第1回 最新学術情報(2005.2)
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)小児LCH(ランゲルハンス細胞組織球症)症例における小脳性運動失調症について
Cerebellar Ataxia in Pediatric Patients With Langerhans Cell Histiocytosis
Imashuku S, et al. J Pediatr Hematol Oncol 26(11):735-739, 2004
LCHでは中枢神経病変をきたすことがあるが、そのメカニズムは未だに解明されていない。LCHに随伴する尿崩症については効果的な治療法があるものの、それ以外の中枢神経病変に対してはまだ有効な治療が確立されていない。筆者らは小脳性運動失調症をきたした3例のLCHの日本人の男児について検討し、同様の小児報告例について文献的に考察した。それら3例とも幼少期(3歳未満)に多発性のLCHを発症し、いずれも化学療法の反応性は良好であったが、3例中2例は後に尿崩症を発症した。3例は4歳から8歳の間に軽度の発達遅滞を伴った運動失調症が認められた。今回の3症例と今までの報告例とあわせて解析すると、LCHの発症年齢の中央値は2.5歳(0.1-6.5歳)、小脳病変/運動失調症の発症年齢の中央値は7歳(3.5-16.5歳)であった。小脳病変を伴うLCHの頻度は低いが、小児LCH患者症例の経過観察をするとき遅発性の中枢神経病変を念頭に置く必要がある。早期に小脳病変をみいだすために頭部MRIを施行することが強く望まれるが、どのような治療によって中枢神経病変の進行を食い止めることができるのかは、今後の検討課題である。
2)肺病変を伴う小児LCH症例の予後
Outcome in children with pulmonary Langerhans cell Histiocytosis.
Braier J, et al. Pediatr Blood Cancer. 43(7):765-769, 2004
この研究は、肺病変を伴ったLCHの小児の臨床像と予後を明らかにすることを目的としている。方法は1987から2001年までのLCH症例を後方視的に検討した。多臓器病変をもつ症例を浸潤臓器のパターンによって以下の4グループに分類した。グループA(造血器・肺・肝臓ともに病変なし)、グループB(肺病変のみあり)、グループC(肺病変に加え、造血器または肝臓のいずれかに病変あり)、グループD(肺病変はないが、造血器または肝臓のいずれかに病変あり)。多臓器病変をもつ症例は、全例で、この他に皮膚、骨またはリンパ節のいずれかに病変があった。全例、胸部レントゲン検査が施行されており、21例で胸部CTが行われていた。診断のために肺生検が5例で行われていた。220例中36例で肺病変が認められた。2例は肺病変単独であった。多臓器病変は83例にみられ、そのうち肺病変がみられたのは34例であった。肺病変のあった計36例のうち、20例で多呼吸、咳そう、胸部痛がみられた。び慢性間質病変が全例でみられた。呼吸機能検査は9例に行われ、6例は軽度から中程度の閉塞性呼吸障害がみられた。2例の肺病変のみの症例は、診断後2年と2.7年、それぞれ生存していた。多臓器病変のある全症例の追跡期間の中央値は2.1年で、5年生存率は59%であった。各グループの5年生存率は、グループA(n=24):94%、グループB(n=6):83%、グループC (n=28):23%、グループD(n=25):40%であった。グループBとグループCの間で生存率は有意に差がみられた(p<0.0071)。以上の結果から、結論として、肺病変があっても他の危険因子となる臓器に病変がない場合、予後不良ではないと考えられる。
3)小児LCH症例患者に対する2-CDA(クラドリビン)持続点滴の効果
Efficacy of continuous infusion 2-CDA (cladribine) in pediatric patients with Langerhans cell histiocytosis.
Stine KC, et al. Pediatr Blood Cancer. 43(1): 81-84, 2004
LCH患者症例の予後は、どの臓器に浸潤しているか、初期治療に反応があるかによってさまざまである。高危険群の患者症例や多発性再発患者症例の治療については、治療反応性がさまざまであることと毒性の頻度から、いまだ解決すべき問題が多い。2-CDAで治療を受けた高危険群や多発性再発の小児LCH患者症例の長期的な無病生存率と低用量持続注入の毒性を明らかにすることが、この研究の目的である。Histiocyte Societyの定義で高危険群または多発性再発と診断された10例の小児LCH患者症例を、2-CDA低用量持続性注入で治療し、治療反応性と毒性を評価した。2-CDAの開始用量は体表面積あたり1日5mgが3日間で、重大な副作用がなければ体表面積あたり1日6.5mgを3日間まで増量した。2-CDAの1例あたりの最大のコース数は6コースとした。52コースの2-CDA治療が問題なく施行できた。1回目の2-CDA投与にて急性毒性を認めなかった場合、1例を除き2回目以降は自宅で投与した。10例の患者症例すべて治療に反応した(9例は放射線学的に1例は身体所見や全身検索によって評価された)。毒性は骨髄抑制のみであった。10例中7例は2-CDA以外の追加治療は必要なく、治療終了後、中央値50か月間、無病生存した。残りの3例は他の治療を受け、現在無病生存中である。更なる研究により、これらの患者症例群に対する2-CDAの役割を明らかにする必要がある。2-CDAは在宅治療でも安全に投与可能で、高危険群の患者症例に対しても有効と考えられる。
4)LCHに伴う尿崩症におけるMRI所見の経過と臨床的意義
Course and clinical impact of magnetic resonance imaging findings in diabetes insipidus associated with Langerhans cell histiocytosis.
Grois N, et al. Pediatr Blood Cancer. 43(1):59-65, 2004
尿崩症はLCHにおいて最も頻度が高い後遺症である。頭部MRI所見の臨床像との関連や治療による変化については経時的には明らかではない。この後方視的研究で、筆者らは59例の尿崩症を伴ったLCH症例の113回のMRI所見を解析した。内17例については経時的なMRI所見と臨床経過・治療との関連性と検討した。尿崩症と診断された時点で71%の例に下垂体茎の腫大を認め、24%の例は尿崩症発症5年以上経過した時点でも腫大が残存し、2例では尿崩症発症数か月前にすでに腫大があった。下垂体茎の腫大の変化は多種多様で治療との相関はあきらかではなかった。初期に部分的尿崩症であった1例を除き尿崩症は持続したが、尿崩症の臨床的軽快に伴ってMRIでの下垂体茎の腫大が改善することはなかった。
尿崩症診断時の下垂体茎の腫大に関連し、下垂体前葉ホルモンの欠乏が生じていた。尿崩症を併発した症例のうち75%に頭蓋顔面骨にLCH病変があり、尿崩症発症後5年以上MRIで経過観察された症例のうち76%に脳実質の神経変性病変を認めた。筆者らの研究により、尿崩症の症例においてMRI検査を反復することは、下垂体茎によって治療反応性を評価するには限界があるが、頭蓋顔面骨病変の経過観察と脳実質病変をみいだすためには重要であることが明らかとなった。