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JAPAN ACH STUDY GROUP 日本ランゲルハンス細胞組織球症研究グループ

本サイトは、LCHの患者さんやご家族の方々と医師との意見・情報交換の場です。

第27回 最新学術情報(2015.11)

最近掲載されたLCH関連の論文抄録を紹介します。

1)「LCHの骨髄浸潤:骨髄のCD1aとLangerin、S100発現の免疫組織化学的な評価」

Bone marrow involvement of Langerhans cell histiocytosis: immunohistochemical evaluation of bone marrow for CD1a, Langerin, and S100 expression.

Kim HK, et al. Histopathology. 2014 Dec;65(6):742-8.

【目的】LCHにおいて骨髄浸潤は予後不良因子であるが、一般的に認められたLCHの骨髄浸潤の定義はない。S100、CD1a、Langerinの免疫組織化学染色によって、LCHの診断時の骨髄を、その他の臨床所見と伴に評価した。【方法と結果】我々の施設でLCHと診断された75例の診療録を後方視的に検討した。パラフィン包埋組織切片を用いて、Langerin、CD1a、S100の免疫組織化学染色を行った。LCH細胞が集塊となって浸潤していたのは3例だけであった。染色陽性細胞数と病型重症度には、正の相関がみられた。免疫組織化学によるLangerinとCD1aの染色結果は必ずしも一致しなかった。3つの免疫組織化学染色がすべて陽性であった症例のうち、54.5%(6例)は多臓器型で、27.3%(3例)に血球減少があった。CD1aまたはLangerin陽性の群と、LangerinとCD1aともに陰性の群の間で、無再発生存率に差はなかった。【結論】骨髄におけるLCH細胞のマーカーとして、LangerinとCD1aは有用であるが、S100は非特異的である可能性がある。LCHの骨髄浸潤を評価するためには、LangerinとCD1aの両者の免疫組織化学染色が必要である。

2)「骨病変のある24か月未満の小児LCHの転帰:単施設からの報告」

Outcomes of children younger than 24 months with langerhans cell histiocytosis and bone involvement: a report from a single institution.

Kamath Set al. J Pediatr Orthop. 2014 Dec;34(8):825-30.

【背景】LCHはまれな疾患で、単一臓器型から播種性多臓器型までさまざまである。生後24か月未満の患者は、診断時にリスク臓器(肝臓、脾臓、造血器または肺)浸潤を伴うことが多く、予後不良である。この25年間で治療法は変わってきた。本研究の目的は、診断時24か月未満の患者の経過と転帰に対する、骨病変の影響を明らかにすることである。【方法】1984年から2010年までにロサンゼルス小児病院でLCHと診断された患者について後方視的に診療録を検討し、生後24か月までに診断された71例について解析した。【結果】10例は診断時に単独骨病変型で、治療にかかわらず良好に経過していた。大半の患者(40/71例:56%)に複数の骨病変があった。37例の多臓器型患者のうち、27例(73%)にリスク臓器浸潤があった。リスク臓器浸潤のある14例はプレドニントビンブラスチンによる6か月未満の治療を受けた。このうち6例が再燃し、再発部位は骨が最も多かった。リスク臓器浸潤のある7例は12か月以上の治療を受けた。そのうち1例のみ再燃し、死亡例はなかった。リスク臓器浸潤があり治療中に病勢が進行した例の大半(10例中7例)は、複数の化学療法を受けたが、死亡した。【結論】生後24か月未満で診断された例は、24か月以上で診断された例に比べ、骨病変が複数ある頻度が高いため、LCH診断の時にX線による骨病変がどれだけあるかをチェックすることが重要である。全ての患者において、再燃部位は骨が多かった。予想されたように、リスク臓器浸潤のある患者には、少なくとも1年間の全身化学療法をするほうが、予後がよい。

3)「単独病変のLCHの治療:生検のみで十分か?」

Approaches to treatment of unifocal langerhans cell histiocytosis: is biopsy alone enough?

Rivera JC, et al. J Pediatr Orthop. 2014 Dec;34(8):820-4.

