第37回 最新学術情報
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)「肺LCH患者の肺機能に対する妊娠の影響」
Lung Function in Pregnancy in Langerhans Cell Histiocytosis.
Radzikowska E, et al. Adv Exp Med Biol. 2018;1023:73-83.
肺LCHはまれな疾患であり、通常若者に発症する。疾患の経過は様々である。肺LCHでは、化学療法にもかかわらず重度の肺の破壊が進行する例もあるが、禁煙するだけで病変が退縮する例もある。本研究では、未知の研究領域である肺LCH患者の肺機能に対する妊娠の影響を調べることを目指した。2000年から2015年の期間に肺LCHの診断を受け入院した45例の女性のうち8例の妊婦を検討した。8例の妊婦のうち5例は2回目の妊娠であった。観察期間の中央値は120か月(72〜175か月)であった。10人の健康な子どもが帝王切開により生まれた。妊娠7週目での自然流産が2回、卵管外性妊娠が1回あった。妊娠によって、1秒率(FEV1.0)、肺活量(VC)、総肺容量(TLC)、残気量(RV)、一酸化炭素肺拡散能(DLCO)、6分間の歩行試験における距離および酸素飽和度などの肺機能検査は変化しなかった。1例のみが、妊娠第3期に両側気胸を発症し、エアリークが持続した。全例において、分娩および産褥期にイベントは生じなかった。肺LCH患者の妊娠は安全であり、肺機能や血液酸素化の低下は生じない。
2)「単一臓器単独病変の骨LCHの臨床経過 – 治療は適切な経過観察で十分か?」
Clinical course of the bony lesion of single-system single-site Langerhans cell histiocytosis - Is appropriate follow-up sufficient treatment?
Sasaki H, et al. J Orthop Sci. 2018 Jan;23(1):168-173.
【背景】LCHは、単一臓器単独病変(SS-s)、単一臓器多病変(SS-m)および多臓器(MS)の3つの病型に分類される。LCHの最も高頻度な病変部位は骨であり、SS-sの骨LCHは良好な予後を示す。SS-sの骨LCHは、自然退縮すると考えられている。掻爬、コルチコステロイドの直接注入、化学療法などの治療が行われているが、SS-sの骨LCHの治療の第一選択は定期的な経過観察である。整形外科後遺症を予防するためには、厳密かつ適切な経過観察が行われるべきであるが、適切な期間および追跡方法はまだ確立されていない。【方法】本研究では、鹿児島大学病院(鹿児島、日本)の整形外科で2006年から2015年にかけて治療されたSS-sの骨LCH患者7例を後方視的に分析した。【結果】骨病変はすべての患者において自然退縮した。病変部位、大きさ、術前のCRP値、ポジトロン放出断層撮影法(PET)のSUV値、年齢、性別、および直接ステロイド注射などの要因は、臨床経過に関連していなかった。経過観察期間中に3例で一時的な病変拡大を認め、1例で一時的な疼痛悪化が生じた。これらの事象は、生検後6週間以内に起こった。【結論】慎重な経過観察と適切な装具の使用により、SS-sの骨LCHは良好な臨床経過が期待できる。今後、適切なフォローアップ期間を決めることが必要である。
3)「小児多臓器型LCHの治療成績:中国上海における単一小児病院の経験」
Treatment outcome of children with multisystem Langerhans cell histiocytosis: the experience of a single children's hospital in Shanghai, China.
Gao YJ, et al. J Pediatr Hematol Oncol. 2018 Jan;40(1):e9-e12.
LCH-II(アームB)ベースのプロトコルによって治療された多臓器型LCHの新規に診断された150例の小児の転帰を報告する。ただし、維持治療は56週間に延長し、エトポシドは維持治療では使用しなかった。リスク臓器(RO)浸潤は、肝臓(機能障害の有無にかかわらず3cm以上腫大);脾臓(鎖骨中央線の肋間縁より2cm以上腫大);造血系(ヘモグロビン ‹ 10g /dL、および/または白血球数 ‹ 4,000 /μLおよび/または血小板 ‹ 100×103 /μL)と定義した。現在の研究では、肺はリスク臓器とはみなされない。RO浸潤陽性(RO +)の59例では、初期治療反応率(6週時点)は61.0%、3年生存率は73.4%±5.9%であった。初期治療反応例は、反応不良例よりも3年生存率は良好であった(90.9%±5.0% vs. 45.7%±11.0%、p ‹ 0.001)。RO浸潤陰性(RO-)91例では、3年間の累積再発率は比較的低かった(10.7%)。この群では死亡例はなく、RO-群の3年間の全生存率は100%であった。RO +群の治療反応不良例の予後は非常に不良であった。この高リスク群に対しては、効果的な救済療法が不可欠である。最初の治療強度および維持療法の継続期間は両方とも、RO-群の再発に影響する。
4)「小児LCHにおける、ERKを活性化する新規の活性化BRAF融合の同定」
Novel activating BRAF fusion identifies a recurrent alternative mechanism for ERK activation in pediatric Langerhans cell histiocytosis.
