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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第69回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「血漿中可溶性CSF1R値は小児LCHの有望な予後指標である」

The plasma-soluble CSF1R level is a promising prognostic indicator for pediatric Langerhans cell histiocytosis.

Zhu T, et al. Pediatr Blood Cancer. 2024 Jun;71(6):e30970.

LCHは、ランゲルハンス様細胞のクローン増殖を特徴とするまれな血液腫瘍である。コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)は、LCH細胞および腫瘍性マクロファージで高度に発現している膜結合受容体である。この研究では、血漿プロテオームプロファイリングによって検出された可溶性CSF1R蛋白(sCSF1R)がLCHの予後予測因子となるかをした。ELISAを用いて104例のLCHと10人の健康小児において血漿sCSF1R値を前向きに測定した。血漿sCSF1R値は、LCH群の方が健康対照群よりも高く(p⟨0.001)、3つのLCH病型間で有意に異なり、最も高かったのはリスク臓器病変陽性多臓器型であった(p⟨0.001)。そして、免疫蛍光法では、膜結合型CSF1Rはリスク臓器病変陽性多臓器型で最も高発現であった。さらに、診断時の血漿sCSF1R値は、標準的な第一選択治療を受けたLCH患者の効率的な予後予測因子であった(AUC=0.782、p⟨0.001)。特に、sCSF1R値の動的モニタリングによって、BRAF阻害剤治療を受けている患者の再発を早期に予測することが可能であった。in vitro薬剤感受性データでは、BRAFV600Eを高発現させたTHP-1細胞において、sCSF1RがAra-Cに対する耐性を高めることが示された。全体として、診断時および追跡期間中の血漿sCSF1R値は、小児LCH患者にとって臨床的に非常に重要である。

2)「18歳未満の孤発性および多発生椎骨LCHの症状、治療、および転帰」

Presentation, treatment, and outcomes of unifocal and multifocal osseous vertebral Langerhans cell histiocytosis lesions in patients under 18 years old.

Ezeokoli EU, et al. J Pediatr Orthop B. May 1;33(3):274-279.

この研究は、(1)孤発性(単一臓器単独病変)と多発性(単一臓器多発病変)の脊椎のLCH病変の臨床的および放射線学的特徴、および、(2)三次小児病院の小児集団におけるさまざまな治療法による治療奏効率と再発率を明らかにすることを目的とする。2021年6月1日までに当院でLCHと診断された18歳未満の症例で、多臓器病変のない孤発性または多発性の脊椎病変を対象とした。臨床症状、病変部位、X線検査所見、治療法、合併症、再発率、追跡期間を分析した。39例に脊椎病変を認め、孤発性が36%、多発性が64%であった。44%は脊椎病変のみであった。最も多い臨床症状は、首や背部の痛み(51%)、歩行困難または不能(15%)であった。計70個の脊椎に病変を認め、頸椎が59%、胸椎が62%、腰椎が49%、仙骨が10%であった。化学療法を受けていたのは、多発病変例では88%であったが、孤発病変例では60%であった。コホート全体の再発率は10%であった。追跡期間の中央値は5.2年(0.6-16.8)であった。化学療法は、骨病変が孤発性か多発性かにかかわらず、脊椎LCHの治療としてよく用いられ、転帰は良好で再発率は低い。ただし、化学療法による副作用や治療期間の長さを考慮すると、病変が小さく広範囲に及ばない場合には、観察のみやステロイド注射などの他の治療法がより良い選択肢となる例がある。外科的切除や固定などのより侵襲的な治療法については、個々の例で検討する必要がある。

3)「再発/難治小児LCHの転帰と予後因子に関する全国調査」

Nationwide Study of Factors Impacting Survival Outcome and Consequences in Children with Reactivation/Refractory Langerhans Cell Histiocytosis.

Monsereenusorn C, et al. Asian Pac J Cancer Prev. 2024 May 1;25(5):1831-1839.

