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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第44回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「カナダの単一小児病院で過去15年間に診断・治療を受けた椎体病変を伴うLCH」

Langerhans Cell Histiocytosis With Vertebral Involvement Diagnosed and Treated Over the Last 15 Years in a Single Canadian Pediatric Academic Institution.

Gatineau-Sailliant S, et al. J Pediatr Hematol Oncol. 2020 Apr;42(3):222-227.

2000年~2015年に診断・治療を受けた椎体病変を伴う11例の小児LCHを報告する。椎体病変は通常LCH診断時に認められていた。神経学的症状を呈した例はなかった。29の椎骨病変のうち2つのみが不安定であった。3例以外は化学療法を受けた。6例が再発し、うち4例は椎体に病変を認めた。全例が最終観察時点で寛解していた。放射線学的に後遺症があっても、無症状であることが多かった。再発する可能性があり骨再生は完全ではないため、最適な治療について議論し、椎体病変を長期に経過観察することが不可欠である。

2)「小児LCHにおける原発性免疫不全症類似の臨床像の影響-単一施設における18年間で39例の小児LCHのうちの4例の原発性免疫不全症類似例」

The influence of clinical features mimicking primary immunodeficiency diseases (mPID) on children with Langerhans cell histiocytosis (LCH) - Four with mPID among 39 LCH children from one referral center during 18-year period.

Lin SC, et al. Immunobiology. 2020 Mar;225(2):151877

【背景】再発性または難治性の感染症は原発性免疫不全症(PID)の警告サインの可能性がある。このようなPID類似症状がLCHの患者に生じる可能性がある。難治性の伝染性軟属腫様の病変や持続性の耳漏を呈する症例は最終的にLCHと診断されることがあるため、このようなPID類似症状が小児LCHに生じ、その予後に影響する可能性があるのではと考えた。【方法】2001年~2018年に当施設で診療したすべての小児LCHを後方視的に解析した。性別、年齢、症状、治療経過、および転帰について比較検討した。【結果】解析対象となった39例のLCH患者のうち、3例に持続性の耳漏があり、1例に抗生物質療法に抵抗性の難治性の伝染性軟属腫様の病変があった。PID類似症状のあるこれらの4例は、PID類似症状のない症例と比較して、有意に多臓器型が多く、再発率が高く、診断までの期間が5か月長かったが、両群共に骨と皮膚病変が最も多く、リスク臓器(肝臓、脾臓、骨髄)浸潤は多くなかった。全体では、多臓器型の診断までの期間は単一臓器型よりも長かった(中央値2.5か月 vs. 1.0か月; p=0.003)。リスク臓器浸潤陽性例は、陰性例に比べ若年であった(中央値8か月 vs. 43か月; p=0.004)。寛解維持例と再発例の間で、診断年齢、単一臓器型か多臓器型、リスク臓器浸潤の有無に有意な違いなかった。追跡不能となった4例以外は、全例が生存していた。【結論】PID類似症状のある小児LCHは、PID類似症状のない例と比較し、診断までに時間を要し、多臓器型が多く、再発率が高く、骨や皮膚病変の割合が同等にもかかわらず移植を含む救済療法を必要としていた。

3)「小児LCHにおける化学療法後の脳灌流の変化」

Altered Cerebral Perfusion in Children With Langerhans Cell Histiocytosis After Chemotherapy

Han M, et al. Pediatr Blood Cancer. 2020 Mar;67(3):e28104

【背景と目的】LCHの小児患者はさまざまな神経学的症状を発症する可能性があるが、関連する脳の生理学的変化はよくわかっていない。動脈スピンラベリング(ASL)による灌流MRIを使用して、小児LCHの脳血行力学的特性を調べた。【患者と方法】生検で確定診断された23例の小児LCHを後方視的に解析した。治療の前後で脳MRIを撮像した。対象領域法を用いて、角回、前頭前皮質、眼窩前頭皮質、前帯状皮質背側部、および海馬の両側領域のASL大脳血流(mL / 100 g / min)を計測した。各対象領域において分位点回帰(中央値)分析を行った。CBFパターンを、治療前後のLCH患者間、および年齢を一致させた健常対照者とで比較した。【結果】LCHの治療後では、年齢を一致させた対照と比較して、角回(P=0.046)、前頭前皮質(P=0.039)、および前帯状皮質背側部において(P=0.023)において、CBFが有意に減少していた。さらに分析すると、右半球に優位の灌流異常が明らかとなった。海馬または眼窩前頭皮質では、有意な灌流の違いはなかった。【結論】小児LCHでは、特定の脳領域の灌流が一貫して減少している可能性があり、LCHの病態や化学療法による有害事象の影響を反映している可能性がある。正式な認知評価と血行力学的データを組み合わせた研究により、化学療法を受けた小児LCHにおけるLCH自体および潜在的な神経学的有害事象に関連する灌流障害の洞察が得られる可能性がある。

4)「エルドハイム・チェスター病患者におけるBRAF / MEK阻害剤の毒性の実際」

Real-World Toxicity Experience with BRAF/MEK Inhibitors in Patients with Erdheim-Chester Disease.

