第13回 最新学術情報(2009.3)
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1) 「小児LCHの唾液中のIL-1βとPGE2は増加している」
IL-1 beta and PGE2 levels are increased in the saliva of children with Langerhans cell histiocytosis.
Preliasco VF et al. J Oral Pathol Med. 2008 Oct; 37(9): 522-527.
LCHは主に小児に発症するまれな疾患で、その発症機序はいまだよくわかっていない。いくつかの研究により、LCHの病変部位でさまざまなサイトカインが異常に産生されることが、この疾患の発症に関連することが示されている。本研究では、さまざまな病型の小児LCHにおける唾液中インターロイキン-1β(IL-1β)とプロスタグランジンE2(PGE2)値を調べることを目的とする。29例の小児LCH、内訳は単発型(グループI)7例、単一臓器多発型(グループII)7例、多臓器型(グループIII)15例、と12例の健常小児(グループIV)について調べた。唾液中IL-1βとPGE2値は、LCH症例では健常小児に比べ有意に高値であった。IL-1β・PGE2値ともに、グループIとIIに比べ、グループIIIにおいて有意に高値であった(P<0.001)。各グループのIL-1βとPGE2の唾液中濃度の間には有意な相関があった(p=0.05)。我々の所見は、唾液中IL-1βとPGE2値の高さと病型の進行に関連があることを示している。このことは、唾液中のこれらの異常高値が疾患進行のリスクマーカーになる可能性を示唆している
2)「神経変性LCH患者における精神神経学的後遺症」
Neuropsychological sequelae in patients with neurodegenerative Langerhans cell histiocytosis.
Van't Hooft I et al. Pediatr Blood Cancer. 2008 Nov; 51(5): 669-674.
【背景】LCH患者は、かなりの率で神経変性症を発症し、著しい中枢神経後遺症をきたす可能性がある。精神神経学的後遺症をより詳細に調べることを目的とする。【方法】広範な精神神経学的テストを用い、放射線学的に神経変性症と考えられる6-20歳の9例のLCH患者を評価した。【結果】9例中3例でトータルIQが年齢相当の-1SD未満であった。詳しく見ると、9例中4例で動作性IQが-1SD未満であったが、言語性IQが-1SD未満であったのは9例中1例であった。さらに、8例中3例で年齢に比べて動作速度が遅かった。とりわけ、9例中8例(89%)で言語性作業記憶が、8例中7例(88%)で視覚空間性作業記憶が-1SD未満であった。【結論】この結果は、中枢神経LCH患者における特異的でまだらな精神神経学的プロファイル、特に知覚課題の低下を伴うが言語性能力は低下しない特徴を示している。さらに、言語性と視覚空間性作業記憶機能は、検査した中で1例を除き年齢相当未満であった。LCHは誤診されやすいかもしれないが、中枢神経LCH患者を診断することは、助言と援助を提供するために重要である。この不幸な神経変性症を減らすための治療を探すことは依然として難しい課題である。
3)「多臓器LCHの再燃:国際LCH登録のデータ」
Reactivations in multisystem Langerhans cell histiocytosis: data of the international LCH registry.
Minkov M et al. J Pediatr. 2008 Nov; 153(5): 700-5
【目的】多臓器LCHの再燃が後遺症と生命予後にもたらす影響を評価すること。【方法】病変消失が得られた多臓器LCH患者335例を後方視的に解析する。【結果】病変消失(第1寛解)が得られたのち5年間での再燃率は46%であった。ほとんどの例において、初回再燃は第1寛解後2年以内に生じていた。134の再燃のうち、35%は骨単独、24%は骨以外の単一臓器、24%はリスク臓器を含まない多臓器、10%がリスク臓器の再燃であった。7%は再燃部位が不明であった。初回再燃での死亡は3例(2.2%)のみであった。第2寛解は85%で得られた。第2寛解が得られてから5年間の第2再燃率は44%であった。後遺症の率は、再燃例において高かった(ハザード率 2.2, p=0.046)。【結論】多臓器LCHにおいて、再燃の頻度は高く早期に生じていたが、リスク臓器への再燃はまれで致死率は低かった。しかし、再燃例では後遺症を生じる率が約2倍に増加した。早期の病変消失と後遺症の軽減を目指した、再燃例に対する毒性の低い前方視的臨床試験をすべきである。
4) 「小児の頚椎の好酸球肉芽腫(LCH)」
Eosinophilic granuloma of the pediatric cervical spine.
Denaro L et al. Spine. 2008 Nov 15;33(24):E936-941.
【研究デザイン】小児頚椎LCHの後方視的検討【目的】7例の小児頚椎LCHの臨床像、放射線学的所見、対処法、転帰を提示する。【背景】小児頚椎LCHの対処法は困難な課題であり、いまだエビデンスが確立しておらず、症例に応じた対応が必要である。これらの患者の治療目標は、患者が成長途上であるということを常に考えながら、脊柱の安定、神経機能の保全、痛みの軽減を得ることである。小児頚椎LCHは極めてまれで、1966年から2008年の間に50例の文献報告があるのみである。【方法】1970年から1990年の間に治療を受けた小児頚椎LCHの7例を検討した。7例ともに頚椎単独病変で、組織学的にLCHと診断された。全例、骨端線は未閉鎖であった。【結果】男児5例、女児2例で、年齢は4-16歳、中央値10歳であった。観察期間は8-29年、中央値19年であった。初発症状は、頚椎のどこに腫瘤があるかにより様々であった。【結論】小児頚椎LCHの対処法は困難な課題であり、特に神経学的症状を伴うときはなおさらである。経過観察のみ、長期間の固定、全身化学療法、掻爬(骨移植を伴う又は伴わない)、副腎皮質ホルモンの注入、低線量照射が骨LCHの対処法として行われている。神経学的症状を伴う場合には手術が必要である。長期間の経過観察においても、椎体間固定術を受けた小児例の頚の形状は正常であり、隣接する椎体骨の動きは正常に保たれていた。
5) 「小児LCH患者のおける健康関連の生活の質、認知機能と行動障害」
Health-related quality of life, cognitive functioning and behaviour problems in children with Langerhans cell histiocytosis.
