第15回 最新学術情報(2010.8)
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)「頸椎のLCH:中国の単一施設での30年の経験」
Langerhans cell histiocytosis of the cervical spine: a single Chinese institution experience with thirty cases.
Jiang L, et al. Spine. 2010 Jan 1;35(1):E8-15.
【研究デザイン】頸椎LCHの後方視的検討。【目的】現在の診断と治療方針の安全性と効果を評価する。【背景】頸椎LCHは稀であるため、その診断と治療プロトコールは未だ確立していない。【方法】過去10年間に頸椎LCHと診断された例が30例あった。診断を確定するため治療前に全例で生検が行われた。第一選択として多くの例で固定術が行われた。単一病変で骨融解や軟部組織腫瘤が著明な例に対しては低線量の放射線照射が、多発病変に対しては化学療法が行われた。悪性腫瘍が疑われた例や神経症状がある例、極度の変形がある例、不安定性がある例に対しては外科療法が行われた。【結果】診断時の平均年齢は14.2歳(1.5~41歳)であった。頸部痛(96.7%)が最も多い訴えで、次いで可動域制限(70%)、神経症状(36.7%)、斜頸(30%)であった。4例に多発病変があった。14例に環軸椎の病変があり、16例に軸椎より下部の病変があった。40%の例は傍脊椎へ、30%の例は硬膜外腔へ、56.3%の例は椎弓根や横突起へ、それぞれ伸展する軟部組織病変を伴っていた。1例に脊椎端板の破壊があった。CTガイド下の経皮的針生検により91.2%が診断可能であった。18例は保存的治療を受け(1例が固定術のみ、13例が放射線療法、2例が化学療法、2例が化学療法+放射線療法)、12例は手術療法を受けた。軸椎の椎体浸潤を認めた3例は、環軸椎前方脱臼の固定術を受けた。環軸椎の外側塊の破壊を認めた3例は自然融合が生じた。全例で初期症状は消失し、再燃した例はなかった。後方視的にみると、60%の例では外科療法が避けられた。25例の平均の観察期間は61.6か月であった。著明な椎体骨の扁平化を認めた例では、椎体高比は20.0%から44.9%に、外側塊高比は22.2%から56.8%に改善した。【結論】頸椎LCHは傍脊椎や硬膜外腔、椎弓根、そして脊椎端板や椎弓板にまで伸展する軟部組織病変を伴うことが多い。CTガイド下の針生検は安全で有効性が高い。頸椎LCHの予後は一般的には良好である。通常は保存的療法で十分であり、手術療法は脊髄症や単不全麻痺などの重大な神経症状を伴う場合に行うべきである。
2)「LCHのサルベージ療法としての2-CdA、Histiocyte SocietyのLCH-S-98プロトコールの結果」
2'-Chlorodeoxyadenosine (2-CdA) as salvage therapy for Langerhans cell histiocytosis (LCH). results of the LCH-S-98 protocol of the Histiocyte Society.
Weitzman S, et al. Pediatr Blood Cancer. 2009 Dec 15;53(7):1271-6.
【背景】Histiocyte Societyの前向き第二相試験であるLCH-S-98で、LCHのサルベージ療法としての2-CdA単剤治療の有効性を評価した。【方法】初期治療に反応しなかった高危険群と中間危険群のLCH患者、および再燃した低危険群のLCH患者を対象とし、2~6コースの2-CdA治療後の、治療反応性と生存について評価した。【結果】45例(55%)の患者はリスク臓器(肺または肝臓、脾臓、造血器)に浸潤があり(RO+)、37例(45%)はリスク臓器浸潤がなかった(RO-)。RO+群では22%が反応良好で44%は病変が進行、RO-群では62%が反応良好で11%は病変が進行した。2年の予測生存率は、RO+群で48%、リスク臓器以外に再燃したRO-群で100%、リスク臓器に再燃したRO-群で67%であった。2年の予測生存率は全体で68%であった。2-CdAに対し反応不良であった群の73%が死亡した。2歳以上の患者では65%が生存したが、2歳未満の患者では30%しか生存しなかった。治療に反応した群では診断から2-CdA治療までの期間の中央値は26か月であったのに対し、反応しなかった群では5か月であった。診断から12か月未満で2-CdA治療を受けた群では治療反応率は21%であったが、12か月以上で治療を受けた群では57%であった。【結論】2-CdAはLCHに対し有効である。2-CdAの奏功率は、リスク臓器浸潤のある患者よりも低危険群の多臓器型や多発骨型の患者において高い。2-CdAに反応しない患者は高リスクで致死率が高い。2-CdA治療時の年齢および診断から2-CdA治療までの期間は、治療反応性と生存率に有意に影響する。
3)「LCHのおける、脳脊髄液中バイオマーカーと神経変性」
Biomarkers in the cerebrospinal fluid and neurodegeneration in Langerhans cell histiocytosis.
Gavhed D, et al. Pediatr Blood Cancer. 2009 Dec 15;53(7):1264-70.
