第66回 最新学術情報
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)「濾胞性樹状細胞肉腫患者の生存分析:集団ベース研究」
Survival analysis in patients with follicular dendritic cell sarcoma: a population-based study.
Chen S, Sun Y, Sun W, Dan M, Jiang Y. Hematology. 2023 Dec;28(1):2260975.
【濾胞性樹状細胞肉腫(FDCS)は、まれな低~中悪性度の悪性腫瘍である。これまで、FDCSの臨床経過に関する論文は少なく、条件付き生存期間研究は行われていない。よって、Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベースからFDCSと診断された187例を抽出し後方視的に分析した。診断時年齢の中央値は50歳で、91例(48.7%)が男性であった。最も多い原発部位は腹部/骨盤(82例、43.9%)であった。1年、3年、5年の全生存率は、それぞれ88.7%、69.0%、59.8%であった。5年条件付き全生存率は、1年生存者では65.7%、5年生存者では83.8%であった。3年間の原疾患による死亡率は26.7%、その他の理由による死亡率は3.7%であった。さらに、年間死亡危険率は診断後最初の4年間が最も高く、7年目と8年目に再び増加した。診断時年齢が60歳以上、転移病変、胸部病変が、全生存期間の短縮および原疾患死亡の上昇と関連していた。孤発病変例・転移病変例ともに、外科的切除が奏効する可能性があった。さらに、孤発病変例では、補助放射線療法や化学療法による、全生存期間や原疾患死亡の有意な改善は見られなかった。これらの知見が、臨床現場でのFDCS患者の治療と診療戦略の指針となることを願う。
2)「小児LCHにおけるARAF体細胞変異:臨床病理学的、遺伝的および機能的プロファイリング」
Somatic ARAF mutations in pediatric Langerhans cell histiocytosis: clinicopathologic, genetic and functional profiling.
Liu R, et al. Clin Exp Med. 2023 Dec;23(8):5269-5279.
LCH細胞の異常な増殖を特徴とする稀な疾患であるLCH患者において、ARAF変異はまれに認められる。LCHは主に、MAPKシグナル伝達経路の変異を病因とし、そのほとんどはBRAFV600E変異とMAP2K1変異である。LCHのARAF変異は、この疾患の多様性を象徴し、LCHの根本的な分子機構に関して理解を深める。しかし、ARAF変異陽性LCHは非常にまれであり、世界で2例しか報告されていない。ARAF変異陽性LCHは、より悪性度が高くより重症である可能性があるが、この変異の臨床的意義や機能的役割はよくわかっていない。次世代シーケンスを行い、148例の小児LCHのドライバー変異を解析し、4例の小児LCH患者に、新規ARAF体細胞変異(p.Q349_F351delinsL)を含むARAF変異を同定した。それはARAF hotspot変異と考えられた。世界で報告された全てのARAF変異陽性例は、LCHに特徴的な病理学的特徴を示し、多臓器型であった。in vitro機能解析により、この変異はMAPK経路を活性化し、その下流エフェクターのMEK1/2およびERK1/2をリン酸化することが示された(BRAFV600Eと比較し弱い)。変異体A-RAFキナーゼの過剰活性化は、BRAF阻害剤vemurafenibによって阻害可能であった。LCHはまれであり、ARAF変異はさらにまれです。この研究で、機能解析によって活性化変異であることが検証された新たなARAFのhotspot体細胞変異を特定した。ARAF変異陽性のLCHは、通常、治療経験が限られているため臨床上不利であるが、再発率は高くない。LCH患者の個別化治療アプローチと予後マーカーの開発を支援するために、LCH診断のために定型的な病理学的および免疫組織化学検査と同時にターゲット遺伝子パネルまたは全エクソームシーケンスを用いた遺伝子検査を実施することが勧められ、それにより阻害剤を用いた治療戦略が促進される。
3)「成人の孤発性LCHの臨床的特徴、ゲノムプロファイリングと転帰」
Clinical features, genomic profiling, and outcomes of adult patients with unifocal Langerhans cell histiocytosis.
