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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第59回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「LCH患者の発生率と有病率、生存率: 英国の国家登録研究、2013-2019」

Incidence, prevalence and survival in patients with Langerhans cell histiocytosis: A national registry study from England, 2013-2019.

Liu H, et al. Br J Haematol. 2022 Dec;199(5):728-738.

この研究は、国際腫瘍分類(ICD-O-3)第3版でLCHとコードされた英国の全患者を含んだ、現在の包括的な疫学的推定値を示す、これまでで最大の疫学研究である。2013~2019年に診断された悪性腫瘍のICD-O-3形態9751-9754を用い、英国がん登録データセットから、全ての年齢の患者を抽出した。計658例が抽出され、そのうち324例(49%)が15歳未満の小児であった。年齢標準化した発生率は、小児100万人当たり4.46 (95%信頼区間[CI] 3.99-4.98)、15歳以上の成人100万人当たり1.06 (95%CI 0.94-1.18)であった。LCHの有病率は、2019年末時点で100万人当たり9.95 (95%CI 9.14-10.81)であった。1年時点での全生存率(OS)は、小児で99% (95%CI 97%-100%)、成人で90% (95%CI 87%-93%)であった。60歳以上の患者は、15歳未満の患者よりもOSが不良であった(ハザード比[HR] 22.12 [95%CI 7.10-68.94], p < 0.001)。貧困地域の患者は、最も富裕地域の患者よりもOSが低かった(HR 5.36 [95%CI 1.16-24.87], p=0.03)。まだ特定されていない他の環境要因や関連因子が必然的に存在するが、継続的な標準化されたデータ収集によって、時間経過とともにデータのさらなる評価が可能となる。これは、LCH-IVのような大規模な共同国際試験によるLCH患者の診療の発展に伴い、更に重要となる。

2)「バイオモジュレーション療法は、多臓器型LCHの持続的な寛解を誘導する」

Biomodulatory therapy induces durable remissions in multi-system Langerhans cell histiocytosis.

Harrer DC, et al. Leuk Lymphoma. 2022 Dec;63(12):2858-2868.

LCHは、CD207陽性樹状細胞の異常な増殖に起因するまれな血液腫瘍である。難治性の多臓器型LCHは治療が難しく、さまざまな救済療法の開発が継続的に必要である。我々の医療センターにおいて、11例の多臓器型LCH患者(生後11か月~77歳)が、人道的使用により、低用量のトロホスファミド、エトリコキシブ、ピオグリタゾン、デキサメタゾンを連日内服するメトロノミックバイオモジュレーション療法(MBT)を受けた。濃厚な治療歴がある2例の小児を含む、4例が完全寛解を達成し持続した。さらに、3例が部分寛解し、4例は病勢を抑えられた。MBTは、複数の全身化学療法に抵抗性の多臓器型LCH患者に対しても、高い有効性を示した。有効性をさらに確認するために、前方視的試験で体系的に評価する必要がある。

3)「Erdheim-Chester病患者の臨床所見、臨床検査と遺伝子変異の特徴:ラテンアメリカの2つのリファレンスセンターのコホートの後方視的分析」

Clinical, laboratory and genetic features of Erdheim-Chester disease patients: analysis of a retrospective cohort of two reference centers in Latin America.

Guerra Soares Brandão AA, et al. Hematology. 2022 Dec;27(1):65-69.

【目的と方法】Erdheim-Chester病(ECD)は、無症候性の局所的骨病変から多臓器病変まで、さまざまな臨床経過をたどるまれな組織球症で、重篤な病状を引き起こしや死に至ることがある。主に北米とヨーロッパからの少数のコホートの報告があるのみである。2006年1月~2020年2月までにブラジルの組織球症の2つリファレンスセンターで病理学的に診断および治療された16例のECD患者の臨床データを後方視的に収集した。【結果】症状発現から診断までの期間の中央値は13か月(0.1-142)であった。主な浸潤臓器は骨(75%)で、患者の75%は多臓器に病変を認めた。81.2%の患者でBRAF遺伝子変異は検索され、BRAF V600E変異の陽性率はサンガー シーケンスによってわずか18.8%であったが、この検査法の感度が低いためと考えられる。全ての患者は症候性であったために治療を受け、中央値で2種類(範囲 1~7)の治療を必要とした。用いられた最も頻度の高い一次治療は、α-インターフェロン(75%)であった。無増悪生存期間の中央値は7.5か月で、全生存率は50%以上であった。【考察と結論】この報告はラテンアメリカにおけるECD患者のこれまでで最大のコホートで、他のグループによる報告と同様の疫学的特徴、浸潤臓器、および治療選択であった。転帰は、遺伝子変異のある患者に対するBRAFやMEK阻害剤などの標的療法と、最近発表されたECD患者の診療に関するコンセンサス推奨を取り入れることにより改善される可能性がある。

4)「小児の中枢神経系の若年性黄色肉芽腫の神経画像」

Neuroimaging in Pediatric Patients with Juvenile Xanthogranuloma of the CNS.