【背景】IL-17A関連の炎症疾患と考えられるLCHの合併症としての進行性神経変性は、重大な認知障害および運動障害をもたらす可能性がある。この合併症を早期に発見し、治療介入の効果を評価する必要があり、進行している神経変性を発見し重症度の評価を可能にするバイオマーカーには価値がある。中枢神経LCH症例において、進行している神経変性LCHの脳脊髄液中のバイオマーカーを検討した。【方法】内分泌障害や神経運動障害、認知障害、行動障害に加え、画像検査で中枢神経LCHの所見のある9例において、LCH診断後4~12年経過した時点で、脳脊髄液中のニューロフィラメントタンパク質軽鎖(NF-L)、グリア細胞線維性酸性タンパク質(GFAp)、総タウタンパク質(TAU)を測定した。2例は経時的に測定した。対照として100例の新規診断された急性リンパ性白血病を用いた。【結果】検査した9例中、4例でNF-L、6例でTAU、8例でGFApが上昇していた。NF-LとGFApは、患者群は対象に比べ有意に(P < 0.001)高値であった(TAUは対照群では測定せず )。最も臨床症状および画像所見が重篤な中枢神経LCHの患者では、NF-LとGFAp値は最も高かったが、一方、全身性病変のない3例の患者ではTAU値は低くNF-L値も正常または軽度上昇にとどまっていた。NF-L値は、神経変性が画像上進行している例のほうが、非進行例に比べ高い傾向にあった(p=0.07)。特に、これらの患者では頻回の髄液穿刺が困難であった。【結論】脳脊髄液中のNF-LとTAU、GFAp値は中枢神経LCHにおいて高値である。もしこれらのマーカーが、中枢神経LCHの初期マーカー、疾患の進展度のモニター、中枢神経LCHの治療効果の評価として有効であるならば、大きな価値がある。
4)「好酸球性肉芽腫におけるMMP-9の発現とマクロファージ解析の重要性」
Expression of matrix metalloproteinase-9 and significance of a macrophage assay in eosinophilic granuloma.
Zyada MM. Ann Diagn Pathol. 2009 Dec;13(6):367-72.
ほとんどの好酸球性肉芽腫(免疫が関連する病変)は悪性度が高いとは考えられていないが、治療後に再燃する例もある。【目的】好酸球性肉芽腫における、MMP-9と浸潤マクロファージの重要性と関連を調べる。【方法】免疫組織化学的ストレプトアビジン-ビオチン複合法を用い、MMP-9とマクロファージのマーカであるCD68の発現を13例の好酸球性肉芽腫で調べた。そのうち3例は局所再燃した。【結果】LCH細胞の多くはMMP-9陽性で、CD68も陽性であった。好酸球性肉芽腫におけるMMP-9の発現とマクロファージ数の間には有意に高い関連性があり(p<0.001)、再燃例の病変部位ではMMP-9とCD68の平均発現量は高かった。【結論】好酸球性肉芽腫においてマクロファージとMMP-9は局所再燃に関連しており、両者の連携作用があるのかもしれない。よって、これらの発現は、好酸球性肉芽腫の悪性度や再燃を示す予後因子となるかもしれない。
5)「側頭骨LCHにおける感音性難聴の予後指標」
Prognostic indicators for sensorineural hearing loss in temporal bone histiocytosis.
Saliba I, et al. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2009 Dec;73(12):1616-20.
【目的】(1) 側頭骨LCHにより感音性難聴が発症する可能性を浮き彫りにする。(2) 病理学的に感音性難聴への進展を評価する。(3) LCHの耳嚢への浸潤の画像所見を明らかにする。(4) 側頭骨LCHにおける感音性難聴の予後因子を明らかにする。【方法】1954年~2008年の間に刊行された側頭骨LCHに関連した感音性難聴の論文をMEDLINEにより検索し論評した。12編の関連論文があり18例の症例が見つかった。自験例もこれらに加えた。臨床像の特性と発症頻度を明らかにするため、LCHによる感音性難聴、および三半規管と蝸牛の障害に焦点をあて、論文を解析した。【結果】側頭骨LCH例の10%が感音性難聴を呈していた。平均年齢は小児では3.5歳、成人では35.5歳であった。男女比は1対1.14であった。13例は片側性で、6例が両側性、1例は多臓器型LCHであった。蝸牛障害が4側頭骨病変に、三半規管障害が20側頭骨病変に見られた。三半規管の中で、外半規管が障害されることが最も多かった。23耳で聴覚についての記載があり、15が感音性難聴、残りが混合性または伝音性難聴であった。10耳は高度難聴で、耳嚢の破壊の程度にかかわらず治療後に改善した例はなかった。治療前に聴力が正常であった例、中等度難聴の例、高度難聴であった例、それら全例で蝸牛は侵されていなかった。しかし、一つまたは二つの半規管が浸潤されていた。25の側頭骨病変のうち15病変で、治療後に画像上は耳嚢病変の回復を認められた。治療開始6か月で再石灰化が起こっていた。【結論】LCHにおいては、治療開始前の聴力レベルが治療後の聴力の予後指標となると考えられる。再石灰化は聴力回復に必須であるけれども、画像上の回復は治療後の聴力改善に結びつく因子ではない。
6)「LCHの多発骨病変:単一臓器型と多臓器型での臨床像の比較」
Langerhans cell histiocytosis with multifocal bone lesions: comparative clinical features between single and multi-systems.