Zarnegar S, et al. Pediatr Blood Cancer. 2018 Jan;65(1), 26699.
LCHは、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)の恒常的な活性化を特徴とする炎症性骨髄腫瘍である。ゲノム解析によって、相互排他的なBRAFV600EとMAP2K1変異を含む活性化点突然変異を同定され、大部分の小児LCH患者においてERK活性化の原因となる。多臓器型LCHの小児において、新規のBRAFキナーゼ融合体、PACSIN2-BRAFを見出した。これは活性化BRAFキナーゼ融合の2つ目の報告事例であり、病理学的メカニズムに再現性があることを示している。一般的な変異のない小児LCH患者では、活性化キナーゼ融合遺伝子の有無を評価することを強く考慮すべきである。
5)「LCHにおけるBRAFV600EおよびMAP2K1変異は、主に小児において生じる」
BRAFV600E and MAP2K1 mutations in Langerhans cell histiocytosis occur predominantly in children.
Zeng K, et al. Hematol Oncol. 2017 Dec;35(4):845-851.
LCHはCD1a+/CD207+樹状細胞の増殖性疾患である。LCHでは再現性をもってBRAFV600EおよびMAP2K1変異が報告されている。遺伝子変異と臨床所見およびLCH病型との関連を解析するために、97例のLCHにおいてサンガー配列決定および免疫組織化学を用いて検討した。相互排他的なBRAFV600EおよびMAP2K1変異の陽性率は、それぞれ32%および17.5%であった。すべてのMAP2K1変異は、in-frame欠失ではなくミスセンス変異であった; 2つの新たなミスセンス変異(p.E38Kおよびp.P105S)も見出された。BRAFV600EおよびMAP2K1変異は、成人患者と比較して小児に多く(p=.001)、BRAF変異例には再発が多かった(p=.009)。分化関連マーカーとして、BRAF / MAP2K1変異のあるLCH細胞は、CD14を発現したがCD83やCD86を発現することはまれであった(p ‹ .001)。対照的に、BRAF / MAP2K1変異のないLCH細胞は、CD14を発現することはほとんどなかったがCD86を発現し、一部はCD83も発現した(p ‹ .001)。これは、BRAF / MAP2K1変異のあるLCH細胞が、BRAF / MAP2K1変異のないLCH細胞よりも未成熟であることを示している。さらに、BRAFV600EおよびMAP2K1変異がpERK発現と有意に関連していることも見出した(P ‹ .001)。したがって、RAS / RAF / MEK / ERK経路は、成人よりも小児のLCH患者においてより重要な役割を果たす可能性がある。
6)「CD207+ CD1a+細胞は、小児の活動性LCH患者の末梢血で検出される」
CD207+CD1a+ cells circulate in pediatric patients with active Langerhans cell histiocytosis.
Carrera Silva EA, et al. Blood. 2017 Oct 26;130(17):1898-1902.
