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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第62回 最新学術情報

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「B細胞系腫瘍から分化転換した組織球性/樹状細胞性腫瘍: 多様性、分化系統、ゲノム変化、および治療: 2021年SH/EAHPワークショップからの報告」

B-cell lineage neoplasms transdifferentiating into histiocytic/dendritic cell neoplasms: diversity, differentiation lineage, genomic alterations, and therapy: Report from the 2021 SH/EAHP Workshop.

Xiao W, et al. Am J Clin Pathol. 2023 Jun 1;159(6):522-537.

【目的】B細胞系腫瘍から分化転換した組織球性/樹状細胞性腫瘍(HDCN)のカテゴリー内の2021年血液病理学会/欧州血液病理学会ワークショップの結果を報告する。【方法】ワークショップ委員会は29症例を検討し、コンセンサス診断を割り当て、所見を要約した。【結果】分化転換したHDCN腫瘍と確定した具体的な診断は、組織球性肉腫が16例、LCHが1例、ランゲルハンス細胞肉腫が5例、不確定樹状細胞腫瘍が1例、分類不能HDCNが1例であった。調査対象となった例の約3分の1は濾胞性リンパ腫が基礎にあり、リンパ芽球性白血病/リンパ腫や他のB細胞リンパ腫(最多は慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫)も見られた。3:1の割合で女性に多く、年齢は中央値60歳、最初のB細胞系腫瘍の診断とHDCNの診断の間隔は中央値4~5年であった。検討された症例では、免疫表現型やその他の特徴が重複している一方、実質的な不均一性が実証された。包括的なゲノムDNA配列解析により、MAPK経路に遺伝子変異が多いことが明らかになった。先行するリンパ腫とHDCNで共通に認められ遺伝子変異に基づいて、直線的および分岐的なクローン進化経路の両方が推測された。さらに、一部の症例で行われたRNA配列解析により、より正確な細胞系統の同定に役立つ可能性のあるマーカーに関して新たな洞察が得られた。これらから、HDCN系統割り当てのためのアルゴリズムを更新し提案した。分化転換したHDCNは予後不良であったが、MAPKシグナル伝達経路は潜在的に魅力的な治療標的として浮上している。【結論】分化転換したHDCNは不均一性を示し、正確な分類に関して診断上の課題があるが、検討した症例の詳細な特徴付けにより、B細胞リンパ腫/白血病から分化転換したHDCNについての理解が深まった。これらの腫瘍の特定の細胞系統と分化状態の解読に焦点を当てた継続的な取り組みは、腫瘍を正確に分類するために重要である。この点に関しては、HDCNの包括的な分子特性評価が有益であると考えられる。MAPK経路の阻害剤は次々に開発されており、HDCNの転帰の改善が期待できる。

2)「シタラビン皮下注射によるLCHの治療」

Treatment of Langerhans cell histiocytosis with subcutaneous cytarabine.

Eckstein OS, et al. Pediatr Hematol Oncol. 2023;40(5):497-505.

LCHに対するシタラビン静脈注射は有効である。シタラビンの静脈注射や皮下注射は白血病に有効であり、薬物動態研究では両者の薬物血中濃度は同等であることが示されている。静脈確保できなかった、または、患者の拒否により、シタラビン皮下注射で治療された3例のLCH患者について報告する。肺と皮膚病変のある1例目は完全寛解した。2例目は肺と皮膚病変は部分的に反応したが骨病変は増悪した。3例目は、孤発性尿崩症の診断から8年後にLCH関連小脳変性症のために治療を受け、治療後5年間、脳MRI所見は安定していた。シタラビンの皮下注射は、医療資源が限られた状況などで血管確保が不可能または現実的でないLCH患者に対する代替手段となり得る。

3)「多臓器型LCHにおけるBRAF V600E変異細胞の細胞系統変化」

Lineage-switching of the cellular distribution of BRAFV600E in multisystem Langerhans cell histiocytosis.

Milne P, et al. Blood Adv. 2023 May 23;7(10):2171-2176.