【背景】LCHは、単独骨型から多臓器型まで、多様な病像を呈する。単一骨型の最も効果的な治療法は何かについては、議論されてきた。この研究はLCHの治療法について述べ、症候を消失させるのに生検は効果があることを示す。【方法】単一施設で11年間にLCHと診断された61例の診療録を検討した。生検で単独骨病変型と診断された39例を分析した。この施設では、開放生検、針生検または掻爬+骨移植によって外科的に治療した。病変部位と大きさにより症例に応じて化学療法を行った。治療群により症候消失までの期間を比較するためにカプラン-マイヤー分析を用いた。【結果】39例の単独骨病変型LCHの治療法は、開放生検(18例、46.15%)、針生検術(8例、20.51%)、開放生検+化学療法(8例, 20.51%)、生検+骨移植(5例、12.82%)であった。平均観察期間が1.59年での、生検から症候消失までの期間の中央値は5.43週であった。症候消失までの期間の中央値は、開放生検で3.86週、生検+骨移植で5.43週、針生検で5.64週、生検+化学療法で16.57週であった。全体として、治療法によって、症候消失までの期間には有意な差を認めた(p=0.0262)。症候消失までの期間は、生検+骨移植(p=0.0264)はもちろん開放生検(p=0.0027)と比べても、生検+化学療法において、有意に長かった。【結論】症候の消失は、生検後、早期に得られ、開放生検、針生検、生検+骨移植を受けた患者の間で違いはなかった。単独骨病変LCHは、拡大外科手術や化学療法を必要としない。生検だけで、診断を確定でき、かつ、症候の消失が期待できる。

4)「肺LCH患者に対するクラドリビン療法の効果」

Effectiveness of cladribine therapy in patients with pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Grobost V, et al. Orphanet J Rare Dis. 2014 Nov 30;9(1):191.

【背景】肺LCHは、肺実質内にCD1a組織球が増殖し肉芽腫を形成するまれな疾患で、喫煙と強い関連があり、慢性呼吸不全に至ることがある。禁煙は治療上重要であるが、その効果はさまざまである。薬物治療は確立していない。クラドリビン(クロロデオキシアデノシン, 2-CDA)は、組織球の増殖を抑制し、多臓器型LCHや肺LCHの治療に有効とされている。【方法と症例】クラドリビンの単剤療法(0.1mg/kg/日、5日間連続、月1回)を3~4コース受けた肺LCHの5例(年齢37-55歳、女性3例)を後方視的に解析した。1例は、1年で再発したため2回治療を受けた。禁煙や副腎皮質ステロイドによる治療にもかかわらず、閉塞性換気障害が進行する患者を治療対象とした。日和見感染予防のため、トリメトプリム/スルファメトキサゾールとバラシクロビルを経口投与した。患者は、確立された治療法がない状況下でクラドリビンの適応外使用を受けることを文書により説明を受け同意した。【結果】クラドリビン療法によって、5例中4例は呼吸機能が改善し、努力性一秒量(FEV1)は、治療前には全てで低下していたが、全例で増加し平均387ml(100~920ml)となった。4例において胸部高解像度コンピューター断層撮影(HRCT)の所見が改善した。肺高血圧を伴った1例は、血行力学的に改善した。
胸部HRCTで結節性肺病変や壁肥厚を伴う嚢胞を認める例、陽電子放射断層撮影(PET)-スキャンで代謝亢進を認める肺病変がある例、禁煙にもかかわらず進行性病変を認める例では、治療効果が大きいことが示唆された。1例が肺炎を発症し、その後、グレード4の好中球減少症をきたしたが感染症は生じなかった。【考察】後方視的検討であること、対照群を設定していない試験であること、症例数が少ないことから、データの解釈には注意を要する。【結論】クラドリビンは単剤で、進行性の肺LCHに対して効果がある可能性がある。

5)「MAP2K1とBRAFの相互排他的な体細胞変異が高頻度にみられることから、ERK活性化がLCHの病因に中心的な役割を果たすと考えられる」

Mutually exclusive recurrent somatic mutations in MAP2K1 and BRAF support a central role for ERK activation in LCH pathogenesis.

Chakraborty R, et al. Blood. 2014 Nov 6;124(19):3007-15.