LCHは、CD207+ CD1a+細胞の増殖に種々の細胞浸潤を伴う病変によって特徴づけられる病因が不明な希少疾患であり、ほとんど全ての組織に発生し、重篤な状態となり死亡率が高い。病的なランゲルハンス細胞の前駆細胞は未だ同定されていない。本論文の目的は、末梢血でCD207+ CD1a+細胞を検出し、それらの誘導物質をLCHで同定することである。22例の活動性および非活動性LCHの小児患者において、末梢血の骨髄性細胞分画におけるCD207およびCD1aの発現、胸腺間質細胞リンフォポエチン(TSLP)およびトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)の血漿レベルを測定した。活動性患者では非活動性患者と比較して、末梢血骨髄系細胞分画において、CD11b+細胞(39.7±3.6 vs. 18.6±1.9)、CD11bhigh CD11c+ CD207+細胞(44.5±11.3 vs. 3.2±0.5)、およびCD11chigh CD207+ CD1a+細胞(25.0±9.1 vs. 2.3±0.5)が多かった。成人対照と臍帯血では、末梢血中にCD207+ CD1a+細胞は観察されなかった。活動性LCH患者では、TSLPおよびTGF-β値が高かった。興味深いことに、活動性LCH患者由来の血漿によりCD14+単球にCD207の発現が誘導された。活動性LCHの患者において末梢血にCD207+ CD1a+細胞が検出され、TSLPおよびTGF-βが生体内でランゲルハンス様細胞を生み出す可能性がある。
7)「組織球性と樹状細胞性腫瘍の予後因子」
Prognostic factors for histiocytic and dendritic cell neoplasms.
Shimono J, et al. Oncotarget. 2017 Oct 19;8(58):98723-98732.
組織球性および樹状細胞性腫瘍はまれであり、ほとんど研究されていない。これらの日本での臨床的特徴と予後因子を報告する。組織球性および樹状細胞性腫瘍87例の成人患者における臨床的特徴および生存について解析した。組織球肉腫が50例、ランゲルハンス細胞組織球症が12例、濾胞性樹状細胞肉腫が11例、ランゲルハンス細胞肉腫が8例、指状嵌入細胞肉腫が6例で、不確定樹状細胞肉腫が1例あった。経過観察期間の中央値は18.0(範囲:9.6〜71.8)か月であり、全生存期間(OS)の中央値は23.5か月であった。2年のOSは49.2%であった。多変量解析では、LDH(p = 0.004)、ECOG performance status (PS)2-4(p = 0.006)、およびAnn Arbor stage III-IV(p = 0.008)がOSに影響した。LDH高値、ECOG PS 2-4、およびAnn Arbor stage III-IVによる層別化で、低リスク群、中間リスク群、高リスク群に分類することが可能であった。同じ層別化は、組織球肉腫にも組織球肉腫以外にも適用可能であった。組織球性および樹状細胞性肉腫においては、ECOG PS、Ann Arbor stageおよびLDHは生存を予測する重要な予後因子である。
8)「p53はランゲルハンス細胞過形成とLCHを鑑別する有用なマーカーである」
p53 is a helpful marker in distinguishing Langerhans cell histiocytosis from Langerhans cell hyperplasia.
Grace SA, et al. Am J Dermatopathol. 2017 Oct;39(10):726-730.
LCHは、ランゲルハンス細胞の増殖性疾患であり、種々の炎症性皮膚病に見られるランゲルハンス細胞(LC)過形成と組織学的に区別することが困難である。両者の病変部の細胞は、CD1aおよびS100染色陽性である。以前の研究では、LCHではfascin、CD31、p53染色陽性であると示されているが、現在のところ、LCHとLC過形成でこれらのマーカーの染色プロファイルを比較した研究はない。LCH 15例とLC過形成を伴う様々な炎症性皮膚病15例において、ファスチン、CD31、p53の免疫組織化学的染色プロファイルを比較した。各標本の表皮および真皮において、CD1a染色陽性細胞の中のFascin、CD31、p53陽性の割合を評価した。Fascinは、LCHとLC過形成の間で有意差を示さなかった。CD31は、40%のLCH症例において真皮に浸潤しているCD1a陽性細胞で陽性であったが、LC過形成では全例が陰性であった。p53は、50%のLCH症例において表皮に浸潤しているCD1a陽性細胞で、93%のLCH症例において真皮に浸潤しているCD1a陽性細胞で陽性であったが、LC過形成症例においては全例で陰性であった。Fascinは、LC過形成とLCHを区別するのに有用なマーカーではなかった。CD31は、真皮浸潤において陽性であれば、LCHが示唆されるが、LCHとLC過形成の鑑別目的のためには感度はやや低い。p53は、LCHとLC過形成の鑑別に有用で正確な診断が得られる免疫組織化学染色であることが判明した。
9)「サイクリンD1は、LCHの腫瘍細胞で発現するが、反応性ランゲルハンス細胞増殖では発現しない」
Cyclin D1 Is Expressed in Neoplastic Cells of Langerhans Cell Histiocytosis but Not Reactive Langerhans Cell Proliferations.