Imashuku S, et al. Int J Hematol. 2009 Nov;90(4):506-12.
LCHは単一臓器型のこともあるし多臓器型のこともある。両病型ともに、多発骨病変を伴うことがあるが、その骨浸潤の違いについては体系的に比較されたことはない。2002年から2007年の間にJLSG-02研究に登録された小児の初発LCHの中で、骨のみの多発病変(SMFB)が67例、骨病変をともなう多臓器型(MSB)が97例あり、両者で骨浸潤の様式が違うのか、それらの違いが転帰に関連するのかを解析した。統計学的解析にMann-Whitney U testとFisher's exact test、その他の方法を用いた。初発年齢はSMFBで有意に高かった(p<0.001)が、症例あたりの骨病変の数は両病型で差はなかった。両病型ともに、頭蓋骨病変が最も多く、次いで椎体骨病変であった。側頭骨病変(p=0.002)、耳錐体骨(p<0.001)、眼窩病変(p=0.003)、頬骨病変(p=0.016)は有意にMSBに多かった。治療反応性は両病型の間で差はなかったが、尿崩症の発症率はMSBに有意に高かった(p<0.001)。尿崩症を発症するリスクが高い骨病変を伴うMSB型LCHでは、尿崩症発症を防ぐ新たな手段が求められる。
7)「LCHの眼窩浸潤」
Orbital involvement in langerhans cell histiocytosis.
Vosoghi H, et al. Ophthal Plast Reconstr Surg. 2009 Nov-Dec;25(6):430-3.
【目的】広範な病像を呈するLCHにおいて、眼窩浸潤の頻度や重大性をより明らかにするために、LCH症例の解析を行った。【方法】1992年から2007年の間にセントジュ-ド小児病院でLCHの診断を受け治療された全症例の診療記録を後方視的に解析した。年齢、性別、臨床的特徴、画像所見、治療、病期、眼窩浸潤、尿崩症の有無を調査した。【結果】24例(うち男児16例)のLCH症例があり、それらを評価した。診断時年齢は中央値24か月(4~179か月)で、観察期間は中央値75か月(6~186か月)であった。9例(37.5%)に眼窩浸潤があった(6例は初発症状として、3例はその後の経過で出現)。そのうち2例は眼窩の単一病変から進行性LCHへと進展した。眼窩病変を伴った全例のほか、8例が診断時から、1例が病期進行時に、全身化学療法を受けた。6例(25%)、が尿崩症を発症し(そのうち2例は眼窩浸潤陽性)、1例は多発骨型で5例は多臓器型であった。【結論】本研究では、LCHの1/3の症例に眼窩浸潤を伴い、その多くは多発骨型または多臓器型であった。集学的治療という観点での、総合的な精査と経過観察が必要である。小病変では局所掻爬またはステロイド注入、進行病変では全身化学療法による治療に対し、通常、反応は良好であり、外科的切除や放射線照射といった強引な局所療法はほとんどの例で適応とならない。
8)「LCH:成人患者における口腔内/歯周浸潤」
Langerhans cell histiocytosis: oral/periodontal involvement in adult patients.
Annibali S, et al. Oral Dis. 2009 Nov;15(8):596-601.
【目的】LCHはクローン性増殖する多臓器疾患である。骨や粘膜はリスク臓器に分類されてはいないが、それらへの浸潤は疾患増悪の危険性を増加させるかもしれない。口腔や歯周の病変は、それらに関連した兆候や症状、機能喪失により、重大なQOLの低下を招く。知られていることのほとんどは小児LCHに関するもので、成人LCHについては注目されていない。【対象と方法】免疫組織学的に診断が確定した計31例の成人LCH症例を、口腔内病変の出現とその特徴に注目し、前方視的に検討した。【結果】12例に口腔内病変が出現した。全例で顎骨の後部が侵されたが、前部が侵されたのは一部の症例だけであった。単発の口腔内病変のある例は多臓器型LCHに多く、口腔内に多発病変がある例は単一臓器型LCHに多かった。口腔内病変としては、50%が軟部組織潰瘍、66.7%が歯肉出血、50%が歯周の損傷、16.7%が歯牙の動揺、8.3%が歯牙の欠損であり、41.6%の例がQOL低下を訴えた。口腔内病変は局所療法により容易に対処可能であった。【結論】顎骨後部に注意する必要があり、単発の口腔内病変は多臓器型LCHの一病変である可能性があり、口腔内と歯周病変はLCH再燃の初期兆候である可能性がある。