Histiocytosis-NDレジストリ研究(準備中)
「組織球症に伴う中枢神経変性症(Histiocytosis-ND)の発症リスク因子の解明とレジストリ確立のための研究」(Histiocytosis-ND)
はじめに
組織球症の治療完了後に、運動失調や認知機能の低下が次第に進行していく「中枢神経変性症neurodegeneration, neurodegenerative disease(ND)」を生ずる例が以前から知られてきました。遺伝子変異解析と分子標的薬の話題など、組織球症の病態に迫る話題が急速に増えるにつれ、NDは最も重大な課題として注目されており、将来は症状の改善や進行の阻止、予防につながる可能性について検討がすすんでいます。
Histiocytosis-ND研究について
本症はまだ診断基準や重症度分類も定まっておらず、多くのクリニカルクエスチョンが挙げられます。
〈Histiocytosis-NDの主なクリニカルクエスチョン〉
- CQ1 発生頻度は?
- CQ2 診断と重症化分類は?
- CQ3 臨床経過は?
- CQ4 発症および重症化のリスク因子は?
- CQ5 有効な治療法は?
この研究では、日本全国に広く呼びかけ、Histiocytosis-NDが疑わしい患者さんに〈初期登録〉をしていただきます。臨床経過や画像所見、BRAF V600E変異や炎症性サイトカイン/ケモカイン、神経変性マーカー等の解析から、研究委員会でHistiocytosis-NDであると判定された患者さんは、〈Histiocytosis-NDレジストリ〉に登録いただき、追跡調査を行います。これによって、Histiocytosis-NDの診断評価基準の確立、治療へと結びつけていきたいと考えています。
<Histiocytosis-NDの主要所見と参考所見>
〈主要所見〉
- MRI所見:小脳歯状核や基底核の左右対称性信号異常や小脳萎縮を認める
- 小脳性運動失調:体幹失調、平衡機能障害、筋緊張低下、協調運動/測定障害などを認める。
- 精神症状:知能低下、学習障害、短期記憶障害、多動などの行動異常、性格変化などを認める。
〈参考所見〉
- 組織球症(LCHあるいはnon-LCH)の既往がある。
- 内分泌異常(中枢性尿崩症または下垂体前葉機能不全)を合併している。
- 血液および髄液中のオステオポンチンやニューロフィラメント軽鎖の上昇
<この研究の対象となる患者さん>
【選択基準】
下記のいずれかを認める患者
- 主要所見の「1.MRI所見」を認める患者
- 主要所見の「2.小脳性運動失調」または「3.精神症状」を認め、かつ、参考所見の「4.組織球症の既往」または「5.内分泌異常の合併」がある患者
- 担当医師がHistiocytosis-NDを疑う患者
【除外基準】
- 他の神経疾患が既に明らかである。
<研究期間>
研究期間:倫理審査委員会承認後から5年間
*Histiocytosis-NDはHistiocytosis発症後10年以上経過した後にも発症しうるため、研究期間終了時に研究期間延長の必要性について検討し、延長をする際には再度倫理委員会への申請を行う。
おわりに
本症の疾患認知度は極めて低いため、神経内科で原因不明の運動失調症として、また、内分泌科で神経症状を伴う中枢性尿崩症として埋もれている可能性があります。早期診断と治療介入により、重大な神経症状に至らずに改善させられるよう、この疾患の啓発をすすめていきたいと考えています。疑わしい患者さんがいらっしゃいましたら、本研究への参加についてご案内をお願いいたします。
* 2023年からAMED(難治性疾患実用化研究事業)『組織球症に続発する中枢神経変性症の診断・治療エビデンスの創出』、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)『運動失調症の医療水準,患者QOLの向上に資する研究班』の支援を受けて、この神経難病に取り組んでいます。