【背景】LCHにおいて再発例や難治例の診療は依然として大きな課題である。転帰と晩期合併症を調査する必要がある。【方法】タイにおける小児の再発/難治LCHの臨床的特徴、予測因子、転帰、晩期合併症を明らかにするために、多施設共同の後方視的研究を行った。【結果】47例が対象となり、25例(53.2%)が再発例、22例(46.8%)が難治例であった。再発例および難治例の診断からの期間の中央値は、それぞれ1.59年と0.33年であった(p⟨0.001)。再発/難治例の最も多い病変部位は、骨(26例、55%)で、20例(42.6%)が晩期合併症を発症した。5年全生存率(OS)は76.1%であった。再発例と難治例の間に5年OSに統計的な差はなかった(88% vs. 63%, p=0.055)。再発/難治の肝臓、脾臓、造血系、肺病変は死亡に関連する因子であった(p⟨0.05)。再発/難治の肺病変は、死亡に関連する唯一の独立したリスク因子であった(p=0.002)。【結論】タイにおける小児LCHの再発例と難治例の転帰は同等で良好であり死亡率は低かったが、晩期合併症を発症する可能性がある。再発/難治の肺病変は、生存に関連する独立したリスク因子であった。

4)「混合組織球症(Erdheim-Chested病とLCHの重複)の長期的転帰および予後」

Long-term outcome and prognosis of mixed histiocytosis (Erdheim-Chester disease and Langerhans Cell Histiocytosis).

Pegoraro F, et al. EClinicalMedicine. 2024 May 27;73:102658.

【背景】Edrheim-Chester病(ECD)は、LCHと重複することがあるまれな組織球症である。「混合」疾患の特徴は十分に解明されていない。ECD-LCH混合型の大規模コホートの臨床像、転帰、予後因子を分析した。【方法】フランスとイタリアの2つの紹介医療機関(パリのPitié-Salpêtrière病院、フィレンツェのMeyer小児病院)の症例を後方視的に解析した。2000年~2022年にECDと診断され、かつ、組織学的にLCHと診断されている小児および成人例で、臨床所見、治療、転帰に関するデータがあり、最低1年間の追跡調査を受けている患者を対象とした。ECD-LCH混合型とECD単独型の臨床所見や生存率の違い、混合型の治療反応性や生存予測因子も検討した。生存率はカプラン・マイヤー法で分析し、生存率の差はロングランク検定で分析した。年齢と性別が生存率に及ぼす潜在的な影響の評価、治療抵抗性や生存の予測因子の検出のために、Cox回帰モデルを用いた。【結果】502例のECD患者のコホートのうち、69例(14%)がECD-LCH混合型であった。ECD単独型と比較して、ECD-LCH混合型は、女性(51% vs. 26%, p⟨0.001)、多臓器浸潤(≥4部位)がより多かった。ECD-LCH混合型では、長骨(91% vs. 79%、p=0.014)、中枢神経(51% vs. 34%, p=0.007)、顔面/眼窩(52% vs. 38%, p=0.031)、肺(43% vs. 28%, p=0.009)、視床下部/下垂体(51% vs. 26%, p⟨0.001)、皮膚(61% vs. 29%, p⟨0.001)、リンパ節(15% vs. 7%, p=0.028)の病変が多く、BRAFV600E変異もECD-LCH混合型でより多かった(81% vs. 59%、p⟨0.001)。分子標的治療(BRAFおよび/またはMEK阻害剤)は、第一選択薬としても(77% vs. 29%、p⟨0.001)、救済療法(75% vs. 24%, p⟨0.001)としても、従来の治療法(インターフェロン-α、化学療法)よりも反応率が高かった。追跡期間の中央値71か月で、24例(35%)が死亡していた。生存率は、ECD単独型とECD-LCH混合型で差はなかった(p=0.948)。多変量解析では、診断時年齢(HR 1.052, 95%CI 1.008-1.096)、他の造血不全の合併(HR 3.030, 95%CI 1.040-8.827)、治療反応不良(HR 9.736、95%CI 2.919-32.481)が死亡リスクと関連していたが、溶骨病変は死亡リスクが低かった(HR 0.116、95%CI 0.031-0.432)。【解釈】ECD-LCH混合型はBRAFV600E変異によって引き起こされる多臓器疾患であり、分子標的治療が有効である。診断時年齢、骨病変のパターン、他の造血不全の合併、治療反応不良は、ECD-LCH混合型の予後不良因子である。

5)「再発性および難治性LCHに対するMAPK経路阻害剤と化学療法の併用の臨床的、放射線学的、分子学的反応」

Clinical, radiological and molecular responses to combination chemotherapy with MAPK pathway inhibition in relapsed and refractory Langerhans cell histiocytosis.

Karri V, et al. Br J Haematol. 2024 May;204(5):1882-1887.