Lang M, et al. Orphanet J Rare Dis. 2023 Nov 30;18(1):372.
【背景】LCHはまれで非常に臨床的に多様な組織球症であり、病変部位によって単一臓器型と多臓器型に分類される。遺伝子解析が進歩した時代において、成人の孤発性LCHに関する研究は進んでいない。【結果】70例の孤発性LCH患者の診療録を後方視的に分析した。診断時年齢の中央値は36歳(18-69歳)であった。最も頻度の高い病変臓器は骨(70.0%)で、次いで下垂体(7.1%)であった。70例中32例において病変組織の遺伝子変異解析を行った。78.1%の例でMAPK/PI3K経路に変異がみられ、BRAFV600E変異(28.1%)、MAP2K1変異(18.8%)、PIK3CA変異(9.4%)が多かった。追跡期間の中央値39.4か月(0.7-211.8か月)で、10例(14.3%)に病変進展を認め、そのうち4例は局所再発、2例は単一臓器多発型への進行、4例は多臓器型への進行であった。3年間の無増悪生存率(PFS)は81.9%であった。単変量解析では、診断時年齢30歳未満がPFS不良と関連していた(3年PFS 52.2% vs. 97.0%: p=0.005)。3年の全生存率は100%であった。【結論】成人の孤発性LCHの大規模なコホートでは、成人の孤発性LCHの予後が非常に良く、診断時年齢30歳未満は再発リスクが高いことが判明した。
4)「小児の肺病変を伴う多臓器型LCH:重度肺病変は転帰に影響するか?」
Pediatric pulmonary multisystem Langerhans cell histiocytosis: does lung lesion severity affect the outcome?
Sedky M, et al. Orphanet J Rare Dis. 2023 Nov 17;18(1):361.
【背景】小児の肺病変を伴う多臓器型LCH(PPM LCH)は、低リスクのこともあるし高リスクのこともある。結節性肺病変は、病的ではあるが、重症度は非常に幅広く、肺LCHと診断するかどうかずっと論争の種となっている。この研究は、臨床的呼吸症状と放射線肺病変の重症度が予後に影響するかを解析することを目的とした。すなわち、胸部CTでの両側性かつ広範性、びまん性病変(重度肺病変)が予後に影響するかを検討することを目的とした。2007~2020年までにエジプト小児がん病院で全身治療を受けた350例のLCH患者を対象とした後方視的研究である。【結果】診断時に67例(19.1%)がPPM LCHであった。24例に重度肺病変があった。追跡期間の中央値は61か月(IQR:3.4-8.3)であった。5年の全生存率と無イベント生存率(EFS)は、それぞれ89.0%と56.6%であった。重度肺病変のある例はない例より(38±20.7% vs. 66±16.2%: p=0.002)、胸部単純X線で所見のある例はない例より(27±22.3% vs. 66±14.7%: p=0.001)、臨床的呼吸症状のある例はない例より(13±13.9% vs. 62±22.9%: p<0.001)、リスク臓器浸潤陰性で重度肺病変がある例はない例より(47±30.4% vs. 69±5.9%: p=0.04)、EFSは有意に低かった。重度肺病変は独立してEFSに影響する傾向がみられた(aHR=1.7, 95%CI 0.92-3.13, p=0.09)。【結論】肺は、それ自体はLCHの低リスク臓器であるが、重度肺病変は小児LCHのリスク層別化において無視できない予後に影響する因子であることを、この研究は示している。これについて、さらなる研究と検証が必要である。
5)「乳房のRosai-Dorfman病:臨床放射線学的および病理学的研究」
Rosai-Dorfman disease of the breast: a clinicoradiologic and pathologic study.
Wang Q, et al. Hum Pathol. 2023 Nov;141:30-42.
