なので、ガイドラインでは、肺LCHの診断を確定する方法として、その感度や特異性が低いにもかかわらず、気管支肺胞洗浄液(BALF)中のCD1a陽性細胞の測定を推奨している。従って、BALF細胞分析の診断精度の改善が望まれる。【方法】10例の新たに診断された未治療の喫煙している肺LCH患者のBALF中の形質細胞様および骨髄性樹状細胞を4色フローサイトメトリーにより解析し、40例の無症状の喫煙者および21例の非喫煙者のBALF中の樹状細胞と比較検討した。【結果】対照と比較し、肺LCHにおいて骨髄性樹状細胞(中央値:BALF白血球の0.79%)およびその亜集団のLCH細胞(中央値:BALF白血球の0.44%)の増加は見られなかった。肺LCHの患者では、BALF中の骨髄性樹状細胞の成熟マーカーCD83の発現は正常であった。しかし、BALF骨髄性樹状細胞の共シグナル伝達分子CD80の発現は、対照群に比べ有意に低く、より重度な患者(直径2cmを超える嚢胞あり)において最も発現が低下していた。ROC曲線に基づく解析で、BALF中の骨髄性樹状細胞のCD80陽性率53%が最適なcut-off値であり、感度90%、特異度90%であった。【結論】肺LCHでは、BALF中のLCH細胞は増加しない。しかし、肺LCHでは、BALF中の骨髄性樹状細胞のCD80発現が低いことが特徴である。感度と特異度の点から、このマーカーは、現在推奨されているマーカーであるCD1aよりも肺LCHの診断に適しているようである。

6)「LCH:18歳未満の1478例の30年間の全国コホートにおける治療戦略および転帰」

Langerhans cell histiocytosis: therapeutic strategy and outcome in a 30-year nationwide cohort of 1478 patients under 18 years of age.

Rigaud C1, et al. Br J Haematol. 2016 Sep;174(6):887-98.

フランスの小児LCH全国コホートが1983年に設立されて以来、1478例の患者が登録されている。LCHの治療戦略は1998年に大幅に変更されたため、コホートを15年間分の2つに分けた。1998年以降、治療期間が6か月から12か月に延長され、ビンブラスチン/ステロイドによる初回寛解導入治療へ反応不良例には寛解導入療法が繰り返し行われ、リスク臓器浸潤陽性(RO +)の治療抵抗例にはクラドリビン/シタラビン療法が行われた。1998年までに計483例(33%)、1998年以降に995例(67%)が登録された。5年生存率は96.6%(95%信頼区間95.4 - 97.5%)であり、1998年以前は92%であったが1998年以降は99%まで改善した(p <0.001 疾患の進展度により調整)。この変化は、5年生存率がRO+群において60%から92%に改善したことによる。生存率の改善は特に、治療抵抗性RO +群に対するクラドリビン/シタラビン療法によるところが大きかった。再発は1998年以降わずかに減少したが、これは、単一臓器型が多く登録されるようになったこと、治療期間が延長されたこと、およびより有効な第二選択治療が行われたことによる。内分泌系および神経系の後遺症(最も頻繁な後遺症)の罹患率は経時的に改善しているように見えたが、疾患の進展度により層別化した解析では差が見られなかった。

7)「相互排他的な細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)経路の変異が多発性肺LCHの異なる病期に存在することは、本疾患がクローン性であることを示す」

Mutually exclusive extracellular signal-regulated kinase pathway mutations are present in different stages of multi-focal pulmonary Langerhans cell histiocytosis supporting clonal nature of the disease.

Kamionek M, Histopathology. 2016 Sep;69(3):499-509.

【目的】肺LCHは、特発性の喫煙関連の肺障害である。肺LCHの細胞増殖期や線維化期における分子変化についての研究はされていない。我々は、異なる病期の肺LCHおよび肺LCH以外の喫煙関連肺疾患において、ERK経路の遺伝子変異の頻度を調べた。【方法および結果】28例の肺LCH(細胞増殖期10例、細胞増殖/線維化期の混合4例、線維化期14例)について検討した。7例には多発性/多肺葉性の腫瘍を認めた。呼吸器細気管支炎間質性肺疾患(RB-ILD)2例、剥離性間質性肺炎(DIP)4例、RB-ILD / DIPの混合2例を対照とした。RAS、BRAF、MAP2K1の変異解析のために、BRAF(V600E)免疫組織化学染色、次世代シークエンサー(NGS)、高感度(<0.1-0.2%)のペプチド核酸(PNA)結合PCRを用いた。26例の遺伝子変異解析例の中で、細胞増殖期の12例中8例(67%)、線維化期の14例中1例(7%)にBRAF(V600E)変異を認めた。MAP2K1またはKRAS変異を、細胞増殖期の12例中3例(25%)、線維化期の14例中4例(29%)に認めた。7例の多発性/多肺葉性の腫瘍では、BRAF(V600E)変異を5例に、MAP2K1変異を2例に認めた。他の喫煙関連肺障害では変異を認めなかった。細胞増殖期病変またはBRAF変異を認める患者は、線維化期病変またはBRAF変異を認めない患者に比べ、有意に若年であった。【結論】他のLCHと同一の相互排他的なERK経路の遺伝子変異を認めたことから、多発性肺LCHは新生物/クローン起源であることが示唆される。細胞増殖期と線維化期で患者の年齢および遺伝子変異が異なることから、疾患の自然進行性や遺伝子変異に特異的な疾患原性が示唆される。

8)「BRAF変異は、高リスクLCHおよび一次治療に対する抵抗性と関連する」

BRAF Mutation Correlates With High-Risk Langerhans Cell Histiocytosis and Increased Resistance to First-Line Therapy.