高リスク小児LCHの多くはBRAF V600E変異を持っている。BRAF V600E遺伝子は診断時に骨髄性単核細胞で検出可能であるが、変異細胞の系統分布が時間経過とともに変化するかどうかは不明である。16例の高リスク患者を分析した。2例は従来のサルベージ化学療法を受けた。14例は阻害剤を投与され、うち4例は3~6年間の間隔で、10例は診断後2年以上経過してから分析された。サルベージ化学療法を受けた例では化学療法開始後6か月以内に血液中BRAF V600Eアレルが完全に消失したのに対し、阻害剤を投与された例ではBRAF V600Eアレルは高値を持続した。診断時には、主に単球と骨髄性樹状細胞で変異が検出された。時間経過と伴に変異はT細胞系に切り替わり、診断から2年以上経過した末梢血単核球においては大部分がT細胞系であった(中央値85.4%、範囲44.5~100%)。変異頻度が最も高かった細胞はナイーブCD4陽性T細胞であった(中央値51.2%、範囲3.8~93.5%)。高リスクLCHにおけるBRAF V600E変異細胞の予期せぬ系統転換を明らかになった。このことは阻害剤治療中止できるかをモニタリングする戦略に影響を与える可能性や、4例で発生した神経変性の病因に新たな意味をもたらす可能性がある。

4)「Rosai-Dorfman病患者の全身評価における18F-FDG PET/CTの価値:後方視的研究と文献レビュー」

The value of 18F-FDG PET/CT in the systemic evaluation of patients with Rosai-Dorfman disease: a retrospective study and literature review.

Lu X, et al. Orphanet J Rare Dis. 2023 May 13;18(1):116.

【背景】Rosai-Dorfman病(RDD)は、non-LCHのまれな組織球症である。18F-FDG PET/CTを用いてRDDの特徴を総括し、疾患管理における有効性を判断することを目的とした。【結果】計28例のRDDが、体系的な評価と追跡調査のために18F-FDG PET/CT検査を計33回受けた。頻度の高い病変部位は、リンパ節(17例、60.7%)、上気道(11例、39.3%)、皮膚(9例、32.1%)であった。5例では、CTやMRIよりもPET/CT画像で、無症状結節(5)や骨破壊(3)など、より多くの病変が検出された。PET/CTを用いた綿密な治療評価の後、14例(87.5%)で治療戦略が変更された。5例が治療終了後に2回目のPET/CT検査を受け、SUVの大幅な減少(15.3±3.4 vs. 4.4±1.0, p=0.02)が確認され、疾患活動性の改善が実証された。【結論】18F-FDG PET/CTは、特に初期評価、治療戦略の調整、有効性評価の際に、RDDの全身病変を評価するのに役立ち、CTおよびMRI画像のいくつかの欠点を補うことができた。

5)「小児LCHにおけるPD-1/PD-L1およびVE1(BRAFp.V600E)の発現と臨床的相関」

Expression and Clinical Correlation of PD-1/PD-L1 and VE1(BRAFp.V600E) in Pediatric Langerhans Cell Histiocytosis.

Tandon S, et al. Mediterr J Hematol Infect Dis. 2023 May 1;15(1):e2023035.

【背景と目的】LCHは、幅広い臨床症状を示す炎症性骨髄性腫瘍である。プログラム細胞死-1(PD-1)受容体とそのリガンド(PD-L1)はLCHで過剰発現しているが、その臨床的意義は不明である。小児LCH 131例を対象に、PD-1/PD-L1とVE1(BRAFp.V600E)発現に臨床的相関があるか解析した。【方法】免疫組織化学により、111検体のPD-1/PD-L1発現、109検体のVE1(BRAFp.V600E)変異タンパク質発現を分析した。【結果】PD-1、PD-L1、VE1(BRAFp.V600E)陽性率は、それぞれ40.5%、31.53%、55%であった。PD-1/PD-L1発現は、再発率、早期治療反応、晩期続発症に対して有意な影響がなかった。PD-1陽性例と陰性例の間で、5年のEFSに統計的に差はなかった(47.7% vs. 58.8%, p=0.17)。PD-L1陽性例と陰性例の間でも、5年EFSに差はなかった(50.5% vs. 55.5%、p=0.61)。VE1(BRAFp.V600E)陽性は、リスク臓器病変の頻度が高いことと有意に関連していたが(p=0.0053)、治療に対する早期治療反応や再発率、晩期続発症には有意な影響はなかった。【結論】VE1(BRAFp.V600E)発現、PD-1、PD-L1と小児LCHの臨床転帰の間に有意な相関はなかった。

6)「SIRPαはLCHの潜在的な治療標的である」

Targeting of SIRPα as a potential therapy for Langerhans cell histiocytosis.

Okamoto T, et al. Cancer Sci. 2023 May;114(5):1871-1881.