Rosai-Dorfman Disease(RDD)は、通常リンパ節病変が主で、リンパ節以外の病変は頻度が低いまれな組織球症である。RDDの乳房病変はまれで、臨床的および放射線学的に腫瘍性あるいは非腫瘍性疾患に類似した所見を示すことがある。乳房病変のあるRDDの7例を報告し、臨床放射線学的および病理学的特徴を記述し、鑑別診断について議論する。患者は、15歳から74歳で、片側性単一病変が5例、両側性多発病変が7例であった。DRRの病変は、6例では乳房のみだったが、1例はリンパ節にも病変を認めた。腫瘤の大きさは8〜31mmで、Breast Imaging-Reporting and Data System(BI-RADS)分類でカテゴリー4(悪性疑い)が6例、カテゴリー5(悪性の可能性が非常に高い)が1例であった。全例で共通した病理組織所見を示し、線維化と多数のリンパ形質細胞の浸潤を背景に、細胞内細胞陥入現象を示す多数の大きな組織球を認めた。異常な組織球は、7例中7例がCD68/CD163・S100・OCT2・サイクリンD1陽性、CK AE1/AE3・CD1A陰性、6例中6例がBRAFV600E陰性であった。フローサイトメトリー(3例)、in situハイブリダイゼーション(5例)、IgG4/IgG免疫組織化学(1例)で、リンパ腫やIgG4関連疾患が明らかとなった例はなかった。抗酸菌染色やグロコットメセナミン銀染色(5例)で、マイコバクテリアや真菌は検出されなかった。3例が完全切除を受け、追跡期間(88〜151か月)中に全身性疾患に進行または再発した例はなかった。要約すると、RDDの乳房病変は、腫瘤形成乳房病変の鑑別診断に含める必要がある。補助的検査を合わせた組織病理検査と臨床放射線学的検査が、正確な診断と最適な診療に不可欠である。乳房病変のRDDは、完全切除すると予後は良好である。
6)「ENT3の機能喪失は、TLR-MAPKシグナル伝達を介して組織球症と炎症を促進する」
Loss-of-function of ENT3 drives histiocytosis and inflammation through TLR-MAPK signaling.
Shiloh R, et al. Blood. 2023 Nov 16;142(20):1740-1751.
組織球症は、MAPK経路の遺伝子の体細胞の活性化変異を原因とすることが多い炎症性骨髄性腫瘍である。H症候群は、リソソーム均衡ヌクレオシド輸送体3(ENT3)をコードするSLC29A3の生殖細胞系列の機能喪失変異によって引き起こされる炎症性遺伝疾患である。H症候群は、組織球症を続発しやすいがそのメカニズムはわかっていない。ここでは、H症候群の患者細胞の表現型、遺伝子変異、機能分析によって、この遺伝疾患における組織球症と炎症につながる分子経路を明らかにする。ENT3の機能喪失は、ヌクレオシド感受性Toll様受容体(TLR)とその下流のMAPKシグナル伝達を活性化し、サイトカイン分泌と炎症を誘発することがわかった。重要なことに、MEK阻害剤によって、H症候群患者の組織球症と炎症は改善した。これらの結果は、リソソーム輸送体欠陥とMAPKシグナル伝達系の病的活性化に、認識されていなかった関連があること示しており、組織球症と炎症につながる新規経路を立証している。
7)「BRAFV600E変異を伴う成人LCHは二次癌の発生率が高い」
BRAF V600E is associated with higher incidence of second cancers in adults with Langerhans cell histiocytosis.
Acosta-Medina AA, et al. Blood. 2023 Nov 2;142(18):1570-1575./p>
この後方視的研究では、BRAF変異の有無は156例の成人LCHにおいて病型や無イベント生存率と相関しなかった。BRAFV600Eは、二次がん(多くは血液腫瘍)の発生率と関連し、同一クローンから生じている可能性がある。
8)「組織球症におけるBRAF変異検査法:検査法の比較と検査アルゴリズムの提案」
BRAF testing modalities in histiocytic disorders: Comparative analysis and proposed testing algorithm.
Acosta-Medina AA, et al. Am J Clin Pathol. 2023 Nov 2;160(5):483-489.
