LCH-19-MSMFB試験
「小児および若年成人におけるランゲルハンス細胞組織球症に対するリスク別多施設共同第 II 相臨床試験」(LCH-19-MS/MFB)
はじめに
LCHの日本における年間発生率は約100例であり、このうち約8割は小児と若年成人が占め、乳幼児に好発します。1980年代頃から海外や日本において小児を中心に治療開発が行われ、次第に成績が改良されてきました。一方で、①標準治療がまだ確立されていないこと、②治療反応不良例の高い死亡率、③30%を超える高い再発率、④晩期合併症の尿崩症や中枢神経変性症の問題、⑤成人の情報不足による診断や治療開発の遅れ、など多くの課題が残されています。そこで、日本小児がん研究グループJCCGと成人白血病治療共同研究機構JALSGとの共同研究として、2021年6月からLCH-19-MSMFB介入試験を開始し、これらの解決に取組んでいます。
LCH-19-MSMFB試験について
LCHの治療研究としては、世界で初めての試みとなる次の治療を組み込んでいます。
- ・多臓器型: 寛解導入率の向上と中枢神経に関連した晩期合併症の阻止のため、従来のプレドニンよりも抗炎症作用が強く、脳に届きやすいとされているデキサメタゾン内服を導入しました。また、治療初期にシタラビンの髄腔内注射(脳脊髄液の中に直接薬剤を投与する)も行います。
- ・多発骨型: 最も多い骨の再発を防ぐ目的で、ビスフォスフォネート(ゾレドロン酸)を維持療法に追加しました。この薬剤は、破骨細胞の働きを抑えて溶骨病変をよく治し、骨再発を抑えることが期待されます。
<この試験の対象となる患者さん>
主な適格基準
- ・本試験のIRB承認が得られているJCCGまたはJACLS参加施設で診療されている。
- ・ 組織学的LCHと診断されている(施設診断にて確認されていること)。
- ・ 登録時年齢が40 歳未満である。
- ・ 多臓器型または多発骨型のLCHである。
- ・ 初発未治療症例である(外科的処置、ステロイド治療は該当しない)。
主な除外基準
- ・試験治療に支障をきたす肝・腎・心機能障害を有する症例である。但し認められる異常がLCHに起因するもので、LCHの治療を行うことにより改善する可能性が高いと予測される場合、及び生理的黄疸と判断される場合は除外基準に抵触する異常とはみなさない。
- ・ 中枢神経変性症がある。
- ・ 過去に悪性新生物の既往がある、又は重複がんを有する。
<試験期間>
- 予定登録期間: 6年
- 追跡期間: 登録期間終了後3年
- 総研究予定期間: 10.5年(2021年3月〜2031年8月予定)
<試験治療の概要>
これまで日本において海外と比較し良好な成績を挙げてきた、シタラビンとビンクリスチンを中心とした従来の治療法に、新規治療(デキサメタゾン内服、シタラビン髄腔内注射、ゾレドロン酸投与)を導入して治療を行います。試験治療中も、治療完了後も、注意深く患者さんを観察し、新しい治療法の安全性と有効性を評価していきます。
- ・多臓器型: 初期治療相A+id(1-6週)、維持相I+i(7-30週)、維持相II(31-54週)
- ・ 多発骨型: 初期治療相A(1-6週)、維持相I+z(7-30週)
おわりに
標準治療の確立には、病勢を制御して合併症を予防する新たな臨床試験を構築して、安全に試験治療をすすめていくことと同時に、登録してくださった症例を長期に丁寧にフォローしていくことが必要です。LCH-19-MSMFB試験によって、これまでよりも治療成績を向上させて本当に再発を少なくできるのか、尿崩症や中枢神経変性症の発症を抑えられるのか、明らかとなるのはとても先ですが、患者さんと医療者が協力して答えを導き出したいと思います。臨床試験へのご参加と、定期的なフォローアップ診察や調査にご協力をお願いいたします。