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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第67回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「拡散テンソル画像によって明らかにされたLCH関連神経変性疾患における小脳脚損傷」

Cerebellar peduncle damage in Langerhans cell histiocytosis-associated neurodegenerative disease revealed by diffusion tensor imaging.

Imai T, et al. Neuroradiology. 2024 Jan;66(1):43-54.

【目的】LCH関連神経変性疾患(LCH-ND)の病因と疾患進行に、脳白質損傷が関わるという仮説を検証するために、拡散テンソル画像(DTI)を用いて小児LCH患者を分析した。【方法】33例のLCH患者から33のDTIデータを得た。DTIにより神経線維束の走行様式を推定し、大脳および小脳白質路の異方性率(FA)、見かけの拡散係数(ADC)、軸方向拡散率(AD)、放射状拡散率(RD)を測定した。患者は、DTI検査時の臨床状態に応じて、非ND、臨床症状のないND(r-ND)、臨床症状のあるND(c-ND)の3グループに分けた。3グループ間で白質路のDTIパラメーターを比較した。【結果】非ND群、r-ND群、c-ND群の順に、上小脳脚と中小脳脚のFAが有意に減少し、中小脳脚のADC、AD、RDが減少し、上小脳脚のRDは有意に上昇していた(FA-上小脳脚; p⟨0.001、FA-中小脳脚; p=0.026、ADC-中小脳脚; p⟨0.001、AD-中小脳脚; p=0.002、RD-中小脳脚; p=0.003、RD-上小脳脚; p=0.018)。さらに、単純線形回帰分析では、中小脳脚のFA、ADC、AD、RD値と上小脳脚のFA値は、神経症状およびMRIのND所見の有無によって有意な差を認めた(すべてp⟨0.001)。【結論】LCH-NDにおいて、上小脳脚と中小脳脚の微細構造損傷を同定した。これらの領域のDTIパラメータは、LCH-NDの経過観察に役立つ可能性がある。したがって、今後、これらの結果を大規模なコホートで検証する研究が必要である。

2)「Rosai-Dorfman病における、分子標的療法・末梢血単球数・治療成績の関連の検討」

Investigating the correlation between small molecular inhibitor utilization, peripheral blood monocytes, and treatment outcomes in Rosai Dorfman disease.

Reynolds SB, et al. Ann Hematol. 2024 Jan;103(1):37-59.

Rosai-Dorfman病(RDD)は、様々な程度の細胞内細胞陥入現象を伴う組織球のリンパ洞への集簇を特徴とするnon-LCH組織球症である。この疾患の進行に関与する要因はよくわかっていない。RDDは従来、局所型に対しては局所療法(切除、放射線)、全身型に対しては抗腫瘍剤で治療されてきた。最近では、分子標的療法も追加の治療法として臨床現場に導入されている。この研究は、分子標的療法の効果を従来治療と比較すること、疾患の進行に関与する可能性のある検査値を同定することを目的とした。単一施設で 20年間の間に、二次悪性腫瘍が否定され病理組織学的にRDDと診断された成人患者35例を後方視的に分析した。臨床データとして、臨床検査による評価、分子診断、画像診断、行われた治療を抽出した。これらを統計解析し、分子標的療法の使用の有無による転帰を比較した。治療反応の評価は、解剖学的病変部位と診断時の画像検査法によってさまざまであった。放射線学的分析を標準化するために、PETが撮像されている場合にはPERCISTを、CTまたはMRが撮像されている場合にはRECISTで評価した。従来治療法には、局所治療(手術、放射線、病変内注射)、全身性コルチコステロイド、免疫療法、化学療法が、分子標的療法には分子阻害剤のみが含まれた。皮膚、骨、中枢神経系に原発病変を認めた(それぞれ17例、11例、6例)。治療は、手術(12例)、ステロイド(9例)および化学療法(9例)、免疫療法(5例)、分子標的療法(5例)であった。転帰評価では、従来型治療群と比較して分子標的療法群では、部分奏効の割合は大幅に高かった(4/5 vs. 6/29)が、完全奏効は少なかった(1/5 vs. 12/29)。最後に、末梢血の単球の絶対数は、治療中に疾患進行した全ての患者において、治療再開後の値と比較して疾患進行時に有意に増加していた(平均0.70 vs. 0.27 x103/µL; p=0.0002, 95%CI 0.652-0.2360)。疾患活動性と単球数の関連性をさらに評価するには、より大規模な研究が必要である。この研究は、我々が知る限り、単一の施設によるRDDの最も大きなコホートの解析である。このコホートでは、分子標的療法群は従来型治療群よりも部分奏功の割合が大幅に高かく、完全奏効の割合は低かった。これは、分子標的療法は最近導入され、追跡期間が短いことに起因すると考えられる。より追跡期間を長くした進行中の研究において、分子標的療法によってより高い完全奏効率が得られることを期待している。疾患進行時に相対的に単球が上昇することは興味深く、我々の知る限りでは、RDDにおける新たな発見である。単球上昇の影響を解明することを目的とした研究が進行中である。

