第65回 最新学術情報
最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。
1)「中枢神経病変を伴う組織球症の脳画像所見の比較: 121例の成人患者を対象とした後方視的研究」
Comparison of neuroimaging features of histiocytic neoplasms with central nervous system involvement: a retrospective study of 121 adult patients.
Fan X, et al. Eur Radiol. 2023 Nov;33(11):8031-8042.
【目的】中枢神経病変を伴う3つの組織球症:LCH、Erdheim-Chester病(ECD)、Rosai-Dorfman病(RDD)の脳画像所見を比較する。【方法】中枢神経病変のある組織球症の成人121例(LCH 77例、ECD 37例、RDD 7例)を後方視的に解析した。組織球症の診断は、組織病理学的所見に臨床的および画像所見を組み合わせてなされた。脳および下垂体MRIを、腫瘍性病変、血管病変、変性病変、副鼻腔病変、眼窩病変、視床下部-下垂体病変について体系的に分析した。【結果】中枢性の尿崩症や性腺機能低下症などの内分泌疾患は、ECDやRDDに比べ、LCHでより多かった(p < 0.001)。腫瘍性病変は、LCHでは、ほとんどが孤発性(85.7%)で、視床下部-下垂体領域(92.9%)に位置し、腫瘍周囲浮腫はなかった(92.9%)が、ECDやRDDでは、多発することが多く(ECD 81.3%, RDD 85.7%)、より広範囲に分布しほとんどが髄膜から発生しており(ECD 75%, RDD 71.4%)、腫瘍周囲浮腫を呈することが多かった(ECD 50%, RDD 57.1%、)(全てp ≤ 0.020)。血管病変はECD(17.2%)に特有の所見で、LCHやRDDでは見られず、死亡率の上昇と関連していた(p=0.013, ハザード比=11.09)。【結論】成人中枢神経LCHの典型的な特徴は、視床下部-下垂体系に限局した内分泌障害であった。中枢神経ECDおよびRDDの主な所見は、主に髄膜病変を伴う多発性腫瘤病変であったが、血管病変はECDの特徴であり予後不良と関連していた。
2)「小児LCHの重症度と関連する免疫微小環境」
Immune microenvironment associated with the severity of Langerhans cell histiocytosis in children.
Cai F, et al. Cytokine. 2023 Nov;171:156378
この研究は、末梢血における免疫微小環境がLCHの重症度や治療効果を反映するかを解析することを目的とする。10年間に新たにLCHと診断された計200例の小児を対象とした。治療前に末梢血を採取し、リンパ球マーカーを4色フローサイトメーターで分析した。LCH患者は健常対照と比べ、末梢血中のCD3陽性/CD8陽性T細胞%、CD3陽性/CD4陽性/HLA-DR陽性T細胞%、CD3陽性/CD8陽性/HLA-DR陽性T細胞%、IL-4、IL-6、IL-10、IFN-γ値が顕著に上昇していた。リスク臓器浸潤陽性多臓器型(MS-RO +)の患者はリスク臓器浸潤陰性多臓器型(MS-RO-)の患者と比べ、CD3陽性/CD4陽性/HLA-DR陽性T細胞%、CD3陽性/CD8陽性/HLA-DR陽性T細胞%、IL-6、IL-10、IFN-γ値が高かった。初期化学療法が有効であった患者は無効だった患者に比べ、末梢血中のCD3陽性/CD4陽性/HLA-DR陽性T細胞%、CD3陽性/CD8陽性/HLA-DR陽性T細胞%、IL-4、IL-10、IFN-γ値が有意に低かった。さらに、多変量解析で、末梢血中のCD3陽性/CD4陽性/HLA-DR陽性T細胞%、CD3陽性/CD8陽性/HLA-DR陽性T細胞%、IL-10値が高いことが、初回化学療法後のLCHの反応不良と関連していた。末梢血中の免疫微小環境は、LCHの重症度と治療反応に関連している可能性がある。CD3陽性/CD4陽性/HLA-DR陽性T細胞%、CD3陽性/CD8陽性/HLA-DR陽性T細胞%、IL-10値は、LCH患者の治療反応を予測するためのバイオマーカーとなる可能性がある。
3)「NTRKは黄色肉芽腫で高頻度に発現し、孤発病変型と関連する」
NTRK expression is common in xanthogranuloma and is associated with the solitary variant.
Umphress B, et al. J Cutan Pathol. 2023 Nov;50(11):991-1000.