Serrallach BL, et al. AJNR Am J Neuroradiol. 2022 Nov;43(11):1667-1673.

【背景と目的】若年性黄色肉芽腫(JXG)はまれなクローン性の骨髄性腫瘍である。典型的には乳児期の自然治癒する疾患であり、孤立性の赤褐色または黄色の皮膚丘疹/結節を呈することが多い。皮膚外病変のある全身性JXGは中枢神経病変を伴うこともある。この後方視的研究は、小児の中枢神経JXGの代表的なコホートにおいて、神経画像所見を評価し分類することを目的とする。【患者と方法】病理学的に診断された14例の小児JXG患者の脳および/または脊椎MRI所見を分類し、その病変部位、T1WI、T2WI、DWIにおける信号強度、ADCマップのパターンと造影効果の程度、病変周囲の浮腫、嚢胞、壊死の存在の有無を評価した。【結果】14例の小児患者(女児 8例、男児 6例、平均年齢 84か月)が研究対象となった。患者は、頭痛、発作、運動失調、斜視、難聴、顔面麻痺、尿崩症など、さまざまな症状を呈した。病変は、頭蓋内および脊髄軟髄膜、テント上およびテント下など多くの様々な部位で確認された。神経放射線学的パターンとして、5例は単発性中枢神経JXG、8例は多発性中枢神経JXG、1例は頭蓋内および脊髄軟髄膜病変を伴う多発性中枢神経JXGに分類された。ほとんどの例で、黄色肉芽腫は小から中程度の脳実質内腫瘤で、その信号強度は皮質灰白質と比較し、T1WIでは同程度、T2WIでは同程度または強度で、拡散制限と病変周囲の浮腫を認めた。ほとんどすべての黄色肉芽腫は、強い造影効果を示した。ただし、大きな病変や非造影病変、軟髄膜病変を呈する例も少数見られた。4例はCT画像も得られ、CT所見では、全ての黄色肉芽腫は均一に高密度(固形成分)であり、明らかな石灰化は認めなかった。【結論】中枢神経JXGは、原発性脳腫瘍や転移性腫瘍、リンパ腫、白血病、その他の組織球症、感染症、肉芽腫性疾患など、他の疾患に類似する様々な神経画像所見を示す可能性がある。

5)「フラクタル解析はLCHの診断に役立つか?」

Does Fractal Analysis Have a Role in Diagnosis of Langerhans Cell Histiocytosis?

Sinanoglu A, et al. J Oral Maxillofac Surg. 2022 Nov;80(11):1852-1857.

【目的】顎のLCHはまれな疾患で、しばしば進行した段階で診断される。この研究は、LCH患者の最初のパノラマX線写真の顎の骨梁パターンをフラクタル解析することにより、X線写真に異常があるかを容易に判断できるかを検討することを目的とする。【方法】イスタンブール大学とコジャエリ大学の2010~2021年のデータベースから顎病変を伴うLCH症例を抽出した。LCH症例の最初のパノラマX線写真と、性別と年齢を合わせた健常対照のパノラマX線写真を、フラクタル解析を用い検討した。全ての画像は、ImageJソフトウェアを使用して評価した。各パノラマX線写真で、下顎の計6つの関心領域を両側で調べた。LCH症例と対照ペアの顎の骨梁パターンを独立変数とした。パノラマX線写真の関心領域から取得したフラクタル次元値を結果変数とした。データはマンホイットニーのU検定とスチューデントt検定を用いて分析した。【結果】LCHと対照の15ペアを検討した。左下顎角上部の皮質上領域に位置する1つの関心領域では、LCH症例のフラクタル次元値は対照よりも有意に低かった(1.273±112.8 vs. 1.308±85.3; P<0.05)。その他の関心領域の一部については、やや低いフラクタル次元値も算出されたが、グループ間に有意差はなかった(P>0.05)。【結論】我々の結果では、フラクタル解析はX線写真上の骨梁の変化をLCHと対照で識別するのに有用なパラメーターとはならなかった。このまれな疾患の同定するためにフラクタル解析が有用かどうかを検討するには、より多くの集団を対象とした多施設研究が必要である。

6)「神経変性LCHにおける眼球運動異常」

Eye movement abnormalities in neurodegenerative langerhans cell histiocytosis.

Autier L, et al. Neurol Sci. 2022 Nov;43(11):6539-6546.