Vrijmoet-Wiersma CM et al. Pediatr Blood Cancer. 2009 Jan;52(1):116-122.
【背景】本研究は、小児LCH例の包括的また疾患特異的な健康関連の生活の質、認知機能と行動障害を評価するために計画された。さらに、どのような医学的、社会的因子が健康関連の生活の質、認知機能や行動障害に影響するかを検討した。【方法】この横断的症例対照研究では、7から17歳の24例の小児LCH例に健康関連の生活の質のアンケート、認知試験、行動評価がおこなわれた。さらに、疾患特異的な健康関連の生活の質の評価が行われた。これらの結果を同等な健康対照群や親や教師による評価と比較した。【結果】対照群に比べて小児LCH例では、肉体的な健康関連の生活の質が低かった(p=0.05)。12歳以上のほうがより健康関連の生活の質の評価点が低かった。包括的よりも疾患特異的な健康関連の生活の質が低かった。認知能の差は幅広く、短期視覚的記憶が最も大きく影響を受けた。25%のLCH例が特殊教育を受けていた。親や教師の評価では、LCH例は不安や抑うつなどの内面的な行動障害が多かった。尿崩症や他の中枢神経浸潤のあるLCH例や化学療法を受けたLCH例は、それ以外のLCH例に比べ、認知機能や行動の障害が大きかった。【結論】健康関連の生活の質は、小児LCH例、特に年長児で影響を受ける。対照に比べLCH例では内面的な行動障害が大きい。教師は行動障害についての情報提供者として重要である。
6) 「LCHの治療におけるFDG-PETスキャンと従来の画像診断・骨シンチの比較」
Comparison of FDG-PET scans to conventional radiography and bone scans in management of Langerhans cell histiocytosis.
Phillips M et al. Pediatr Blood Cancer. 2009 Jan;52(1):97-101.
【背景】LCH例の活動性病変部位の検出と治療反応の評価にFDG-PETスキャンが有用かどうかを検討した。単純レントゲンや骨シンチでの変化が明らかとなる前に、標準化された取り込み値により病勢の変化が捉えられた。【方法】組織学的にLCHと診断された44例(小児41例、成人3例)のPETスキャン画像を骨シンチやMRI・CT・単純レントゲンと比較し、臨床上の有効性を、偽陽性と偽陰性(劣っている)、他の方法による画像結果と一致(一致)、治療反応または再燃の病変部位が示される(優れている)の3段階で評価した。【結果】PDG-PETの標準化された取り込み値によって、新たな病変・再燃・治療反応の部位を、他の方法による画像変化が明らかになる前に捉えることができ、90/256(35%)で優れていた。PETは活動性LCH病変を146/256(57%)で捉えた。FDG-PETは、骨シンチ、MRI、CT、単純レントゲンと比べ、それぞれ8/23(34%)、13/64(21%)、13/64(20%)、58/116(50%)で優れていた。PETスキャンと骨シンチ、MRI、CT、単純レントゲンは、それぞれ14/23(61%)、33/53(62%)、45/64(65%)、54/116(46%)で一致した。【結論】全身FDG-PETスキャンによって骨や軟部組織のLCH病変の活動性と治療反応性を、他の方法による画像に比べ、非常に正確に検出することができた。全身FDG-PETスキャンは、LCHの診断時や経過観察時において、重要で有益な検査である。
7)「2-CDAとAra-Cの併用による難治性LCHの治療」
Treatment of refractory Langerhans cell histiocytosis (LCH) with a combination of 2-chlorodeoxyadenosine and cytosine arabinoside.
Apollonsky N et al. J Pediatr Hematol Oncol. 2009 Jan;31(1):53-56.
2-CDAとAra-Cの併用療法は難治性小児LCHに対し有効であることが示されている。我々は、5例の再燃LCHを2-CDA/Ara-Cで治療し、免疫と造血機能の経過を詳しく調べた。これらの症例では、CD4+細胞とCD8+細胞、NK細胞の絶対数は減少し、CD4/CD8比は低下した。ほとんどの治療コース(15/21)において、カリニ肺炎を含む敗血症を発症した。これらの結果から、2-CDA/Ara-C療法は、治療抵抗性や再燃した高リスク多臓器浸潤の小児LCHにおいて使用を考えるべきである。複合的で重度な長期間の免疫抑制と骨髄抑制を覚悟すべきである。
8) 「LCHの骨病変のゾレドロン酸による治療」
Zoledronic acid in treatment of bone lesions by Langerhans cell histiocytosis.
Montella L et al. J Bone Miner Metab. 2009;27(1):110-113.
LCHはまれな疾患で、おそらく非定型の骨髄増殖症候群であり、様々な臨床症状と経過を呈する。ゾレドロン酸により治療した、化学療法や放射線療法後に病変が進行した6例のLCHを、骨病変に焦点を当てて報告する。ゾレドロン酸は安全であり、顕著な骨痛の軽減が得られた。