【背景】若年性黄色肉芽腫(JXG)と成人黄色肉芽腫(AXG)において、これまでに同定された相互排他的なドライバー遺伝子変異として、MAP2K1、BRAF、ARAF、KRAS、NRASなどのMAPK経路の遺伝子変異や、PIK3CD変異、BRAF融合、ALK融合があるが、一部の例ではドライバー変異がまだ特定されていない。NTRK融合が確認される例がまれにある。【方法】次世代シークエンシング(NGS)により、NTRK1融合を伴う孤発病変型のJXGとAXGの2例を見出し、pan-NTRK免疫染色陽性であることを確認した。このことから、pan-NTRK免疫染色を用い、JXGおよびAXGの計50例をスクリーニングした。NGSによりNTRK融合が同定されていない組織球症5例と非腫瘍性組織球性疾患の14例ではpan-NTRAK免疫染色は陰性であり、この染色の特異性を確認した。【結果】免疫染色により、NTRKの過剰発現を伴うJXGまたはAXGが23例見つかった。これらの症例は全て、多臓器型(0/7例)ではなく、孤発病変型(23/43例、53.5%)であった。【結論】NTRKはJXGやAXGでは発現していることが多く、多臓器型ではなく孤発病変型と関連している。JXGおよびAXGにおいては、多臓器型の遺伝子変異に研究の焦点を当てられる傾向があるため、このNTRK発現の重要性はこれまで認識されていなかったと考えられる。pan-NTRK陽性の2例でNTRK1融合がNGSにより確認されたが、このことをさらに検証するには追加の遺伝子解析研究が必要である。
4)「悪性組織球症は、単球、マクロファージ、樹状細胞、ランゲルハンス細胞の分化系統と一致する表現型スペクトルからなる」
Malignant Histiocytosis Comprises a Phenotypic Spectrum That Parallels the Lineage Differentiation of Monocytes, Macrophages, Dendritic Cells, and Langerhans Cells.
Ravindran A, et al. Mod Pathol. 2023 Oct;36(10):100268.
悪性組織球症(MH)、すなわちHistiocyte Society分類の「Mグループ」は、大きな多形性の核を持つ腫瘍性組織球を特徴とする。MHには、組織球性肉腫、指間型樹状細胞肉腫、ランゲルハンス細胞肉腫が含まれる。MHの表現型スペクトルを明らかにし、このスペクトル全体にわたる遺伝子変異の特徴を調べることを目的とした。免疫組織化学染色を用いて、22例を単球および樹状細胞前駆細胞からの分化系統に対応する以下の4つのサブタイプに分類した:1)マクロファージ型(5例)CD68陽性/CD163陽性/CD14陽性/第13a因子陽性、2)単球-マクロファー型(5例)CD68陽性/CD163陽性/CD14陽性/S100陽性/OCT2陽性、3)樹状細胞型(6例)CD68陽性/CD11c陽性/S100陽性/リゾチーム陽性/ZBTB46陽性/CD1aおよびランゲリン<5%、4)ランゲルハンス細胞型(6例)CD68陽性/CD11c陽性/S100陽性/ZBTB46陽性/CD1a陽性/ランゲリン陽性。表現型サブタイプは、低悪性度の組織球症で見られる以下のサブタイプと一致する:マクロファージ型はErdheim-Chester病、単球-マクロファージ型はRosai-Dorfman病、ランゲルハンス細胞型はLCH。MAPK経路遺伝子の活性化変異がMHの80%で確認された。29%はPI3k-AKT-mTOR経路に、59%はエピジェネティックな調節遺伝子に変異を認めた。全例にサイクリンD1の強発現を認めたが、p-ERKおよびp-AKTは全例には認めなかった。MHの8/22例(36%)は、既往のB細胞リンパ腫とクローン的に関連していることが証明された。MHの表現型スペクトルを明らかにすることは診断の助けとなり、潜在的な生物学的および臨床的重要性のさらなる探求を可能にする。
5)「組織球症における遺伝子変異に関する知見の広がり: 新規CLTC-SYK融合を伴う小児の孤発性軟部組織球腫」
Expanding Our Knowledge of Molecular Pathogenesis in Histiocytoses: Solitary Soft Tissue Histiocytomas in Children With a Novel CLTC::SYK Fusion.
Crowley HM, et al. Am J Surg Pathol. 2023 Oct 1;47(10):1108-1115.