LCHは、病的なCD207陽性樹状細胞と炎症細胞浸潤から成る病変を特徴とする骨髄増殖疾患である。BRAF V600Eは、LCHで報告されている唯一の再現性のある遺伝子変異である。LCHにおける体細胞変異の分布を評価するため、41人の患者から得られたLCHおよび正常の組織の検体を用い、全エクソン配列解析を行った。LCH以外の組織球症、すなわち若年性黄色肉芽腫、Erdheim-Chester病、Rosai-Dorfman病についても検討した。全ての組織球症において、体細胞変異の率は、全体的に非常に低かった。注目すべきは、BRAFに変異のない21例中7例(33%)において、vitroの実験でextracellular signal-regulated kinase (ERK) のリン酸化をもたらす、MAP2K1の体細胞変異(6例はin-frameの欠失、1例はミスセンス変異)が見られたが、BRAF V600E変異のある20例では1例もMAP2K1変異はなかった。mitogen-activated protein kinase (MAPK)経路の遺伝子である、ARAFとERBB3の体細胞変異が1例ずつ見つかった。培養細胞と原発腫瘍において、MAPKキナーゼとERKリン酸化を抑えるMAPK経路抑制剤の有効性は、LCH細胞がどの遺伝子に変異があるかにとって異なっていた。この研究の結果は、上流のシグナル蛋白の病的活性化から生じるERK活性化が、LCHの共通した病因であるという説を支持する。

6)「Erdheim-Chester病においてRASとPIK3CA変異が高頻度にみられる」

Recurrent RAS and PIK3CA mutations in Erdheim-Chester disease.

Emile JF, et al. Blood. 2014 Nov 6;124(19):3016-9.

Erdheim-Chester病(ECD)は、診断と治療が難しい組織球症である。今までで最も大きなECD患者集団において、BRAFの遺伝子解析を行い、その後、BRAF変異がない例では、NRAS、KRAS、PIK3CAとAKT1の変異解析を行った。80例中46例(57.5%)でBRAF V600E変異を認めた。BRAF V600E変異のないECD 17例のうち3例にNRAS変異が見られた。PIK3CA変異(p.E542K、p.E545K、p.A1046Tとp.H1047R)が55例中7例に見つかり、そのうち4例には同時にBRAF変異もあった。NRAS Q61R変異がみられた患者では、末梢血のCD14陽性細胞にNRAS変異が見られたが、リンパ球には見られなかった。この結果から、ECDにおいて、RAS-RAF-MEK-ERK活性化に中心的な役割があることが明確になり、RAS-PI3K-AKT経路の活性化が重要であることが見出された。これらの結果は、NRASまたはPIK3CA変異のあるECD患者に対する、変異RASやPI3K/AKT/mTORを標的とした治療の論理的根拠となる。

7)「皮膚限局LCHと皮膚病変を含む多臓器LCHの相違」

Differentiating skin-limited and multisystem Langerhans cell histiocytosis.

Simko SJ, et al. J Pediatr. 2014 Nov;165(5):990-6.

【目的】皮膚病変のあるLCH症例において、多臓器型および治療反応不良に関連する特徴を明らかにする。【研究デザイン】テキサス小児病院で診断された皮膚浸潤のある71例のLCH症例の診療録を後方視的に検討し、診断時の病型と転帰の観点から、臨床的特徴や検査所見、末梢血中BRAF V600E変異陽性細胞の有無を解析した。【結果】皮膚病変のある症例のうち、生後18か月以降に診断された例には多臓器型が多かった(OR 9.65; 95%信頼区間 1.17-79.4)。皮膚限局LCHとして紹介された症例の40%は多臓器型で、その半数にリスク臓器浸潤があった。皮膚限局LCH症例の初回治療後、3年時点での無進行生存率は89%で、多臓器型に進展した例はなかった。皮膚病変のある多臓器型LCH症例のビンブラスチン/プレドニゾン治療による3年時点の無進行生存率は44%で、リスク臓器浸潤の有無は活動性病変が消失するかどうかと関連がなかった。多臓器型においては、末梢血中BRAF V600E変異陽性細胞が高頻度に検出された(皮膚病変のある多臓器型LCH 11例中8例、皮膚限局LCH 13例中1例; p=0.002)。【結論】皮膚限局LCHでは治療介入が必要であることはまれで、皮膚病変のある多臓器型LCHと比較し疾患が進行する可能性は低い。皮膚限局LCHでは、進行性の経過をとることは少なく、末梢血中にBRAF V600E変異陽性細胞がみられないことから、多臓器型やリスク臓器浸潤陽性LCHとは疾患起源が異なることが示唆される。

8)「皮膚に限局したLCHの臨床経過:単一施設での経験」

The natural history of skin-limited Langerhans cell histiocytosis: a single-institution experience.