侵攻性LCHに対する最適な治療法は定まっていない。難治性の多臓器型および/またはLCH関連中枢神経変性症の10例を対象に、MAPK経路阻害剤と化学療法の併用療法の安全性と有効性を評価した。コホート全体での全奏効率は9/10(90%)で、多臓器型では5/5(100%)、中枢神経変性症では6/7(86%)であった。末梢血中BRAFV600E変異アレルは5/6(83%)で減少した。毒性として、発熱、皮疹、筋肉痛、神経障害、血球減少症、低カルシウム血症を認めた。併用戦略を最適化し、治癒の可能性を判断し、化学療法やMAPK阻害剤の単独療法との転帰を比較するために、前向き試験が必要である。

6)「侵攻性、再発性、難治性のLCHに対するクロファラビン単独療法」

Clofarabine monotherapy in aggressive, relapsed and refractory Langerhans cell histiocytosis.

Parekh D, et al. Br J Haematol. 2024 May;204(5):1888-1893.

多臓器型LCHの50%以上は第一選択治療では治癒せず、どのような救済療法が適切かはよくわかっていない。クロファラビンで治療された58例のLCHについて報告する。濃厚な前治療を受けた患者を含むこのコホートにおいて、クロファラビン単独療法がLCHに対して有効であり、全身客観的奏効率は92.6%で、成人(83.3%)よりも小児(93.8%)の方が高かった。末梢血中のBRAFV600E変異アレル頻度は、臨床反応と相関していた。クロファラビンの最適な投与量、長期的有効性、晩期毒性、相対的コスト、他のLCH救済療法と比較した患者報告転帰を明らかにするために、前向き多施設試験が必要である。

7)「悪性組織球症の臨床的特徴と遺伝子変異、治療、転帰」

Clinical characteristics, molecular aberrations, treatments, and outcomes of malignant histiocytosis.

Ruan GJ, et al. Am J Hematol. 2024 May;99(5):871-879.

悪性組織球症(MH)はマクロファージ/樹状細胞系の極めてまれな腫瘍である。2000年1月~2023年5月までに、2つの三次病院で診察を受けたMH患者の臨床的特徴、遺伝子変異、治療、転帰について報告する。43例のMHがあり、そのうち26例が組織球肉腫(MH-H)、9例が嵌合樹状細胞肉腫(MH-IDC)、8例がランゲルハンス細胞肉腫(MH-LC)であった。診断時の平均年齢は61歳(範囲:3-83歳)であった。33例(77%)は多病変型、10例は孤発病変型であった。22例(51%)において腫瘍検体の次世代シークエンスによる遺伝子解析を実施し、19例(86%)に少なくとも1つの病原性変異を認め、MAPK経路遺伝子の変異は16例(73%)に認めた。コホート全体の全生存期間(OS)の中央値は16か月(95% CI:8-50)であった。多病変型のOSは孤発型よりも有意に短かった(中央値10か月 vs. 50か月, p=0.07)。リスク臓器病変(骨髄、脾臓、肝臓)のある例はOSが有意に短かった。多病変型では化学療法、孤発病変型では手術が最も多い第一選択治療であった。多病変型の転帰は不良であったが、良好な治療反応が続く例もあった。この研究により、MHの臨床症状は多様で、高頻度に発がん性変異を認め、予後は病変が複数かどうか、リスク臓器病変があるかどうかに強く関連していることが明らかになった。

8)「機械学習アルゴリズムに基づくLCHの再発予測モデル」

A prediction model for reactivation of Langerhans cell histiocytosis based on machine-learning algorithms.

Tan S, et al. Eur J Dermatol. 2024 Apr 1;34(2):109-118.

LCHは骨髄前駆細胞のクローン増殖を特徴とするまれな炎症性骨髄腫瘍である。LCHの再発率は30%を超えている。しかし、再発を予測する効果的な予測モデルはない。LCHの潜在的な予後因子を選択し、機械学習アルゴリズムに基づく使いやすい予測モデルを構築した。2008年~2022年までに中南大学第二湘雅病院に入院したLCH患者の臨床記録を後方視的に解析した。76例を再発/進行群と安定群に分類した。臨床所見と検査所見を比較し、機械学習アルゴリズムを使用して予後予測モデルを構築した。臨床病期(単一臓器型、多臓器型、中枢神経/肺病変型)、貧血、骨病変、皮膚病変、単球数増加が最も優れた因子であり、最終的に予測モデル構築に選択された。この結果は、上記の5つの因子をLCH患者の予後予測モデルとして使用できることを示している。この研究の主な限界は、後方視的研究であることと比較的症例数が比較的少ないことである。

9)「脊椎の孤発性Rosai-Dorfman病:系統的文献レビュー」

Isolated Rosai-Dorfman disease of the spine: A systematic literature review.