組織球症は、BRAF遺伝子やその他のMAPK経路の遺伝子の変異をしばしば伴う、組織病理学的および臨床的に多様な疾患群である。本研究では、次世代シークエンシングと蛍光in situハイブリダイゼーションによって新規CLTC-SYK融合が見出された、組織病理学的に異なる孤発性軟部組織病変を呈した、小児の組織球腫瘍の3例について述べる。形態学的には、3つの腫瘍はすべて、円形~楕円形の核と空胞化した好酸性細胞質を伴う細胞でシート状に配列していたが、古典的な若年性黄色肉芽腫とは対照的に、Touton巨細胞は存在しなかった。その後、古典的JXGの別のコホートで、蛍光in situハイブリダイゼーションによってCLTC-SYK融合を検索したが陽性例はなく、CLTC-SYK融合陽性組織球症が遺伝的および組織学的に若年性黄色肉芽腫とは異なることが示唆された。CLTC-SYK融合は、MAPKを含むさまざまな経路に関与するSYKキナーゼの異常な活性化を引き起こすと考えられる。新規CLTC-SYK融合の同定は、進行性疾患に対する分子標的治療の開発への道を開く可能性がある。
6)「Erdheim-Chester病の副鼻腔および耳病変」
Sinonasal and ear manifestations of Erdheim-Chester disease.
Drouillard M, et al. Br J Haematol. 2023 Oct;203(2):194-201.
Erdheim-Chester病(ECD)における副鼻腔および耳病変の有病率を明らかにし、さまざまな耳鼻科的の症状を分析し、耳鼻科領域の病変、他の臓器病変、BRAF変異との関連を解析する。ECDの国立紹介センターで後方視的な単一施設での研究を行った。1980年1月1日~2020年12月31日に耳鼻科のデータのある162例のECDが対象となった。耳鼻咽喉科的臨床所見と放射線学的所見を分析した。ECDにおける耳鼻科領域の病変の頻度について分析した。副鼻腔および耳病変、他の臓器病変、BRAF変異の関連性を解析した。耳鼻科的症状の有病率は約45%であった。ECDに特有な鼻耳科的臨床徴候はなかった。70%の症例に副鼻腔画像に異常所見を認めた。両側の上顎洞辺縁の骨硬化像は、ECDに非常に特異的であった。副鼻腔MRI画像所見とBRAF変異、中枢神経病変、小脳病変、皮膚黄色腫との間に関連が見られた。ECDでは副鼻腔や耳病変が多く、副鼻腔に特有の画像所見がある。
7)「血清中の可溶性インターロイキン2受容体(sIL-2R)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、IgM値は、小児LCHの重症度と相関する」
Serum levels of soluble interleukin 2 receptor (sIL-2R), tumor necrosis factor-alpha (TNF-α), and immunoglobulin M are correlated with the disease extent in childhood Langerhans cell histiocytosis.
Wang W, et al. J Cancer Res Clin Oncol. 2023 Oct;149(13):11431-11442.
【目的】本研究は、LCHの重症度に関連する因子、リスク臓器浸潤陽性LCHの治療反応性の指標の探索を目的とした。【方法】本研究には、治療後に活動性病変が改善した(AD-B)と評価されたLCH患者が登録された。単一臓器(SS)型、リスク臓器浸潤陰性多臓器(RO-MS)型、リスク臓器浸潤陽性多臓器(RO+MS)型に分類した。3病型の全てで、血清サイトカイン、免疫グロブリン、リンパ球サブセットを入院時に測定した。これらの指標の治療後の変化も分析した。【結果】2015年1月~2022年1月に46例が研究対象となり、SS型が19例(41.3%)、RO-MS型が16例(34.8%)、RO+MS型が11例(23.9%)であった。RO+MS型を特定するのに、血清中可溶性インターロイキン2受容体(sIL-2R)(>912.5 U/mL)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)(>20.3 pg/mL)、免疫グロブリンM(IgM)(<1.12 g/L)が有用であった。さらに、RO+MS型において、sIL-2R値(SS vs. RO+MS: P=0.002、RO-MS vs. RO+MS: P=0.018)とCD8陽性T細胞数(SS vs. RO+MS: P=0.028)は有意に高値で、治療後に有意に低下し、病勢の改善を示唆した。【結論】sIL-2RおよびTNF-α値は重症度と正の相関があったが、IgM値は負の相関があった。さらに、sIL-2R値およびCD8陽性T細胞数は、RO+MS型において治療反応評価に有用な指標であると考えられる。
8)「活動性の成人神経組織球症における脳脊髄液中のネオプテリンの増加」
Increased neopterin in cerebrospinal fluid in active adult neurohistiocytosis.
Razanamahery J, et al. Hematol Oncol. 2023 Oct;41(4):762-767.