【目的】組織球症において、BRAFV600E変異を代表とするMAPK経路の遺伝子変異が明らかとなり、その病態の理解は急速に深まった。BRAFV600E変異の有無を評価するための最適な検査手段が何かはよくわかっていない。組織球症におけるBRAFV600E変異の有無の評価手段を提案するために、検査法の感度/特異度を比較した。【方法】組織球症患者の病変組織標本のBRAF変異検査を後方視的に解析した。【結果】120例でBRAF変異が評価され、97例(80.2%)が免疫組織化学(IHC)、35例(28.9%)がPCR、62例(51.2%)が次世代シーケンス(NGS)で検査を受けていた。45例はNGSとIHCの両方の検査を受けていた。NGSを絶対基準として、IHCの感度と特異性は82.4%および96.4%であった。BRAFV600Eバリアント頻度が低い生検標本や脱灰生検標本において、3例が偽陰性であった。1例の肺生検標本で、IHCで偽陽性を認めたが、おそらく、呼吸繊毛との抗体交差反応性が原因と考えられた。NGSとPCRで検査された14例のうち、1例で結果が一致しなかった。2例でPCRとIHCの結果が一致しなかったが、1例はもう1例のIHC偽陽性例であった。【結論】IHCは、BRAFV600Eの検出に対して特異性は非常高かった。偽陰性が見られることとBRAFV600E変異以外の変異を検出できないことが、主な問題点である。実臨床においてはIHCを用いて初期スクリーニングし、陰性の場合にはPCR/NGS検査を行うことを提案する。
9)「組織球性腫瘍患者における分子標的療法中断後の転帰」
Outcomes after interruption of targeted therapy in patients with histiocytic neoplasms.
Reiner AS, et al. Br J Haematol. 2023 Nov;203(3):389-394.
成人の組織球性腫瘍患者において、分子標的療法の中断後の転帰についてはほとんどわかっていない。FDG-PETにより完全または部分寛解を達成した後にBRAFおよびMEK阻害剤が中断された組織球性腫瘍患者についての、IRB承認が得られた研究である。22例中17例(77%)は、治療中断後に再発した。治療中断前に完全寛解に達していたこと、BRAFV600E以外の変異であること、MEK阻害のみを受けていたこと、が無再発生存と有意に関連していた。治療中断後にしばしば再発がみられるが、期間を限定した治療が適している患者もある。
10)「成人LCH患者の長期転帰」
Long-term outcomes among adults with Langerhans cell histiocytosis.
Goyal G, et al. Blood Adv. 2023 Nov 14;7(21):6568-6578.
LCHの治療の進歩により生存例が増えている。成人LCHの長期的な転帰についてはよくわかっていない。219例の成人LCH(18歳以上)の診療録を後方視的に解析した。最も多い病型は多臓器型(34.2%)で、次いで、単一臓器肺型(32%)、単一臓器孤発型(28.3%)、単一臓器多発型(5.5%)であった。リスク臓器浸潤(肝臓、脾臓、または骨髄)陽性例は8.7%で、BRAFV600E変異を検索した88例中40例(45.5%)が変異陽性であった。追跡期間の中央値74か月で、5年間の無増悪生存率は58.3%で、無増悪生存期間の中央値は83か月であった。全生存率は50%以上であった。5年および10年の全生存率は、それぞれ88.7%と74.5%であった。リスク臓器浸潤陽性例は、無増悪生存(ハザード比[HR]、4.5)および全生存(HR、10.8)が不良であった。BRAFV600E変異の有無は、リスク臓器病変や生存率とは関連していなかった。米国のLCHではない人と比較して、LCH患者は、全死亡リスクは有意に高く(標準化死亡率[SMR] 2.66)、特に診断時55歳未満の患者(SMR 5.94)と多臓器病変のある患者(SMR 4.12)で高かった。様々な悪性の血液および固形腫瘍を含む二次癌が16.4%の例に発生していた。LCH関連死亡が死因の36.1%を占め、診断から5年以内に発生していた。5年以降では、二次癌、慢性閉塞性肺疾患、心血管疾患などのLCH以外の死因が多かった。この研究から、成人LCH患者はLCH以外の原因による早期および晩期死亡をきたしやすいこと、転帰を改善するために成人LCHに特化したサバイバーシッププログラムの開発の必要性があることが明らかとなった。