Héritier S, et al. J Clin Oncol. 2016 Sep 1;34(25):3023-30.

【目的】LCHは、幅広い臨床症状および転帰を示す、炎症性骨髄性腫瘍である。体細胞性BRAF(V600E)変異がしばしば認められるが、臨床的意義はまだ定まっていない。【症例および方法】フランスのLCHコホートでBRAF(V600E)変異を調べた。変異状態と臨床症状、疾患進展度、再発率、治療反応性、および長期的な非可逆的後遺症との関連を分析した。【結果】BRAF変異の有無を判定できた315例のうち、173例(54.6%)にBRAF(V600E)変異を認めた。BRAF(V600E)変異のある患者は、BRAF変異のない患者よりも重篤であった。リスク臓器(肝・脾・造血器)浸潤のある多臓器型LCHの49例中43例(87.8%)、リスク臓器浸潤のない多臓器型LCHの51例中35例(68.6%)、単一臓器型の196例中186例(43.9%)、肺単独LCHの19例中8例(42.1%)にBRAF(V600E)変異を認めた(p <0.001)。BRAF(V600E)変異は、不可逆的臓器障害である神経障害や下垂体障害のある患者に多く、それぞれ75.0%と72.9%に認めた。BRAF変異のない患者に比べ、BRAF(V600E)変異のある患者は、ビンブラスチンとコルチコステロイド併用療法に反応不良であることが多く(21.9% vs 3.3%; p=0.001)で、再発率が高く(5年時点での再発率42.8% vs 28.1%; p=0.006)、原疾患または治療による非可逆的障害が生じる率が高かった(27.9% vs 12.6%; p=0.001)。【結論】小児LCHでBRAF(V600E)変異のある患者には、高リスク、非可逆的臓器障害、化学療法に対する初期治療反応不良が多かった。この知見を検証し、標的治療の効果が期待できる患者群に対するBRAF阻害薬の効果を評価するために、さらなる大規模な研究を行うべきである。

9)「側頭骨LCH:単一の施設での29例の再検討」

Langerhans cell histiocytosis of the temporal bone: A review of 29 cases at a single center.

Modest MC, et al. Laryngoscope. 2016 Aug;126(8):1899-904.

【目的/仮説】側頭骨LCH患者の症状、治療、臨床転帰を評価する。【研究デザイン】後方視的な診療録の検索。【方法】1978~2014年に第3次病院での、側頭骨LCH患者全例を再検討した。症状、疾患経過、治療介入および臨床転帰を分析した。【結果】1978~2014年の間に、20例(男性12例、年齢中央値32歳、1.3-88歳)の29病変が側頭骨LCHと診断され、この期間に当施設でLCHと診断された全患者の4%を占めた。12例(60%)は頭頚部病変のみで、9例(45%)は両側性であり、7例(35%)は頭蓋内進展を伴い、8例(40%)は多臓器型であった。最も一般的な症状は、耳漏(11例; 55%)、聴力障害(10例; 50%)であった。治療は化学療法または放射線単独が主で(7例; 35%)、局所切除単独(2例; 10%)、手術+化学療法または放射線(11例; 55%)であった。10例(50%)が局所的または全身性に再発した(中央値12か月)。追跡期間の中央値は31か月であった。 1例が、多臓器LCHの肺合併症によって死亡した。【結論】LCHは、幅広い臨床症状および疾患重症度を示す稀な組織球症である。耳鼻科的病変はまれであり、耳乳様突起炎に類似した症状をしばしば示す。両側の耳の評価と慎重な経過観察が重要である。同時または前後して両側性に生じる例は45%に昇る。側頭骨LCHの症例は、患者に合わせた治療を多分野のチームによってすべきである。再発は、多臓器型の症例でより多く認められる。耳に限局した病変の症例であっても、治療後何年もして再発することがあり、長期経過観察が重要である。

10)「シタラビン、ビンクリスチンおよびプレドニゾロンを含むレジメンによる治療強化と治療期間延長により多臓器型LCHの転帰を改善する:日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ-02研究の結果」

Intensified and prolonged therapy comprising cytarabine, vincristine and prednisolone improves outcome in patients with multisystem Langerhans cell histiocytosis: results of the Japan Langerhans Cell Histiocytosis Study Group-02 Protocol Study.

Morimoto A, et al. Int J Hematol. 2016 Jul;104(1):99-109.

新規に診断された多病変LCHの小児の死亡率はJLSG-96試験では非常に低かった。予後をさらに改善するため、2002~2009年にJLSG-02試験が行われた。これら2つの研究の治療結果を多臓器型に関して比較した。すべての患者を、シタラビン、ビンクリスチンおよびプレドニゾロンを含む6週間の寛解導入Aレジメンで治療し、その後維持療法を行った。寛解導入Aに反応不良例は、寛解導入B療法に変更した。 JLSG-02は、寛解導入療法のプレドニゾロンの投与量の増量、維持療法期間を24週から48週へ延長、進行性病変に対しては寛解導入B療法にシクロスポリンの追加、という点をJLSG-96から改訂した。147例の小児多臓器型LCHを評価した。このうち、84例がリスク臓器浸潤(RO)陽性であり、63例がRO陰性であった。 6週間の時点で、RO陽性群の76.2%、RO陰性群の93.7%が寛解導入Aに反応した。5年時点での無イベント生存率(EFS)は、RO陽性群で46.2%(95%信頼区間:35.5-56.9)、RO陰性群で69.7%(58.4-81.1)で、JLSG-96のそれぞれ26.8%(13.3-40.4)、38.9%(16.4-61.4))よりも有意に優れていた。JLSG-02の寛解導入の強化および維持療法の延長は、多臓器型LCH患者のEFSを改善した。