LCHは、中枢神経系を含む多くの臓器に浸潤する腫瘍性組織球の増殖を特徴とするまれな炎症性骨髄腫瘍である。神経変性LCH(ND-LCH)の根底にある病態生理は、完全には解決されていない。ND-LCHの主な臨床的特徴は小脳性運動失調と遂行機能障害症候群であるため、眼球運動が障害される可能性があり、疾患の診断とモニタリングに役立つ可能性がある。2015~2018年の間に当院で眼球運動記録を用いて検査した20例のND-LCH患者の診療録を後方視的に分析した。ND-LCH患者は、(i) 45.0%が過大衝動性眼球運動と過剰変動などの視覚誘導衝動性眼球運動の過剰異常、(ii) 66.7%が平均抗衝動性眼球運動エラー率の増加、(iii) 50.0%がスムーズな追視の障害、 (iv) 25%が矩形波眼球運動の過剰および注視誘発性眼振を認めた。我々の研究は、ND-LCH患者は小脳および前頭前野の機能障害を示す独特な眼球運動障害を呈すことを示唆している。したがって、眼球運動記録はND-LCH患者の定量的モニタリングとして、非侵襲的で有益な手段となる可能性がある。我々の研究結果を裏付けるために、さらなる研究が必要である。

7)「BRAF V600E は、LCHのマウスモデルの樹状細胞において、転写後メカニズムによってLPS誘導TNFα産生を増幅する」

BRAF-V600E utilizes posttranscriptional mechanisms to amplify LPS-induced TNFα production in dendritic cells in a mouse model of Langerhans cell histiocytosis.

Minichino D, et al. J Leukoc Biol. 2022 Nov;112(5):1089-1104.

LCHは、「LCH細胞」と呼ばれる過剰なERKシグナル伝達を伴う異常な樹状細胞を特徴とする炎症性疾患である。樹状細胞はERKシグナル伝達に依存して、病原体に反応して炎症性分子を生成するため、ERKの過剰活性化が樹状細胞の炎症反応を増強するという仮説を立てた。CD11cプロモータ下にBRAF V600を発現し樹状細胞でERKが過剰活性化しているLCHのマウスモデルを用い、LCH細胞でのTLR4誘導TNFα産生を検討した。薬理学的なBRAF V600E阻害の有り無しの条件下で、脾臓CD11c陽性細胞および骨髄由来樹状細胞を用い、LPS誘導TNFα産生をin vivoとin vitroで測定した。対照と比較し、TLR4シグナル伝達とTNFα転写産物が減少したにもかかわらず、TNFα分泌の可逆的な増加と、細胞あたりのTNFα蛋白の可逆的な少しの増加がみられた。生化学的および細胞アッセイを用いて、TNFαの産生と分泌に寄与するERKによる転写後メカニズムを調べた。TNFαの分泌に必要な酵素であるTACE活性化の可逆的な増加、そして最も驚くべきことに、TNFαを含む蛋白翻訳の増加を突き止めた。ポリソーム結合RNAシーケンシングによるトランスラトームの解析により、LPS応答プログラムの翻訳が亢進していることが明らかになった。これらのデータは、ERKシグナル伝達の過剰活性が複数の転写後メカニズムを介して樹状細胞の炎症反応を増幅していることを示唆し、LCHと樹状細胞の基本的生理の理解を深める。

8)「Erdheim-Chester 病: 眼に注目、眼窩MRIの研究」

Erdheim-Chester disease: look it in the eye. An orbital magnetic resonance imaging study.

Haroche J, et al. Haematologica. 2022 Nov 1;107(11):2667-2674.

Erdheim-Chester病(ECD)は、まれなL群組織球症である。3分の1の症例に眼窩病変を認めるが、ECD関連の眼窩病変(ECD-ROD)の放射線画像の報告はほとんどない。ECD-ROD患者の初期の放射線学的所見と転帰を明らかにすることを目的とした。国立リファレンスセンターで組織学的に診断されたECD患者の初診時および経過観察時の眼窩MRI所見を検討した。137例のうち45例(33%)に眼窩病変を認め、そのうち38/45例(84%)が両側性であった。患者の年齢(平均±標準偏差)は、60±11.3歳で、78%が男性であった。最も頻度の高い所見は、強いガドリニウム造影効果と線維化を伴う、眼球に接する視神経鞘周辺の円錐内脂肪浸潤(52%)であった。視神経信号の異常は47%の例で認めた。筋炎様浸潤を示唆する両側外眼筋の均一な肥大を2例に認めた。涙腺炎単独の例はなかったが、他の眼窩病変を伴う涙腺炎を17眼に認めた。脳MRI所見が正常であったのは7例(15%)だけであった。ECD関連の副鼻腔病変と下垂体後病変を、それぞれ56%、53%の例に認めた。長期追跡調査(>12か月)を受けた17/24例(71%)に病変の改善/消失が見られた。興味深いことに、眼窩病変のみが診断の契機となる例はほとんどなく(7/45; 16%)、最も頻度の高い症状は眼球突出であった(3/45; 6%)。ECD-RODは臨床的に無症状のこともあるが、視神経信号の異常をもたらす広範な病変を呈することが多く、その視機能の転帰は明らかではない。よって、ECD-RODの有無を初期に評価し、その後、眼窩MRIと眼科診察による経過観察が必要である。