Shanmugam V, et al. Am J Surg Pathol. 2017 Oct;41(10):1390-1396.
LCHでは、MAPキナーゼ経路の遺伝子に活性化変異が高頻度にみられる。したがって、サイクリンD1のようなMAPキナーゼ経路の活性化の下流マーカーは、LCHにおける新たな診断マーカーとして有用かもしれない。この研究の目的は、LCHおよび反応性ランゲルハンス細胞増殖においてサイクリンD1の発現を、免疫組織化学を用いて保存組織検体で検討することである。検討した全てのLCH症例(39/39)で、CD1a /ランゲリン陽性細胞はサイクリンD1発現を示していた。ほとんどの症例(22/39; 56%)において、大部分の(50%以上の)病変細胞がサイクリンD1を強発現していた。わずかな( ‹ 20%)病変細胞しかサイクリンD1を発現していなかったのは、少数の症例(6/39; 15%)のみであった。ほぼすべてのLCH症例(26/27; 96%)で、免疫組織化学染色でサイクリンD1の発現と共にERKのリン酸化が確認された。CD1aとサイクリンD1の二重染色で、紅色皮膚病性リンパ節症および正常皮膚のCD1a陽性ランゲルハンス細胞は全例においてサイクリンD1陰性であった。皮膚炎に関連する変化を伴う皮膚組織の大部分(14/18; 78%)では、CD1a陽性表皮ランゲルハンス細胞の集塊はサイクリンD1の発現を認めなかった。少数例(4/18; 22%)で、CD1a陽性ランゲルハンス細胞の極一部(5%〜10%)がサイクリンD1を弱く発現していた。LCHにおいてMAPキナーゼ経路がほぼ普遍的に活性化していることに関連し、サイクリンD1はこの疾患において遍在的に発現していると結論する。さらに、反応性ランゲルハンス細胞増殖のリンパ節や皮膚ではサイクリンD1の有意な発現は認めない。したがって、サイクリンD1の免疫組織化学染色は、LCHとの鑑別を要する非腫瘍性疾患を除外するのに有用であると考えられる。
10)「赤血球-骨髄前駆細胞における体細胞変異は、神経変性疾患を引き起こす」
A somatic mutation in erythro-myeloid progenitors causes neurodegenerative disease.
Mass E, et al, Nature. 2017 Sep 21;549(7672):389-393.
神経変性疾患の病態生理はあまり理解されておらず、治療選択肢は少ない。神経変性疾患は、慢性的なグリアの活性化に関連した進行性の神経機能不全および喪失が特徴である。一般に二次的プロセスとして見られるマイクログリアの活性化が、神経変性に対して有害であるか、保護的であるかは不明である。BRAFV600EのようなRAS/MEK/ERK経路の体細胞変異が関連する、クローン性骨髄性疾患である組織球症の患者に、遅発性の神経変性疾患が発症するということは、骨髄性細胞の体細胞変異が神経変性に関連することを示唆している。しかし、造血幹細胞系統においてBRAFV600Eを発現させても、白血病および腫瘍性疾患を引き起こすが、神経変性疾患は引き起こさない。ミクログリアは、成人の組織常在骨髄細胞の一種であるが、造血幹細胞からではなくて器官形成期に卵黄嚢の赤血球-骨髄前駆細胞(EMP)から発生する。このことから、EMPにおける体細胞性BRAFV600E変異が神経変性を引き起こす可能性があると仮説を立てた。ここでは、マウスにおいて、EMPでのBRAFV600Eのモザイク発現が、組織常在マクロファージのクローン性の増殖と重度の遅発性神経変性障害をもたらし、ヒトの組織球症患者において観察されるERKが活性化したアメーバ状のマイクロクログリアの集積がみられることを示す。マウスモデルでは、神経行動異常、アストログリア増殖症、アミロイド前駆体タンパク質沈着、シナプス喪失およびニューロン死が、ERK活性化ミクログリアによって引き起こされ、BRAF阻害によって予防された。これらの結果は、組織常在性マクロファージの胎児前駆細胞が組織球症の起源細胞であり、マウスにおいてEMPの体細胞変異が遅発性神経変性疾患を引き起こすことを示している。さらに、これらのデータは、ミクログリアにおけるMAPキナーゼ経路の活性化が神経変性疾患の原因であり、神経変性疾患における神経細胞死を予防するための治療的介入が可能であることを示している。