Ehrhardt MJ, et al. J Pediatr Hematol Oncol. 2014 Nov;36(8):613-6.

【はじめに】皮膚限局LCHはまれであるが、しばしば多臓器型に進展するとされる。より早期に小児科の専門分野施設で治療を受ける機会が増えれば、このような事例の頻度はさらに増加すると考えられる。この研究の目的は、小児科の専門分野施設で治療を受ける機会が増加している今日において、皮膚限局LCHの臨床経過を明らかにすることである。【症例と方法】ウイスコンシン小児病院で2001年から2012年に新たにLCHと診断されたすべての小児患者の診療録を後方視的に検討した。検査所見、身体所見、画像所見を検討し、生検により証明された皮膚LCH患者のデータを収集した。【結果】16例の皮膚限局LCHがあった。皮疹の出現時期の中央値は出生時(範囲:出生時~6か月)で、追跡調査期間の中央値は診断から19.5か月(範囲:2週~10年)であった。1例(6%)が下垂体病変を発症し、1例(6%)の皮膚病変は治療抵抗性であった。その他の例では、病変は完全に消退した。進行性や抵抗性病変のない例では、発症から7か月以内に、皮膚病変は寛解した。【考察】皮膚限局LCHが多臓器型に進展する頻度は、以前に報告されていたよりも低い可能性がある。

9)「がん遺伝子によって誘発される老化により、肺および肺外LCHが急速進行性か緩慢な経過を¬とるかが区別できる」

Oncogene-induced senescence distinguishes indolent from aggressive forms of pulmonary and non-pulmonary Langerhans cell histiocytosis.

Chilosi M, et al. Leuk Lymphoma. 2014 Nov;55(11):2620-6.

LCHは、肺LCHを含め、BRAF突然変異が高頻度で認められることから、クローン性の腫瘍であることが最近示されている。母斑や黒色腫で示されているように、BRAFによって誘発される細胞老化がLCHや肺LCHの病因に関係しているという仮説を立てた。肺LCH 19例と、急速進行性の5例を含む肺外LCH 19例において、分子生物学的またはVE1抗体を用いた免疫組織化学的検査によってBRAF V600E変異の有無を調べた。細胞老化のマーカーであるp16(INK4a)とp21(CIP1/WAF1)の発現を免疫組織化学的に調べた。肺外LCH 19例中6例、肺LCH 19例中12例はVE1陽性であり、分子生物学的解析と合致した。肺LCHは、BRAF変異の有無にかかわりなく全例で、p16(INK4a)とp21(CIP1/WAF1)は発現していた。興味深いことに、急速進行型LCHでは、p16(INK4a)発現が全例に陽性ということはなかった。このように、黒色腫の場合と同様に、細胞老化の制御の損失がLCHにおいても臨床的な急速進行性に関連している可能性がある。

10)「LCHにおけるヘパラナーゼの発現」

Heparanase expression in Langerhans cell histiocytosis.

Dvir R, et al. Pediatr Blood Cancer. 2014 Oct;61(10):1883-5.

ヘパラナーゼは、ヘパラン硫酸の側鎖を切断する内部切断βD-グルクロニダーゼで、ヘパラン硫酸断片を作り出す。ヘパラナーゼ活性は、腫瘍細胞の転移能や血管形成、自己免疫、炎症に関連している。LCH患者から得られた組織のヘパラナーゼ発現を解析した。25例のパラフィン包埋スライドを用い、免疫組織化学によってヘパラナーゼを検討した。大部分の症例(25例中21例)では、ヘパラナーゼの染色は陽性であった。病型重症度や他の臨床的特徴とは関連しなかった。LCHの病因におけるヘパラナーゼの役割を明らかにするために更に研究が必要である。