Saunders IM, et al. Oncologist. 2020 Feb;25(2):e386-e390.

【背景】エルドハイム・チェスター病(ECD)は、まれな非LCH組織球症である。BRAF阻害剤であるベムラフェニブは、米国食品医薬品局(FDA)によってBRAF V600E変異のあるECDの患者に承認されている。BRAF V600E変異陰性でMEK1変異のある患者がいるため、MEKを標的とした治療が奏功した例も報告されている。我々の希少腫瘍科では、これらの患者に薬物関連毒性を高頻度に認めることを指摘しており、このことは、これらの患者にインターフェロンαを使用する場合に用量を大幅に減らす必要があることを示す以前の報告と同様である。【患者と方法】カリフォルニア大学サンディエゴ校の希少腫瘍科で診療し、BRAF阻害またはMEK阻害薬、BRAFとMEK阻害薬併用の16種の療法を受けた10例のECD患者を後方視的に検討した。【結果】10例のECD患者の年齢は中央値53歳(範囲:29~77)であった。 7例が男性であった。耐容用量%(FDA承認用量の%)は中央値25%(範囲:25%~50%)であった。阻害剤の用量調整を必要とする、最も頻度の高い臨床的に重大な有害事象は、発疹、関節痛、ブドウ膜炎であった。腎毒性とうっ血性心不全が、それぞれ1例にみられた。これらの有害事象にもかかわらず、10例中8例(80%)に部分寛解が得られた。【考察】ECD患者は、BRAFおよびMEK阻害剤の用量の大幅な減量を要する可能性があるが、このような低用量でも治療効果が得られる。

5)「血漿インターロイキン-17A高値は、LCHの重度の神経学的後遺症に関連する」

High levels of plasma interleukin-17A are associated with severe neurological sequelae in Langerhans cell histiocytosis.

Ismail MB, et al. Cytokine. 2020 Feb;126:154877.

【目的】LCHは肉芽腫性炎症性骨髄性腫瘍であり、血清と病変部の両方でサイトカインストームが生じる。LCH患者において血漿インターロイキン-17A(IL-17A)値が上昇していると報告されているが、これはすべての研究で確認されているわけではない。LCHにおいて神経変性(ND-LCH)は深刻な合併症である。多数のLCH患者において血漿IL-17A値を再検討し、IL-17AとLCHの後遺症、特にND-LCHとの関係を分析することを目的とした。【方法】68例のLCH患者と127人の対照者の血漿検体で、異なる抗IL-17A抗体を用いた2つのELISA(ポリクローナル抗体の17polyAb-ELISAとモノクローナル中和抗体17mAb-ELISA)によって、IL-17A値を測定した。【結果】両方のELISAともに、LCH患者からの血漿IL-17Aだけでなく、遺伝子組換えや天然のヒトIL-17Aを特異的に同等の精度で検出できた。LCH患者では、対照群と比較して、血漿IL-17A値が有意に高かった(p<0.0001)。使用したELISAや患者の性別、年齢、病型(単一臓器型、リスク臓器浸潤陰性および陽性多臓器型)にかかわらず、LCH患者ではIL-17A値が高かった。ROC分析により、LCH患者と対照群を鑑別可能(p <0.0001)で、IL-17AはLCHの潜在的なバイオマーカーである可能性が支持された。さらに興味深いことに、後遺症のあるLCH患者では、ない患者と比べ、IL-17A値は有意に高く、ND-LCH患者においてIL-17A値は最も高かった(p <0.0001)。【結論】LCH患者ではIL-17A値が高いことが確認された。IL-17AはND-LCHの発症と関連している可能性がある。この知見は新たな治療法開発につながる可能性があり、IL-17AはND-LCHに対する新たな治療標的となるかもしれない。

6)「MAPK変異とタバコ煙は肺LCHの病因を促進する」

MAPK mutations and cigarette smoke promote the pathogenesis of pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Liu H, et al. JCI Insight. 2020 Feb 27;5(4):e132048.

