第22回 最新学術情報(2013.10)
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1) 「BRAFのV600E変異のある治療抵抗性の多臓器型Erdheim-Chester病とLCHに対するvemurafenibの劇的な効果」
Dramatic efficacy of vemurafenib in both multisystemic and refractory Erdheim-Chester disease and Langerhans cell histiocytosis harboring the BRAF V600E mutation.
Haroche J, Cohen-Aubart F, Emile JF, et al. Blood. 2013 Feb 28;121(9):1495-500.
組織球症は非常に様々な予後を示す原因不明の稀な疾患である。BRAF遺伝子の機能獲得変異であるV600E変異は、LCHの57%、Erdheim-Chester病(ECD)の54%に認められるが、他の組織球症にはみられない。メラノーマにおいては、変異BRAFの阻害剤(vemurafenib)による標的療法で生存率は向上する。BRAF遺伝子のV600E変異のある治療抵抗性の、多臓器型ECD 3例、皮膚とリンパ節病変のあるLCH 2例に対するvemurafenib治療について報告する。臨床的、生物学的(CRP値)、組織学的(皮膚生検)、形態学的(PET、CT、MRI)に患者を評価した。全例において、vemurafenib治療により、迅速に明らかな臨床的および生物学的効果が得られ、治療開始1か月後のPET/CT/MRI検査により腫瘍の縮小がみられた。1例目では、治療開始後1~4か月の間でPET所見はどんどん改善した。依然として疾患活動性は残っているが、4か月の経過観察の間、治療効果は持続した。新たに承認されたBRAF阻害剤であるvemurafenibによる治療は、重症で治療抵抗性のBRAF V600E変異のある組織球症に対して、特に生命にかかわる病状では考慮されるべきである。
2)「IL-17A受容体の発現はLCHの病型により異なる:IL-17A論争を解決する可能性」
IL-17A receptor expression differs between subclasses of Langerhans cell histiocytosis, which might settle the IL-17A controversy.
Murakami I, et al. Virchows Arch. 2013 Feb;462(2):219-28.
LCHは、異常なランゲルハンス細胞様細胞と他のリンパ系細胞からなる増殖性疾患である。LCHは多臓器(MS)型または単一臓器(SS)型を呈する。現在、これらの病型を決定づける病因や因子は解明されていない。IL-17A自己分泌モデルとIL-17Aを標的とした治療が提唱されたが、それらは多くの論争を生み出している。提唱者らは、血清IL-17A値がLCHで高いことを示したが、血清IL-17A値よりもin vitroでのIL-17A依存性の細胞融合度がLCHの重症度と相関するとした(すなわちIL-17Aパラドックス)。それとは対照的に、他の研究者はIL-17A自己分泌モデルを検証できなかった。よって、IL-17A-論争がはじまり、まだ続いている。我々は、IL-17A受容体(IL-17RA)発現レベルという新たな視点から、このIL-17A論争とパラドックスに取り組んだ。免疫蛍光法によるIL-17RA蛋白の発現レベルは、MS型(n=10)ではSS型(n=9)より高値であった(p=0.041)。GSE16395 mRNAデータの再解析によりこのことを再確認した。血清IL-17A値は、LCH患者(n=38)では対照(n=20)より高値(p=0.005)であったが、LCHの病型間での差はなかった。我々は、IL-17Aの内分泌モデルを提唱し、IL-17RAの発現レベルの差がLCHの病型の決定に重要であると強く主張する。IL-17RAのデータにより、IL-17A論争とIL-17Aパラドックスは解決するだろうと思う。MS型LCHに対して、IL-17RAを標的とした治療法は可能性がある。
3)「日本LCH研究会によるSpecial C療法で治療された多病変型成人LCHの治療転帰」
Therapeutic outcome of multifocal Langerhans cell histiocytosis in adults treated with the Special C regimen formulated by the Japan LCH Study Group.
Morimoto A, et al. Int J Hematol. 2013 Jan;97(1):103-8.