3)「Erdheim-Chester病におけるFDG PET/CTの役割」

The role of 2-[18F]FDG PET/CT in Erdheim-Chester Disease.

Pudis M, et al. Rev Esp Med Nucl Imagen Mol (Engl Ed). 2024 Jan-Feb;43(1):14-22.

【目的】Erdheim-Chester病(ECD)の病変検出における、FDG PET/CTの有用性を、他の画像法と比較検討することを目的とした。さらに、BRAFV600E変異の有無により、疾患の侵攻性と程度に違いがあるか検討した。【患者と方法】2008~2021年の間にECDと診断された全19例のFDG-PET/CTスキャンを再評価した。病変がPET/CTによって検出可能か、または、他の画像法(骨シンチグラフィー、造影 CT、MRI)によってのみ検出可能かに分けた。記述的分析およびBRAF変異と病変臓器・最大SUVとの関連性は、student t-検定を用いて解析した。【結果】19例(男 14例、平均年齢 60.3歳)のうち、11例にBRAFV600E変異を認めた。計127病変(64臓器)が、さまざまな画像診断法により同定され、そのうち112病変はPET/CTによって検出され、15病変は脳および心臓MRIによってのみ検出された。BRAFV600E変異の有無で、SUVmaxに差はなかったが(p⟩0.05)、病変臓器の数と関連していた(p⟨0.05)。【結論】FDG PET/CTはECD患者にとって非常に有効な診断ツールであり、病変の大部分が検出可能である。MRIは、FDGの生理学的取り込みが高くFDG PET/CTでは検出できない臓器(脳および心臓)において病変が検出可能であった、唯一の画像診断ツールであった。BRAFV600E変異の存在は、病変の広がりと相関していた。

4)「ゲノムワイド関連研究により、Erdheim-Chester病に関連する初の生殖系列変異が特定された」

Genome-wide association study identifies the first germline genetic variant associated with Erdheim Chester disease.

Martínez-López J, et al. Arthritis Rheumatol. 2024 Jan;76(1):141-145.

【目的】Edrheim-Chester病(ECD)は多彩な臨床症状を伴う稀な組織球症である。体細胞変異はこの疾患発症の鍵となる。しかし、生殖細胞系列の変異とECDとの関係はこれまで解析されていない。本研究は、初のゲノムワイド関連研究により、ECDの遺伝的要因を探索することを目的とした。【方法】255例のECDと7,471人の健康ドナーを研究対象とした。その後、ロジスティック回帰とそれに続くインシリコ機能アノテーションを行った。【結果】18q12.3ゲノム領域がECDの新しい感受性遺伝子座として同定された(P=2.75×10-11; オッズ比=2.09)。この関連性は、クローン造血に関与するSETBP1遺伝子によると考えられた。この領域と同定された示唆的なシグナルの機能から、ECDの発症に潜在的に関与している可能性のある遺伝子が明らかになった。【結論】この研究は、生殖細胞系列の遺伝的変異がECDの発症に影響する可能性を示し、病因となる潜在的な新しい経路を示唆している。

5)「気管支肺胞サイトカインプロファイルにより、肺LCHと他の喫煙関連間質性肺疾患の鑑別が可能である」

Bronchoalveolar cytokine profile differentiates Pulmonary Langerhans cell histiocytosis patients from other smoking-related interstitial lung diseases.

Barril S, et al. Respir Res. 2023 Dec 18;24(1):320.