肺LCHは、樹状細胞の集簇、気管支中心の結節形成、嚢胞性肺リモデリングを特徴とするまれな喫煙関連肺疾患である。約50%の肺LCH患者の骨髄/単球系統の細胞にBRAF V600E変異を認める。しかし、希少疾患であり動物モデルがないことから、肺LCHの病因の研究は進んでいない。ここでは、肺LCHの多くの特徴を再現する、タバコ煙暴露BRAF V600E変異マウスモデルを確立した。CD11cを標的としてBRAF V600Eを発現させると、CCL20ケモカインを含む刺激に対する樹状細胞の応答性が増強し、樹状細胞の生存率の増加と遊走の増強により、タバコ煙に曝露されたマウスの肺に変異細胞が集簇することが示された。さらに、CCL7ケモカインがBRAF V600E依存性に樹状細胞およびヒト末梢血単球から分泌され、このことが肺LCH病変に重要な役割を果たすことが知られている炎症細胞の動員機序となる可能性が示唆された。BRAF V600E発現マウスにおけるタバコの煙に反応した炎症性病変と肺嚢胞拡張は、HEPAフィルター下の環境に移しBRAF V600E阻害剤のPLX4720で治療することにより軽減した。まとめると、このマウスモデルは、肺LCH病因において骨髄単球細胞とBRAF V600E変異、タバコ煙曝露が果たす役割を明らかにし、バイオマーカーと治療標的を開発するための基盤となる。

7)「肺病変を伴う成人LCHの遺伝子異常」

Genetic landscape of adult Langerhans cell histiocytosis with lung involvement.

Jouenne F, et al. Eur Respir J. 2020 Feb 27;55(2):1901190.

肺LCHを含む成人LCHにおけるBRAFV600E変異の臨床的重要性はよくわかっていない。同様に、成人LCHにおける遺伝子変異もよくわかっていない。これらのことを明らかにするために、多数の成人LCHの生検検体で遺伝子変異型を解析し、遺伝子変異と臨床症状および転帰との関連を解析した。117例の成人LCH患者(年齢中央値36.4歳、女性56例、肺病変83例、多臓器型38例、単一臓器型79例、現在喫煙中65例)で、BRAFV600E変異の有無を検索した。69例において、全エクソームシーケンシング(WES)またはターゲット遺伝子パネル次世代シーケンシング(NGS)によってもLCH病変の遺伝子変異を検索した。Coxモデルを用いて、患者の基本的特性とLCH病変進行との関連を推定した。69例中59例(86%)でMAPK経路の遺伝子に変異(BRAF V600E変異:36%、BRAF N486_P490欠失:28%、MAP2K1変異:15%、NRAS Q61変異:4%)が検出されたが、KRAS変異は肺LCH病変には検出されなかった。BRAF V600E変異の有無と、肺LCH患者の喫煙状態や肺機能を含む診断時の臨床所見との関連はなかった。BRAF V600E変異の有無は、LCH病変の進行リスクに影響していなかった。このように、MAPK経路の遺伝子変異は、成人のLCH患者のほとんどの病変、特に肺LCHに認める。小児LCHの報告とは異なり、BRAF V600E変異は疾患転帰に関連していなかった。BRAF欠失を含むMAPK経路の遺伝子変異の検索は、難治性進行性LCH患者に標的治療を行う際に役立つ。

8)「乳児の高リスクLCHは異種移植モデルで連続移植可能であるが、標的療法が長期間奏功する」

High-risk LCH in infants is serially transplantable in a xenograft model but responds durably to targeted therapy.

Lee LH, et al. Blood Adv. 2020 Feb 25;4(4):717-727.

LCHは、ランゲルハンス様細胞のクローン性増殖を特徴とするまれな造血系腫瘍である。遺伝子プロファイリングにより、MAPキナーゼ経路の遺伝子に活性化体細胞変異が見出され、これは、分子阻害剤の標的となる。ただし、標的療法により治癒可能かどうか、細胞起源は何かなどの重要な疑問は未解決のままである。この研究では、BRAF V600E変異のある多臓器型LCHの小児患者の臨床転帰、および、それら患者からマウスへの異種移植の実験結果について報告する。当院に紹介された、二次性血球貪食性リンパ組織球症を合併した4例の乳児LCH患者(診断時月齢7〜11か月)を、BRAFV600E特異的阻害剤ダブラフェニブで治療した。この治療により全例が8週以内に完全完解に達し、寛解期間は中央値36か月間(範囲、27〜42か月)続いた。1例は、リアルタイム定量的PCR(RT-qPCR)により分子寛解が確認でき、長期間の治療中止が可能となった。さらに、全骨髄細胞を免疫不全マウスに移植することにより、これらの患者における増殖細胞集団の特徴を明らかにした。異種移植されたマウスは、血液学的異常、脾腫、骨髄への組織球浸潤といったヒトLCHに似た症状を呈し生存率が低下した。二次移植も可能で、同様の疾患潜伏期で同様の組織学的所見を示した。これらのデータは、骨髄内にLCHの起源となる細胞が存在することをさらに裏付けている。異種移植モデルにおいて侵攻性の病態を示したにもかかわらず、これらの患者は標的療法のみで持続的な臨床的寛解が達成可能で、分子寛解を達成できる患者もいることがRT-qPCRにより示された。

9)「エルドハイム・チェスター病:皮膚所見を超えて」

Erdheim-Chester disease: expanding the spectrum of cutaneous manifestations.