成人LCHに対する効果的な全身療法に関する情報はほとんどない。日本LCH研究会では、 成人LCHに対し通院治療が可能な治療法を計画した。生検により組織診断された計14例の多病変型の成人LCH(年齢中央値43歳、範囲20-70歳)が登録された。以前に、LCHに対する化学療法を受けていた例はなかった。4例は単一臓器型(SS)、10例は多臓器型(MS)であった。全例が、ビンブラスチン/プレドニゾロンとメトトレキサートの2週毎交互に、6 -メルカプトプリン連日内服を加えた36週間の治療、Special Cレジメンで治療された。この治療の終了時点で、SS型は全例で活動性病変がなくなり、MS型は10例中6例に治療効果(2例は活動性病変消失、4例は部分反応)があった。最終観察時点(中央値34か月)で、11例が生存(8例は活動性病変消失、3例は活動性病変あり)していた。死亡例した3例のうち、1例はSpecial C療法中に出血により、2例はSpecial C療法以降の治療中に感染症により死亡した。症例数が少ないという限界はあるが、この通院型の治療法は成人LCHに対し有効と考えられる。特に多病変SS型で有効であるが、MS型でも半数に対しては有効である。
4)「NotchはLCHで活性化しており、樹状細胞に特徴的な機能を付与する」
Notch is active in Langerhans cell histiocytosis and confers pathognomonic features on dendritic cells.
Hutter C, et al. Blood. 2012 Dec 20;120(26):5199-208.
LCHは、ランゲルハンス細胞様樹状細胞が増殖する謎の疾患である。本研究では、LCH細胞が形質細胞様樹状細胞や骨髄樹状細胞だけではなく表皮ランゲルハンス細胞とも異なる特有の転写プロファイルを示し、独特な樹状細胞の特性があることを明らかにした。NotchリガンドであるJAG2は単離したLCH細胞および組織中のLCH細胞にのみ発現し、LCH細胞はNotchリガンドとその受容体の両者を発現する唯一の樹状細胞であることが分子解析によって明らかになった。さらに、JAG2のシグナルは単球由来樹状細胞にLCH細胞の鍵となるマーカーを誘導することがわかった。このことは、LCH発症におけるNotchシグナル伝達の機能的役割を示唆している。JAG2はまた、LCH病変において高発現し、LCH病変での組織破壊に関与するMMP-1とMMP-12の発現を誘導した。この誘導は、樹状細胞には生じたが、単球にはおこらなかった。本研究の結果は、JAG2を介したNotch活性化によりLCHの表現型と機能的特徴が樹状細胞にもたらされることを示唆しており、Notchシグナルの阻害はLCHの魅力的な治療戦略かもしれない。
5) 「LCHの探索的疫学調査」
An exploratory epidemiological study of Langerhans cell histiocytosis.
Venkatramani R, et al. Pediatr Blood Cancer. 2012 Dec 15;59(7):1324-6.
ロサンゼルスで主にヒスパニック系の人種に潜在的に存在する、LCHに関連する危険因子を検討した。60例の小児LCHと、150例のランダムに選択された対照患者から聞き取り調査を行った。甲状腺疾患の家族歴、家族の中での喫煙者、妊娠中の母親の問題、農薬暴露については、LCH群と対照群の間に統計的に有意な差は認めなかった。LCH例には、がんの家族歴(OR 2.5)、乳児期の感染症既往(OR 2.76)、職業による親の金属や花崗岩、木材粉塵の暴露(OR 2.48)がより多かった。
6)「皮膚病変が初発症状の成人LCH:二次性血液悪性腫瘍が高頻度である」
Langerhans cell histiocytosis first presenting in the skin in adults: frequent association with a second haematological malignancy.
Edelbroek JR, et al. Br J Dermatol. 2012 Dec;167(6):1287-94.