LLCHは、病的なCD1a陽性/CD207陽性の樹状細胞(DC)の異常な集簇による炎症性病変を特徴とする、稀な腫瘍性疾患である。SIRPαは、DCやマクロファージなどの骨髄細胞で高度に発現される膜貫通蛋白である。ここで、SIRPαがLCHの潜在的な治療標的であることを示す。SIRPαがヒトLCH病変のCD1a陽性細胞およびLCHマウスモデル(BRAF V600E CD11cマウス)の脾臓、肝臓、肺のCD11c陽性DCで発現していることを見出した。このマウスでは、LCH関連活性型ヒトBRAFをマウスCD11cプロモーター依存性にして発現している。BRAF V600E CD11cマウスは、脾臓においてCD4陽性T細胞、制御性T細胞、マクロファージ、CD11c陽性/MHCII陽性DCの数が顕著に増加していた。SIRPαに対するモノクローナル抗体による単独療法は、変異マウスの末梢血中のCD11c陽性/MHCII陽性DCの割合、肝臓のLCH様病変の大きさ、脾臓のCD11c陽性/MHCII陽性DCの数を大幅に減少させた。さらに、このモノクローナル抗体は、マクロファージによるBRAF V600E CD11cマウス由来のCD11c陽性DCの貪食を促進したが、CD11c陽性DCの生存率やCCL19依存性遊走、ケモカイン遺伝子CCL5、CCL20、CXCL11、CXCL12の発現には影響しなかった。これらの結果は、抗SIRPα単独療法は、マクロファージによるLCH細胞の殺細胞効果の促進に一部依存する、LCHに対する有望な治療手段であることを示唆している。

7)「全身性若年性黄色肉芽腫:系統的レビュー」

Systemic juvenile xanthogranuloma: A systematic review.

Zou T, et al. Pediatr Blood Cancer. 2023 May;70(5):e30232.

【目的】全身性若年性黄色肉芽腫(sJXG)に関する文献を調べ、sJXGの特徴、臨床症状、治療法、転帰を明らかにするための系統的レビューを行なう。【レビュー方法】1981年~2022年に発表されたすべての論文について、皮膚外、内臓、全身性、若年性黄色肉芽腫の検索語を組み合わせて、PubMed、Embase、Cochrane Libraryを検索した。抽出されたデータには、年齢、性別、病変臓器、治療、転帰、永続的後遺症を含んでいた。【結果】159例を含む計103件の論文が対象基準を満たした。発症年齢の中央値は9か月で、男性が圧倒的に多かった(61%)。主要な病変臓器の分布は年齢によって異なり、発症年齢が若いほど、病変臓器がより多かった。最も多い病変部位は中枢神経系(40.9%)で、次いで肝臓(31.4%)、肺(18.9%)、眼(18.2%)であった。追跡終了時点で、93例(58.5%)は寛解生存、56例(35.2%)は病変あり生存、10例(6.3%)は原病死亡であった。脾臓病変のある例はない例と比べ死亡リスクが高かった(p=0.0003)。永続的後遺症は主に中枢神経系症状と眼症状であった。【結論】sJXGでは、様々な数および組み合わせの皮膚外部位が生じる可能性がある。sJXGには標準的な治療法はなく、臨床医は個別の治療法を選択する必要がある。

8)「小児LCHの病型分類および治療モニタリングにおける全身DW-MRIと2-[18F]FDG PETの比較」

Comparison of whole-body DW-MRI with 2-[18F]FDG PET for staging and treatment monitoring of children with Langerhans cell histiocytosis.

Baratto L,et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2023 May;50(6):1689-1698.

【目的】LCHの小児の病型分類および治療モニタリングにおいて、全身DW-MRIと2-[18F]FDG PETの診断精度を評価し比較する。【方法】小児LCHの23例が治療開始前に2-[18F]FDG PETおよび全身DW-MRIを受けた。2名の核医学医と2名の放射線科医が、8つの解剖学的領域における腫瘍の有無を独立して評価した。16例を2-[18F]FDG PETと全身DW-MRIにより経過観察した。放射線科医1名と核医学医1名が経過観察期の画像を見直し、検出可能な全ての病変の治療前後における腫瘍の見かけ拡散係数(ADC)と標準化取り込み値(SUV)の変化を評価した。2-[18F]FDG PETの結果を、Lugano基準による腫瘍検出および治療反応性評価の参照標準とした。治療開始前の全身DW-MRIの感度、特異度、陽性および陰性的中率、診断精度を算出し、Clopper-Pearson(exact)法を使用して95%信頼区間を推定し、Mann-Whitney U検定を使用して腫瘍SUVとADCの変化を比較した。評価者間の一致は、Cohenの加重κ係数を用いて評価した。分析はSASソフトウェアver. 9.4を用いて実施した。【結果】2-[18F]FDG PET画像の脊椎と頸部(それぞれκ係数=0.89と0.83)、全身DW-MRIの腹部と骨盤(それぞれκ係数=0.65と0.88)を除く、全ての分析領域において評価者間の判定は完全に一致していた(κ係数=1)。2-[18F]FDG PETと比較して、全身DW-MRIの感度および特異度は95.5%、100%であった。SUV比とADC平均の治療前後の変化は、全ての病変で逆相関し(r: -0.27、p=0.06)、化学療法に反応ある例とない例の間で有意な差を認めた(SUV比 p=0.0006、ADC平均 p=0.003)。【結論】我々の研究は、小児LCHの病型分類と治療モニタリングにおいて、全身DW-MRIは2-[18F]FDG PETと同様の精度を有することを示した。2-[18F]FDG PETは代謝的な疾患活動性を評価できる確立された放射線検査ではあるが、全身DW-MRIは放射線被曝のない代替アプローチとして考慮される可能性がある。両者の手法を組み合わせると、いずれかの手法を単独で使用するよりも利点が得られる可能性がある。

