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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第52回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「骨LCHにおけるPD-1 / PD-L1免疫チェックポイント分子発現の特徴:後方視的研究」

Characterization of PD-1/PD-L1 immune checkpoint expression in the pathogenesis of musculoskeletal Langerhans cell histiocytosis: A retrospective study.

Hashimoto K, Nishimura S, Sakata N, Inoue M, Sawada A, Akagi M.
Medicine (Baltimore). 2021 Oct 29;100(43):e27650.

最近、PD-1とPD-L1のLCHの病因への関与が示唆されているが、それらがどのよう関与しているのか十分に解明されていない。また、特に骨LCHにおいては、PD-1 / PD-L1分子の関与は不明なままである。本研究は、骨LCHにおけるPD-1 / PD-L1免疫チェックポイントシステムの病因への関与を解明することを目的とした。2005年11月~2020年12月に近畿大学病院と大阪母子医療センターで治療を受けた6例の骨LCH(平均年齢13.5歳、男性3例・女性3例)においてPD-1 / PD-L1の発現を解析した。追跡期間中央値は41か月であった。症状、病変数、治療法、転帰を分析した。生検で得られた病理検体を用い、CD4、CD8、PD-1、PD-L1の免疫染色を行った。5例は多発骨型、1例は孤発骨型であった。主訴は5例が骨痛であった。4例は自然退縮し、他の2例は化学療法を受けた。5例は無病生存、1例は有病生存であった。CD4、CD8、PD-1、PD-L1陽性率は、それぞれ100%、100%、16.6%、83.3%であった。CD4 / PD-L1、CD8 / PD-L1、PD-1 / PD-L1の陽性率は、それぞれ83.3%、83.3%、16.6%であった。骨LCHの微小環境において、PD-1 / PD-L1免疫チェックポイント分子は何らかの役割を果たす可能性が考えられる。

2)「LCHにおける単一細胞レベルでの末梢血単核食細胞のトランスクリプトーム」

Transcriptomic landscape of circulating mononuclear phagocytes in Langerhans cell histiocytosis at the single-cell level.

Shi H, et al. Blood. 2021 Oct 7;138(14):1237-1248.

LCHは、MAPK経路の異常な活性化によって引き起こされる炎症性骨髄性腫瘍である。患者の末梢血中骨髄系細胞は、しばしば疾患関連の変異を持ち、in vitroでランゲリンを高発現するLCH様細胞に分化するが、それらの詳細な免疫表現型および分子プロファイルは不明であり、病態に重要な洞察を与える可能性がある。ここでは、217例の小児LCH患者の血液と組織検体を、BRAF V600E変異を解析するために採取した。これらのうち49例の末梢血のCD3・CD19・CD56陰性/HLA-DR陽性細胞群の細胞分画において、重症病型ほど有意に形質細胞様樹状細胞が減少していることが明らかになった。14例の単一細胞RNAシーケンスにより、BRAFV600E変異のある単核貪食細胞系の異なる細胞群によってRAS-MAPK-ERKシグナル伝達関連遺伝子および転写因子の発現に、重要な違いがあることが明かとなった。さらに、BRAF阻害剤であるダブラフェニブ治療によって、MAPK経路阻害、炎症予防、単核食細胞における細胞代謝の制御がみられた。そして、皮膚のCD207陽性/CD1a陽性細胞においてRAS-MAPK-ERKシグナル伝達経路関連遺伝子の発現亢進がみられ。これらのことから、我々のデータは、単一細胞の解析によるLCHの分子学的な病態理解を広げ、臨床診断と治療法の改善に貢献し、個別化医療の開発に役立つ可能性がある。

3)「18F-FDG PET / MRによる小児LCHの評価」

18F-FDG PET/MR Assessment of Pediatric Langerhans Cell Histiocytosis.

Niu J, et al. Int J Gen Med. 2021 Oct;14:6251-6259.