神経組織球症の診断は困難であり、臨床症状、画像検査、脳脊髄液(CSF)検査により鑑別診断される。脳生検は依然として正確に診断するための絶対的な方法であるが、手技の危険性と神経変性症状に対して利得が少ないため、めったに行われない。したがって、成人の神経組織球症を診断するための特定のバイオマーカーを同定する必要性がある。ミクログリア(脳マクロファージ)は神経組織球症の病態に関与しており、傷害されると二次的にネオプテリンを産生することから、CSF中のネオプテリン値が活動性の神経組織球症の診断に役立つかを評価することを本研究の目的とした。成人の組織球症患者21例のうち、4例が神経組織球症に合致する臨床症状を呈した。神経組織球症と確定診断された2例では、CSF中のネオプテリン値が上昇し、IL-6およびIL-10値も上昇していた。対照的に、神経組織球症の診断が不十分であった他の2例と、活動性の中枢神経病変がない他の組織球症では、全例でCSF中のネオプテリン値は正常であった。要約すると、この予備研究では、CSF中のネオプテリン値の上昇は、成人組織球症において活動性の神経組織球症を診断するための貴重な方法である。
9)「成人クローン性組織球症における悪性度と転帰に対するBRAF V600E変異の影響」
Impact of BRAFV600E mutation on aggressiveness and outcomes in adult clonal histiocytosis.
Razanamahery J, et al. Front Immunol. 2023 Sep 22;14:1260193.
組織球症には幅広い疾患が含まれ、いずれもCD68陽性組織球の臓器浸潤を特徴としている。ほとんどの成人組織球症は、MAPK経路の遺伝子、主にBRAF遺伝子の体細胞変異をしばしば認めるため、クローン性疾患と考えられている。BRAF変異は、小児LCHにおいては多臓器型と、Erdheim-Chester病(ECD)においては心血管/中枢神経病変と関連している。しかし、成人のクローン性組織球症に関するデータはほとんどない。このため、当施設ではクローン性組織球症の全例を対象に、BRAF変異の臨床的意義について検討する後方視的研究を行った。成人27例(ECD 10例、LCH 10例、Rosai-Dorfman病 5例、ECD/LCH混合 3例)のうち、11例(39%)にBRAF遺伝子の機能獲得性変異(9例)と欠失(2例)を認めた。これらの例は、リスク臓器、特に脳や心血管系病変のある多臓器型が多かった。そして、骨髄性腫瘍(ほとんどが慢性骨髄単球性白血病)を合併することが多く、分子標的療法を一次治療として受けた例が多かった。それにもかかわらず、おそらく効果的な治療により、BRAF変異の有無は全生存期間や無再発生存期間に影響していなかった。結論として、成人クローン性組織球症において、BRAF V600E変異は臓器障害を伴う多臓器型や治療反応不良と関連するため、迅速かつ正確な遺伝子変異の診断が重要である。
10)「LCHにおけるOpsin3発現とそのELD-1細胞株における細胞機能への影響」
Opsin 3 expression in human Langerhans cell histiocytosis and its mediation of ELD-1 cellular function.
Ye T, et al. Eur J Dermatol. 2023 Aug 1;33(4):368-382.
【背景】LCHは、単核食細胞系細胞の機能、分化、増殖の異常を特徴とする組織球症の一種であるが、その病因は完全には解明されていない。光受容体Opsin3は細胞機能の調節において重要な役割を果たす。【目的】LCHおよびランゲルハンス細胞におけるOpsin3の発現を解析し、ランゲルハンス細胞様細胞株(ELD-1)の細胞機能に影響するかを評価することを目的とした。【材料と方法】LCH病変および対照としてLCH病変に隣接する健常皮膚組織において、光学顕微鏡(免疫組織化学および免疫蛍光染色)およびRNAスコープを用い、Opsin3の発現を解析した。初代樹状細胞およびELD-1におけるOpsin3の蛋白およびmRNAレベルを、それぞれリアルタイム定量PCRおよびウェスタンブロッティングによって測定した。レンチウイルスベクターによりOpsin3のmRNAの発現を低下または増強させ、ELD-1の増殖、遊走、細胞周期、アポトーシスが変化するかを、セルカウンティングキット8、EdU-594キット、トランスウェルアッセイと細胞周期分析キット、アネキシンV-PEアポトーシスキットを用いて分析した。最後に、これらの機能を媒介するシグナル伝達経路を、RNAシーケンスとウェスタンブロッティングによって解析した。【結果】Opsin3は、健常組織と比較してLCH病変で高度に発現し、初代樹状細胞とELD-1で発現していた。ELD-1におけるOpsin3のノックダウンにより、細胞増殖、細胞周期、細胞遊走は阻害されたが、過剰発現によりこれらは助長された。これらは、MAPK(p38/JNK/ERK)シグナル伝達経路の誘導と関連していた。【結論】この結果は、LCHの治療において分子標的となる可能性があるOpsin3の役割についての理解を深める。