【背景】成人LCHの初発症状が皮膚病変であることはまれである。病期決定や治療、経過観察のためのガイドラインは確立していない。【目的】皮膚病変が初発症状の成人LCHにおいて、病期のより良い決定法、治療成績と臨床経過を明らかにする。【方法】オランダ皮膚リンパ腫グループの5つのセンターの、皮膚病変を初発症状とする成人LCH患者18例を解析した。診療記録と皮膚の生検標本を検討し、追跡データを得た。皮膚が初発症状の成人LCHに関する文献検索を行った。【結果】十分に病期検索がされた16例中3例で、皮膚以外の病変が見つかった。1例は骨融解病変があり組織学的にLCHと確認され、2例に骨髄異形成症候群がみつかった。経過観察中、18例中2例に皮膚以外のLCH病変が出現した。5例が二次性悪性血液腫瘍を発症し、2例が(骨髄)単球性白血病、1例が組織球性肉腫、1例がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、1例が末梢性T細胞リンパ腫であった。文献検索では、LCH診断の前後に、二次性悪性血液腫瘍と診断された成人例が6例あった。【結論】本研究の結果は、皮膚病変を呈する成人LCH患者は二次性悪性血液腫瘍を発症するリスクが高いことを示唆している。したがって、このような症例においては、発症時の詳細な病期検索と長期経過観察が必要である。
7)「LCHに対するチロシンキナーゼ阻害剤の可能性を探るための免疫組織化学的および分子細胞遺伝学的評価」
Immunohistochemical and molecular cytogenetic evaluation of potential targets for tyrosine kinase inhibitors in Langerhans cell histiocytosis.
Caponetti GC, et al. Hum Pathol. 2012 Dec;43(12):2223-8.
LCHは、樹状細胞の一種であるランゲルハンス細胞の異常によるまれな疾患で、病因は明らかではない。LCH患者に対する従来の治療法は、通常は有効であるが、一部の患者は治療抵抗性であったり治療毒性が出現したりする。よって、新たな治療法の開発が必要である。最近、LCHのいくつかの例では、免疫組織化学によって血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)αおよびβあるいはc-KITの発現が確認され、これらの患者の一部はメシル酸イマチニブに対する治療効果が認められたと報告されている。PDGFRαまたはβ遺伝子再構成を持つ他の血液疾患でも、メシル酸イマチニブの効果がある。本研究の目的は、LCHにおいて免疫組織化学と分子マーカーを評価し、チロシンキナーゼ阻害剤で治療可能な例を見出すことである。14例のLCHのホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を検索した。対照として、炎症性皮膚炎(n=5)および皮膚病性リンパ節炎(n=7)を用いた。S100、CD1a、c-KIT、およびPDGFRαとβの免疫組織化学染色を行った。PDGFRαとβの遺伝子再配列を検出するため、FISH解析も実施した。14例のLCHのうち4例(35.0%)が、PDGFα陽性であったが、残り10例とすべての対照例では陰性または弱陽性であった。PDGFβおよびc-KITは陰性で全例で陰性であった。FISH解析は、DNAが良好であった8例すべてで陰性であった。PDGFαが発現していることから、LCHの症例の一部はチロシンキナーゼ阻害剤で治療できる可能性を示唆している。LCHに対するチロシンキナーゼ阻害剤の臨床試験を行う価値があり、これらのマーカーを評価すべきである。
8)「LCHにおけるgelsolinとMMP-12の予後に対する意義」
Prognostic significance of gelsolin and MMP12 in Langerhans cell histiocytosis.
Seo JJ, et al. Korean J Hematol. 2012 Dec;47(4):267-72.
【背景】gelsolinとMMP-12は、LCHで発現していると報告されていたが、発現の臨床的意義は不明である。LCHと診断された患者の臨床症状とこれらの蛋白質の関連を検討した。【方法】LCHと診断され1998から2008年の間に経過観察されている患者の臨床データを後方視的に分析した。ホルマリン固定パラフィン包埋標本を使用し、gelsolinとMMP-12の免疫組織化学染色を行った。これらのタンパク質の発現レベルとLCHの臨床的特徴との関連を分析した。【結果】臨床症状とCD1a陽性に基づいてLCHと診断された36例(男性20例、女性16例)において、免疫組織化学染色が可能であった。患者年齢の中央値は62か月(範囲:5-207)であった。gelsolinの発現はさまざまで、17例(47.2%)で高発現、11例(30.6%)で低発現、8例(22.2%)では発現を認めなかった。統計的に有意ではなかったものの、gelsolin高発現の群は多臓器型とリスク臓器浸潤が多い傾向があった。MMP-12の発現は7例(19.4%)に認め、MMP-12陰性群と比較し、多臓器型が多く(p= 0.018)、無イベント生存率が低かった(p=0.002)。【結論】gelsolinとMMP-12の発現は、LCHの臨床経過と関連する可能性があり、特にMMP-12の発現はLCHの重症度と関連する可能性がある。LCHの病因におけるgelsolinとMMP-12の役割と意義を明らかにするために、大きな集団でのさらなる研究が必要である。
9)「体外受精により1982年から2005年に生まれた小児におけるLCH」
Langerhans cell histiocytosis in children born 1982-2005 after in vitro fertilization.