【はじめに】LCHは病因がよく理解されていない組織球症である。小児LCHのPET / MRの画像をまとめ、LCHの診断における役割を明らかにすることを目的とした。【方法】15例の小児LCHの治療前のPET / MR画像データの後方視的に分析した。病変と正常組織の間でADC値を比較した。【結果】15例のうち、5例は単一臓器型、10例は多臓器型であった。9例はさまざまな程度の骨破壊とFDG取り込み増加を示し、6例は下垂体茎の肥厚、下垂体後葉のT1WIの正常高輝度スポット消失が見られた。FDG取り込み増加を、脾臓で4例、肝臓で3例、多発性リンパ節腫大で3例、肺病変で3例、骨髄腔で2例に認めた。さらに、2例に皮膚病変が見られた。取り込み増加を認める結節を、筋肉で1例、甲状腺で1例、縦隔で1例に検出された。【結論】PET / MRは、LCHの浸潤臓器、病変部位をよく示すことができ、LCHの全身評価において重要な役割を果たす。

4)「高リスク多臓器型LCHにおける消化管病変の予後への影響」

Additive Prognostic Impact of Gastrointestinal Involvement in Severe Multisystem Langerhans Cell Histiocytosis.

Minkov M, et al. J Pediatr. 2021 Oct;237:65-70.e3.

【目的】組織球学会の国際臨床試験に登録された小児LCHにおいて、消化管病変の生命予後への影響を評価する。【方法】連続するDAL-HX 83、DAL-HX 90、LCH-I、LCH-II、LCH-III試験に登録された2414例の小児LCHを後方視的に分析した。【結果】1289例の単一臓器型LCH患者には、消化管病変を認めなかった。多臓器型LCHの1125例中114例(10%)は、初発症状として消化管病変を認めた。消化管病変は、診断時年齢2歳未満(13% vs. 2歳以上6%, P<0.001)、リスク臓器浸潤陽性(15% vs. 陰性6%, P<0.001)に有意に多かった。リスク臓器浸潤陰性の5年全生存率は、消化管病変の有無にかかわらず良好であった(消化管病変なし98% vs. 消化管病変あり97%, P=0.789)。リスク臓器浸潤陽性例の5年全生存率は、消化管病変のある例(n=70)は、消化管病変のない例(n=394)に比べ、有意に低かった(51% vs. 72%, P<0.001)。【結論】消化管病変は、リスク臓器浸潤陽性の多臓器型小児LCHにおいて、相加的な予後不良因子となる。より強力または新たな治療を必要となるため、消化管病変の前向き評価が必要である。

5)「LCHとランゲルハンス細胞肉腫におけるインスリン様成長因子2メッセンジャーRNA結合タンパク質3の発現」

The Expression of Insulin-Like Growth Factor 2 Messenger RNA-Binding Protein 3 in Langerhans Cell Histiocytosis and Langerhans Cell Sarcoma.

Yashige K, et al. Tohoku J Exp Med. 2021 Sep;255(1):27-31.

LCHおよびランゲルハンス細胞肉腫(LCS)などのランゲルハンス細胞腫瘍は、樹状細胞に由来する。LCSは、明らかな悪性の細胞学的特性とランゲルハンス細胞様の表現型を伴う高悪性度腫瘍として定義され、一般に、LCHよりも予後不良で、より悪性度が高い。インスリン様成長因子2メッセンジャーRNA結合タンパク質3(IGF2BP3)は、さまざまな癌で発現する癌胎児性タンパク質であり、それが発現している癌の多くは予後不良で悪性度が高い。ここでは、免疫組織化学を用い、ランゲルハンス細胞腫瘍におけるIGF2BP3の発現を評価した。IGF2BP3の発現は、免疫組織化学によって陰性(<1%)か陽性(≥1%)かを判定した。LCSの4例全て(100%)、小児LCH(18歳未満)の22例中6例(27.3%)はIGF2BP3陽性であった。しかし、小児LCHの22例中16例(72.7%)、成人LCH(18歳以上)の15例全て(100%)は陰性であった。LCHにおけるIGF2BP3の発現は、性別、病変部位、予後、BRAFV600E発現とは関連しなかった。これらの結果は、IGF2BP3の発現は、成人患者においてLCSとLCHを鑑別する有用なマーカーとなる可能性を示している。

6)「Erdheim-Chester病の肺症状:臨床的特徴、転帰、LCHとの比較」

Pulmonary manifestations of Erdheim-Chester disease: clinical characteristics, outcomes and comparison with Langerhans cell histiocytosis.

Wang JN, et al. Br J Haematol. 2021 Sep;194(6):1024-1033.