9)「Erdheim-Chester病: 塗抹標本での明確な虎紋状背景をなどのまれな組織球性腫瘍の細胞形態学的手がかり」

Erdheim-Chester disease: Cytomorphologic clues for a rare histiocytic neoplasm including a distinct tigroid background pattern on smears.

Thangaiah JJ, et al. Ann Diagn Pathol. 2022 Oct;60:151998.

Erdheim-Chester病(ECD)と確定診断された7例のECDの細胞形態学的特徴を、コア針生検の組織像との関連を含めて提示する。ECDはまれな多臓器に浸潤する腫瘍性組織球症である。最も多い浸潤部位は、長骨、後腹膜、血管系である。多くの場合、細胞診の標本の細胞成分はわずかである。塗抹標本に腫瘍性組織球が存在する場合でも、通常は均一な腫瘍細胞ばかりの像ではなく、類上皮から紡錘体までさまざまな形態の腫瘍細胞がみられ、多核巨細胞がさまざまな程度で存在するため、見落とされがちである。我々の知る限り、これの報告は、泡沫状の腫瘍細胞の破裂による明確な網状または虎紋状背景が塗抹標本に見られるという最初のものである。通常、どの部位の標的腫瘤病変の塗抹標本であっても、多形性の組織球がわずかにみられる場合は、診断不能と見なされる。遺伝子解析ができなかった1例を除き全例で、針コア生検検体を用いた免疫組織化学染色およびBRAF変異解析によってECDの診断が可能であった。これらのケースを提示することによって、細胞病理診断医に、ECDは病変部位、塗抹標本の細胞密度、細胞形態が非常に多様であるために見落とす危険があることを警告し、現場での迅速診断時に専用の組織コアを採取すべきこと、臨床医と放射線科医、血液病理医が慎重に連携すべきことを促す。

10)「眼周囲のマクロファージ-樹状細胞系統の組織球症および肉腫におけるサイクリンD1発現および分子遺伝学的所見」

Cyclin D1 Expression and Molecular Genetic Findings in Periocular Histiocytoses and Neoplasms of Macrophage-Dendritic Cell Lineage.

Milman T, et al. Am J Ophthalmol. 2022 Oct;242:36-51.

【目的】多くの組織球症でMAPK経路の遺伝子に活性化変異を認める。MAPKシグナル伝達は、サイクリンD1の発現を亢進させる。この研究は、免疫組織化学によるサイクリンD1発現が眼周囲の組織球症の有用な診断マーカーとなるかを判断し、それらの遺伝的基盤をさらに特徴付けることを目的とする。【研究デザイン】後方視的ケースシリーズ。【方法】1995~2020年に組織球症と診断された全ての患者の病理記録を検索した。対照として、11例の組織球に富む炎症性病変と10例の黄色皮腫を用いた。全ての検体でサイクリンD1免疫染色を行った。組織球症患者の一部は次世代シーケンシング(NGS)とddPCRを用いて検討した。【結果】36例(男性15例[42%]、女性21例[58%])の組織球症患者が見出され、9例(25%)が若年性黄色肉芽腫、8例(22%)が成人発症喘息を伴う眼周囲の黄色肉芽腫、7例(19%)がLCH、5例(14%)がRosai-Dorfman病、5例(14%)が特定できない黄色肉芽腫、1例(3%)がErdheim-Chester病、1例(3%)が組織球肉腫であった。病変部細胞の50%以上に中程度から強度の核でのサイクリンD1発現を認めた率は、組織球症では23/36(64%)で、組織球に富む炎症性病変(0/11、0%、P<.001)や黄色腫(0/10、0%、P<.001)と比較して有意に高かった。サイクリンD1の発現率は、11例全ての組織球に富む炎症性病変(P<.001)、10例全ての黄色皮症病変(P<.001)において、病変部細胞の10%未満であった。NGSおよび/またはddPCR によって解析可能であった組織球症患者14例中12例(86%)でMAPK経路の遺伝子変異が検出された。【結論】我々の研究により、サイクリンD1免疫染色は眼周囲の組織球症の有用な診断マーカーで、潜在的なMAPK経路遺伝子変異と相関していることが確認された。