9)「Erdheim-Chester病における心血管病変は、心筋線維症および心房機能不全と関連する」

Cardiovascular involvement in Erdheim-Chester diseases is associated with myocardial fibrosis and atrial dysfunction.

Palmisano A, et al. Radiol Med. 2023 Apr;128(4):456-466.

【目的】Erdheim-Chester病(ECD)はまれな多臓器組織球症であるが、その心血管病変についてはこれまでに体系的に解析されていない。ECDの大規模コホートにおける心血管障害の特徴を系統的(定性的および定量的)に明らかにし、心筋線維化の進展と心機能におよぼす影響を評価することを目的とした。【患者と方法】生検で診断されたECD 54例のうち、29例(59±12歳、男性79%)が、定性的および定量的な、病変局在、心房および心室機能、心筋線維症の評価のために、標準化された方法を用いて1.5テスラ心臓MRI検査を受けた。【結果】最も多い病変部位は右房室溝が(76%)で、右心房壁(63%)、胸部大動脈(59%)、上大静脈(38%)が続いた。右心室動脈を包む右房室溝の病変は、下中隔(20/26例)および下(14/26例)中央基底左室壁における非密な心筋線維症と関連していた。右房室溝に病変が局在する2例において、遅延造影により同じ心筋セグメントにおける心筋梗塞が明らかになった。左房室溝病変を有する5例中3例は、外側左心室中央基底壁に非密な遅延造影を認めた。巨大な右心房偽腫瘤は、心房機能不全および上大静脈狭窄および下大静脈狭窄と関連していた。【結論】ECD患者では、房室溝の病変は下流の冠状動脈領域における左室壁の線維化と関連しており、冠状動脈を巻き込むことによる血行力学的変化を示唆している。一方、心房偽腫瘤の病変は、心房収縮の低下による心房機能不全を引き起すと伴に、心房大動脈接合部狭窄と関連する。

10)「小児LCHの臨床転帰と予後因子: BCH-LCH2014プロトコール研究の結果

Clinical outcomes and prognostic risk factors of Langerhans cell histiocytosis in children: Results from the BCH-LCH 2014 protocol study.

Cui L, et al. Am J Hematol. 2023 Apr;98(4):598-607.

LCHは、主に幼児が罹患する稀な骨髄性腫瘍である。この研究は、BCH-LCH2014研究に登録された449例の小児LCH患者の転帰を評価することを目的とした。52.6%は単一臓器型(SS)、28.1%は多臓器型リスク臓器浸潤陰性(MS RO-)、19.4%は多臓器型リスク臓器浸潤陽性(MS RO+)であった。396例(88.2%)が、最初にビンデシンとプレドニゾンの併用に基づく第一選択療法で治療された。治療に反応がなかった139例の患者が二次療法に移行し、72例が集中治療S1(シタラビン、クラドリビン、ビンデシン、デキサメタゾンの併用)、67例が集中治療S2(クラドリビンなし)で治療された。5年全生存率(OS)、無増悪生存率(PFS)、再発率はそれぞれ98.2%(中央値:97.6カ月)、54.6%(中央値:58.3カ月)、29.9%であった。3つの病型の中でMS RO+は、最も予後不良であった。第一選択療法を受けた患者の5年OS、PFS、再発率はそれぞれ99.2%、54.5%、29.3%であった。S1群はS2群よりも有意に予後良好であった(5年PFS: 69.2% vs. 46.5%、p=0.042; 再発率: 23.4% vs. 44.2%、p=0.031)。多変量解析により、治療反応、リスク臓器浸潤、皮膚病変、口腔粘膜病変、CRPやγ-GTなどの検査パラメータが、PFSの独立した危険因子であることが明らかになった。小児LCHの予後は層別化学療法によって大幅に改善されたが、特にリスク臓器浸潤陽性例では進行と再発が依然として課題である。