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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第3回 最新学術情報(2005.8)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)抗CD52抗体、alemtuzumabはLCHにおいてLCH細胞に結合する

Anti-CD52 antibody, alemtuzumab, binds to Langerhans cells in Langerhans cell histiocytosis. Jordan MB et al.

Pediatr Blood Cancer. 2005 Mar;44(3):251-4.

【背景】ヒト化した抗CD52モノクローナル抗体、alemtuzumab(別名Campath-1H)はヒトにおいてリンパ球を枯渇させる能力があることがわかっている。移植片対宿主病や慢性リンパ性白血病の治療に使われ成功している。CD52は正常リンパ球、単球、ある種の樹状細胞に発現している。しかし、alemtuzumabは正常の皮膚のランゲルハンス細胞には結合しない。我々はLCH病変部位の病的LCH細胞がCD52を発現しているのか、この抗体の標的となりえるのかを明らかにしようと思った。
【方法】凍結切片とパラフィン固定組織をCampath-1G(ラットアイソタイプ)とCampath-1H(臨床的に使われているヒト化したCampath抗体)を用い免疫組織化学的に検索した。
【結果】Campath-1HとCampath-1GともにLCH病変部位の病的LCH細胞に結合したが、皮膚の正常ランゲルハンス細胞には結合しなかった。染色強度は組織ごとにまちまちで、パラフィン固定組織では弱い傾向にあったが、検索した13例のLCHすべてで陽性であった。
【結論】LCH病変部位の病的LCH細胞がCD52を発現していることより、alemtuzumabはLCHの新たな標的療法となるかもしれない。このような治療は特に難治性、高リスクの患者に必要である。このような患者に対するこの抗体の臨床使用の可能性について、さらに検討する価値がある。

2)前処置を軽減した同種造血幹細胞移植による治療抵抗性高リスクLCHの予後の改善

Improved outcome of treatment-resistant high-risk Langerhans cell histiocytosis after allogeneic stem cell transplantation with reduced-intensity conditioning.

Steiner M et al. Bone Marrow Transplant. 2005 Aug;36(3):215-25.

多臓器型でリスク臓器浸潤があり従来の治療法に反応しないLCHの小児患者の予後は極めて悪い。このような患者に対する救済療法としての骨髄破壊的な造血幹細胞移植は移植関連死のリスクが高かった。そこで、最近、前処置を軽減した同種造血幹細胞移植(RIC-SCT)が新たな救済療法として行われつつある。我々は、9人の高リスクの小児LCH患者に対し、RIC-SCTを行った経験を報告する。前処置としてすべての患者にフルダラビンを用い、メルファランを8例に、全リンパ組織放射線照射を6例に、全身放射線照射を2例に、抗胸腺細胞グロブリンを5例に、Campathを4例に用いた。RIC-SCTは一般的な副作用はあったが許容範囲であった。2例が移植後50日と69日で死亡した。経過観察期間の中央値390日の時点で、9例中7例は生存しLCH病変は消失している(ただし1例は生着せず自己造血が回復した)。このことより、RIC-SCTは、移植合併症や移植関連死が少ない実行可能な治療法であり、難治性のリスク臓器浸潤をもつ高リスクLCH患者に対する新しい有望な救済療法である。

3)LCHにおける中枢神経病変の神経病理

Neuropathology of CNS disease in Langerhans cell histiocytosis.

Grois N et al. Brain. 2005 Apr;128(Pt 4):829-38.

LCHの中枢神経病変は、まれであるが荒廃的障害となる可能性がある。MRI検査によりいくつかの浸潤様式が報告されている。中枢神経の病変は、占拠性のものと変性性のものとがあるが、背景にある神経病理や病態生理についてはほとんどわかっていない。我々の研究では、12例のLCH患者の脳組織を再評価した。神経病理像はMRI検査での形態像や臨床症状とよく相関した。神経病理学的に病変は次の3型に分類できた。
(i) MRIで髄膜や脈絡叢の腫瘤としてみられる脳結合織領域の限局性肉芽腫型。これらは、末梢組織のLCH肉芽腫類似し種々の程度のCD1a陽性組織球と明らかなCD8陽性細胞浸潤を伴っていた。
(ii) 脳結合織領域の肉芽腫病変でCD1a陽性組織球が周辺の脳実質に部分的に浸潤した型。T細胞を中心とした著しい浸潤とほぼ完全に神経細胞と神経軸索の消失とグリオーシスを伴う重篤な神経変性を呈していた。
(iii) CD1a陽性組織球の浸潤がみられない神経変性病変で主に小脳や脳幹が障害される型。CD8陽性T細胞による著しい炎症像を呈し、神経変性やミクログリアの活性化やグリオーシスを伴う。このような病変を伴う患者は、種々の段階の神経学的障害を伴っていた。LCHにおける神経変性は、T細胞による炎症を背景にして起こり、二次的脱髄を伴った神経細胞や神経軸索の破壊が特徴的で、腫瘍随伴脳炎に似ていることがこの研究により示された。

4)LCHの病変活動性の新しい臨床スコア

A new clinical score for disease activity in Langerhans cell histiocytosis.

Donadieu J et al. Pediatr Blood Cancer. 2004 Dec;43(7):770-6.

【目的】LCH患者の病勢を評価するための客観的指標を確立する。【方法】スコアリングシステムを作り、612例の情報を含んだデータベースに当てはめた。
【結果】診断時においては、スコア0-2の例が74%、3-6が16%、7-10が3%、>10が6%と大きな偏りがあった。5年での死亡率は、診断時のスコア0-2が1%、3-6が4.4%、>6が43.4%であった。診断時のスコア>6で治療開始後6週時点で低下がないまたは上昇する例は、死亡率が極めて高かった。一方、診断時スコアが6以下の例は、スコアが低下しなくても生命予後は悪くなかった。
【結論】このLCH病勢活動性スコアは、診断時においても治療後の経過観察期間においても、疾患の重症度を評価するための客観的指標となる。 (注:スコアは呼吸機能、血小板輸血必要度、赤血球輸血必要度、血清アルブミン値などから算出されたもの。)