Erdheim-Chester病(ECD)は、まれなnon-LCH組織球症で、通常、肺や胸膜など多臓器に病変をきたす。しかし、ECD患者の肺病変やECDとLCHの肺病変の違いに関する研究はほとんどない。54例のECD患者を後方視的に検討し、当センターの成人LCH患者の肺症状と比較した。54例のECD患者の診断年齢は中央値48歳(範囲9-66歳)であった。胸部CTスキャンで、49例(91%)に肺病変、34例(63%)に胸膜病変を認めた。33例(61%)に、さまざまな程度の小葉間中隔肥厚や微小結節、すりガラス状陰影を伴う間質性肺疾患を認めた。肺病変のあるECD患者とLCH患者と比べると、喫煙者(P<0.001)、咳などの呼吸器症状(P=0.001)、気胸(P <0.001)、嚢胞(P<0.001)・透過性低下(P<0.001)・胸膜肥厚(P<0.001)などの放射線異常所見がLCH患者に有意差に多かった。追跡期間の中央値24か月(範囲は1〜84か月)で、ECD患者の3年全生存率は90.2%であった。間質性肺疾患のある患者は、間質性肺疾患のない患者よりも無増悪生存率が低い傾向があった(P=0.29)。

7)「BRAFV600E変異陽性の難治性LCHに対してベムラフェニブ療法を受けた小児患者の皮膚有害事象」

Cutaneous adverse events in children treated with vemurafenib for refractory BRAF(V600E) mutated Langerhans cell histiocytosis.

Tardieu M, et al. Pediatr Blood Cancer. 2021 Sep;68(9):e29140.

【背景】BRAFV600E体細胞変異は小児LCHの38〜64%に認められる。BRAF阻害剤であるベムラフェニブ(VMF)は、難治性のBRAFV600E変異陽性LCHに対して承認された。VMFは、成人では皮膚腫瘍(扁平上皮癌、黒色腫)などの皮膚有害事象を高頻度に引き起こすが、小児ではほとんど知られていない。この研究は、VMF治療を受けた小児LCHにおける皮膚有害事象の頻度、臨床像、重症度を評価することを目的とした。さらに、皮膚有害事象の発生とVMF投与量、血中濃度、有効性との関連を検討した。【方法】2013年10月1日~2018年12月31日に13か国でBRAFV600E変異陽性の難治性LCHに対してVMF単剤で治療された18歳未満の患者の多施設後方視的観察研究。【結果】計57例で、女性56%、年齢の中央値2.1歳(0.2-14.6)、治療期間の中央値4.1か月(1.4-29.7)であった。41例(72%)に1つ以上の皮膚有害事象を認め、光線過敏症(40%)、毛孔性角化症(32%)、発疹(26%)、乾皮症(21%)、好中球性脂肪織炎(16%)であった。皮膚腫瘍は認めなかった。皮膚有害事象の5%はグレード3であった。グレード4や、VMFの恒久的な中止に至った有害事象はなかった。12%の例で減量が必要であり、16%の例で一時的な治療中止が必要であったが、有効性は喪失しなかった。 VMF用量、血中濃度の中央値、有効性は、皮膚有害事象の発生とは関連していなかった。【結論】小児LCHに使用される用量で、皮膚有害事象は高頻度に発生するが、重症になることはめったになく、適切に管理された場合、治療継続にほとんど影響しない。皮膚有害事象を管理し、誘発される可能性がある皮膚腫瘍を見逃さないために、定期的な皮膚科的経過観察が不可欠である。

8)「BRAF阻害剤で治療された高リスクLCHの乳児における末梢血BRAFV600E陽性細胞分画」

A circulating subset of BRAF(V600E) -positive cells in infants with high-risk Langerhans cell histiocytosis treated with BRAF inhibitors.

Poch R, et al. Br J Haematol. 2021 Aug;194(4):745-749..

BRAF阻害剤は、BRAFV600E変異陽性のリスク臓器浸潤陽性LCHに対する効果的な治療法である。しかし、血漿DNA中にBRAFV600E変異が治療中でも持続的に検出されることが多く、治療中止によって高頻度に再発する。BRAFV600E変異DNAを放出する病的細胞が何なのかを特定するために、BRAF阻害薬で治療を受けたリスク臓器浸潤陽性多臓器型LCHの乳児6例から末梢血細胞を採取し検討した。BRAFV600E変異は、単球(n=5)、Bリンパ球(n=3)、Tリンパ球(n=2)、骨髄系樹状細胞(n=2)、形質細胞様樹状細胞(n=2)に検出された。このバイオマーカーは、リスク臓器浸潤陽性LCH の小児患者において、BRAF阻害剤療法を中止するための新しい治療法が有効かどうかを検証する方法として興味深い。

9)「LCHにおける肝移植:米国の人口ベース分析と文献のシステマティックレビュー」

Liver Transplantation for Langerhans Cell Histiocytosis: A U.S. Population-Based Analysis and Systematic Review of the Literature.