Kobic A, et al. Br J Dermatol. 2020 Feb;182(2):405-409.

【背景】Erdheim-Chester病(ECD)はまれな疾患であり、その皮膚症状に関して入手できる情報は限られている。【目的】ECDにおける皮膚病変の臨床的および組織病理学的特徴を明らかにする。【方法】この研究は、単一施設で1990年1月1日~2017年4月1日に組織学的にECDと診断された18歳以上の患者の後方視的解析である。このコホートの患者の皮膚症状のスクリーニング、新しい皮膚病変のBRAF c.1799T>A(p.V600E)変異解析を行った。主に、皮膚所見(病変の形態および局在)と新規皮膚病変のBRAF変異の有無について解析した。【結果】71例のECD患者のうち、15例(21%、年齢中央値52歳)に皮膚病変を認めた。最もよく見られた所見は、黄色腫様病変の存在であった(n=8)。2例では顔面以外に皮膚黄色腫を認めた。7例が黄色腫以外の皮膚病変を呈し、最もよく見られた所見は皮下結節であった(n=5)。1例が環状肉芽腫様病変を呈した。ECDとLCHが混在する別の患者では、わずかに鱗屑性のピンクがかった赤い斑状皮疹を認めた。3例は皮膚病変が初発症状であった。ほとんどの例では診断時に、骨/四肢の痛み、体重減少、その他の全身症状が見られた。脂肪織炎様および環状肉芽腫様病変のある例では、BRAF V600E変異を認めなかった。【結論】ECDの最もよくみられる症状は、眼窩周囲の黄色腫様病変である。その他の症状として、顔面以外の皮膚黄色腫、脂肪織炎様病変、環状肉芽腫様病変がある。初発症状として、骨や四肢の痛みや体重減少などがある。【このトピックについて既に判明していたこと】ECDは、脂質を含んだマクロファージが組織へ浸潤し線維化をきたす、まれな非LCH組織球症である。皮膚病変は患者の約25%に認められ、大部分は眼窩周囲の黄色腫様病変である。【この研究で新たに判明したこと】脂肪織炎様病変と環状肉芽腫様病変という新たな2つの皮膚所見がある。

10)「Rosai-Dorfman病の臨床病理学的特徴、治療アプローチ、および転帰」

Clinicopathological features, treatment approaches, and outcomes in Rosai-Dorfman disease.

Goyal G, et al. Haematologica. 2020 Jan 31;105(2):348-357.

Rosai-Dorfman病は、非LCH組織球症のまれな亜型である。1990年に発表された最も新しい主要なレポートでは、この疾患に関する新たなデータが不足している。三次紹介病院で診療した患者の臨床病理学的特徴、治療および転帰を報告することを目的とする。1994年~2017年に、64例(年齢中央値50歳、範囲2〜79歳)が組織病理学的にRosai-Dorfman病と診断されていた。症状の発現から診断までの期間は中央値7か月(範囲0〜128か月)、診断確定までに要した生検回数は中央値2回(範囲1〜6回)であった。最もよくみられた症状は皮下腫瘤(40%)であった。64例のうち、8%はリンパ節のみの古典型、92%は節外病変型(67%は節外病変のみ)であった。最も多い病変臓器は、皮膚および皮下組織(52%)で、次いでリンパ節(33%)であった。3例は、これまでに報告がなかった、Erdheim-Chester病との合併例であった。このうち2例に、MAP2K1変異がみられた。よく行われていた一次治療は、外科的切除(38%)とコルチコステロイド全身投与(27%)であった。56%はコルチコステロイドに反応していた。一次治療を受けた患者のうち、15例(30%)が再発した。最もよく用いられた化学療法役は、クラドリビン(n=6)で、奏効率は67%であった。この研究は、Rosai-Dorfman病は様々な臨床症状を呈し、多様な転帰をとることを示している。この疾患は、従来は良性と考えられてきたが、全身療法を必要とする侵攻性の経過をたどる。