第4回 最新学術情報(2005.11)
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)LCHにおけるアポトーシス関連蛋白(FADD・FLICE・FLIP)の免疫組織化学による発現解析
Immunohistochemical detection of the apoptosis-related proteins FADD, FLICE, and FLIP in Langerhans cell histiocytosis.
Bank MI et al. J Pediatr Hematol Oncol. 27(6):301-306, 2005.
LCHはさまざまな臓器に肉芽腫病変を形成し樹状ランゲルハンス細胞が集積する疾患である。LCHの原因は未だ謎である。Fas/APO-1/CD95はアポトーシスを制御する細胞死受容体ファミリーに属し、免疫反応の抑制的制御に関係している。筆者らは、LCHの患者の病変部位におけるFasシグナル経路に関連する3種の蛋白、すなわちFADD(Fas-associated death domain-containing protein)とFLICE(FADD-like interleukin-1beta-converting enzyme)(両者はアポトーシス促進蛋白)、FLIP(FLICE-inhibitory protein)(抗アポトーシス蛋白)の発現を検索した。43例の小児LCH患者のパラフィン包埋標本で免疫組織染色を行った。これらの蛋白が陽性である病的LCH細胞の数により発現をスコア化した。検索したすべての標本において、大部分の病的LCH細胞はFADDとactive FLICE、FLIPを発現していた。臨床転帰とこれらの蛋白発現には関連はなかった。この研究は、アポトーシス関連蛋白であるFADDとactive FLICE、FLIPが病的LCH細胞において高発現であることを示している。筆者らは、以前に病的LCH細胞はFasとFasリガンドを発現していることを示した。これらのことを考え合わせると、今回の結果は、Fas信号経路のLCHの病因に対する関与を示唆しているのかもしれない。
2)RNA増幅とマイクロアレイの組み合わせによるヒト組織を用いた発現プロファイリング:LCHの評価
Expression profiling using human tissues in combination with RNA amplification and microarray analysis: assessment of Langerhans cell histiocytosis.
McClain KL et al. Amino Acids. 28(3):279-290, 2005.
分子遺伝学の進歩によってヒトゲノムの配列検索がなされ、身体の全てにわたる多様な組織の蛋白発現データが利用可能となり、発生や分化、恒常性、究極的には疾患の原因といった重大な概念を検証する画期的な仮説を立てることが可能となってきた。現在、遺伝子発現を評価する最もよい方法は、細胞が生きた状態で生理的に、あるいは、in vitroまたはin vivoで細胞を固定し免疫組織化学または細胞組織化学的方法によって、単一細胞を評価する方法である。しかしながら、標準的なRNA抽出法では単一細胞から十分な量のRNAは得ることはできない。そこで、指数関数的PCRに基づいた解析と、アンチセンスRNA増幅法や新たに開発されたterminal continuation RNA増幅法のような線状RNA増幅法を、レーザーコンピューターマイクロダイセクション法などと組み合わすことによって、LCHのような生検検体だけでなく死後の脳の検体といった様々なヒト組織から得られた個々の細胞において、マイクロアレイ法による発現プロファイリングや下流遺伝子の解析が可能になってきた。
正常ランゲルハンス細胞と病的LCH細胞におけるサイトカインの発現を比較したデータはほとんどなく、低リスクと高リスクLCHでの相違についてのデータはない。そこで、マイクロアレイ法により正常組織とLCH組織からマイクロダイセクションにより取り出したランゲルハンス細胞のサイトカインプロファイル、骨、肝臓、脾臓のLCH病変のサイトカインプロファイルを比較した。驚くべきことに、正常ランゲルハンス細胞と病的LCH細胞は同じような遺伝子発現を示した。すなわち、両者ともM-CSF、TGFβ-R、IL-1αの3遺伝子は最も強く発現しており、ほとんどのサイトカイン遺伝子は発現に差はなかった。一方、組織におけるサイトカイン遺伝子の発現パターンには差が見られ、高リスク患者の肝や脾病変においてはIL-13、NFκB、TNFRp55、RANKL、TGFβRの発現が有意に高かった。このことより、LCHの病態生理には、LCH細胞ではなく浸潤しているリンパ球や単球、好酸球が重要な役割を果たしていると考えられる。
3)LCHにおける血管内皮成長因子(VEGF)の役割
The role of vascular endothelial growth factor in Langerhans cell histiocytosis.
Dina A et al. J Pediatr Hematol Oncol. 27(2): 62-66. 2005
血管新生においては、新生血管はすでに存在している血管をもとに作られる。血管新生は腫瘍の増殖と転移に重要な役割を果たす。主要な血管新生誘発因子は血管内皮成長因子(VEGF)である。VEGFは血管内皮細胞に対し高い特異性を示し、かつ様々なin vivoモデルにおいて強い血管新生反応を誘導する。VGEFの除去により腫瘍の血管構造は退縮することが示されている。LCHの病原と血管新生の過程はいまだ明らかではない。この研究の目的はLCHにおける血管新生反応の程度を検討することである。筆者らは5人ずつの単一病変と多病変LCH患者の組織を、VEGF、CD34、第8因子様抗原に対するモノクローナル抗体を用い検索した。検索した70%の例でVEGFは発現し、すべての多病変LCHで陽性であったのに対し、単一病変LCHでは5例中2例で陽性であった。VEGFはLCH細胞で発現していた。血管密度は周辺の正常組織に比べ病変部位では明らかに高かった。VEGFがLCH細胞で発現しており、すべての多病変LCH病変でVEGFが産生されている所見から、LCH患者に抗血管新生薬を使用する可能性が考えられる。LCHにおける血管新生の役割を明らかにする更なる研究が必要である。
4)未熟樹状細胞から破骨細胞への分化:関節リウマチの微小環境における新たな経路
Immature dendritic cell transdifferentiation into osteoclasts: a novel pathway sustained by the rheumatoid arthritis microenvironment.
Rivollier A et al. Blood. 104(13): 4029-4037, 2004
免疫反応の開始にかかわる単核球である樹状細胞と、骨吸収にかかわる多核細胞である破骨細胞は、単球/マクロファージ前駆細胞に由来する。マウスにおいて、GM-CSFとM-CSFは相互に両系統の分化を制御している。我々はヒト単球由来樹状細胞を用い、未熟樹状細胞はM-CSFとRANKLの存在下に機能を有した破骨細胞に分化することをin vitroで示した。この分化は、CD14とCD1a、RANKL陽性でRANKL陽性T細胞の増殖を誘導できる、接着性で双極性紡錘状の単核細胞の中間体が融合することによりおこる。驚くべきことに、in vitroにおける樹状細胞の融合は、単球が融合し多核巨細胞を形成するよりも、より迅速で効率的であった。ここに示した分化の過程は、分化した骨髄性食細胞に高い可塑性が存在することを裏付ける。この分化過程が関節リウマチの関節液により大いに増強されること、IL-1やTNFのような炎症誘発性サイトカインのみならずヒアルロン酸のような細胞外マトリックス構成要素もこの分化過程に関連していることは重要である。よって我々のデーターから、樹状細胞から分化した破骨細胞は、関節リウマチや未熟皮膚樹状細胞の集積と慢性骨融解病変を特徴とするLCHのようなヒト炎症性骨疾患でみられる骨融解病変に、直接関わっている可能性がある。