【背景】肺LCHは喫煙に関連する稀な間質性肺疾患(ILD)で、その確定診断には、他のILDの除外と肺LCHに合致した肺生検の所見が必要である。気管支肺胞洗浄(BAL)は、肺LCHを含むILDの診断に一般的に行われているが、BALの診断価値は限られている。ここでは、肺LCHと他の喫煙関連ILDを鑑別に役立つ明確な免疫プロファイルを見出すために、肺LCH患者のBALにおけるサイトカインおよびケモカインを定量分析し、その結果を喫煙が危険因子と考えられるもう一つの疾患である、特発性肺線維症(IPF)と比較した。【方法】さまざまなILD 36例(肺LCH 7例、喫煙関連ILD 16例、IPF 13例)からBAL検体を採取した。ヒトサイトカイン膜抗体アレイを用いて、炎症プロファイルを分析した。次元を削減するために主成分分析を行い、STRING 11.5データベースを用いたタンパク質間相互作用ネットワーク分析を行った。最後に、ランダムフォレスト法を用いて予測モデルを構築した。【結果】肺LCH患者のBALでは、少なくとも一つ他のILDと比較して、32のサイトカイン/ケモカインで有意差(p⟨0.05)を認めた。同じ様に制御されるサイトカイン/ケモカインの4つの主要なグループが確立され、各グループの異なるサイトカイン/ケモカインが同定された。主成分分析を用いた探索的分析では、各疾患の患者が分離してグループ分けされ、最初の2つの成分が分散全体の69.69%を占めていた。TARC/CCL17、レプチン、オンコスタチンM、IP-10/CXCL10値は肺機能のパラメータと関連し、FVCと正の相関関係を示した。最後に、ランダムフォレストアルゴリズムにより、炎症プロファイルのみに基づいて、肺LCH患者と他のILDを鑑別できることが示された(精度 96.25%)。【結論】この結果は、肺LCH患者は喫煙関連ILDやIPFと異なるBAL免疫プロファイルを示すことを示している。主成分分析とランダムフォレストモデルによって、肺LCHの識別に役立つ免疫プロファイルが見出された。

6)「イタリアとフランスにおけるErdheim-Chester病の疫学と地理的クラスタリング」

Epidemiology and geographic clustering of Erdheim-Chester disease in Italy and France.

Peyronel F, et al. Blood. 2023 Dec 14;142(24):2119-2123.

イタリアとフランスで実施されたこの地理的疫学研究は、Erdheim-Chester病と診断される患者が増えており、特定の地域、すなわち南イタリアと中部フランスに症例が集中していることを示している。疾患頻度は人間開発指数(平均余命、教育、識字および所得指数の複合統計)と逆相関する。

7)「末梢血中の老化骨髄細胞が、脳に浸潤して組織球症の神経変性を引き起こす」

Circulating senescent myeloid cells infiltrate the brain and cause neurodegeneration in histiocytic disorders.

Wilk CM, et al. Immunity. 2023 Dec 12;56(12):2790-2802.e6.

神経変性疾患(ND)は、神経機能の進行性の喪失を特徴とする。NDの発症メカニズムは十分に解明されておらず、効果的な治療法の開発が進んでいない。LCHは、MAPK活性化変異を発現する造血前駆細胞が老化骨髄細胞に分化し病変形成が促進される、炎症性腫瘍である。LCH患者の中には、その後、進行性で治癒不可能な神経変性症(LCH-ND)を発症する例もある。ここで、LCH-NDが末梢LCH細胞とクローン化した骨髄細胞によって引き起こされることを示した。末梢血中BRAFV600E変異陽性骨髄細胞は血液脳関門(BBB)を破壊し、脳実質へと遊走し、そこで老化した炎症性CD11a陽性マクロファージに分化し、脳幹と小脳に集簇した。LCH-NDマウスモデルにおいて、MAPK活性と老化プログラムの遮断することによって、末梢の炎症、脳実質浸潤、神経炎症、神経損傷が軽減され、神経学的転帰が改善された。末梢血中骨髄細胞におけるMAPK活性化および老化プログラムは、LCH-NDの発症機構であり治療標的となりうる。

8)「組織球症においてPIK3CA変異は治療標的となるドライバー変異である」

Mutant PIK3CA is a targetable driver alteration in histiocytic neoplasms.

Durham BH, et al. Blood Adv. 2023 Dec 12;7(23):7319-7328.