Slouma M, et al. Clin Neurol Neurosurg. 2024 Apr:239:108206.

【はじめに】Rosai-Dorfman病(RDD)は5%の例に中枢神経系病変を認めるまれなnon-LCH組織球症である。脊椎に発生するのは節外RDDの1%未満で、神経症状を呈することがある。孤発性脊椎RDDの症例の系統的レビューを紹介する。また、脊髄圧迫によって明らかになった孤発性脊椎RDDの症例も報告する。【方法】系統的レビューは、MEDLINEおよびSCOPUSデータベースを用い、系統的レビューおよびメタ分析の推奨報告項目ガイドラインに従い、孤発性脊椎RDDの症例報告と症例シリーズについて実施した。【結果】孤発性脊椎RDDは53例(当症例を含む)あった。平均年齢は35.85±16.48歳であった。最も頻度の高い臨床所見は神経障害(89%)であった。RDD病変は主に胸椎(51%)に位置し、次いで頸椎(32%)であった。病変は硬膜外(57%)、硬膜内髄外(26%)、髄内(7%)、椎体(10%)であった。組織学的検査では73%で細胞内細胞陥入現象を認めた。組織球は83%でS-100蛋白質陽性であった。治療は手術が51例(96%)に行われ、放射線療法、化学療法、補助ステロイド療法がそれぞれ4例、1例、8例で行われていた。平均追跡期間14.84±13.00か月で、15%に再発を認めた。【結論】脊椎RDDはまれな疾患であり、正確な診断には綿密な組織学的検査が必要である。完全な外科的切除が最適な治療法である。手術後に部分的な改善しかみられない例には、補助化学療法と放射線療法も適応となる。

10)「炎症および悪性症状に基づく小児LCHの治療の探究:パイロット試験」

Exploration of treatment in childhood Langerhans cell histiocytosis based on inflammatory and malignant symptoms: a pilot study.

Lin HL, et al. Orphanet J Rare Dis. 2024 Apr 23;19(1):174.

【背景】多臓器型の小児LCH患者、特にリスク臓器(RO)病変のある患者は、晩期続発症を伴う再発率が高いことが広く報告されており、国際的な従来の治療では満足のいく治療成績が得られていない。これまで、さまざまな臨床症状のあるLCH患者がさまざまな薬剤に対して異なる反応を示すことが観察されており、臓器病変の数のみに基づく現在の層別化の戦略は不十分である可能性が示唆される。LCHは炎症性骨髄腫瘍と定義されており、この研究では小児LCH患者を新たに炎症症状群(発疹、耳漏、骨痛、溶骨、下痢、咳、黄疸、低蛋白血症、内分泌障害、中枢神経系症状など)と悪性症状群(非感染性の持続性発熱、臓器腫脹、血球減少症など)の2群に分類し、この2群に異なる強度の治療を行った。【目的】この臨床研究は、LCH症状に応じて、より適切な患者層別化を検討し、異なる群の治療戦略の臨床結果を調べることを目的とした。【方法】臨床症状に応じて、37例をA群(炎症症状のみ)とB群(悪性症状あり)に分けた。初期治療として、A群はビンデシン(VDS)とメチルプレドニゾロン(mPSL)、B群はVDSとmPSL、ピラルビシン(THP)、シクロホスファミド(CTX)で治療した。治療反応性は、全例、導入療法6週間後に、病勢と症状臨床スコアを基に評価した。【結果】治療前および治療後のスコアは、A群ではそれぞれ1.22±0.547と0.00±0.00、B群ではそれぞれ14.79±1.686と1.00±1.563であった。その後、病勢が進展することなく、全例が維持療法を受けた。4年全生存率(OS)は両群とも100%で、4年無イベント生存率(EFS)はA群で94.4%、B群で89.5%であった。A群では明らかな有害事象(AE)はなかったが、B群での主なAEは脱毛症と非致死性血液毒性であった。【結論】患者の臨床症状に応じて層別化し、炎症症状(軽症)には低強度治療、悪性症状(重症)には複数の薬剤による集中治療を行う治療法は、層別化方法を簡素化し、良好な長期寛解を達成し、より高い生存率と生活の質が得られる期待の持てる方法であり、LCH患者にとってより適切と思われる。