Akefeldt SO, et al. Acta Paediatr. 2012 Nov;101(11):1151-5.
【目的】体外受精に関するデータを含んだ医学出生記録とスウェーデンのがん登録を用いた、最近のスウェーデンの研究では、1982から2005年に体外受精で出生した小児においてLCHの発症頻度が増加すると報告された。ここでは、この集団において、LCHの診断を確認し、LCHのいずれの病型が特に多いのかを調べた。【方法】体外受精で出生したすべての小児LCHの医療記録を取得し、LCHの診断が正しいかどうか確かめた。疾患の特性を、ストックホルムにおける1992から2001年にLCHと診断された小児のデータと比較した。【結果】体外受精で出生した7例のLCH例を確認したが、すべて2002年以前に出生していた。これらの小児例の病型は、軽症ではなかった。体外受精で出生した群のLCH発症のオッズ比は、ストックホルムの1992-2001年の小児と比較し、全体で3.2(95%信頼区間:1.4-7.3)、2002年以前に生まれた小児では5.2(95%信頼区間:2.3-11.9)であった。【結論】LCHの発症頻度は、2002年以前に体外受精後に生まれた小児では高かった。これらの例では、病型は軽症ではなかった。これらの知見は、LCHの病因を理解するために重要かもしれない。その次世代において体外受精とLCH発症の関連性を明らかにするための研究が望まれる。
10)「ランゲルハンス細胞組織球症の患者におけるF-18フルオロデオキシグルコースの陽電子放射断層撮影/コンピュータ断層撮影の有用性」
The usefulness of F-18 fluorodeoxyglucose positron emission tomography/computed tomography in patients with Langerhans cell histiocytosis.
Lee HJ, et al. Ann Nucl Med. 2012 Nov;26(9):730-7.
【目的】LCHは、自然軽快するものから急速に進展し死に至る例まで臨床経過はさまざまで、非可逆的な障害を伴うこともある。F-18 FDG PET / CTは、LCH患者の評価に使用されている。しかし、その臨床的意義は、LCHの発生率が非常に低いため、よく解明されていない。本研究の目的は、LCH患者におけるF-18 FDG PET / CTの臨床的有用性を評価することである。【方法】病理組織学的にLCHと診断された12例(平均年齢17.8±17.9歳、小児7例、成人5例)のデータベースを後方視的に検討した。2例は治療前後で、6例は治療前のみ、4例は治療後にみに、F-18 FDG PET / CT検査を受けていた。【結果】9例(75.0%)が単一臓器型(単独病変と多病変を含む)、3例(25.0%)が多臓器型であった。治療前のSUV(max)は、多臓器型または単一臓器多発型では、単一臓器単独病変型に比べ有意に高かった(3.29±2.52 vs. 1.63±0.52、p= 0.025)。1例はリスク臓器(肺および造血器)浸潤陽性の多臓器型であった。2例において、従来の画像診断法で検出できない活動性LCH病変がF-18 FDG PET / CTによって判明した。F-18 FDG PET / CTによる経過観察で、2例が寛解維持、2例が再燃と判定された。【結論】本研究の結果から、F-18 FDG PET / CTは、LCH患者において、活動性病変の検出、病型の判定、治療反応の評価、再燃病変の検出に有用であることが示唆される。