LCHは、CD1aとCD207を発現するクローン性の単核食細胞系細胞の集簇を特徴とする炎症性骨髄性腫瘍である。過去10年の間に、LCHおよび他の組織球性腫瘍の分子プロファイリングにより、これらの疾患はMAPK活性化変異によって引き起こされ、LCH患者の50%以上にBRAFV600E体細胞変異を認めることが明らかとなり、MAPKシグナル伝達の阻害により顕著な臨床効果が得られる。同時に、MAPK経路とは別に細胞分裂促進経路を活性化するPIK3CAALKRETCSF1Rなどのキナーゼをコードする遺伝子の活性化変異が組織球性腫瘍において報告されており、RETALKCSF1R遺伝子のドライバー変異を伴う組織球症において標的治療が奏効した奏効したという興味深い報告もある。
しかし、造血細胞においてPIK3CA変異の発現が生物学的に影響することを裏付ける証拠は十分ではなく、PI3Kを阻害する標的治療が組織球性腫瘍において臨床的に有効であるかどうかは不明である。今回、単球/樹状細胞前駆細胞にPIK3CA H1047R変異を発現させるコンディショナルノックインマウスを用いて、PIK3CAの活性化変異がin vivoで組織球性腫瘍を引き起こす可能性があることを示す。それとともに、PIK3CA変異のある多臓器型LCHに対して、PI3Kのα触媒サブユニットの阻害剤であるalpelisibを用いた治療が奏効したことを示す。PIK3CA変異LCH患者に対して、alpelisib 750mg/週の治療は、忍容可能な安全性プロフィールを示し、臨床的および代謝的完全寛解をもたらした。これらのデータは、PIK3CAがLCHの治療標的となるまれなドライバーであることを示し、組織球性腫瘍において変異解析に基づいた個別化治療が重要であることを示している。

9)「組織球性腫瘍患者における分子標的療法中断後の転帰」

Outcomes after interruption of targeted therapy in patients with histiocytic neoplasms.

Reiner AS, et al. Br J Haematol. 2023 Nov;203(3):389-394.

成人の組織球性腫瘍患者において、分子標的療法の中断後の転帰についてはほとんどわかっていない。FDG-PETにより完全または部分寛解を達成した後にBRAFおよびMEK阻害剤が中断された組織球性腫瘍患者についての、IRB承認が得られた研究である。22例中17例(77%)は、治療中断後に再発した。治療中断前に完全寛解に達していたこと、BRAFV600E以外の変異であること、MEK阻害のみを受けていたこと、が無再発生存と有意に関連していた。治療中断後にしばしば再発がみられるが、期間を限定した治療が適している患者もある。

10)「Erdheim-Chester病、および、LCH+Edrheim-Chester病混合型の臨床像と予後因子」

The clinical spectrum and prognostic factors of Erdheim-Chester disease and mixed Langerhans cell histiocytosis and Erdheim-Chester disease.

Dai JW, et al. Ann Hematol. 2023 Dec;102(12):3335-3343.

Edrheim-Chester病(ECD)は、まれで致死的となる可能性がある多臓器に浸潤するnon-LCHである。ECDの臨床的特徴、ゲノム解析、治療法、予後因子を包括的に解析するため、当センターのECD 75例とLCH+ECD混合型 10例の臨床データを後方視的に分析した。診断時年齢は中央値46歳(範囲:5~70歳)であった。ECDは、LCH+ECD混合型と比較して、診断時年齢が高く(p=0.006)、心臓病変(p=0.011)および血管病変(p=0.031)が多かった。ECD患者の64.8%、LCH+ECD混合患者の87.5%にBRAFV600E変異を認めた。BRAFV600E変異は、浸潤臓器の多さと相関し(p=0.030)、肺病変(p=0.033)および胸膜病変(p=0.002)にも関連していた。追跡期間の中央値は38か月(範囲:1~174)であった。5年の推定無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)は、それぞれ48.9%および84.7%であった。多変量解析では、右心房偽腫瘍(p=0.013)および膵臓病変(p=0.005)がOSの悪化と、胸膜病変(p=0.042)および中枢神経系病変(p=0.043)がPFSの悪化と関連していた。この研究から、ECDおよびLCH+ECD混合型の臨床像が明らかになるともに、右心房偽腫瘍および膵臓、胸膜、中枢神経病変が生存率を低下させることも明らかになった。