Ziogas IA, et al. Liver Transpl. 2021 Aug;27(8):1181-1190.

LCHは、最も頻度の高い組織球症である。肝障害はLCH患者の10.1%から19.8%に認められ、肝移植を必要とする続発性硬化性胆管炎を引き起こすことがある。 LCHに対して肝移植を受けた例の特徴と転帰について記述する。米国においてLCHに対して初回の肝移植を受けた全ての例を、Scientific Registry of Transplant Recipients(SRTR)データベース(1987-2018)から抽出した。カプランマイヤー法とログランク検定により、肝移植後の生存率を評価した。システマティック文献レビューは、システマティックレビューとメタアナリシスの優先報告項目(PRISMA)の声明に従って実施した。LCHに対して肝移植を受けた計60例の患者がSRTRで抽出され、小児が55例(91.7%)、肝移植時の総ビリルビン値の中央値は5.8 mg / dL(四分位範囲[IQR]、2.7-12.9)であった。49例(81.7%)が死体肝移植を受けていた。1年、3年、5年時点の生存率はそれぞれ86.6%、82.4%、82.4%であった。システマティックレビューにより、26の論文に50例の報告が見いだされた。このうち、41例(82.0%)は小児で、90.0%は多臓器型LCHで、ほとんどの患者(37例中34例[91.9%])は死体肝移植を受けていた。74.0%は肝移植前に化学療法を受け、71.7%(33/46例)はステロイド投与を受け、肝臓へのLCHの再発を8.0%に認めた。50例中11例(22.0%)は、追跡期間の中央値25.2か月(IQR、9.0-51.6)の間に死亡し、1年生存率は79.4%であった。 肝移植は、厳選されたLCHに続発した肝不全の患者において、実行可能な救命方法と考えられる。

10)「病変組織ではなく診断時の血漿DNAにおけるBRAFV600E変異検出が小児LCHの独立した予後因子である」

BRAF (V600E) Mutation in Cell-Free DNA, Rather than in Lesion Tissues, at Diagnosis Is An Independent Prognostic Factor in Children with Langerhans Cell Histiocytosis.

Wang CJ, et al. Mol Cancer Ther. 2021 Jul;20(7):1316-1323.

血漿DNAおよび病変組織でのBRAFV600E変異検出が小児LCHの予後に関連するかを検討した。診断時に血漿DNAおよび病変組織でBRAFV600Eが検出された計140例のLCH患者を対象とした。6週時点の治療反応性は、血漿DNAのBRAFV600E陽性と組織病変のBRAFV600E陽性の両者と相関していた。血漿DNAのBRAFV600E陽性例は陰性例よりも3年無増悪生存率(PFS)がはるかに低く、進行/再発率が高かった(47.1%±7.6% vs. 78.4%±5.1%, P<0.0001; 44.6% vs. 19.0%, P=0.001)。しかし、病変組織のBRAFV600E陽性例と陰性例では、3年PFSや進行/再発率に有意差はなかった(それぞれP=0.348、0.596)。さらに、患者をグループA(病変組織と血漿DNAの両方でBRAFV600E陽性、n=56)、グループB(病変組織で陽性、血漿DNAで陰性、n = 28)、グループC(病変組織と血漿DNAの両方で陰性、n=56)に分けたところ、3グループ間で3年PFS率と進行/再発率に有意差を認めた(47.1%±7.6%、92.9%±6.1%、72.2%±6.1%、P<0.001; 44.6%、3.6%、26.8%、P<0.001)。多変量解析でも、血漿DNAのBRAFV600E陽性と診断時年齢は、小児LCHの3年間PFSの独立した予後因子であった。したがって、血漿DNAのBRAFV600E陽性は、病変組織BRAFV600E陽性に比べ、重要な臨床的特徴、6週時点の治療反応性、予後とより密接に関連していた。